偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA   作:ジャックノルテ

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アンタに伝えたい事があるんや

 走馬灯の様にこれまでの人生を振り返りながらウチの身体は次々と分解されて行った。

 痛みは無い。

 あるのは無力感だけ。

 最早、どうする事も出来なかった。

 その時だった。眩い程の光がこの時空を超える移動空間に現れたのだ。

 優しいピンク色の光が真っ直ぐにウチの元へ真っ直ぐに向かって来たのだ。

 身体が消滅する寸前のウチだったけれどもこの現象には強い興味を感じた。

「何やろ?」

 ただウチはこの光を以前にも見た様な気がしていた。

 優しいピンク色の光はウチの元へと到達するとその姿を少女へと変えた。

 慈愛に満ちたその少女は鹿目まどかだった。

「鹿目まどか!?」

 驚くウチだったけれども鹿目まどかの両手がウチのソウルジェムに触れるとウチのソウルジェムは浄化され形を失って行く。

「!?」

 驚愕したウチだったけれどもこの今まで感じた事の無い慈愛とも言える感情の前では怒りや憎しみも無意味だと悟り、鹿目まどかの慈愛を受け入れる事にした。

「ウチの負けや・・・」

 前にも同じ事を呟いた気がしたが思い出せなかった。ウチのソウルジェムは分解されウチの意識は自分でも分かる様に消えて行く。

 

 気が付くとウチは河川敷の草原に座っていた。

 背後にある大量の風車を見てここが見滝原市だと瞬時に理解した。

 服装は風見野中学のセーラー服を着ていた。

 けれど時空を超える移動空間にいた筈のウチが何故ここにいるのか理解出来なかった。

 それにこの場所には違和感があった。人がいない。回りにある筈の人、否。命の存在感をまるで感じ取る事が出来なかった。

「ここは・・・。見滝原市じゃ無いんか!?」

 自分で言ってみても馬鹿げていると思えていた。ここまでの幻覚を使える《魔法少女》をウチは知らない。

「そうだよ。ここは見滝原じゃないの」

 背後を見ると何時の間にか現れた鹿目まどかが見滝原中学の制服を着て立っていた。

「じゃあここは何処なんや?」

「ちょっと説明が必要かな。だから説明をするね」

 鹿目まどかの話によれば、ある世界の鹿目まどかが《全ての魔女を生まれる前に消し去りたいと。全ての宇宙、過去と未来のすべての魔女をこの手で!》と言う願いを叶えた結果、宇宙を再編した代償として鹿目まどかの存在は1つ上の領域にシフトして概念となり、ここには鹿目まどかが導いた《魔法少女》の魂が集まる場所の様だった。

「どうしてウチに話し掛けて来たんや?ウチの事を知っていて話し掛けて来たんか?」

「うん。彩月ちゃんにはどうしても説明が必要だと思ったから。それに話し掛けているのはあなただけじゃ無いよ。私はみんなに話し掛けているから」

 どうやらウチの本名、菖蒲彩月と言う名前も含めて知っているらしい。ただ彩月ちゃんと呼ばれるのは意外と言えば意外だった。

ウチと鹿目まどかは横に並んで草原の上に腰を降ろした。

「彩月ちゃんに話して置きたいのはね・・・。宇宙を再編して行く過程でどうやっても彩月ちゃんの願いは叶えられないの」

「どういう事なんや?」

 鹿目まどかの言葉にウチは怪訝な表情を向けた。

「それはね・・・。彩月ちゃんが自分の魔法で自分に因果を与えたからなの」

「話が見えないで。それこそあり得ないんや無いか?」

「そうだね。じゃあ見せてあげる」

 鹿目まどかがそう言ったと同時にウチと鹿目まどかは時空を超える移動空間の中に立っていた。目の前には移動空間の中で身体が分解されて行くウチの姿がある。

「今の私になったから彩月ちゃんに何があったのか見せて上げる事が出来るの」

 鹿目まどかの言葉を聞きながらウチは目の前の景色に意識を集中した。

 すると移動空間を流れるウチが自身の身体から因果の鎖を次々と移動空間に流れさせていた。

 すると流れる因果の鎖の1つに鹿目まどかが指を刺した。

 その鎖にはどうにも言葉には形容出来ない様などす黒い感情が込められているのがウチにも分かった。

「これの鎖が彩月ちゃんを《魔法少女》として契約する為に手に入れた因果なの」

 そう言われてウチは全てを悟っていた。

「つまりこの時、ウチが流した因果の1つが過去のウチに入り込んでウチは《魔法少女》となる事が出来たと言う事なんね」

 ウチの言葉に鹿目まどかは頷いた。そして目の前の景色は雨の中の自然公園へと写った。

 そこにはビニール傘を差して歩いているウチが写っていた。風の動きが生み出した偶然によって雨を降らす黒雲の間に太陽が顔を出した時、空から流れ落ちた因果の鎖が傘を差していたウチに流れ込んでいた。

 流れ込んで来た鎖から発せられるどす黒い感情に従いウチはキュウべえと契約をした。

「あの時、ウチは因果を受け取っていた・・・」

 ウチがそう呟くと同時に回りの景色は河川敷の草原へと戻った。

「これで分かったと思うけど説明は続けるね。私の願いは《全ての魔女を生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来のすべての魔女をこの手で!》と言う願いに基づいて宇宙は再編されているの。けど彩月ちゃんの願いは《魔女》の存在を前提とした願いだし、彩月ちゃんには元々、《魔法少女》になれる程の因果を持っていなかった。だからね。新しい宇宙では彩月ちゃんは《魔法少女》になる事が出来ないの」

 鹿目まどかの丁寧な説明を聞いてウチは得心していた。正直、全ての魔女を消し去ると言う壮大な願いを叶えた鹿目まどかにウチは憎しみを抱く事も無かった。むしろ負けたとさえ思っていた。

「どうしてそんな無茶な願いを叶えられたんや?そんな強力過ぎる願いの代償を理解していない訳や無いんやろ?」

 ウチの質問に微笑を浮かべながら鹿目まどかは口を開いた。

「そうだね。私の存在は《ただの概念》になってしまったかも知れないけれどこれからの私はいつでもどこにでもいるから・・・。私は1人じゃ無いから・・・」

 とても敵わない優しい人。それがウチの抱いた鹿目まどかへの印象だった。

「そうやな。別にウチは《魔法少女》になりたかった訳でも無いし《究極の魔女》になる事も単に出来そうだから行っただけや。もしも他に遣り甲斐のある事があればウチはきっとそっちに夢中になったんやろうからな・・・」

 正直なウチの気持ちでもあった。他人の因果や魔法を奪う自分自身にウチはほんの僅かだが嫌悪感を抱いていた。他人の魔法を自分の物にした所でそれは自分自身がゼロから作り上げた才能でも能力でも無い。結局は自分の無い薄っぺらな存在やったんや。

「宇宙の為だとか何だかんだ言った所で、ウチはただ退屈しのぎをしていただけなんや」

《魔法少女》のアイリス・アザレアを演じていたのだってそうだった。

 楽しんで演じていたけれども本質的にはただ退屈を凌いでいただけだった。

 鹿目まどかに向ける訳でも無くウチはウチ自身に関する感想を淡々と述べていた。少しは気持ちの整理が付いた。

「説明は終えたんやろ?ウチはどうなるんや?」

「確かに説明は終えたけど彩月ちゃんにはまだ頼みたい事があるの」

「何を頼みたいんや?」

 鹿目まどかは真剣な表情でウチを見ている。物凄く断わりづらいとウチは感じた。

「これから仁美ちゃんと朱奈ちゃんにも説明をするんだけど彩月ちゃんにも立ち会って欲しいの。彩月ちゃんが因果を与えた仁美ちゃんや朱奈ちゃんも願いを叶えられないから、彩月ちゃんにも立ち会って説明をして欲しいの。正直、私だけじゃ説明しきれる自信が無いから・・・」

 少し自信無さげに頼み込む鹿目まどかを見てウチは驚いていた。ウチでは想像し得ない壮大な願いを叶えた《魔法少女》がウチにそんな事を頼み込むなんて。この様子では断わるのは無理そうやった。

ウチは諦める事にした。どの道、もうウチは願いを叶える事が出来ない。だったら鹿目まどかの頼みを聞くのも一興とウチは思う事にした。

「仕方ない。ええで。ただ少し聞きたい事があるんや。何でここは見滝原の河川敷なんや?鹿目さんは何か思い入れでもあるんか?」

 ウチの言葉に鹿目さんは静かに首を横に振った。

「違うよ。ここは私と彩月ちゃんが唯一すれ違った場所だから。ここが私と彩月ちゃんが出会った場所だから」

 鹿目まどかの意外な言葉にウチは言葉を失っていた。

 同時に目の前の景色が変わって行く。

 夕焼けの見滝原の河川敷。1人で河川敷を歩いている少女がいる。

 ウチだ。小学生の頃のウチが1人で河川敷を歩いていた。

 そこへピンク色の髪を生やした1人の少女が両親と思しき人達と手を繋いで歩いて来る。

 鹿目まどかだった。

 言葉すら交わさず2人はただすれ違っただけ。それでもウチと鹿目まどかは既に出会っていた。

 何時の間にか目の前の景色は元の河川敷へと戻っていた。

「そうか。そうやったんや。もうウチはあなたに出会っていたんやね」

「うん。私と彩月ちゃんはここで出会っていた。じゃあ朱奈ちゃんと仁美ちゃんの所に行こっか」

「そうやな。ウチにも責任があるからウチも説明したるわ。ただ。鹿目さん。1つだけ頼みがあるんや」

「私に出来る事なら」

「ウチの事は彩月ちゃんでは無くアイリスと呼んで欲しいんや」

「良いけどどうしてなの?」

「志筑仁美や朱奈と戦ったのは菖蒲彩月や無い。《魔法少女》のアイリス・アザレアだからや。せめて最後にアイリスを演じさせて欲しいんや」

「分かったよ。アイリスちゃん。じゃあ行こっか」

「そうやな」

 鹿目まどかと共にウチは光に包まれる。

 これがウチにとって《魔法少女》アイリス・アザレアを演じる最後の舞台だった。

 せめてウチらしくいよう。

 ウチはそう思い舞台へと向かった。

 

 最後の舞台は終わった。

 ウチはアイリス・アザレアとして志筑仁美と朱奈に対する説明を終えていた。

 後は世界が再編されるのを待つばかりやった。

 ウチは今、虚空に立ち竦んでいる。

 けれど足元から世界が再編されて行くのを感じ取る事が出来た。

 ウチの瞳には字空間を流れる因果の鎖の行き着く先を見つめる事が出来た。

 青い鎖は別の時間軸にいる持ち主と共鳴して取り込まれ、持ち主の少女から《魔法少女》としての資格を失わせた。

 黒い鎖や白い鎖も同じ様に少女から《魔法少女》として契約する資格を失わせていた。

 ウチがばら撒いた鎖は別の時間軸にいる持ち主に取り込まれると《魔法少女》としての資格を消滅させてしまうらしい。

 反対に資格の無い少女でもウチと同じ様に鎖を取り込めれば《魔法少女》としての資格を手に入れる事が出来た。

 ウチが時空間に流した鎖は運命を変化させてしまう。

 様々な少女の運命が変化しそれに応じて周りの人間の運命も変化して行く。

 時空間を流れた鎖の影響を見ながらウチは1つだけやり残した事を思い出していた。

 朱奈に会いに来たあの人にもウチは伝えたい事があった。

「鹿目さん。最後に1つだけ頼みがある。ウチは・・・。筒地綾女と話がしたいんや!」

「あら?私に何の話があるのかしら?」

 ウチが願いを叫んだ直後に筒地綾女はウチの目の前に現れていた。

 相変わらずのTシャツとジーンズのラフな姿だ。

「アンタに伝えたい事があるんや」

「何を伝えたいのかしら?」

 筒地綾女は余裕を感じさせる笑みを浮かべてウチの返答を待った。

 どうやら話を聞くつもりはあるらしい。

「感謝や」

「?」

 ウチの言葉に筒地綾女は戸惑いの表情を見せていた。

「ウチに記憶を与えてくれた事の感謝や。アンタの記憶があったからウチは《魔法少女》アイリス・アザレアを演じる事が出来た。アンタには感謝してる」

「感謝なんてする必要は無いと思うけど?菖蒲彩月さん。私は確かに私の記憶をあなたに埋め込んだけれど成功したからあなたを助けただけで成功しなければあなたを見捨てていたわ。その証拠に私はあなた以前にも記憶を植え込んだ相手がいたけれど失敗したから全員、殺してしまったわ」

 迷いの無い筒地綾女の言葉はウチの心に刻み付いた。

「それでもウチは感謝してるで。綾女さん」

「蘇らせた私を殺しといて良く言うわ」

 複雑な笑みを浮かべる筒地綾女につられてウチは苦笑した。

 そう言えばウチは筒地綾女を蘇らせる実験を行い蘇らせた筒地綾女を5回も殺していた。

「そうやったわね。でもそれだけウチはアンタを乗り越えたかったんや」

「褒め言葉と受け取るわ」

 筒地綾女は少し呆れた様子を見せていた。

「師を乗り越えるのが弟子の役目やろ」

「確かに彩月さんは私の弟子とも言えるわね」

 初めて筒地綾女は混じりけの無い笑みを浮かべていた。

 その笑みがウチに新たな疑問を与えていた。

「綾女さん。世界が再編されたらあなたはどうなるんや?」

 何となくウチはそんな質問を筒地綾女に口走っていた。

 聞くべきでは無い質問だったかも知れないけれど質問をせずにはいられなかった。

「鹿目まどかさんに教えて貰ったけど、私の死は避けられないわ。以前の時間軸よりも少しだけ長く生きられるけれど結局、私は朱奈を残して死んでしまうのよ」

 淡々と筒地綾女はウチの質問に答えていた。答え方に迷いは無かった。

「それでええの?」

 ウチの言葉に筒地綾女は直ぐには答えなかったが、やがて思い口を開いた。

「良いのよ。だって私は朱奈に生きていて欲しいのよ。朱奈には生きて幸せな人生を送って欲しい。それが私の真の願い何だから。愛する朱奈が生きる世界を私は受け入れるわ」

「でもアンタは死んでしまうんやで。残された朱奈はどうなるんや?」

「大丈夫よ。朱奈は1人じゃ無いから。あなたが朱奈の側にいるから」

 筒地綾女の言葉にウチは混乱した。ウチが朱奈の側にいる!?

「ほら見て。鹿目まどかが宇宙の再編を願った世界の朱奈の側にはあなたがいるわ」

 筒地綾女とウチの目の前に何処かを歩く朱奈の姿が写っている。朱奈は眼帯をして風見野中学のセーラー服を着ていた。その横を歩くのはウチだった。

「あなたは他の世界のあなたを見ていないのね。この世界では彩月さんは朱奈の友達となっていた。世界が再編されてもそれは変わらないわ。あなたと朱奈は必ず出会う必然となっているのよ」

 必然。筒地綾女に下された結論にウチは直ぐに答えられなかった。

「きっと彩月さんに私が記憶を与える実験を与えた所為でこうなったのかも知れないわね。あなたはきっと無意識の内から朱奈と出会う事を求めていたのかも知れないわね」

「そっそんな事って・・・」

 と呟いた所でウチは気が付いた。筒地綾女の口元には笑みが浮かんでいる。

 その表情は悪戯心が見えた。

「もしかして冗談か?」

「あら。流石に私の記憶を持っているだけの事はあるわね。そうよ。冗談よ。記憶の影響があったとしてもあなたはあなたの意思で動いているわ。朱奈と会ったのは全て偶然に過ぎないわ」

「質の悪い冗談やね」

 少しウチは筒地綾女に恨みがましい視線を向けたが筒地綾女は気にする事は無い様子だった。

「そうね。でも人間は出来事に理由を付けたがる物なのよ」

「それが人間と言う事なんや」

「そうよ」

 筒地綾女の答えを聞いてウチは少し考えて見た。

 もしかしたら世界が再編された後もウチは朱奈と出会うのかも知れない。

 現にある世界ではウチと朱奈は友達になっていた。

 可能性は等しくあるのだろう。

「綾女さん。もし世界が再編された後も朱奈と出会う事があればウチは朱奈と友達になって見るわ。案外、面白そうやからね」

「ええ。私の弟子である彩月さんなら朱奈の友達に相応しいかも知れないわね」

 その言葉を最後にウチ達は世界が再編される波に飲まれた。

 怖さは無い。ただウチは初めて未来に対して肯定的な思いを抱いていた。

 

 

○エピローグ

「退屈やね」

 教室で自分の席に座りながらウチ、菖蒲彩月は思わず素直な気持ちを口走っていた。

 これまで生きていた人生でずっと退屈を感じていた。

「ウチも契約が出来たら退屈や無くなるのに・・・」

 契約。それは己の魂を奇跡と引き換えにする事でこの世に蔓延る《魔獣》と戦う《魔法少女》へと少女を変化させる儀式。

 しかしウチには素質は無い様だった。

 こんな事を知っているのは過去に《魔獣》に襲われたウチは筒地綾女と言う《魔法少女》に命を救われ、筒地綾女の記憶を引き継いだ存在だからかも知れなかった。

 確かにウチは筒地綾女の記憶を引き継いで《魔法少女》の事を本物の《魔法少女》並に知る事が出来ていた。

 けれど半年以上経つとウチは筒地綾女に命を救われた事が本当の出来事だったのか自信が無くなっていた。

 あれは良く出来た長い様で短い夢だったのかも知れないとウチですら思う時があった。

 そんな事を考えているといつも通りクラスメートが現れて着席して席を埋めて行く。時間になったらチャイムが鳴って担任が来てHRが行われる筈だった。

 教室の引き戸が少し大きな音を立てて開き担任が入って来た。けれど今日は担任だけでなくてウチ達と同じ風見野中学のセーラー服を着た少女を連れていた。

少女の顔を見た瞬間、ウチは様々な思いが込み上げるが言葉にする事は出来なかった。

(朱奈!?)

 それは筒地綾女が奇跡によって生み出した少女、朱奈だった。幻ではなくその姿はウチの中にある筒地綾女の記憶と寸分違わぬ姿だった。朱奈の存在は筒地綾女の存在が夢では無く本当の存在だと言う事を証明していた。つまりウチが持つ筒地綾女の記憶も全て本物だったと言う証明だったのだ。

 担任は朱奈を編入生だと紹介していたがウチの耳には届かなかった。

 筒地綾女の朱奈への思いがウチの中で駆け巡っていた。

 休み時間にクラスメートと会話する朱奈を近付いて観察する。

クラスメート達の質問に朱奈は少し戸惑う様子を見せながらも嬉しそうに答えていた。

 けれどウチは朱奈がここにいると言う事はもう筒地綾女がいない事に気が付いていた。

 ウチに記憶を差し込んだ時点で筒地綾女は自身の消滅を覚悟していた。

 覚悟はしていたが朱奈を1人にする事を筒地綾女は躊躇っていた。

 その為に自身の記憶や思いを何らかの形で残せないかと実験を行っていた。

 《魔獣》に襲われ重傷を負ったウチはその実験のテストケースとして筒地綾女に命を救われた事をウチは筒地綾女の記憶から知っていた。

 ウチは朱奈に近付き当り障りの無い言葉を掛けて見る事にする。

「筒地さん。クラスの雰囲気はどうや?」

「えっと。良いよ。落ち着いて授業を受けられるから良いと思う」

 少し戸惑いと驚きを見せながらも朱奈は答えた。

 その様子を見てウチは朱奈を『面白い少女』だと感じていた。

 チャイムが鳴ったのでウチはそれ以上の言葉を交わす事無く席に戻る。

 放課後になるとウチは他のクラスメートで帰る朱奈の後をそっと付けていた。

 クラスメートとお喋りをしながら歩く朱奈は少しずつだが筒地綾女といた時に見せていた人見知りを克服しようとしている様に見えていた。

 やがて朱奈は風見野中学から数十分離れた所にあるウチも評判が良いと聞いているグループホームに入って行くのが見えた。

 どうやら朱奈はグループホームに引き取られたらしい。

 今、ウチの中には安堵する気持ちと好奇心が入り混じっていた。

 安堵する筒地綾女の感情。朱奈に興味と言う名の好奇心を抱くウチ。

「明日。ここで朱奈を待とう。ウチは朱奈と・・・。友達になりたいんや。筒地綾女の記憶がきっかけやとしてもウチは・・・。朱奈と・・・。共にいたい・・・」

 気が付くと一筋の涙がウチの頬を伝っていた。

 誰の涙だろう?

 ウチが流した涙には違いない。けれどこれはきっと筒地綾女の嬉し涙だったのだろう。

「綾女さん。ウチは朱奈の傍にいる。きっとウチは・・・。その為に記憶を受け継いだのかも知れないんやな・・・」

 口に出したこの言葉はウチの勝手な自己満足かも知れなかった。実際、筒地綾女は単なる実験の為にウチに自分の記憶を与えていた。その実験が成功したのかどうかウチには分からない。

 だからウチは・・・。

 朱奈との出会いを素直に喜ぶ事にした。

 気が付くと退屈をしていない。

 ウチは初めて退屈から開放され楽しげな足で帰路を歩いていた。

 それまで退屈しか感じていなかった人生に対してウチは初めて楽しさを感じていた。

 

END

 




これにて《さつき☆マギカ》は最終回です。
《すずね☆マギカ編》も近い内に必ずアップします。
ただし本編には余り関わりが無い内容となりそうですが・・・。
近い内に偽書シリーズの第4弾をアップしたいと思います。
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