偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA   作:ジャックノルテ

3 / 21
その時は逃げ出すまでや

 ウチの目の前に《魔女》がいる。

 既にこの結界には何人かの人々が飲み込まれ《使い魔》の餌食となっていた。

 ウチは今、《使い魔》を倒し結界の最深部にいる《魔女》と対峙していた。

 ナメクジの様な体に蛾の羽を生やした《薔薇園の魔女》に対してウチは真っ直ぐに突っ込んだ。

 そこへ地面から生えて来る《薔薇園の魔女》の触手が次々とウチに向けられて来た。ウチは避ける事無く右手から先端に宝石が埋め込まれた重りの付いた鎖が伸びて回転すると《薔薇園の魔女》の多数の触手を簡単に引き裂いて行った。

 それを見たウチは《薔薇園の魔女》に近付きながら鎖に魔力を送り続けた。それに呼応するかの様に鎖の先端にある宝石が光り輝くと同時にそこからさらに何本もの鎖が伸びて《薔薇園の魔女》を拘束し締め上げて行く。

「これでどうや!」

 ウチは鎖に送る魔力を更に高めた。同時に鎖全体が光を帯びて行く。紫の光だ。その光は《薔薇園の魔女》の体を次々と溶解して行く。

「ギイイ」

《薔薇園の魔女》は悲鳴を上げるがもう手遅れだった。体は溶解し跡にはグリーフシードだけを残して《薔薇園の魔女》は結界と共に崩れ去った。

 同時にこの場所は風見野市にある公園へと戻った。

 結界に閉じ込められた人々も公園に気を失い倒れ込んで帰還している。

 ウチはグリーフシードを拾い上げると結界に巻き込まれ帰還した人々を一瞥した。

 2人だけ少女が混じっていた。

 ウチは黙って2人の少女に近付くと右手を翳した。

 2人の少女の額から水色と黄緑の鎖が私の手の中に入って消えて行った。同時にウチの中の因果が増したのを感じ取った。

「見事なお手並みだね。彩月」

 見るとウチの脇にはキュウべえが現れていた。

「キュウべえ。ちょうどええわ。ウチは幾つか質問があるんや」

「なんだい?彩月。僕に答えられる範囲なら答えてあげるよ」

 表情を変える事無くキュウべえは答えた。その様子をウチはかわいくないと感じたがそれはおいて置く。

「《魔法少女》となって暫く経ったけど《魔女》と戦うのは飽きたわ。ウチは他の《魔法少女》と戦ってみたいんや。それにウチの持つ他人の因果を奪うと言う魔法が《魔法少女》を相手にして通用するのかも試したいんや。確か・・・。筒地綾女の記憶では隣の見滝原市には《魔法少女》がいる筈やろ。今、どうなっているのか教えてくれへん?」

 ウチは言葉通りの事を思っていた。他人の因果を奪い取ると言うウチの魔法は既にこの場でも試した様に第二次性長期の少女から因果を奪い取る事に問題は無かった。けれどもまだ《魔法少女》から因果を奪い取った事は無かったのだ。これがどんな効果を及ぼすのかは非常に興味深い事だった。

「そうだね・・・。見滝原市には数人の《魔法少女》がいたけれどお互いに戦ったり《魔女化》したりで今は2人だけ《魔法少女》がいるよ。1人は佐倉杏子。この風見野市の大部分を縄張りにしている《魔法少女》だ。風見野市で活動する以上、いずれは彩月とも戦う事になるんじゃないかな?」

「そうなんや。で、もう1人は?」

「もう1人は暁美ほむら。彼女は僕が契約した覚えの無い《魔法少女》だ。その上、僕の事を敵視しているし自身の持つ魔法を隠している秘密主義者だ」

 ウチはキュウべえの言葉に違和感を覚えた。契約をした覚えが無い?筒地綾女の記憶によればそれこそあり得ない事だった。

「契約をした覚えが無いやて・・・。それってつまりは本当に《魔法少女》であるかも判らないと言う事なんか?」

 ウチの言葉にキュウべえはその小さな頭を振った。

「いいや。《魔法少女》である事は確かだよ。僕たち、インキュベーターの感知能力は人間と《魔法少女》を確実に分類する事が出来る。しかし僕が契約した覚えが無いと言うのが不可解なんだ」

 キュウべえの言葉を聞いてウチも疑問を抱いていた。

「キュウべえを解さずに契約して《魔法少女》となる事は可能なんか?」

「それについては《魔法少女》の力を使えば可能だとは思うけれど、そんな事をすれば僕たちの感知に嫌でも反応すると思うよ。重要なのはね、決して忘れると言う事の無いインキュベーターが契約を結んだ覚えが無いと言う事なんだ」

 ウチはキュウべえの言った意味を考えて見たけれど答えは出そうに無かった。ならば考えるのは時間の無駄である。キュウべえが言いたいのはきっと暁美ほむらは得体が知れないと言いたいのだろう。ウチはそう思う事にした。

「つまり暁美ほむらと戦うのは危険と言う事やね。じゃあキュウべえ。佐倉杏子と戦う事にするで。相手の姿、教えてくれへん?」

「僕は構わないよ。これが杏子の姿だよ」

 そう言ってキュウべえの目が光ると私の頭の中に1人の少女のイメージが浮かんだ。

 それは赤い髪を結って黒いリボンをして槍を構えた少女のイメージだった。それが佐倉杏子の姿だと認識したウチはすぐにソウルジェムを通して街全体を見た。

 ウチの右目に装着されたソウルジェムはこの風見野市全体を見通せる程の視界を持っていた。人々の目に写る光景と反射を通して遠くを見通す事が出来た。その視界を応用した魔法によってウチは対象となる人物のいる場所を見当てる事も出来た。

「見つけたで・・・。どうやら見滝原市の外れにいるみたいやね。じゃあキュウべえ。ウチは早速、佐倉杏子を倒しに行くで」

 ウチは早速、動こうとした。善は急げと昔から言われているからや。

「ちょっと待って。彩月。杏子は君よりもベテランの《魔法少女》だよ。今の彩月では勝つのは難しいと思う。無理に戦う必要は無いんじゃないかな?」

 キュウべえの言葉にウチは少し考えてみた。けれども勝てれば勝てば良いし勝てない様なら逃げ出すまでの事。結論は出た。

「その時は逃げ出すまでや。忠告ありがとな」

 そう言い切るとウチは魔力を足に集中して跳躍した。そのまま風見野市内のビルや建物の上を跳躍して見滝原市を目指す。幸い佐倉杏子のいる場所はここから10キロ位しか離れていない為、すぐに辿り着いた。

 ただしウチはすぐに佐倉杏子の元へは向かわずに手近の鉄塔に跳躍するとそこから佐倉杏子の方へ視界を向けた。

 ここからウチはソウルジェムを通して視力を補正すると目を望遠鏡の様にして佐倉杏子の様子を見てみる事にした。

 佐倉杏子は1人の少女を連れて線路沿いにある夜の公園を歩いていた。その少女を見てウチは驚いた。

「朱奈!まさか佐倉杏子といるなんて・・・」

 筒地綾女の記憶を受け継ぐウチは朱奈の事も知っていた。筒地綾女が奇跡によって産み出した、愛する存在。《呪いの右目》で《魔女》を引き寄せる少女。

 ウチは確かに筒地綾女の記憶を保持しており朱奈が興味深い存在ではあったけれども行方を捜そうとは思っていなかった。大して利用価値があるとも思えなかったからだ。

 右手から鎖を出すとウチは佐倉杏子のいる方向へと向けた。この鎖は空気中の振動をより広く感じる事が出来る。応用する事で離れた相手の会話を聞く事も出来た。人間の発する声は空気中に振動を発しているからや。

 すぐに相手の声がウチの頭の中に響いて来た。

 

(良し。ここで良いだろ。じゃあ朱奈。始めるからそこのベンチに座りな)

 ウチの見ている前で佐倉杏子に促された朱奈は俯いてベンチに座った。そんな朱奈の様子に佐倉杏子は怪訝な表情を浮かべながらポケットから出したロッキーと言うスティック状の菓子をかじった。

(どうしたんだよ。もしかしてそんなに嫌なのか?《呪い》を使われるのが?)

 佐倉杏子の言葉に朱奈は小さく頷いた。

《呪い》を使う?どうやらウチの知らない《呪い》の活用法があるらしい。それはそれで興味をそそられ二人の会話に意識を集中する。

(まったく・・・。別に良いだろ。大体、《魔法少女》がいなければ1人で生きて行くのも難しい朱奈をアタシは《呪い》で引き寄せた《魔女》を倒すのと引き換えに面倒を見てやってんだ。それの何処に問題があるんだ?)

 佐倉杏子の指摘を聞いて朱奈はますます悲しげな表情を浮かべて行く。それを見た佐倉杏子は溜息を付くと朱奈の右目に左手を当てた。

(さてと・・・。じゃあそろそろ始めるからな。ちょっと我慢しな)

 朱奈は諦めに近い表情を見せたが佐倉杏子に逆らわなかった。佐倉杏子の左手から魔力が朱奈の右目に流れたのがウチにも見えた。同時に朱奈の右目に施された《呪い》が発動した。

「なっ。《呪い》を強制的に発動させたやと!?」

 この現象にウチは声を出すほど素直に驚いていた。今日は金曜日では無い。だからこそ朱奈の《呪い》が発動する筈が無かった。けれども目の前で佐倉杏子は朱奈の右目に施された《呪い》に自分の魔力を送る事で《呪い》を強制的に発動させる事に成功していた。

 佐倉杏子の目の前に結界が現れ佐倉杏子はその中に《魔法少女》としての姿に変身すると入って行く。ベンチに残された朱奈は《呪い》を強制的に発動された反動によって生じた痛みで気を失い横になっていた。

これは筒地綾女の記憶には無かった出来事だった。何故なら筒地綾女は朱奈を苦しめる様な行動を行う事がまず有り得なかった。

ウチはそのまま跳躍するとベンチで気を失う朱奈の前に音も無く降りた。

そのまま朱奈の顔を見つめるとある特定の感情が湧きあがって来た。

 それは《不快感》だった。どうしてそんな感情を抱いたのか分からない。けれどもウチに生じた《不快感》を解消する為に躊躇う事無く結界に入り込んだ。

 この《不快感》は元凶である佐倉杏子を倒さなきゃ晴れそうも無い。

 ウチに襲い来る《使い魔》を倒し進み続けて結界最深部の扉の影から様子を窺うと佐倉杏子は既に《魔女》を倒してグリーフシードを拾い上げていた。もうすぐ結界は崩壊する。出来れば結界の中で倒したい。そう思ったウチは扉を開いて佐倉杏子に右手の鎖を飛ばしていた。

 けれども気付いた佐倉杏子は難なく持っていた槍でウチの鎖を弾いた。

「誰だ!」

 その声に応じてウチは扉の影から姿を現した。

 不快感を見せながら佐倉杏子はウチの事を上から下まで見つめて叫んだ。

「ふーん。どうやら同じ《魔法少女》の様だね。アタシに喧嘩を売るなんて良い度胸をしているじゃねえか!」

 そう言って佐倉杏子はウチに向かって飛び掛りながら持っていた槍で突いて来る。

 ウチは突きを避けながら鎖を槍に絡ませた。そのままウチは槍を引っ張ろうとするが佐倉杏子はニヤリと笑みを浮かべたと同時に槍の柄が分離して鎖で繋がる多節棍へと変化すると驚くウチごと引っ張られてしまった。

 ウチはそのまま結界の壁に激突し痛覚を解除したと同時に佐倉杏子は槍の石突と言われる底の部分を分銅としてウチに振り下ろして来た。

 とっさにウチは鎖を回転させて防ごうとしたが分銅はウチの鎖のガードを突き破ってウチの右肩を強打した。衝撃で倒れ込むウチだったが同時に結界が崩壊しこの場所は夜の公園に戻った。

「勝負あったな」

 佐倉杏子はそう言ってウチの首筋に槍の刃を突き付けていた。

 確かに勝負はついた。ウチは左手を背中に隠すと鎖を伸ばした。

 もうウチの目には走って来るアレが見えている。

「どうやら喧嘩を売る相手を間違えたみたいだね。アンタ、トーシロだろ?まるで戦い方がなってない。《魔法少女》を相手にするならもっと強くなる事だね。まあもう終わりだけどな!」 

 そう言って佐倉杏子はウチに槍を振り下ろそうとした。

 振り下ろされた槍はウチに届く事は無かった。

轟音と同時にウチの体は佐倉杏子の視界から真横に飛んで行った。

「なっ!?」

 驚く佐倉杏子だったが追い駆けては来なかった。恐らくは公園のベンチに朱奈を残したままだからだ。

 ウチは左腕から伸ばした鎖を伝って貨物列車のコンテナの上で横になった。

 結界から出た時点で敗北を悟っていたウチは左手から出した予備の鎖を見えない様に線路の方向に伸ばしていた。ウチの目にはたまたま貨物列車が通ったから貨物列車に鎖を絡めて逃走したけれども貨物列車が来なければ鎖で自分を引っ張り続ければ良いだけの話だった。朱奈をあの場に残して佐倉杏子が長距離を追って来ないと言う読みもあったからこそ使えた手段だった。

 けれどもウチは《魔法少女》同士の戦いで負けた事にショックを受けていた。改めてウチは筒地綾女の記憶をウチと同一視するのを改めなければならなかった。

《魔法少女》同士の戦闘でも筒地綾女は容赦の無い性格から表れる戦い振りもあって苦戦する事は無かった。

(ウチに足りないのは何やろう?魔力?経験?戦い方?全てが足りない気がする・・・。もっと強くならないといかんなぁ・・・。ウチの願いの為にも・・・)

 ウチは夜空に流れて行く星と雲を見ながらそう思った。

 これはウチが初めて行った《魔法少女》同士の戦いの経緯だった。

 ウチは佐倉杏子に敗北し逃走した。だからこそ・・・。生きているからこそ・・・。

 次は決して負けないとウチは心に誓っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。