偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA 作:ジャックノルテ
佐倉杏子に敗北してから数日後・・・。
ウチは風見野市にも戻らなかった。風見野市にいれば佐倉杏子と再戦する可能性があったからだ。
ぶっちゃけた話、今のウチでは佐倉杏子には勝てない事が明白だった。魔力においても経験においてもウチは佐倉杏子に劣っていた。
だからこそウチはより強くなる必要があった。
その為にウチは風見野市を離れて近隣にある他の街へ赴くとそこで《魔女》や《使い魔》を倒して戦いの経験を積んで行った。
平行して結界に囚われた人々の内、少女を見つけると因果律を奪って行った。
相手の少女が死のうとウチはどうでも良かった。相手の少女が死んでも構わないと思って全力で因果律を奪うとより多くの因果律が奪える事にウチは気が付いた。ウチは自分が強くなる事に夢中になって行った。
そしてその日、ウチは自分が強くなる為に新たな行動を起こした。
結界に入り扉の影から覗くウチの目の前でインドの民族衣装であるサリーの様な服装をした《魔法少女》が《魔女》と戦っていた。
(仮に《サリーの魔法少女》と呼ぶ事にする)
ウチは待っていた。目の前の《サリーの魔法少女》が《魔女》に止めを刺すその瞬間を。
まだ来ない。
まだ来ない。
まだ来ない・・・。
ウチはじっと待ち続ける。ウチの目は相手の《サリーの魔法少女》が魔力を高めた時は簡単に認識する事が出来た。《魔女》に止めを刺す時、大抵の《魔法少女》は魔力を集中する。
その時こそがウチが相手の《サリーの魔法少女》を倒すチャンスでもあった。
何の前触れも無くその時は来た。《サリーの魔法少女》が持っていた杖に魔力を集中し《魔女》を貫いた。
同時にウチは結界の扉から飛び出すとそのまま右腕から伸ばした鎖を《サリーの魔法少女》のソウルジェムと思しき部分に叩き付け、貫いた。
《サリーの魔法少女》は驚愕の表情を浮かべていたけれども既に手遅れだった。
ウチの鎖は《サリーの魔法少女》を殺害し、同時に《サリーの魔法少女》の攻撃は《魔女》を倒していた。
結界は崩壊し、この場は元の路地裏に戻って行った。
ウチの右手から伸びる鎖には《サリーの魔法少女》のソウルジェムを破壊した時に生じた《サリーの魔法少女》の因果が具現化した鎖が絡まっていた。
ウチは《サリーの魔法少女》から抜けて具現化した鎖を右手に握り締めてみる。
何かがウチの中を通る感覚がした。だからこそウチはその感覚が誘うままに右手を路地裏の壁に向けた。
その瞬間、ウチの手から延びる魔力の流れに沿って蔦の様な植物が伸びて行った。
「思った通りや。ウチは《魔法少女》の魔法をも取り込む事も出来るんや!やはりウチは最強の《魔女》となる事が出来る《魔法少女》や!」
ウチは自分の能力に歓喜していた。
「素晴らしい能力だね。彩月。確かにその能力は僕たちにとっても有益な物だよ」
見ると路地裏にはキュウべえが現れてウチを見つめていた。
「キュウべえ!そうでしょう!ウチの魔法はインキュベーターの役に立つでしょう?筒地綾女よりもウチの方が宇宙の為の魔法と言えるでしょう!」
「そうだね。確かに彩月の能力は綾女よりも役に立っていると言えるよ」
キュウべえの言葉にウチは満足感を得ていた。
「ありがとう。ならその返礼としてウチはこれからキュウべえの事をウチだけの名前で呼んであげるわ。ベータ―」
「君がそう呼びたいのなら構わないよ。彩月」
キュウべえことベータ―は相変わらずの無表情でウチに答えた。
「ところで・・・。筒地綾女の記憶だとこの近くのあすなろ市に《魔法少女》のチームがいるのでしょう?プレイアデス星団を名乗る?」
「そうだね。確かにいたよ。けれども今は3人の《魔法少女》がいるだけだよ」
ベータ―からの答えにウチは違和感を覚えた。プレイアデス星団は確か7人のチームだった筈。《魔女》との戦いで何人か戦死したのだろうか?
「3人ね・・・。それならなるべく単独でいる時を狙って戦えば良いだけの話よね」
「戦うつもりかい?」
ベータ―の瞳は相変わらず無表情である。けれどもウチはその瞳に《別に戦おうと構わない》と言うベータ―の意思が込められているのを感じ取っていた。
「そうね。ウチが死ななければ良いだけの話しだし。ウチの実力を試すにはもって来いやろ?」
「君がそう思うならそうじゃないのかな?」
相変わらずベーターは無感情にウチに答えた。けれどもウチはその返答を了承と捉える事にした。
「じゃあベータ―。早速、ウチにプレイアデス星団の姿を教えて頂戴!」
「分かったよ。これがプレイアデス星団の姿だよ」
ベータ―の瞳が妖しく輝くとウチの中に1人の《魔法少女》の姿が浮かんだ。
黒いロングの髪に薄紫の衣装を身に纏った強い意志を宿した赤い瞳を持った少女。
「これがプレイアデス星団の中で最も強い魔力を持つ《魔法少女》昴かずみ。戦うとしたら一番、手ごわいのは彼女じゃないのかな?」
ベータ―の言葉に私は頷いた。
「後の2人は?」
ウチに促されてベータ―は更に2人の《魔法少女》の姿を映し出した。
青い髪に眼鏡をかけリボンの付いたベレー帽と思しき帽子を被った冷静そうな少女と茶色の髪に黒い羽の様な襟を立てたベストを身に纏った活発そうな少女がウチの頭に写った。
「眼鏡をかけたのは御崎海香。彼女はとても高度な分析魔法を持っていて相手の《魔法少女》の魔法を読み取って自分のモノにする事が出来る。牧カオルはとても高い運動能力を持ち身体を硬質化する魔法を使う事が出来る」
ベータ―から提供された情報を元にウチは誰と戦うべきかを考えていた。
けれども答えは既に定まっている。どうせ戦うのなら一番、手ごわい相手と戦うべき。
「どうせウチが戦うのなら《昴かずみ》よね。ベータ―。ウチは昴かずみと戦う事にするわ」
ウチの決意にベータ―は表情を変える事は無かった。もう少し位、ベータ―は表情豊かでも良いとウチは思っていた。それが実現する事は無いだろうけど。
「ふーん。まあ彩月が戦いたいのなら僕は止めないよ」
ベータ―は相変わらず表情を変える事無くウチの瞳を見てそう答えた。
○
あすなろ市に赴いたウチは昴かずみと戦う為の準備を始めた。
まずは穢れを吸収させ続け今にも《魔女》が羽化しそうな三つの使用済みであるグリーフシードをあすなろ市の三箇所に配置する。
(もちろん羽化すれば直ぐにプレイアデス星団が探知出来る位置に配置している)
ウチはあすなろ市にある、あすなろドームからソウルジェムを通した目で配置した三つのグリーフシードと昴かずみ、御崎海香、牧カオルを監視する。幸いプレイアデス星団は同じ学校に通っている様で行動を共にしていた為に監視は容易だった。
三つのグリーフシードが同時に羽化した事でプレイアデス星団は動いた。
三箇所で同時に《魔女》が出現した為に思った通りに3人はそれぞれ単独で《魔女》に戦いを挑む為に別れて行く。
迷う事無く昴かずみの後をウチは追った。あすなろ市の路地裏にある昴かずみの入った結界にウチも直ぐに入り込もうとすると結界は崩壊した。
結界の崩壊にウチが驚くとその場にグリーフシードを拾い上げた《魔法少女》としての姿を見せた昴かずみが訝しげにこちらを見つめていた。
「あなた。《魔法少女》なの?あなたもこの結界の《魔女》を倒しに来たの?」
昴かずみは人懐っこそうな笑顔を見せてウチにそう問いかけて来た。
一瞬、どう答えようか迷ったウチだったけれども気を引き締めると右腕から鎖を伸ばすと昴かずみに魔力を使って飛ばした。
けれども昴かずみは慌てる事無く手に持っていた杖でウチの伸ばした鎖を当てて避けた。
ウチは少なくともかなりの魔力を込めて鎖を放った筈だった。けれどもウチの魔力に包まれた鎖を昴かずみは簡単に叩き落としていた。
つまりはウチ以上の魔力を杖に込めてウチの魔力に包まれた鎖の方向を変えたのだ。
「いきなり攻撃する事、無いと思うよ」
少し悲しげな様子を見せて目を伏せる昴かずみだったけれどもウチに対して言葉を続けた。
「もしかしてあなたはプレイアデス星団がまだ《魔法少女狩り》をしていると思っているの?それともわたしたちが引き起こした戦いに友達が巻き込まれたの?だとしても・・・。ごめんなさい。わたしはあなたに討たれる訳には行かない。わたしはわたしの力の続く限り、この街とわたしの大好きな人たちを守らなきゃいけないから・・・。それでも戦うと言うのならわたしはあの約束の為に負ける訳にはいかないから・・・」
そう言って顔を引き締めた昴かずみは杖をウチに向けて来た。そこには強い意志があった。ウチが足元にも及べない強い意志が。
無意識の内に足が竦み歩を引いていた。勝てない。絶対的な力の差から来る諦めをウチは感じていた。昴かずみの意思の大きさにウチの意識は威圧されてしまっていた。
ウチは既に敗北感を味わっていた。精神的にも実力的にもウチは昴かずみに勝つ要素が1つも無かった。
戦うまでも無くただ言葉と覚悟だけでウチは圧倒されていたのだ。
「こっちは片付いたわ。かずみ!」
「かずみ大丈夫か!」
その声と共に《魔法少女》としての姿の御崎海香と牧カオルが路地裏に飛び降りて来た。
どうやら2人は既にウチが囮とした《魔女》を倒した様だった。
けれども飛び降りた2人もウチと昴かずみの間に漂う緊張に気付くと黙ってかずみの脇に寄り添った。
戦っても3対1では勝ち目が無い。ウチにはもう戦う意思は残っていなかった。
「ウチの負けや・・・。正直、気持ちで負けたわ・・・」
そう言ってウチは戦うつもりが無い証に《魔法少女》としての姿を解くと昴かずみ達、3人に背を向けるとそのまま立ち去った。
追っては来なかった。追い討ちもしなかった。その事がウチに対して更なる敗北感を植え付けていた。
あすなろ市を出たウチは自分でも何処を歩いているのかも分からないままにさまよっていた。
このままではウチは誰にも勝てない。ウチには何が足りない?何が?
その時、ふいにウチの目の前に部活帰りの女子中学生と思しき集団とすれ違った。
ふとウチの頭にこの集団を全員殺害して因果を奪い取ったらもっと強くなれるのでは?と考えが至った。
そんな事をするべきでは無いと意思が僅かながらに働いたけれど逆の意思がウチの中で大きくなっていた。
そもそもウチは自分が宇宙に貢献する為に他人の因果を奪うと言う魔法を手に入れた筈だった。
けれどもウチは自分でも思ったよりも弱かった。佐倉杏子に実力で敗北し昴かずみには意思の強さで敗北してしまった。
ウチは強くならなければいけない。ウチが強くなる為ならウチは誰だって犠牲に出来る筈や!
そう思い至った瞬間にウチは《魔法少女》としての姿に変わるとそのまますれ違った女子中学生の集団にぶつかった。
ぶつかりながらも一人一人から因果を奪って行った。
女子中学生の集団は誰一人として何が起こったのか理解出来ないままに死んで行った。
ウチの手の中には無数の因果が具現化した鎖が乗っていた。
躊躇う事無くウチは鎖を握り締めた。
ウチは自分が強くなった様な気がした。
脇に倒れる女子中学生の集団の死体。
けれどもウチが強くなる為には犠牲が必要だった。
いいや。違う。
そもそも生きていると言う事は犠牲の上に成り立っているのだ。
なら・・・。ウチが誰かを犠牲にして強くなっても何も問題は無い筈や。
そう。ウチの強さの為に弱い奴等は犠牲になるべきなんや。
「あはははははははははは。ウチはどうしてこんな簡単な事に今まで気が付かなかったんやろな?あははははははははは!」
女子中学生集団の死体の真ん中でウチは1人で馬鹿笑いをしていた。