偽書魔法少女サツキ☆マギカPSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI SATUKI MGICA   作:ジャックノルテ

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ウチのしたい様にするだけや

「あははははっはははははは」

 ウチは笑っていた。より強くなったのだ。

 だからこそ喜んで笑っているのだ。

 ウチの周りには多数の少女たちが倒れていた。

 全員、共通して苦痛に満ちた表情で既に死亡している。

 ウチが殺したからだ。因果律を奪う為に。

 ここは何処かの街にある体育館。放課後に部活を行っていた女生徒を狙いウチは学校に入り込んだ。

 そして体育館にいた女子を全員殺して因果律を奪ったのだ。

 ウチは自分が強くなる事が嬉しかった。

 ふと脇を見ると女生徒の死体とウチを見て声を失っている教員の姿が見えた。

(ここにはもう用が無い)

 そう思うとウチはおとなしく教員に手を上げる事無く体育館を後にした。

 そのまま夜の公園に行くとベンチに腰掛けた。夜空はまるでウチの心の様に星が輝いていた。

「また因果律の量が増えたね。彩月」

 ふと脇を見るとベータ―が姿を現していた。

「ああ。ベータ―。そうでしょう?もうウチはかなり因果律を高めたのだから・・・。そろそろリベンジする事にするわ」

 リベンジ。その言葉を口に出したと同時にウチは心に起こる衝動を感じていた。

「リベンジ?彩月。君は一体、何をするつもりだい?」

 ベータ―は無表情で綺麗な赤い瞳をウチに向けて問い掛けて来る。

 答えは分かっている筈なのに感情が分からないから想定するどの答えを選択するか分からないから問い掛ける。

 それがインキュベーターだと分かってはいてもベータ―との会話はある程度のパターンが存在していた。

 最も多くの人々もそうであるのだろうが・・・。

「決まっているやない。ウチはウチを敗北させた2人にリベンジしたいんや。まずは・・・。ウチは佐倉杏子にリベンジしたいんや!」

 ウチは佐倉杏子に戦いで敗北した事を今だ引きずっていた。あの敗北のイメージが消えない。だからこそウチは刻まれた敗北と言う記憶に勝利する為にも佐倉杏子と再び戦い勝利する必要があったのだ。

「ふーん。杏子にリベンジをしたいのか・・・。だとしたら急いだ方が良いかも知れないよ」

 唐突にベータ―はそう告げて来た。

「どういう事や?」

「今、杏子は見滝原で暁美ほむらと一緒にいるけど明日には見滝原に《ワルプルギスの夜》が襲来するよ」

「ワルプルギスの夜やと!?」

 ウチは驚いていた。ベータ―から提供された情報。筒地綾女の記憶。その2つの情報から導き出された、最強の魔女。

 それが《ワルプルギスの夜》だった。

 かつて筒地綾女もその存在を知って興味を持ちある街に出現した《ワルプルギスの夜》を見に行った事もあったけれど余りにも実力に違いがあり過ぎるが故に対決を避けた程の魔女。

 今、世界に存在する魔女の中で最大最強と言える敵でもあった。

「あのワルプルギスの夜がこんな近場に現れるなんて思わなかったわ。けれど好都合やね。ワルプルギスの現れた混乱の中で佐倉杏子を倒せればウチはそれでええんや」

 実際、ワルプルギスの夜が現れれば見滝原は混乱するだろう。その混乱の中で佐倉杏子を見つけ出して倒せば良い。ただそれだけの事だった。

「彩月がそうしたいと言うのなら止めないけど・・・。どんな事が起こるのか僕にも予想が付かない。だから彩月。生憎だけど助言のしようが無いよ」

「平気や。ウチはウチのしたい様にするだけや」

 そう言ってウチは笑顔をベータ―に向けた。ベータ―の宝石の様に綺麗な赤い瞳にウチの笑顔が反射して写っていた。

 

 

 

 

 次の日・・・。ウチは見滝原市を訪れていた。

 既に避難勧告が出された見滝原市には人の姿は無かった。

 ウチはビルの屋上に魔力で跳躍するとそのまま視力を拡大すると佐倉杏子の姿を追い求めた。

 暫く見滝原市のあちこちを覗いていると佐倉杏子を見つける事が出来た。

 既に《魔法少女》としての姿をとって臨戦態勢を整えた彼女の脇には長い黒髪が印象的な少女が銃器を手に立っていた。

 直感と視界で感じ取った魔力からウチはこの長い黒髪の少女がキュウべえの言っていたイレギュラー、暁美ほむらだと確信した。

 暁美ほむらの影に隠れる様に朱奈もこの場にいた。

 3人は河川敷におり見滝原に迫る黒雲を佐倉杏子と暁美ほむらは睨みつけていた。

 それを見つめる朱奈の瞳には恐怖の色がありありと浮かんでいた。

 ウチは再び聞き耳を立てて盗み聞きをする事にした。

 広い視界で見つめた相手の口の動きから生じる空気の振動を見てウチは相手の会話を盗み聞きする事が出来る。つまりはウチの目の前で小さな声で喋ったとしても声に出してしまった時点でウチには筒抜けと言う事だった。

 

 

 

 

「いよいよね・・・。朱奈。あなたの呪いを使わせて貰うわよ」

 暁美ほむらはそう言ってベンチに座った朱奈の右目に右手を当てた。

 怯えた表情の朱奈は黙って頷くと暁美ほむらの行動に逆らう事は無かった。

「しっかし。本当に大丈夫なのかよ?幾ら《魔女》を引き寄せる呪いだと言っても《ワルプルギスの夜》も引き寄せられるのかよ?」

 佐倉杏子は少し懐疑的な視線を暁美ほむらに向けていた。

「やってみなければ分からないわ。けれど成功すれば少しでも有利な場所で戦う事が出来るわ」

「まあ、そうするに越した事はねーけどよ」

 佐倉杏子の答えを聞きながら暁美ほむらは自信の魔力を朱奈の右目に注ぎ込んだ。

 その瞬間、呪いが発動した。強制的に魔女を引き寄せると言う呪いが。

 同時に朱奈は呪いが原因となり右目に激痛が生じていた筈だが今回は気を失う事無く意識を保っていた。

 2人の魔法少女の眼前で黒雲の動きが変わり回りを像やサーカスの一座の様な集団を過ぎて行った。

「おい!何だこれ!?」

「ワルプルギスの夜が現れる前兆よ」

 驚く佐倉杏子に暁美ほむらは冷静に答えた。

 その時、黒雲の中から最大最強の魔女、《ワルプルギスの夜》が姿を現した。

 それと呼応する様にベンチの上に座っていた朱奈が浮かび上がると悲鳴を上げ驚きの表情のまま《ワルプルギスの夜》に飛んで行きそのまま《ワルプルギスの夜》の体内に取り込まれてしまった。

「朱奈!?おい!何がどうなってやがるんだ!?」

 驚愕の表情を見せた佐倉杏子は暁美ほむらに詰め寄った。けれども暁美ほむらもこの減少に驚きを隠さないでいた。

「まさか、取り込まれるなんて・・・。そんな事が起こるとは思わなかったわ」

「くそっ。けど、朱奈を助けるにはアレと戦うしか無いんだろ?」

 決意の眼差しを見せた佐倉杏子に押される様に暁美ほむらは頷いた。

「そうね・・・。予定は変わらないわ。ワルプルギスの夜を倒して朱奈も助けましょう」

 そう言って暁美ほむらは左手の盾を回した。

 次の瞬間、突如として予兆無く起こった多数の爆発が《ワルプルギスの夜》を包み込んだ。

「何だ!?」

 驚く佐倉杏子を見てウチも同じ疑問を抱いた。

 いくら《魔法少女》と言っても魔法を使用する際には予兆と言える動きが存在していた。

 特にウチの視界は魔力の流れをも見る事が可能だった。にも関わらず今しがた起こった爆発においてはそうした魔力の動きをウチが感じ取る事が出来なかった。感じ取れたのはせいぜい暁美ほむらが左腕の盾に魔力を集中していた事のみである。

「行くわよ。佐倉杏子!」

 そう言って暁美ほむらは魔力を足に集中すると《ワルプルギスの夜》に向かって飛び上がった。

「待てよ!」

 佐倉杏子もその後を追った。

 それを見た《ワルプルギスの夜》は空に向けている下半身の歯車を回した。同時に次々と《魔法少女》を模した《使い魔》が次々と暁美ほむら、佐倉杏子へと向かって行く。

「くそ!邪魔だぁ!」

 叫びながらも佐倉杏子は手に持った槍を多節棍に変化させると目の前の使い魔をなぎ払った。

 暁美ほむらも左腕の盾から取り出した銃器で次々と《使い魔》を銃撃して行く。

 

 

 

 

「マズイやね・・・」

 状況を観察しながらウチはこの状況が良くないと言う事を感じ取っていた。

 ウチの目的は佐倉杏子を倒す事にある。しかしこのままでは《ワルプルギスの夜》との戦いで死亡しかねなかった。

 今からでも間に合うだろうか?

 ウチはただ佐倉杏子が倒せれば良いのだ。別に取り込まれた朱奈や暁美ほむらがどうなろうと知った事では無い。

 そう思うとウチは観察を続けながらビルの屋上を跳躍し《ワルプルギスの夜》がいる方向へと向かって行った。

 その間にも戦闘は続き暁美ほむらも佐倉杏子も徐々にだが《ワルプルギスの夜》に押されて行った。

 ウチは急いだ。どうせならせめてウチが佐倉杏子に止めを刺して植え付けられた敗北感を拭いたかった。

 その時、足を速めるウチの視界の中で佐倉杏子は1体の《特徴的な使い魔》に背後から銃撃の様な攻撃を受けた。けれども縦ロールの様な髪型をした《特徴的な使い魔》の攻撃を難なく交わした佐倉杏子は振り返り様に《特徴的な使い魔》に槍を突き立てようとして急に動揺した表情を見せた。

「マミ?」

 その動揺が命取りとなった。

 ウチの視界の中で佐倉杏子は逢えなく《特徴的な使い魔》の放った銃撃によってソウルジェムを砕かれ全身から血を流しながら落下して行った。

 その瞬間にウチは足を止めていた。

 ウチは佐倉杏子にリベンジをする為に見滝原市にやって来た。

 しかし佐倉杏子が死亡したのではリベンジをする事が出来なかった。

 これ以上、この場にいても仕方が無い。

 ウチは見滝原市を出ようと歩を街の外へと向けようとした。

 この辺り全体を見渡せるウチの視界の中で暁美ほむらがビルに叩き付けられて気を失ったけれどもどうでも良かった。

《ワルプルギスの夜》の中で朱奈が生きているのを感じ取ったけれども助けようと思わなかった。

 ふと視界の中にベータ―の姿が見えた。注目して見るとピンク色の髪をした少女を連れて佐倉杏子の遺体を前に立ち竦んでいる。

「まどか。あの《ワルプルギスの夜》に朱奈が呪いの右目の影響で取り込まれてしまっている。助けられるのはもう君しかいない!」

 ベータ―がまどかと言う名前らしい少女に感情が無いくせに必死さを演出して語りかけている。

 まどかと言われた少女はベータ―の言葉を聞いて表情を引き締めていた。

 その表情には決意の眼差しがあった。

 ウチを威圧感だけで敗北させた昴かずみと同じ強い意志から来る決意の眼差しだった。

「お願い。キュウべえ!朱奈ちゃんを右目の呪いから開放してここに連れて来て!」

 そう叫んだ瞬間、まどかと言われた少女の身体からピンク色の光が飛び出して来た。

 その光の持つ魔力の波動は覚えのあるモノだった。

 ソウルジェム!つまり今、ベータ―はまどかと言う少女と契約を結んだのだ。

 そう言えばウチは他人が契約を行う瞬間を見るのは初めてだった。

 筒地綾女の記憶から筒地綾女、当人が契約を行った記憶を見た事はあったけれども・・・。

「契約は成立だ!君の願いは叶えられた。さあ、受け取って。君の願いが生んだ魔法の力を!」

 まどかと言う少女は決意を鈍らせる事無くソウルジェムを握り締めた。

 その瞬間、ウチの目の前でまどかと言う少女の姿はピンク色の髪にかわいらしい衣装に弓を構えた《魔法少女》としての姿に変わっていた。

 そんなまどかと言う少女の前に《ワルプルギスの夜》から開放された朱奈が光に包まれて飛んで来た。

 光から開放された朱奈にまどかと言う少女は優しく声をかけた。

「もう大丈夫だよ朱奈ちゃん」

「鹿目さん!?どうして!?何がどうなっているの!?」

 朱奈は戸惑った様子を見せていた。

「朱奈ちゃんを救う為に私はキュウべえと契約をしたの。だから・・・。私がこの街を守って見せる!」

「でも!?」

 何か言おうとした朱奈だったが手遅れだと悟ったのか口を閉じてしまった。

 そんな朱奈の目の前でまどかと言う少女は手に持った弓を構えた。

 ありったけの魔力を注ぎ込んだピンク色の矢を《ワルプルギスの夜》に向かって迷う事無く撃ち込んだ!

 ピンク色の矢が当たった瞬間、《ワルプルギスの夜》は大きな悲鳴と断末魔を残してバラバラにその体を崩してしまった。同時にそれまで曇っていた空からは所々から晴れ間が生じて景色を変化させていた。

 ウチは素直に驚いていた。

 まどかと言う少女が持つ魔力の量はウチの想像を遥かに超えていた。ウチはまどかと言う少女が《ワルプルギスの夜》を倒せるとは思っても見なかった。

 つまりまどかと言う少女はウチ以上の因果を持っていると言う事が証明されたのだ。

 そしてその様子を朱奈も驚いて見ていた。

「鹿目さん。わたし」

「うっ・・・」

 朱奈が話し掛けた時、まどかと言う少女は突如として苦しみ出した。

「鹿目さん。どうしたの?鹿目さん!?」

「あああああああああああああ」

 悲鳴を上げながらまどかと言う少女のソウルジェムは一挙に濁りグリーフシードへと変貌すると離れた場所に浮かび上ると同時に《グリーフシード》から湧き上がった黒い霧が人型を成して巨大化して行き全身から生えた黒い触手が四方八方へと広がって行く。

「どうして!?どうして《魔法少女》が《魔女》に!?」

 どうやらその強力な魔力を一度に全て使い切った反動でまどかと言う少女は《魔女》になってしまったらしかった。けれどもウチは新たに現れた、まどかと言う少女が変化した《魔女》が《ワルプルギスの夜》を越える《魔女》だと言う事に相手の魔力だけで感じ取る事が出来た。

 その時、朱奈の頬を傷だらけの暁美ほむらが引っ叩いていた。

 驚く朱奈に暁美ほむらは怒りを隠す事無く朱奈に詰め寄った。

「あなたの所為でまどかは《魔女》になってしまった!」

「わたしの所為!?嫌だよ!?どうして!?そんなの嫌だよ!?」

 泣き出し弁明をした朱奈に対して暁美ほむらは左手の盾から銃を取り出すと朱奈の顔に突き付けた。

「あなたがいなければ・・・。まどかは・・・」

 そう言って嗚咽を漏らし何も抵抗できない朱奈に拳銃を突き付けていた暁美ほむらだったがやがて拳銃を降ろし朱奈に背を向けると歩き出した。

「まどかが救おうとしたあなたを私には殺せない・・・。それに私の戦場はもうここじゃない」

そう言って暁美ほむらはそのまま、ウチの視界から一瞬、異様な魔力を感じ取らせて消えてしまった。

「何が起こったんや・・・」

 広い視界の中で起こった出来事にウチは誰に言う事無く思わず呟いていた。

「どうやら彩月は今、起こった現象の答えを知りたいみたいだね」

 ウチが振り向くと後ろにベータ―がいた。

「ベータ―。一体、どうなっているんや?」

「そうだね。彩月には説明してあげるよ。まず、今現れた《救済の魔女》の元となった鹿目まどかと言う少女は《魔法少女》としては破格の因果律を持っていたんだ。どうしてそんな強大な因果律を持っていたかは後で説明をするけれどまどかが全ての力を一度に解き放って《ワルプルギスの夜》こと《舞台装置の魔女》を倒したお陰でまどかは直ぐに《救済の魔女》になってくれた」

 感情を伴わない表情でベータ―はウチにそう説明をしてくれた。

「その鹿目まどかが破格の因果律を持っているのならどうしてウチに教えてくれなかったの?ウチの能力なら手っ取り早く因果だけを奪えた筈なのに?」

「けれど彩月の能力では相手の因果を全て取り込める訳では無いだろう?それに彩月が相手の因果を取り込んだ時点で僅かだけれどもロスが生じている。それなら契約させて確実に魔女化させた方が効率的じゃないか。もっともまどかに朱奈が《ワルプルギスの夜》に囚われていると教えて契約する様に促したのは僕だけれどね」

 ベータ―の言葉にウチは押し黙っていた。つまりベータ―はウチが《最強の魔女》となる事よりも手っ取り早く手に入る鹿目まどかの希望と絶望の相転移を優先したのだ。

 裏切られたと言う不快感を感じたけれどもそもそもベータ―には感情が無いのだから目の前に餌があれば直ぐに口にしてしまう事だけは予想がついた。

 それにより大きなエネルギーが得られるのであれば誰であろうと簡単に裏切る事も・・・。

「それで・・・。これからどうなると言うんや?」

 ウチは視線を目の前にいる《救済の魔女》から逸らさずにベータ―に声をかけた。

「まどかが変化した《救済の魔女》は十日かそこいらでこの星を壊滅させると思うよ。僕の見立ててでは現在いる全ての《魔法少女》が束になってかかっても勝てないだろうね。まあ後は君たち、人類の問題だ僕らのエネルギー回収ノルマは概ね達成出来たしね」

 予想より酷い返答だった。どうやら《救済の魔女》が誕生した時点でどうやらベータ―こと、インキュベーターの地球上における活動は終了するらしい。

 それに目の前にある《救済の魔女》にはウチはどんな手段を使っても勝つイメージが湧かなかった。

 このままではウチは死んでしまう。仮に《魔女》となっても宇宙に貢献する事無く死んでしまう。

 そんな事は許せなかった。ウチは《最大最強の魔女》にウチがなりたかったのだ。

「そうだ。付け加えるなら鹿目まどかがあんなに強大な因果を手に入れたのは本人の意思じゃない。言うなれば魔法の副作用によって本人も知らない間に強大な才能を手に入れたと言うのが本当の所だね」

 話を続けたベータ―の言葉はウチの萎縮していた好奇心を刺激した。

「魔法による副作用とはどういう事なんや?」

「そうだね。先程までこの戦場にいた《魔法少女》の暁美ほむら。全ては彼女の持つ魔法が引き起こした副作用と思われるんだ。今になって分かったけれども・・・。暁美ほむらが持つ魔法は時間操作の魔法。時間を停止したり、恐らくは過去へ遡る事も出来るに違いない。暁美ほむら本人がいないから確認が取れないけれども、暁美ほむらは鹿目まどかの強大な才能に気が付いてまどかを《魔法少女》にしない為に行動していたと思う。まどかが《魔法少女》を経て《魔女》になってしまえば地球が滅びてしまうからね。恐らく暁美ほむらは今、過去の時間軸にいるんじゃないかな?彼女の魔法ならばソウルジェムが穢れない限り何度でもやり直しが利くからね」

 ベータ―は淡々と事実と推測をウチに分かり易く話してくれた。お陰でウチもベータ―と同じ位、現状を把握する事が出来た。

 確実に地球は十日前後で滅ぶ。内の実力では《救済の魔女》を倒す事は不可能。

 八方塞に思えた。抜け道は無い物か・・・。

 その時、ふとウチの頭にある事が閃いた。暁美ほむらは時間に関する魔法を持っており過去に時間を遡る事も出来るらしい。

《魔法少女》であると言う事から考えれば彼女もベータ―と契約をして魔法を手に入れたと言う事になる。

 つまりウチでは無い誰かに時を遡る魔法が手に入る様な契約を行う事が出来れば過去へと赴き、この滅びから逃れる事が出来るのかも知れなかった。

 ウチは直ぐにソウルジェムを通した視界で周りを見てみた。

 けれどもこの近くには契約を結べそうな第二次成長期の少女が見当たらなかった。

 既に《救済の魔女》は急速に成長していつ活動を開始してもおかしくは無かった。

 もう一度、念を入れて視界を広げると朱奈の姿が映った。佐倉杏子の遺体に寄り添う朱奈の姿がウチの視界に写っていた。

 しかし朱奈は《魔法少女》としての契約を結ぶ事が出来ない少女だった。

 けれどもウチはふと閃きが浮かんだ。ウチの魔法は他人の因果律を奪う魔法。奪う事が出来るのならば他人に移し変える事も可能なのでは無いだろうか?

 時間が無い以上、悠長にはしてられなかった。確かめている時間も無い。

「ねえ。ベータ―。地球を去る前にウチの実験に付きあって貰ってもええかしら?」

 ウチはベータ―の瞳を真っ直ぐに見てそう言った。

「良いよ。彩月がどんな実験を行うのか興味深いからね」

 ベータ―はそう言ってウチの肩に乗っかって来た。

 ウチはビルから飛び降りると《魔法少女》としての服装を解き右手に魔力を集中させた。

 自分が今まで取り込んだ因果を全て鎖にして具現化させてみたのだ。

 朱奈に近付きながらウチは瓦礫の陰から身を隠しながら鎖を朱奈に投げ付けた

「え!?」

 自分の首に鎖が巻き付いた事に驚いた朱奈だったけれども何本かの鎖は朱奈の首筋から消えて行った。

 ウチが今、投げ付けた因果は朱奈の身体に旨く吸収されたのだ。

 ぶっつけ本番だったけれどもここまでは計画通りや。

「何!?何なの!?」

「どうやら旨く行ったようやね」

 驚く朱奈の目の前にウチは姿を現した。

「あなたは誰なの?」

 朱奈は突然、現れたウチを見て驚いた様子だった。

(ベータ―。朱奈に話し掛けてあげて。もしかしたら契約を結べるかも知れないで)

(そうなのかい?だとしたら結んでおくに越した事は無いね)

 ウチはベータ―に近距離でのテレパシーを送って朱奈との会話を促しベータ―もそれを肯定した。

(朱奈・・・。聞こえるかい?朱奈?)

「えっ!?わたしの頭の中に声が!?」

 ベータ―に話し掛けられて朱奈は驚きの表情を見せた。

(僕は君の目の前にいるよ。目の前にいる彼女の肩に乗っているよ)

 そう言いながらベータ―は朱奈の目の前に降り立った。

(やあ朱奈。僕の名前はキュウべえ。君は僕の存在は知っているよね?)

「あなたがキュウべえなの?」

 どうやら朱奈はベータ―ことキュウべえの存在を知っていたらしい。

 筒地綾女は朱奈をキュウべえと引き合わせたりはしなかったけれども佐倉杏子や暁美ほむらが朱奈をどうしたのかはウチにも分からなかった。

(僕の姿が見えて声が聞こえているのなら君にも《魔法少女》としての資格が出来たと言う事だ)

 どうやらベータ―は予想通りの行動をとってくれている。

「それってどういう?」

(朱奈。今、君は僕と契約する資格がある!)

 ベーターにそう言われた朱奈だったが直ぐに答えなかった。

 少し間を置いて朱奈は答えた。

「でも《魔法少女》は《魔女》になってしまうんでしょ?」

 流石に目の前で鹿目まどかが《魔女化》したのを目撃した後では契約を躊躇してしまうのは予想していた。けれどもベータ―の話は続いて行く。

(確かにそうだね。けれど朱奈。君には今、資格がある。叶えたい願いがあるのなら僕が協力してあげるよ)

 ベータ―にそう言われても朱奈は困惑した表情を見せるだけで何も切り出せなかった。

 仕方が無い。ここは少し助け舟を出した方が効率的やろ。

「ねえ」

 ウチが話し掛けると朱奈は困惑した表情をウチに向けて来た。

 筒地綾女の記憶にある朱奈よりも少しだけ成長した顔だった。けれども記憶よりも明るさが少なく怯えの様な感情が見えていた。

「帰りたくないんか?大切にしていた人達がいる過去に帰りたくないんか?」

「えっ?」

 言葉を旨く返せない朱奈にウチは言葉を続ける。

「奇跡を使えば、あなたを大切な人達が生きている時間に帰れるのよ。もしかしたらあなたが大切な人達を、《魔法少女》となったあなたが助けられるかも知れへんで」

 ウチの言葉を聞いて朱奈の表情から笑顔が消え真剣な表情を見せて来た。

 朱奈がどんな事を考えているのかは分からない。

 ここまで色々と助言をしたのだから出来たら契約を結んで欲しかった。

 時間を超える魔法を手に入れる契約を。

 決意の眼差しを見せた朱奈はベータ―に向き直ると口を開いた。

「キュウべえ!わたしは・・・。わたしは・・・。わたしの大切な人達がいた時間に帰りたい!」

 どうやら朱奈はウチが敷いたレールに沿った流れで契約を結んでくれた。

「うっ!」

 朱奈が胸を押さえて苦しみ出すと朱奈の胸から光り輝くソウルジェムが形成され飛び出して来た。それを朱奈は小さな手で必死に掴もうとする。

(どうやら契約は成立したみたいだ。さあ朱奈。受け取って。それが君の祈りが生み出した《ソウルジェム》だよ!)

 ベータ―に促されて朱奈は茶色に輝く《ソウルジェム》を思いっきり握り締めた。

 同時に朱奈の体は茶色の光に包まれてその姿を変えていた

 胸に大きな赤いリボンを付け薄い茶色と赤色の《魔法少女》としての衣装に朱奈は変わっていた。

 右手にはボーガンが握られている。そのボーガンの弓はSの文字をして中央に宝玉が埋め込まれた特殊な物だった。

 自信が《魔法少女》になった事に驚く朱奈と冷静に観察するウチとベータ―の眼前で突如としてボーガンの弓が左回りに回転し始めたのだ。

 それに応じて弓の中央にある宝玉が輝きを増している。

「何が起こっているの!?」

 そう言いながら朱奈はボーガンの輝きに瞼を閉じていた。

 ウチは冷静に観察し続ける。

 同時に朱奈の足元に何か幾何学的な模様が作られ始めていた。

(朱奈。君の願いは叶えられた。これからどうなるかは君しだいだよ)

 ベータ―は朱奈にそう告げたのを聞いたウチは朱奈の左手を掴んだ。

「ウチも連れてって貰うで」

「えっ!?」

 驚く朱奈だったけれどその瞬間にウチと朱奈は宙に浮かぶ感覚を感じていた。

 ウチと朱奈は落ちていた。

 朱奈の奇跡によって生じた過去と言う奈落の底へウチと朱奈は落ち続けていた。

「うぅぅ」

 苦しみながらも朱奈はそれに耐え様と必死に様子を見せていた。

 落ちていく中でウチと朱奈の体には何かがぶつかり私達の体を揺さ振っていた。

 朱奈の魔力と回りに流れる移動空間を観察すると今まで魔力の流れが激しかったのが直ぐに衰えて行く。

 もしかしたらもうすぐ過去に着くのかも知れなかった。

 けれども朱奈と同じ過去に辿り着く必要は無かった。

 ウチは握り締めていた朱奈の手を離した。

「!」

 奈落の底へ落ちて行くウチを朱奈は驚愕の表情を向けていた。

「待って!」

 朱奈がそう叫んだと同時にウチは意識を失った。

 




これにて過去編は終了です。
次回からはしゅな☆マギカと同じ時間軸を描く風見野、見滝原編がスタートします。
なおこの話はしゅな☆マギカの第1話 わたしを一人にしないでの裏側を描いた話となります。
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