七花は籠を背負って、否定姫と長屋へ帰った。
籠の中身は七割が食料、二割が薬等に、残りは使用不可で捨てることになった。
「さて、この魚をどうするべきかしら」
否定姫は大きい魚を見て呟く。七花と否定姫、犬千代に浅野、ねねを呼んでも魚は多く余る。長屋の人達を呼んでもいいのだろうが、まったく顔を知らない連中ばかり、否定姫はどうするか悩んでいた。
「そうだ。五右衛門いるか?」
「ここに……」
七花の呼びかけに五右衛門は長屋の天井裏から現れた。
「ねえ、七花君。その子は誰なの?」
突然表れた五右衛門に対して七花に説明を求める否定姫。その姿は驚いてはいなかった。
「こいつは五右衛門だ。木下に仕えていたんだが、死んじまったから俺に仕えるらしい」
「ふーん、貴女は忍でいいのかしら?」
「そうでござる。拙者と川並衆は七花殿に心からお仕えする所存でごじゃる」
五右衛門が噛んだ。
「五右衛門は長い台詞が苦手なんだ」
「大体、三十文字あたりが限界かしらね」
否定姫は五右衛門を観察して呟く。
「そこ、うるさいでござる」
五右衛門が否定姫を睨みつけるが否定姫はかわいいくらいにしか思っていない。
「ところで五右衛門。この魚で鍋をする予定なんだが、流石に俺ら二人と他に三人呼んでも余りそうだから、五右衛門と川並衆だっけ? 一緒に鍋を食わないか?」
「むう」
七花の食事の誘いに五右衛門は悩んでいる。
「とりあえず、給金代わりという事にして、一緒に食べないか? 給金を払えるようになれば払うからさ」
「七花殿、まだ我らは仕事をしてはござらぬ」
給金という言葉に否定姫は考え、それから手をパンと叩いて注目させる。
「では、こうしましょう。私があなた達に仕事を出すわ。ある事を調べて欲しいの。そうすれば私達の所持金は増えて、そこから五右衛門ちゃんや川並衆のお給金を出す事ができるわ。そして、今日の食事会はその仕事をするための英気を養うためのもの。腹が減っては戦はできないでしょ」
「それならば、大丈夫でござる。ところで……」
「ああ、私の名前は一でいいわ。七花君とは信奈ちゃんに仕える前まで共に行動していたの」
「そうでござったか」
五右衛門は何故かしょんぼりしているように見える。
「大丈夫よ。別に私と七花君は恋仲じゃないから」
「なあ、何故そこで恋仲の単語がでるんだ?」
否定姫の言葉に七花は首を傾げるが、五右衛門の頬はマスクで覆っていて見にくいが少し朱に染まっているように見える。
「よろしくね。五右衛門ちゃん」
「ちゃん付けは必要ないでござるが、よろしくでごじゃる」
握手をする否定姫と五右衛門。
「煙玉を使うときは屋外でね。屋内だと大変な事になるから、敵陣なら容赦なく使っていいわよ」
「わかったでござる。では川並衆を呼んでくるでござる」
五右衛門は否定姫の言葉通りに外に出てから煙球を使い、煙とともに消えていった。
その日の夜、七花と否定姫、犬千代と浅野、ねねに五右衛門と川並衆の連中が長屋で魚と山菜ときのこが入った味噌鍋を食べている。
最初は犬千代と浅野とねねは五右衛門と川並衆に驚いていたが、七花に仕えていると聞いて、そうかと納得して普通に鍋を食べている。
否定姫と五右衛門は今後、何をするのか話し合っている。
七花と言えば、口の中に入っている食材をもぐもぐと咀嚼して、自分に敵意を込めて見ている川並衆を見ている。
川並衆は五右衛門の父親が率いていた川賊と呼ばれる盗賊の親戚らしい奴等と聞いた。
いかつい顔の多くが七花を見ているので、七花は戦う気かと食事をしながらも、川並衆から視線と注意を向けたままである。
川並衆の話が聞こえる。
「こいつが親分の心を……」
「許せねえ……」
「だが、こいつのお陰で親分の幼い容姿の中に女の色っぽさという、普通なら組み合わさる事のない特徴を合わせ、俺達に新たなる可能性を見せた事も事実……」
「ああ、前の親分も最高だが、今の親分も最高だ」
「普通なら亡き者にしてやりたいが」
「親分が悲しむ」
「もしこいつが他の女を娶れば……」
「親分が悲しむ……親分を悲しませる奴は殺す」
「もしかしたら苦悩や葛藤に揺れる親分も見れるかもしれない」
「また新たなる可能性だな」
「「「「「「「「……しばらく様子を見よう」」」」」」」」
いかつい男達が一斉に想像して鼻血を垂らしながら呟く姿は恐ろしい。ちなみに七花には殺す以外、川並衆の言っている事はわからなかった。
「拙者、そのような事に忍を使うなど考えた事もござらぬ」
「相場を調べて、安く買って、高く売る。これが貿易と呼ばれるものよ。覚えておいて損はないわね。まあ、忍を雇える人達なんてお金をいっぱい持っているところしかないから、考えつかないかしらね」
「流石は七花殿と共に行動していただけの事はある」
五右衛門はしょんぼりしている。
『しょんぼりしている親分も最高だ!!』
川並衆の表情は満面の笑みだ……つまり、恐い。ねねが泣き出しそうだ。もしかしたら夢に見ておねしょをするかもしれない。いや、間違いなくするだろう。
「大丈夫よ、五右衛門ちゃん。七花君の役に立つなら地図を覚えておく事をお勧めするわ。七花君は物覚えが悪いから目的地まで行けるとは限らない。でも、五右衛門ちゃんなら目的地の道案内ができるようになれば、信奈ちゃんが天下を取った後、七花君に地図作りのお供に連れて行ってくれるはずよ」
「本当でござるか!?」
「ええ。だから頑張らないとね」
まるで姉妹か母娘のように会話する様子に川並衆は血涙と鼻血を出しながら、七花に怒りながら、五右衛門の嬉しそうな様子に感動していた。その姿にねねがおもらしして号泣していたのは言うまでもない。
不治の病、ロリコン。
七花君はその不治の病にかかるだろうか?
まあ、なったとしても、妹に対するシスコンでしょうね