否定姫が信奈から三千貫を渡されて二週間の内に最低八千石の米を買ってくるように命令されてから一週間が経過、否定姫は二万八千石の米を購入した。
その間に五右衛門からの報告を聞いて、七花の顔には動揺はなく、考えがまとまったのか、やる気に満ち溢れていた。
両肩に担いだ米俵二つを持って七花は否定姫に尋ねる。
「この米を信奈のところに持っていけばいいんだな」
「そうよ。七花君、本当に大丈夫?」
「信奈に会うことか? 安心しろ。俺のやる事は決まってるから」
「そう、じゃあ行きましょうか」
否定姫はそう言うと道案内をするように先に歩き出し、その案内に導かれるように七花も歩き出した。
否定姫が最初に信奈のところについて次に七花、そして段々と米俵を持つ男達がやってくる。
そして、最後に犬千代がやってきた。
「流石ね、一。一週間で二万八千石を買ってくるなんて」
「これで種子島を買うお金を捻出できそうかしら?」
「ええ」
嬉しそうな顔をする信奈の裾を犬千代はくいくいと引っ張った。
「……姫様……犬千代を、斬る」
「えっ? 何を……言いだすの?」
「……犬千代はさっき、信勝様の小生を斬った。法度を破った」
犬千代の話を聞いて、否定姫は溜息を吐く。
「信勝が米を盗ろうとしたわけね」
否定姫の言葉に犬千代は頷いた。その様子を七花は見て、犬千代の頭の上に優しく手を乗せる。
「安心しろ、犬千代。俺が何とかしてやる。犬千代は信奈の物を守っただけだ」
犬千代に優しく声をかけて頭を数度撫でてから、七花は移動を始める。
「七花君、この大事な時期に資金に手をかけようとする輩には手加減は無用よ。そうねえ、伝言に『お前の今後について話がある』とでも伝えなさい」
否定姫は歩いている七花の背中にそんな言葉をかける。七花はわかったと振り向かずに右手を挙げた。
自然な流れで物事が進んで、信奈も犬千代も固まっており、動き始めたのは七花の背中が見えなくなってからだ。
「ちょっと、どうするのよ!!」
「どうするとは?」
否定姫に詰め寄る信奈、否定姫は何処吹く風に信奈を見ている。
「あのままじゃ、あいつが……」
「斬られますか? 安心してください。七花君なら大丈夫です。それより心配なのが、兵士が数名使い物にならなくなるかもしれないところですね」
信奈の言葉を途中で遮り、否定姫は信奈に事務的に語る。信奈は自分の知らないところで自体が進む事に少し恐怖を覚えた。
信勝の屋敷の外に七花は幽鬼のように現れた。
信勝の親衛隊の門番二人は最初に七花の登場に驚いていたが、手に持った槍で脅そうと槍を七花に突き出すが、七花は手刀で槍の穂先を切り落とした。
「信勝に話がある。資金に手を出したんだ。奴の今後について話がある」
「こ、こっちは小生を斬られたのよ」
「聞いてなかったのか? 大事な時期に資金に手を出そうとした。犬千代はそれを防いだ。今川が攻めてこようとしている時に必要な資金に手を出そうとした。それは身内であっても許されない事だ」
異様で剣呑な雰囲気を出して感情を殺して告げる七花に槍を使い物にならないようにされて心が折れかけていた親衛隊は何とか七花に言い返すが、七花のさっきよりも強めに言われた言葉に心が完全に折られていた。
「門を開けろ」
七花は心が折れている門番二人に閉じている門を開けるように声をかけるが、門番二人は七花に気圧されて動けなかった。
「もういい」
七花はそう言って、門の前に立ち破壊力透徹の技、四の奥義『柳緑花紅』で門の閂を破壊して、堂々と中に入って行った。
閂が破壊された音を聞きつけたのか、信勝の親衛隊達が刀を構えて七花を見ているが、七花の覇気に似た圧倒的な雰囲気に気圧されたように動くことができないでいた。
尾張城の千人以上の警備兵は自分達の仕事を全うするために覚悟を決めて七花に襲い掛かってきた。しかし、七花の目の前にいる信勝の親衛隊はどうだろう? 謀反を何回もしているはずなのに七花に襲い掛かってくる気配もない。
(鈍? いや、錆か? それだと、斬刀・鈍を扱っていた宇練銀閣と日本最強だった錆白兵に失礼だな)
だから七花は……
目の前にいる信勝の親衛隊を……
「何だ、ただのくず鉄か……」
そう評価した。
七花の呟きが聞こえた途端、親衛隊達の堪忍袋の緒が切れ、一斉に刀を使い七花に襲い掛かる。
しかし、親衛隊達の刀の刃が七花に傷を負わせる事はなかった。それどころか七花に襲い掛かった親衛隊の持っていた刀が全て、七花の手刀と足刀で折られていた。そして、刀を折られた直後に地面に叩きつけられる。
徒手空拳の七花に自分達の刀を折られて、数名が地面に叩きつけられる様子を見ていた他の親衛隊の動きは止まった。自分達と七花の戦闘力の差を見せ付けられて、今度は動きだす事すらしなかった。残っている武器を取りに行くこともせず、その場で立ち尽くしている。
「何回も信奈に謀反していたと聞いていたけど、こんなものなのか? お前ら一体何がしたいんだよ」
七花は親衛隊にその言葉だけ残し、信勝がいる場所まで歩いていく。七花の歩く道を邪魔しないように、親衛隊達は道をあけていく。
信勝がいる部屋の前に勝家が刀を持って立っていた。
途中、何回か親衛隊の攻撃を受けたが、七花は無傷で疲れてすらいない。実際、親衛隊のほとんどの攻撃は七花に気圧されて太刀筋がぶれており、七花にとって武器が破壊しやすかった。しかし、七花の目の前にいる勝家は親衛隊とは違った。
勝家は信勝の家老だ。信勝や親衛隊とは違い、実際に戦場に出て何回も指揮をしているのだろう。親衛隊とは違い命のやり取りを行ってきた勝家は七花に気圧される事はなかった。
「信勝に話がある。退いてくれないか?」
「悪いけど、それはできそうにない。あたしは信勝様の家老なんだ。許可を得て入ってくるならともかく、勝手に入ってきた奴には容赦しない」
勝家は刀を構えるが、七花の顔を見ないように、視線の先は七花の胴体を見ている。
「その様子じゃあ、犬千代の事も聞いているみたいだな」
七花はそう言って溜息を吐くと勝家に近づく。勝家は近づいてくる七花に斬りかかろうとするが七花に刀を持った右手を左手で包み込まれて止められてしまった。勝家は動かそうとするが、ぴくりとも動かない。ようやく勝家は七花の顔を見た。
「迷っている心で刀を振っても俺を殺す事はできない。安心しろ、一発殴るが言伝を伝えにきただけだ」
七花は勝家の顔をじっと見据えてそう言うと、勝家は力が抜けたように七花にもたれ掛かる。実際、色々と難しい事を馴れない頭で考えて疲れていたのだろう。
七花は勝家が持っている刀を安全な場所に捨てさせて、勝家を床に座らせた。
「さて、行くか」
目の前の引き戸の部屋に信勝が居る。七花は自分のやるべき事を確認して引き戸を開けた。
部屋に数名の親衛隊を思わせる女達がいたが、七花にとってどうでもよかった。七花が注意を払うべきは女達に守られている信勝だ。
「さて、信勝」
「信勝様を呼び捨てにするとは無礼な」
女の一人が口を開くと、女達の口が一斉に動き出す。やれ、犬千代を差し出せ、やれ、勝家は役立たずだ、やれ、信奈はうつけ者だ、やれ、織田をつぐには信勝様が相応しい等、姦しく囀る女達に七花はキレた。
七花は何も言わずに七花八裂、応用編をできる限り手加減したものを繰り出して女達を黙らせた。
女達は痛みによって、床に横たわり呻く存在となった。
「次に口を開いたら殺す」
痛みによって床で呻いている女達に七花はそう釘を刺すと、ガタガタと震えている信勝を見る。
「さて、信勝」
「ひっ」
近づいて喋る七花に信勝は悲鳴をあげて後ろに下がろうとするが、力が入らないのか、手を床に擦るだけだった。
七花は信勝に近づいて、拳骨を振り下ろす。痛そうな鈍い音が室内に響き、信勝は言葉を出す事もできず、殴られた頭を手で押さえて涙目で七花を見る事しかできない。
「あいつの予想では、美濃の連中は道三を討ち取り、織田が今川と戦っている最中に尾張に攻め込む可能性があると言っていた。もし、二つの勢力と戦う事になったら、片方を攻めている時にもう片方からの攻めを耐えてくれる即戦力、その時に必要になる資金をお前は手を出した。つまり、お前は織田を存続させるために必要な資金に手を出し、織田を滅亡させようとした」
信勝の罪状を読み上げ、裁きを行う閻魔のように七花は語る。七花の言葉に口をパクパクさせながら信勝は七花を見る事しかできない。
「自分が何をしたのか、わかったようだな。さて、お前の今後について話がある。場所は言わなくてもわかるな。逃げるなよ」
七花はそう言うと信勝から離れ、部屋を後にし、勝家を見る。
「信勝を連れてきてくれ」
「わかった」
勝家は頷いた。
七花はそれを見届けてから、屋敷を後にした。
信勝に米をとるように誘導したのは取り巻き達です。
そして、原作では勝家さんに攻撃することもできない人たち
七花さんと取り巻き達との圧倒的な戦闘力を目の当りにしたら何もできないと思います。
最初はそんなへたれた人たちじゃないと思っていたので、色々考えてできるだけ良く書こうとしたのですが、読み返してみて数行で勝家さんに制圧。すぐに書き直しました。