織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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七花、戦場で足軽と忍に出会う

 馬蹄の音、鉄砲の音、足軽達の叫びの中で、鑢 七花 は合戦場のど真ん中にいる事を理解した。

 

 背が高く、筋肉質に引き締まった傷だらけの身体。絢爛豪華な十二単を二重に着込み、総髪を風に靡かせる姿にかぶき者を思わせる。

 

 そんな特徴的な男を両軍の足軽達は「新手の敵だみゃ~」と言って長槍を刺そうとするが、掠りもせずに槍の穂先が空をきる。

 

 七花が足軽達に気付かれないほどの動きで避けたり、槍の穂先を誘導したりしているのだが、足軽達は「幽霊だみゃ~」とか「化物だみゃ~」とか色々叫びながら、七花から逃げていく。その姿に七花は何の興味も示さずにただ……

「どうするかな」

 と呟くだけだった。

 

 いつも、七花に憑いてきている否定姫とは、はぐれてしまって、連絡の手段もない。適当に進んだ場所でさっきの足軽達みたいな輩がいっぱいいる場所は面倒だし、どうしたものかなと考えていた最中だった。

 

 そして、七花が出した答えは近くにある林へ進もう。林ならば攻撃を避けやすいし、相手の視界にも入りにくいと思ったからだ。

 

 林に入り、しばらくすると、七花は小柄な足軽にあった。

 

「お前さんは織田の武将だみゃ? 今川にお前さんみたいな奴を見たことないみゃ」

 

 足軽は七花を見ると槍を捨てて話しかけてきた。

 

「織田? 今川? 残念だが、俺は旅の最中で間違って合戦場にきちまった」

「違うのきゃ? 確かにお前さんみたいな格好で合戦場にでないぎゃ」

 

 足軽は納得したように、うんうんと頷いている。

 

「ところで、織田がどうとか言ってたけど」

「わしは今川の殿さまに仕えておったが、あのお方は不細工な男がきらいだみゃ、出世できそうになかったから、この戦のどさくさに、織田へ寝返ろうと思ったみゃ」

 

 七花にとって男の顔は不細工かどうかわからなかったが、他の人達からみればその足軽の顔はサルのような顔をしていた。

 

 七花と足軽は場所を移そうと歩き出した。

 

 足軽の夢は出世して一国一城の主になって女達にもてたいと話、七花はこの日本全国の地図を作りたいと話した。その他にも、足軽は親に孝行したいとか、農民のせがれだとかいろんな事を話し合った。しかし、街道に出たとき、足軽が胸を押さえて蹲った。

 

「どうしたんだ?」

 

 七花は足軽の押さえている胸を見る。そこから、血が流れ出ていた。

 

「……流れ弾みゃあ」

 

 黙っている七花に対して、足軽はそう言った。

 

「……運がなかったみゃあ」

 

 足軽の声が小さくなる。

 

「あんたの名は?」

「……木下……藤吉郎。……墓に名を彫るよりも、夢を引き継いで欲しいみゃあ……」

 

 そう言って、足軽は息を引き取った。

 

「悪いけど、俺はあんたの夢を叶えられそうにない」

 

 七花はそう呟いて、足軽の亡骸を抱える。

 

「木下氏が死んだか……」

 

 舌足らずな声が背後から聞こえる。

 七花は後ろを振り向くと【まにわに】に近い格好をした小柄な少女が立っていた。

 

「あんたは誰だ?」

「拙者の名前は蜂須賀五右衛門でござる。これより木下氏にかわり、ご主君におちゅかえするといたちゅ」

 

 その台詞を聞いた瞬間、七花は斬刀・鈍の所有者、宇練銀閣に初めて名乗ったときの事を思い出した。

 

「や、失敬。拙者、長台詞が苦手なゆえ」

「いいんじゃないか? 俺だって物覚え悪いし」

 

 七花がそう言った瞬間、少女・五右衛門の目から瀧のような涙を流した。それに対して七花は慌てて、亡骸を落とす。哀れ、木下藤吉郎!!

 

「おいおい、どうしたんだ、一体?」

「拙者に、拙者にそのような言葉をかけて下さったのは、ご主君だけでごじゃりゅー」

 

 そう言って、七花に抱きつく五右衛門。

 

「川並衆の連中は拙者が噛んだ途端、『親分が噛んだ』とか、『超貴重なごじゃるが出た』とか、せっちゃをびゃかにしてりゅとしきゃ、おもえにゃいんでごじゃりゅ~」

 最後の方は七花には何て言っていたのか、わからなかったが、五右衛門が大変だという事がよくわかった。

「大変だったんだな」

 

 頭を撫でながら五右衛門に言葉をかける七花。五右衛門はジーンと感動した風に……

 

「木下氏とは相方で、足軽の木下氏が幹となり、忍の拙者はその影に控える宿り木となって力を合わちぇ、ともに出世をはたちょうと約束をきゃわしたでごじゃった」

 

 五右衛門は涙を拭いて、まっすぐ七花の目を見つめ

 

「ご主君に出会えて拙者、出世がどうでもよくなったでござる」

「そうか」

 何を言っているのかわからない七花には首を傾げるしかできない。

「拙者、ただいまより郎党【川並衆】を率いて、ご主君にお仕えいたす」

「給金を出せるほどの金を持ってないぞ」

「安心すればよいでござる。粉骨砕身の覚悟を持って無償でお仕えするでごじゃる」

「いやいや、粉骨砕身の覚悟って、しかも無償って、ちゃんと給金をだせるように頑張るから」

「なんと、勿体無いお言葉でござろう。拙者、ご主君に仕えることができることをここりょかりゃ、てんにかんしゃしゅりゅでごじゃる」

 

 目をキラキラさせて七花を見つめる五右衛門に、七花は深い溜息を吐いた。

 

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