織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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七花、赤兜に跨り、今川の本陣に突っ込む

 ここで時間を少し巻き戻す。

 

 五右衛門が七花のところから出発する時間まで巻き戻す。

 

 雨粒が七花の顔に落ちて、七花は着ていた十二単を脱いで五右衛門に渡した。

 

「……これは……?」

「惚れた女の形見だ」

 

 五右衛門が走り出した事に気付かず七花は袴も脱いで、褌一枚となる。

 

「あれ、五右衛門は?」

「親分は走っていったよ」

 

 川並衆の一人が五右衛門の代わりに七花の近くで立っていた。

 

「信奈に伝えに言ったかな。じゃあ、代わりにお前がこれを預かってくれ」

 

 七花は袴を川並衆に渡す。

 

「男の袴なんて持ちたくないんだが、仕事だしな」

 

 嫌々ながらも七花の袴を受け取る川並衆の一人。

 

 七花が着ている物を脱いだのには訳があった。まず虚刀流は刀を持たない代わりに体術を主にした動きを必要とする。布が水分を含んで重くなり、思うように身体を動かせず、体裁きが悪くなる。

 

 もう一つの理由が七花の目の前で行われている宴会に、羽目を外して褌一つで一発芸をしている今川兵がいるから、これにより、七花が赤兜に跨って中を走っても宴会芸と勘違いされる可能性が出てくるからだ。まさか、五千人全員が宴会に出ている人物達の顔を全員把握しているとは考えられない。酒の入った頭ではすぐに七花が今川兵とは関係ない人物であるとわかる事が遅れる。

 

 この二つの理由で七花は服を脱いだ。五右衛門は七花が死ぬつもりだと勘違いしているが、七花は死のうとはしていないが、死を受け入れる気である事には変わりはない。

 

「もう少し待てるか?」

 

 七花はそう赤兜に言うと、赤兜は『仕方ない』と息を吐く。

 

 待つ事にも理由がある。それは雨がそれ程降っていないためだ。火をある程度弱めるくらいは降って欲しい。火が弱まれば辺りは暗くなり更に動きやすくなる。

 

「俺達は今の内に今川兵の武器を何とかする。というより、見張りがいないんじゃ、武器を持って行き放題だな」

 

 今川兵達はここに誰も攻めてこないと油断しているのか、平地にある武器の見張りもせずに普通に宴会をしている。しかも、大声で騒いでいるから少し音をたてても大丈夫だろう。

 

「じゃあ頼む」

「頼まれた」

 

 七花から袴を受け取った川並衆の一人は七花の前から姿を消した。

 

 それから時間が経過して雨が少し強くなる。薪も湿って、火縄銃も使えないだろう。いや、火縄銃自体が無いはずだ。平地に置かれていた武器そのものを川並衆が盗み、代わりに武器に見える紙でできた張りぼてを置いていく。

 

 紙の張りぼては否定姫が川並衆に持っていくように命じた。最初は変な形をしていた紙束を大量に持って行かされて、頭を捻った川並衆も組み立てると武器に見える張りぼてに感心して、今川兵達の武器を盗んで代わりに紙でできた張りぼてを置いていく事を楽しんでやっていた。紙の張りぼても水分を含んで持ち上げようとすると崩れるだろう。

 

「待たせたな」

 

 七花はそう言って、赤兜に跨る。

 

「行くか」

 

 七花の言葉に『待ってました』とばかりに赤兜が今川の本陣へと突っ込む。

 

 勢いよく走っていく大猪に今川兵は『何だ? 何だ?』と注目するが、褌一枚の男が乗っていて宴会芸だと勘違いしている者達が多かった。

 

「そこのお前、止まれ!!」

 

 義元がいる場所に近づいたのか、七花を止める今川兵。しかし、赤兜は止まらない。

 

 七花が赤兜から飛び降りる。赤兜はそのまま今川兵に突っ込んだ。悲鳴を上げて空中を舞う兵士に堂々と走る赤兜。ここらでようやく今川兵達は敵襲にあったのだと気付いた。

 

 七花は一番近くにいる今川兵一人を明かりである松明がある場所に吹っ飛ばす。飛ばされた今川兵は松明にぶつかり、触れた火の熱さから逃れるように泥水の上を転がって冷ます。今川兵が当たった松明は倒れて泥水に触れて火が消えた。

 

「次はどいつだ?」

 

 七花は今川兵に聞こえるようにわざと呟く。

 

 七花のその言葉を聞いた今川兵達のほとんどは嗤っていた。当たり前だろう。この場所には二万五千人はいなくても、ここには五千人はいるのだ。それなのに刀を持っていない、鎧や兜の防具も身につけてない男にまるで自分が勝つとでも言うように、しかし、それは七花の勝つための策だった。

 

 七花は敵に向かって走り、そして七花に向かってくる今川兵達の身体を踏み台にして異動する。目指すはこの場を照らしている松明。まだ燃えている薪を今川兵に投げつける。その松明を今川兵は七花の武器と勘違いした。だから、今川兵達は飛んできた燃えた薪を避ける。避けられた薪は泥水を被り火が弱くなり、そして消えていく。

 

 七花の策は単純で、まずは松明を消して辺りを暗くする事、もう一つは自分に注意を向けさせて、他のモノから注意を逸らせる事である。

 

 だから今川兵達は七花が乗ってきた赤兜と呼ばれる大猪の事を忘れていた。七花が無理やり乗ってきたと勘違いした者達も少なくないだろう。

 

 七花に注目した事によって、自分達に突っ込んでくる大猪に気付かなかった。気付いた時には三、四名の今川兵の宙に舞っていた。一人の今川兵が目の前まで迫ってくる大猪の姿を視界に入れても身体は動かなかった。大猪の突進で三十名近く宙を舞う。

 

「ゴォオオオオオオ―――」

 

 大猪の唸り声で、その付近にいた今川兵達はパニックに陥る。逃げ惑う者もいれば、武器を取りに平地に向かって走ろうとする者もいる。

 

 その間に七花は移動しながら、明かりとなる松明を消し、その近くにいる今川兵達を倒していく。

 

 明かりが消えて、近くまで来ないと人の顔が判らないほどの暗さになった。

 




月日が経過しすぎて、セルフで失踪中というタグをつけようと思いました。

ああでもない、こうでもないと頭の中で考えていました。

そして、考えた結果、いつまで経っても終わらないという事がわかったので、とりあえず、桶狭間を終わらせようと思いました。

時間があるときに書き直すかもしれません。
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