うさ先生超かっこいいよね!って気持ちで
白いうさ耳が元気そうに動いていた。
そのうさぎはメイド服を着ているが、とてもメイドの仕事についている人間とは思えない。
彼女は、教師だった。彼女は、犯罪者だった。
だが彼女は――教師だった。
背に背負う愛しい教え子たち。
一度は殺そうと思ったガキたち。
それを今、否、もう一度だけ、彼女は守ると決めたのだ。
「……ッハ、ったくォ、クソみてェな仕事だぜ教師ってのは」
月見璃兎は口端を歪に吊り上げて吐き捨て、眼前に迫る脅威を再確認する。
数は五。どれもがユニットを纏った人間であり、かつて《殺破遊戯》と称して学園を襲撃した『K』が武装していた外部兵装『死化羽(デストラクション)』を装備した破壊兵器である。
璃兎は『死化羽』の一撃を防いだ経験があるが、そのたった一撃が限界だった。
位階『V』すら手を焼く兵器が同時に五体。
更に現在、『IV』に到達した生徒達と学園長は別件で学園を空けている。
その隙を狙われたのは明白だった。
だが、それが璃兎を激怒させることになったのだ。
「とことん舐め腐りやがって屑鉄共ッ。わたし一人なら驚異ですらないと踏んだか? それほど屑鉄兵器に自信ありか? 馬鹿馬鹿しいねェ、愛したくなっちゃうねェ。たかが『学生』にぶっ壊される程度の鉄をいくつ集めよォが、鋼にゃ届かないってのを教えてやるよ――こちとら教師なんでね」
――《焔牙》。
顕現したのは漆黒の剣《蛇腹剣<スネイク>》。
璃兎の魂の姿。彼女自身の顕現。標的を呑み咬み殺すウロボロスのツルギ。
蛇の腹のように刀身に刻まれた切れ目模様が切り離されていき、暴れのた打ち回る毒牙の蛇の如く伸長した刃が五体の屑鉄に牙を剥く。
出鱈目な射程、挙動。空を蹂躙するスネイクはどこまでも敵を追い続ける。
五体の『死化羽』は散開すると、一斉に砲身を構えた。
璃兎は――退屈そうに溜息を吐いた。
「おっせェよ、蛾が――《狂蛇咬》」
直後、スネイクに分裂した無数の刃が全方向に解き放たれ、一刃一刃が意思を持つかのように標的へ襲い掛かった。
予想外の攻撃に判断を鈍らせた『死化羽』達は、両腕に構えていた二枚の羽を切断されてようやく回避行動に入る。
「ちんたらちんたら……もう殺すから死ねよお前ら」
飛翔する刃の速度が上がる。もはや目で追えぬ高速。戦場の空を彩る漆黒の流れ星。
力の差は歴然だった。
性能の差、だがそれ以上に『強くなることを怠った差』が勝敗を分けたのだ。
所詮は他人の発明に頼る連中。己が魂の剣を信じる者の足元にも及ばない。
地に堕ちる死の蛾。
璃兎はうさ耳を動かし、元気よく身体をぴょんぴょんと跳ねさせた。
「あっれ~? もう終わりかなぁ? つまんないの~。
――名前通り『屍』になれや屑鉄が」
「――誰が怠ったと言った?」
死化羽の一人が、確かにそう口にした。
だがそれは『璃兎の背後』から聞こえた死神の声だった。
背中に感じる二つの鉄の感触。突きつけられたのは銃口。
兎が振り向くよりも早く、兎が背負った子供たちが救いに入るよりも早く、
『死忍神』の砲撃が璃兎の身体を吹き飛ばした。
轟音。子供たちの叫び声すら飲み込み、高らかに響くは死神の笑い声。
「くくく、くはははは、舐め腐ったな月の兎さんよ。さすがに『ステルス』機能は予想していなかったか? 盲目よなぁ、所詮肉眼程度では。……さて」
死神は校舎へ、怯える生徒たちに銃口を向ける。
彼の任務は学園の破壊。生徒の――《超えし者》の殲滅。
銃口に赤い光が収束し、そして――――
「盲目はどっちかな? 兎さんってば優秀」
死神の背中を貫く二本の《蛇腹剣》――――二本だけではなかった。
続けざまに放たれる無数の《蛇腹剣》。刺し貫かれる死神は、血を吐きながら背後に振り返る。
そこには、右半身を『失って』なお息をする月見璃兎の姿があった。
「なッ……なぜまだ生きている……!」
「さあてなぜでしょう? そこの死神君、140字以内で答えなさいッ!」
璃兎に残された左半身の断面が蠢き、幾数も《蛇腹剣》が突き出した。
この《蛇腹剣》の正体は璃兎の『神経』である。つまり、今の璃兎は残された神経の数だけ《蛇腹剣》を顕現させることが出来るのだ。
だが当然代償は大きい。姿は剣でも神経であることは変わらないため、むき出しになった神経は風に吹かれただけでも凄まじい激痛を発生させる。
ゆえに璃兎はこれまで使用することはなかったが、
「ッハ、もう死ぬしなァ。出し惜しみしても仕方ねェ。……一緒に逝こうや、屑鉄の死神君」
「死にかけの兎風情が……ッ!」
「兎は寂しいと死ぬんだぜェ……? だから付き合えよ」
「くっそ……くそくそくそくそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「――《狂蛇環(ウロボロス)》」
無数の《蛇腹剣》――全ての《焔牙》の真の力を同時に解放する。
剣の三分の二が切り離され、輪となり、高速回転して死神の身体を微塵に斬り裂いていく。
もはや助からない。助ける者もいない。
そして、全神経を意図的に切り離した璃兎もまた、どう足掻いても助からない。
彼女を助ける者は大勢いるのに――。
璃兎は何も見えぬ何も聞こえぬ意識の中で、相変わらず、こう口にしていた。
――ったく……やっぱ教師になんかなるんじゃなかったぜ。
……ああ、でも……生まれ変われるなら、もう一回くれェ……教師やってもいいかもな。
愛する生徒達の涙の中、月見璃兎は天高くの月へと旅立っていった。