機械仕掛けの王とスタイラスドール   作:小ノ寺祐佑

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叔父の書斎

公国ヴェイグランドから南東へ馬車を走らせて4時間程。

 僕の故郷の街イデリックは、通称"ユニコーンの森"と呼ばれる森林を抜け、大陸随一と謳われる清流を有するカンタス山を隔てた向こうにある。

 辺境にあるとはいえ、名産品のユニコーンの角を粉末にした医薬品の交易と、それを利用した技術開発で街は独自の発展を遂げ、それなりの規模になった。

 

 ユニコーンが生息する森はどちらかと言うとヴェイグランドに近いのに、角の採取量はイデリックの方が多い。その理由は、ユニコーンの生態に関係している。

 

 ユニコーンは一年に一度、角の生え変わりの時期を迎える。その時期は彼らの体力が著しく落ちるため、食物も多い反面外敵もいる森は危険だ。よってユニコーン達はカンタス山へと入っていく。

 なぜ山なのか。イデリック側になる山の中腹辺りには靄が掛かっていて、この靄がポイントなのだ。実はこの靄、ユニコーン以外が入れば前後不覚に陥ってしまう。

 靄がユニコーン達を守り、角の生え変わりが終わった後、彼らは森へと帰っていくというサイクルが出来上がっている。

 

 その抜け落ちた角を回収して色々と利用するのだが、肝心のそれは靄の中だ。ではどうするのかというと、何事にも例外は存在するもので、唯一カンタス山に居を構える原住民インディアンだけは靄の中へ平然と入っていけるのだ。

 

 彼らはその特質上ユニコーンと面識があり、弱体化した一角馬の世話をしていることもあって、用心深いユニコーンが唯一気を許している人間でもある。そんな彼らと僕の叔父は長年親交を持っていて、特別に角を融通してくれているのだ。

 

 前置きが長くなったけど、僕は今、休暇を取って里帰り中だ。

 目的はもちろん、我が身に起こったことを解明するため。叔父に会えればいいのだが、恐らくはいないだろう。それでも、何かヒントになるものが見つかれば、助かるんだけど…。

 

 あのオークロードの襲撃から一夜明けて、増援隊によって治療を受けながらヴェイグランドへと送られた僕は、目に涙を溜めるミアモさんに抱擁で迎えられた。

 少し落ち着いた彼女から、ミールという少女が焦った様子でミアモさんを訪れたこと、村の急襲とオークロードの出現を聞き、増援隊が急遽組まれたことなどを聞いた。

 少女は無事に保護されたが、他に村の生存者はおらず、彼女の両親もまたオークの犠牲となった。

 彼女には近隣の村に住む母方の祖父母がいるらしいので、彼らに引取られることになるだろう。

 

 そうこう考えているうちに"光の街"とも呼ばれるイデリックに到着した。

 

「…変わってないなぁ。」

 

 そうは呟いたものの、この街を出てから1年しか経っていないし、半年前に一度帰省しているので、当たり前と言えば当たり前だ。

 街の入り口を潜ると、目の前には長閑な田園風景が広がっていて、合間に住宅がポツポツと建っている。

 田んぼの畦道では農家の人々が作業に勤しみ、たまに流れる汗をタオルで拭いて楽しげに話をしている。

 

 少し進んで住宅街を抜け、中央にある街広場に着くと、北側に豪邸が見える。

 それが叔父の家であり、僕の実家だ。

 

 正面玄関の扉を叩いてしばらく、中からパタパタと足音を立てながら誰かが来るのかが聞こえる。

 

「お帰りなさいませ、ククル様。」

 

 扉を開けてくれたのは、使用人のセシリアだ。

 彼女はどちらかと言うとクールな美人顔なのに、可愛い印象も与える。

 少し癖のあるワインレッドの髪を頭の両サイドに結わえて、さらに可愛らしいフリルの付いたリボンまで付けているせいか。

 

「ただいま、セシリア。いつも通りでいいよ。」

 

「…うん、わかった。今日はお泊り?」

 

「うーん、そうなるかも」

 

 柔らかく微笑むセシリア。垂れがちな目が細くなって僕を優しく見つめている。

 彼女とは同い年であり、幼い頃から屋敷で一緒に暮らしている幼馴染でもある。

 住み込みで働きに来たセシリアの母親、ターニャさんに彼女が付いて来たのだが、丁度街に来たばかりだった僕にとって良い話相手となり、すぐに友達になった。

 13歳になるとセシリアも屋敷の使用人として働き始め、さすがに人前では使用人らしく接するようになったが、それ以外では今も変わらず砕けた感じになる。

 

「叔父さんは…帰ってきてない、よね?」

 

「…うん。あれからもう2年ぐらい経つけど、本当にどこ行ったんだか…」

 

「そっか。思い出したように手紙は届くから、生きてはいるんだろうけど…」

 

 そう、僕がこの街を去る1年前、突然叔父はこの家からいなくなった。

 残されたのはこの家と預かり所に入っている財産、そしてしばらくいなくなることを告げる置手紙のみだった。

 幸い預かり所に入っている貯蓄と、定期的に入ってくる特許料で税金とセシリア達の給料、その他諸々の維持費は賄えているのだが…。

 

「少し叔父さんの書斎で調べたいことがあるから、行くね?」

 

「…わかった。今日は料理長にククルが帰ってきたって伝えるから、期待しててね?」

 

「了解!一人じゃ寂しいから、セシリア達も一緒に食べよう。」

 

「…ククルがそう言うなら。」

 

 彼女は落ち着いた素振りをしながらも、嬉しさを隠し切れないというように頬を緩ませながら仕事へと戻って行った。

 

 今はお昼を少し過ぎた辺りだ。

 叔父の書斎へと向かうべく2階に続く階段を上る。

 木製の階段は昔と変わらず、踏む度にギシギシと軋んだ。

 子供の頃はベッドの中でその音を聞くと怖くなり、よくセシリアを誘って一緒に寝ていたっけ。

 

 上りきった先を左に折れて真っ直ぐのところに書斎がある。扉を開けると、部屋を一周するほどの本棚が中を埋めている。

 化学や医療からはたまた童話までジャンルは様々だ。

 

 叔父は化学者であり、医者であり、童話作家でもある。

 童話については趣味で書いていたものの、子供達に人気があり、僕も好きで読んでいた。

 

 棚のうちのひとつに目が止まる。

 タイトルは"機械仕掛けの英雄王"。

 田舎町に住む平凡な少年がある日、ひょんなことから機械からくりの国の王女に出会い、世界を救う物語。

 

 叔父が僕のために作ってくれた童話。8歳の誕生日に、あの鉄筆と共に渡された。

 手を伸ばしかけて、今はそれどころじゃないと引っ込めた。

 

 部屋の奥にあるデスク。その一番上の引き出しは鍵が掛かっていた。叔父が家を出るときには外れていたようだ。

 

 中には束になったノートが纏めれたもの。叔父の古い日記だ。

 当初は気が引けて中身を読む気がしなかったが、こうなった以上読む他ない。

 むしろこうなることを分かっててわざと鍵を外していった気がする。

 

 意を決してページを捲り流し読みをすると、几帳面な叔父らしく、一日一ページずつ、ピシッとした文字で書かれている。

 

 しかし、後になるにつれて断片的になっていった。それはもう、箇条書きと言っていいレベルで。

 

"姫君に鉄筆スタイラスを戴いた。併せてもらった文献をこれから纏めてみることにする。"

 

"キングはすべての始まりだ。この鉄筆スタイラスをインストールした瞬間から、キングは他16本の鉄筆を得る。"

 

"鉄筆はそれぞれ役割があり、柄先がそれをよく表している。キングを主、それ以外を従者と呼ぶ。"

 

"クイーンは女性のみに、ビショップは男性女性どちらにでも利用できる。

生死は問わないが、生きている場合、本人が自ら鉄筆を受け入れる必要がある。

キングが生存する限り生き続けるが、鉄筆を引き抜くと対象は灰になる。"

 

"ナイトは馬や犬等、ある程度知能のある動物に刺すことができる。ポーンやルークは無機物にも使用できる。"

 

"キングはクイーン以外のスタイラスを自身にインストール可能。"

 

"キングは多くのそれらと同じように、死を迎えるまで鉄筆は体内に埋め込まれたままとなる。つまり、受け入れた瞬間から人外となるのだ。"

 

 そして日付のみが書かれた空白のページが何枚か続き、次の記述を最後に日記は途切れた。

 

"一度スタイラスを受け入れた者が、元に戻る術があるのか…あの人に聞いてみよう。"

 

 キングのスタイラスは、恐らく僕が持っていたものだ。僕は、人ではなくなった…?

 しばらく放心していたが、コンコン、とノックする音が聞こえ、我に返った。

 

「…ククル、大丈夫?」

 

 扉の向こうからセシリアの声が響く。時計を見ると既に20時を過ぎていた。

 慌てて日記を直して鍵を掛ける。

 

「あ、うん、大丈夫。」

 

「…入るね。」

 

 声が震えていたのだろう、セシリアが心配して入ってきた。

 

「っ!?…顔色がひどいよ?」

 

 そっと頬に触れる彼女の手が冷たくて、肩がびくりと震える。

 子供の頃から冷え性のその手を取って優しく握り、無理矢理に笑顔を作った。

 

「そういえばもう夕食の時間だね。すぐに行くから。」

 

「う、うん。わかった。」

 

 目を伏せてそう言い、足早に去っていくセシリア。

 手を握ったり近寄ったりすると、異性に対する耐性がないからか、顔を紅潮させるのも昔から変わらない。

 かくいう僕も、こんなことができるのはセシリアだけだけど。

 

 それはさておき、日記を読んでから前にも増して胸の違和感が強くなっている。それはまるで、心臓に刃物を直接突きつけられているような…

 不安を残したまま書斎を後にすることとなった。

 

********

 

 その日の夕食は、傭兵になってからのものとは比べようがないものだった。

 鴨肉のローストやフォアグラのソテーなど、メインばかりが食卓を彩っている。

 そんな絢爛豪華な食卓にも、頭を巡る疑問に気を取られて素直に楽しめなかった。

 

 本当に人ではなくなったのか。

 もう元には戻れないのか。

 日記の最後の"あの人"って…?

 

 結局夕食を早めに切り上げて風呂を浴び自室に戻ったが、どうにも眠れない。

 薄手のカーディガンを羽織って裏庭に出た。外はまだ肌寒い。

 庭先にあるベンチに腰掛けてぼうっとしていると、隣に誰かが座る気配がした。セシリアだ。

 

「眠れないの?」

 

「うん。ちょっと考え事しててね。」

 

「…昔みたいに一緒に寝る?」

 

 セシリアの悪戯っぽい表情が横から覗く。

 

「あれは昔の話だろ?もう大人だし。」

 

「…私は平気だけど。」

 

「すぐ赤くなるのに?」

 

 そう指摘すると何も言えなくなって、彼女は黙りこくった。

 少し強くなった風が肌を撫でる。セシリアが両手を組むのを見て、カーディガンを差し出した。

 それを素直に受け取る彼女を見て、少し聞きたくなった。

 

「僕がもし…」

 

「うん?」

 

「もし、人間じゃなくなったら、どうする?」

 

「…どういうこと?」

 

「人格はそのままなんだ。ただ、魔族とかそんなんじゃなくて、今までに知られてない存在になるってこと。」

 

 彼女は怪訝な顔で首を傾げた。それもそうだろう、突拍子もない話だ。

 彼女はしばらく考えてからゆっくりと答えた。

 

「どうもしない。だって、ククルはククルだもの。私にとって、それ以外はあまり重要じゃない。」

 

「…そっか。」

 

 今はまだ打ち明けられない。でも少なくとも一人は理解者がいることに安堵を覚えた。

 小さくありがとうと心の中で呟いた。

 

「じゃあ寝ようかな。セシリアも寝なよ。」

 

「…うん。明日はどうするの?」

 

「う~ん。もうちょっと調べものしながら、のんびりしようかな?」

 

「じゃあ明日、サーカスを見に行かない?」

 

 彼女の突然の誘い。

 どうやら街にサーカス団が巡業に来るらしい。

 

「へぇ、サーカスか。小さいとき以来だね。」

 

「うん、だから見に行きたい。」

 

 目をキラキラさせながらセシリアが見つめてくる。彼女はこういった見せ物が大好きなのだ。

 ずっと部屋に閉じ籠るのもなんだし、気晴らしにはいいだろうと誘いに乗ることにした。

 

「そうだね。一緒に行こうか。」

 

「明日の夕方からだから。…おやすみなさい。」

 

「うん、おやすみ。」

 

 彼女と話して少し胸がスッとした。お礼に何か奢ろうかな、なんて考えながら部屋に戻った。

 今日はよく眠れそうだ。

 

********

 

 翌日、成果の上がらない調べものにうんざりしてふて寝をした後、待ち合わせの場所へと向かった。

 同じ家にいるんだから一緒に出ればいいと言ったけど、セシリアがこれは気分の問題だからと言い張りそうなった。

 夕闇の色に空が染まり、それに併せてぽつぽつと等間隔に配置された精霊灯が灯り始める。

 

 街の特産でもある精霊灯は叔父の発明品だ。

 その呼び名は原材料に精霊の使いと信じられているユニコーンの角を使っていることに由来する。

 灯りは丸型の容器なっていて、中には角を粉状にしたものを亜鉛と一緒に水に溶かした液体が入っている。

 表面にはスイッチがあり、これを切り替えると2本の特殊な棒のどちらかが液体に触れ、それによって光が点いたり消えたりする。

 

 表通り立っている偉人を象った銅像でセシリアが待っていた。最近人気の待ち合わせスポットらしい。

 

「…ククル、こっち。」

 

「ご、ごめん。待った?」

 

「今来たところ。」

 

 15分前には着くように出たつもりだけど、彼女はそれ以上に早かった。

 セシリアは怒った様子もなく、ウキウキとしているのが表情から見てとれた。

 今日のためにか髪を団子状にクルクルと頭上に巻き上げていて、綺麗なうなじが見えた。

 ぐぅ、とお腹が鳴る。

 

「出店をまわる?」

 

「う、うん、そうしよっか。」

 

 くすりと笑って歩き出す彼女に手を引かれて人だかりの中へと入っていく。

 メインストリートには、サーカスの賑わいにあやかろうとする出店が所狭しと並んでいる。

 牛肉バーガーや鳥串でお腹を満たしながら街を歩いていると、どん、と肩に何かが当たった。

 

「きゃっ!」

 

「あっ!」

 

 声のした方向には少女が尻餅をついていた。間から白い下着が覗く。なるべく見ないようにしながら、彼女に手を差し出した。

 

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?立てますか?」

 

「大丈夫ですよ?こちらこそすみません、前を見ていなくて。」

 

「い、いえ!僕の方こそ!」

 

「ふふっ。じゃあお互い様ですね。」

 

 彼女はにっこりと笑った。とても不思議な雰囲気を纏う少女。

 漆黒の髪は腰の上まで伸びて、根元から先端まで艶やかだ。女性が見たら一体どうやって手入れしているのか聞かれるに違いない。

 瞳も髪と同じく黒だが、光の加減では紫にも見える。

 鼻筋の通った美人顔だけど、ここらでは見かけない容姿だ。

 

「ははは…あなたもサーカスを見に?」

 

「いえ、私は出演する方ですよ。舞踏やアクロバットの演目で。」

 

「そ、そうなんですか!すごいですねっ!」

 

「ふふっすごくないと誰も見に来てくれませんからね。でも本当にすごいかは…あなたの目で確かめに来て下さいな。私はホタルビです。」

 

「あっ、僕はククルです。」

 

「すてきな名前。では会場でお待ちしてますね。」

 

 彼女は手をひらひらさせて人混みの中へ戻っていった。

 ホタルビさん。名前からして東の国の人だろう。

 服も確かコソデとハカマとかいうやつだ。とても女性的で可憐な服だな、なんて思っていると。

 

「…終わった?」

 

「うえっ!?あっう、うん」

 

 すっと隣に進み出たるは無表情のセシリアだ。彼女が無表情の時は大抵怒っているときだ。

 

「ど、どうしたの?なんか怒ってる…?」

 

「…ああいう華奢なのがタイプなの?」

 

「いや、タイプとかそういう問題じゃないっていうか…」

 

「あの子はきっと人を惑わす系女子だよ?ククルみたいに恋愛初心者は遊ばれて終わりだよ?」

 

「えぇ…」

 

「ククルには、もっと気心の知れた…何でもない。さぁ、行こう?」

 

 顔をずいと近付けて心配そうにしながらも、平気で毒を吐いてくるのはどうかと思うんだけれども。

 後半はあまり聞こえなかったけど、紅潮した頬が緩んでいるのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。

 

********

 

 サーカス・ショーの幕が上がった。

 ピエロ達や象が芸を披露する中、意外と早くホタルビさんが登場した。

 演目はアクロバットだが、彼女が主役ではないようだ。

 踊り子の格好をした数人の女性が宙高く張られた綱の上、有り得ない程に体を曲げて踊り、跳ね、回転する。

 

「すごいね。」

 

「体柔らかくないと出来ないよね。」

 

 僕とセシリアは興奮しながら言い合っていた。

 

 演目は進み、大トリを飾るのはホタルビさん。

 袴姿の彼女が目を閉じて中央で膝を折り、その周りには大小7本の曲剣。いや、あれは太刀か。

 

 しん、と場が静まりかえる。

 突如彼女の目が開かれ、次の瞬間には一本の太刀が振り抜かれていた。

 いつの間に、と皆がそう思ったに違いない。それほどに一瞬だった。

 振り抜かれた刀身は炎を宿したようにオーラを纏っている。それを2回,3回と振り淡い残像を残す。

 やがて刀身を鞘に収めたかと思うと、たちまちに青い柄の太刀を振り抜いていた。

 今度は刀身から水が滴っている。濡らしているわけでもない、まるで太刀自身から溢れているように。

 用意されたのは植木鉢に入った一本の生木。全長50cmほどの幼い木は生き生きとしている。

 ホタルビさんは太刀を一閃、木は瞬く間に――真っ二つにはならなかった。確かに刃は通したはずなのに。

 そんな不思議な現象を7つ、太刀の数だけ見せた後、彼女は拍手喝采を浴びながら退場していった。

 一瞬僕を見て微笑んだような気がして―

 

「気のせいだよ。」

 

 即座に否定するセシリア。

 顔が熱くなる。わかってるさ、もちろん。

 

 公演が終わった後も人集りは途絶えず、大通りは相変わらずの賑やかさだ。

 僕らは大通りを外れた、少し入り組んだ道を通って帰宅していた。

 

「セシリア、明日ヴェイグランドに帰るよ」

 

「…そう。もうちょっとゆっくりしていってもいいのに。」

 

 寂しそうにセシリアは言う。

 僕もそうしたいけど、いつまでもこうしている訳にもいかない。

 ここえ調べられることももうないし、いくつか得られた手掛かりを公国で調べられるかもしれない。

 

「また近いうちに戻ってくるよ。」

 

「…うん。私も、そっちに行っていい?」

 

「うん、もちろん!案内するよ。ていうか一緒に住んでくれたら助かるんだけどなぁ。」

 

「その時は頼りにしてるね。」

 

 僕の冗談で顔が林檎のように紅くなる彼女を見てけらけらと笑った。

 セシリアが来るときまでには、少しでも誇れる自分になっておこう。

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