−奏貴・視点−
どうやら厄介な事になっているらしいと、よく仕事をくれる編集部のデスクから仕事の依頼が届いた。
『神隠し、って知っている?』
電話先の向こうで奇っ怪な事を聞き出した編集部のデスク。俺には、彼女の言い分がさっぱり分からなかった。
「……つまり、何か神隠しの事件を取材してくれと言うワケですか。……全く……、俺はオカルトマニアじゃないんですよ」
確かにフリーライターと言う立場に加え、仮面ライダーとしてアポカリプスの起こす事件と向かい合ってくれば、オカルトライターの名前を欲しいままにしかねない。
現状はアポカリプスを公表する訳にはいかないので都市伝説やら、心霊やら、と置き換えて纏めることもある。それを一冊に纏めた本も出した事がある。
何やかんや言っても、生きる糧は必要なんだ。
『あはは、それは分かってるけど……奏貴君じゃないと、うちもやりにくいんだよね。だから、今回もお願い!色々と弾むから!』
「………分かりましたよ。アサンブラーシュで落ち合いましょうか……」
やはり、アポカリプスの件もある上、無闇には断れない。俺はとりあえず、アサンブラーシュで彼女と落ち合うことにしたのだ。
『助かるわ、ありがとう。それじゃ、アサンブラーシュで』
やれやれ、また首を突っ込む事になったか……。兎にも角にも、疑わしくは調べろだな。
ぶらりんとぶら下がったネクタイを手に取り、いつものように首に巻く。スイッチを入れる儀式みたいなもの、これで俺は仕事に入る。
さあ、行くとしようか。
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「人間と共謀し、進化するピース……。その始めの例が行動を開始したか……」
教団バベルにおけるアポカリプスピースの管理人とも言えるヨハネは握り締めた端末に目を通し、人々行き交う交差点を見下ろしていた。
「しかし、フレイムやカマイタチのように派手な行動を起こしていない分、大分気づかれてはいないようだが」
仮にも教団は隠密に、全てをコントロールしなければならない。今回のピースには合格点が与えられそうとばかりに微笑んだ。
「では、引き続き活動を……『ハイド・アポカリプス』。そして、もう一つ……出来る事ならば、ね」
ピースの成長を固唾を呑んで見守りながら、ヨハネはある企みを抱いていた。
果たして、ヨハネの企みとは何か?
それはまだ分からない……。
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喫茶・アサンブラーシュ。
「…………遅い…………」
奏貴は一番外れの席で、出されたコーヒーには手を着けず、ずっと待ちぼうけていた。
「奏貴、今日は打ち合わせかい?」
「……マスター、仕事しとけよ……」
また冷やかしに来たであろう春臣に向かって、毒を吐きながら仕方ないと言わんばかりにため息をついてみた奏貴。
「いや、俺が厄介だ!みたいな空気、出したらダメでしょ?俺、きちんと盗み聞こうなんてこれっっっぽっちも思ってるから」
大袈裟に手を広げて、アピールする春臣はかなりウザい。
「………マスター、グラスでも磨けッ!」
あまりのしつこさに若干プツンと来たのか、無理くりに春臣をカウンターの向こう側に押し込みにかかる奏貴。
「ッ!そんなんで俺は動かないよ!」
春臣は奏貴に押し返されんとばかりに力押しで挑む。端から見れば、ただの鬱陶しいやりとりにしか過ぎないのは、黙っておこう。
「仕事の邪魔、しないで下さい!」
「話を聞かせてよッ!」
そんなこんなで争いをしていると、人の気配を春臣が察知した。
「おっ?いらっしゃい」
「またやってるの、奏貴君、春さん」
呆れた様子で2人のケンカを見ていたのは、亜麻色の長い髪を肩まで伸ばし、手には大量の資料を抱えたいかにもな『ビジネススーツ』を着た美人な人であった。
「……縁さん、遅かったですね……」
奏貴は彼女の姿を見るや、春臣をほっぽりだして、元の席に戻った。
「資料を集めるのに手間取ってね、ごめんなさい」
彼女が奏貴に仕事を持ち込む事が多い編集部の担当者、志野縁(シノユカリ)である。
「じゃあ、お邪魔しますね」
縁は奏貴が座った席の反対側に腰掛けると、今回の取材の詳しい内容を述べ始めた。
「奏貴君、これを見てもらえる?」
縁から出された書類に一通り目を通す奏貴。
「……神隠し、いつから起きてます?」
奏貴は気になった事件のあらましの説明を縁に求めた。
「こんな感じかな……」
縁はそれを待っていたと言わんばかりに説明を始めた。
「神隠しと噂され始めた失踪が起きたのは、1ヶ月前ぐらいからかな。性別は無関係に、高校生から大学生が7人行方不明になっているの。ただ、共通点は何も見当たらないと思われていたけど明らかになった共通点があったのよ。行方不明になった子達、全員が『歌』に関わる部活や、活動を行っていたと言う事がね」
「…………歌…………」
縁の口から歌と言う言葉が出たその時、奏貴の頭に記憶がフラッシュバックした。
-奏貴、帰って来たらまた会ってくれる?-
-勿論だよ、クリス-
「………奏貴君?」
「……すいません、少しボッーとしてました……」
縁の話を聞き、奏貴の気持ちは固まった。
「分かりましたよ、その取材、引き受けます」
「ゴメンね、よろしく……」
縁は奏貴に笑って、言った。
奏貴は縁から預けられた基本的な書類を手にすると、強く、強く、頷いた--。
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季節感を全く感じさせない赤いレザーを着た男、高薙光溜は東京の地に降り立っていた。
「東京も過ごしやすいと言えば嘘ではないか……」
光溜は一番始めに何をすべきかを考えつつも、腹ごしらえとばかりに近くのハンバーガーチェーン店に入っていた。
チーズバーガーを片手に、ロードの支局に向かう前の調査の内容を確認する。
「………まずは、リディアン音楽院の下見でもしておくか……」
光溜が目指すのは、私立リディアン音楽院。
「奏者と接触出来ればいいが……正義のな……」
どことなくトゲのある言い方をする光溜。
そんな彼の耳に、近くを通った白いタキシードの男の呟きが聞こえた。
「アポカリプスが人を攫う、これ今、起きる事だ……。君はどうする、ロンドンの仮面ライダー?」
「ッ!?」
光溜は有り得ないとばかりに立ち上がる。
自分がロンドンから来た事、仮面ライダーである事、そして、アポカリプスの事を知っているかのように呟いていた白いタキシードの男の姿を捉えるためだ。
だが、既に男の姿は無かった。
「………フン………」
釈然としない感情を抱きながら、光溜は行動を起こす。
あの男が言っていた事が本当なら、ただではいられないからだ。
光溜は予定を変更し、神隠しに挑むことにした。
2人の仮面ライダーが別々に動き出した--。