とある宝石店からある企業の社長が部下を引き連れ、出て来た。
「社長!これで社長の株もだだ上がりですよ。宝石に、外車、豪邸!まさに稀代の大金持ち!」
立派なヒゲを蓄えた社長を、メガネをかけた真面目そうな秘書が煽てていた。
「そうだろう、そうだろう!よし、次は絵画でも買ってしまおうか!フアッハハハハハッ!」
見事に猿もおだてりゃ木に登る、ならぬ、社長もおだてりゃ金を使うと言わんばかりに馬鹿笑いする、ヒゲ社長。
「そうですね!次はギャラリーにでも行きましょう!」
秘書の巧みな言葉に上機嫌の社長は胸を張り、外車に乗り込もうとする。
その時だった。社長と秘書の頭に、不快な音が流れる。
耳鳴りのような、だが、心を底から掻き乱すような、そんな音。
「ううっ、なんだ。この音は!?」
「わ、分かりません!頭がああああああっ!?」
もがく2人の前に、不可思議な発光が現れる。鈍い、緑の、パズルのピースの形をした−−。
『人間の物欲は面白い。その欲望、戴くとしましょうか?』
パズルのピースがコアとなり、組み上がっていく。
やはりこの欲望を狙って現れたアポカリプスだ。
組み上がったその姿は、シルクハットを基調にモノクル、白と赤のツインカラーのスーツをモチーフにした鎧を纏っていた。
一言で言えば、機械仕掛けの怪盗とでも言うべきか。
『お目にかかれて光栄。我が名はシーフ・アポカリプス。稀代の大怪盗であります』
わざわざ名乗ったシーフ・アポカリプスは軽くお辞儀をして、2人に迫る。
「く、来るなあああああああっ!!!」
「し、社長おおおおおおおっ!!!」
怯え、尻餅をついた2人の頭にシーフ・アポカリプスの手が翳される。
『戴くとしましょうか、その欲望を』
そして、シーフ・アポカリプスの手の平が発光した−−。
「…………し、社長…………」
「…………そうだな…………」
欲望だけを吸収した事に満足したのか、シーフ・アポカリプスは身体をバラバラにし、再び消えた。
残された2人は虚ろな目で自分達の買った宝石に、乗っていた外車を見つめた。
「こんなモノ入らないぞ!!!アッハハハハハハハッ!!!」
「ですよね、社長!この車もスクラップにしちゃいましょう!」
すると、社長は自分の買った宝石をばらまき出し、秘書は近くにあった廃材で自分達の外車を叩き始めた。
「くれてやる!くれてやる!ほら、お金も、くれてやる!」
「こんなモノ!こんなモノ!いらない!」
2人の奇行の前に沢山の人集りが出来たと同時にばらまかれたモノを見て、観衆が目の色を変えた。
−いらないなら、貰ってこうぜ!−
−お金!お金!お金だああああああっ−
バラまく人間、モノを壊す人間、そして、群がる人間。
その通りが阿鼻叫喚の地獄絵図になったのは、言うまでもなかった−−。
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「………まさかの奇行、大パニック………」
翌日、喫茶店アサンブラーシュでは、今回起きた大パニックの内容を悪戦苦闘しながら記事にしている奏貴の姿があった。
珍しくネクタイは締めず、仕事の終わりが近づいている事を示していた。
「お、調子いいじゃない。かなり纏めやすかったんじゃないかな、なんて思ったりなんかしちゃって、ね」
「………また、邪魔します?」
ヘラヘラしながら、新聞を読む春臣には目を合わせず、奏貴は最後の『。』をタッチした。
「………よし、終わった………。後は、縁さんに送るだけだ」
見事数時間で書き上げた奏貴は一仕事終えたとばかり、ひと息つくと、すっかり冷めたコーヒーを口に含んだ。
「それにしても、人間って怖いよな。物欲って、歯止めが利かない時、あるでしょ?それが逆になるなんて、珍しいよなあ」
「………話がまとまってませんよね………。まあ、言いたいことは分からなくも無いですが……」
完全に話の組み立てが出来ていないが、春臣の言いたい事は何となく分かる奏貴は頷いてみせると、改めて文を読み返して見た。
「………買い物をしたばかりの人間が、買ったものをバラまくなんて無いですよね……」
確かにそうだ。そんな事が好きな奴は成金か、頭が狂っているかのどっちかだ。どう考えても、理解に苦しむのだ。
「確か、同じようなケースが2、3件あるんだっけ?世も末だね……」
春臣の言葉の通り、同じようなケースが起きていた。
いずれも金持ちが突如として狂ったように財産をバラまくと言う不可思議な状況である。
(………確かにただの偶然や、気まぐれだとしてもここまで続くのは可笑しい……。やはり、何かあったのか?)
奏貴はコーヒーを見つめながら、深く考える。黒の海は彼に囁く。
「………調べてみるか………」
奏貴はこの奇怪な気まぐれの裏に何かを感じたのか、フリーライターの立場を上手く使い、調べてみる事を決めた。
「なあ、奏貴。俺もお金欲しいなあ」
「マスターは少し黙って下さい」
相変わらず調子を狂わせる春臣の合いの手につっこみ返してしまう奏貴であった。
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場末のバーで、マジシャンこと神城航はオシャレなカクテルを片手につまみを摘んでいた。
「………………………」
いつもの調子ではなく、彼は静かに呑んでいた。
ふと、ある事を思い出した航はかつての記憶を肴にする。
-僕はレセプター・チルドレンじゃないけど、君達の痛みは知っている!-
研究者の父親が、航にはいた。
航は、レセプター・チルドレンと言う少年、少女達が苦しむ姿を見てきた。
そんな時、彼は見てしまった。
あの日、暴走した怪物とシンフォギアを纏った少女が、唄って、命をかけて、みんなを守った事を。
彼女が、死んでしまった事を。
その時、彼女の姉と契りをした。
「約束だ……。僕はみんなを救える力を手に入れる!必ず!だから、希望を持って!」
「………約束………してね」
そして、航は手にした。
地球の記憶を詰め込んだ不思議なアイテムを。
「………………………」
航が覗くグラスの向こうは屈折光でゆがんで見えた--。
「………後悔なんてするはずないじゃないか。なあ、マリア……」
そして、グラスの向こうを見つめた航は、しんみりした調子でカクテルを口にする。
「………うえ………薄い……」
時間が経ちすぎていたのだろうか、カクテルの味は薄くなっていた。