シーフ・アポカリプスを倒して数日後の話だ。
なんとも言えぬモヤモヤを抱いたまま、奏貴は空を見上げていた。
「シャトルが飛んでいく……」彼の目線の先には空へ打ち上がっていくシャトルが軌道を描いていた。
「あれが月に向かった時、何を持ってくるのか?」
昨日、縁の話していた事を奏貴は思い出す。
ーねえ、奏貴君。取材じゃないんだけど、見てきてもらえない?ー
ー何をですか?ー
ー今ね、極秘にはなっているらしいんだけど、ちょちょっと調べてきたのよ。フロンティア事変の形見を国連で取りに行こうってなってるらしくて、そのシャトルが打ち上げになるらしいのー
今思い出せば、縁のその情報能力は何処から来るのか、謎ではあるが、確かに言った通りになっていた。
「………教団が何か仕組んでいないか……気になるな」
そんな事は杞憂でいて欲しい。恐らく任務を遂行して来るであろう、隠れた英雄に敬意を払う奏貴。
「本当にその杞憂が晴れるかな?」
そんな背を見せ、空に想いを馳せる奏貴に何者かが声をかけた。
「ッ!?」勢いよく振り返り、その声の主を探すと、その人物はいつの間にか奏貴の後ろに陣取っていた。
「この前と同じ人……」奏貴はすぐにその人物の特徴を見て、確信を得る。
白いタキシードに、自信満々の笑みを称えたその人物。シーフ・アポカリプスを一番始めに見つける前に姿を見せた怪しい男。
すなわち、神城航その人であった。
「……………………………」
奏貴は警戒しているのか、はたまた何かを感じたのか、再度現れた航に対し、じっと見つめている。
「おや、前みたいに邪険に扱わないんだね。僕も嬉しいよ」
「……………………………」
「早く何かを言えってかい?いや、参った」
その底を見せないキャラクターの徹底ぶりを見せる航。だが、奏貴も彼らしくクールを貫き、沈黙を保つ。
この沈黙に意味があるのか、いや、意味があるからこそ沈黙を保っているのだ。
「君は一体何を知っている?その仮面の下に隠した秘密は何だ?」
ついに言葉を紡いだ奏貴は真っ直ぐ航を見ていた。それは彼の心の奥底を見ているかのように、しっかりと見開かれていた。
「……冴刃奏貴、君が仮面ライダーファルべなのは勿論知っている。それを踏まえた上で、話してあげよう」
なんやかんや言いながらも、ようやく奏貴に急かされたかのような状態になり、航は話し始めた。
「想いを束ね、歌として奏でる神なるギアと、仮面に素顔を隠し、戦うヒーロー。この2つはいずれ、いや、近いうちに出会う。手を繋ぎ、想いを繋ぎ、そこに道はある。だから、君は向かい会う、過去と、今と……」
意味深な言葉を並べる航に対し、奏貴はただ下を向いていた。
「分かっているさ、そんな事……このベルトを手にした時から考えていた。それよりも、君に問いたい」
奏貴はキッと前を向くと、自分の予感をぶちまける。それだけではない、航を返す刀で問い詰めようとしている。この緊張は加速度的に最高潮に達しようとしていた。
「君は何故、そこまで知っている?俺がようやくたどり着いたシンフォギアだって、前々から知っていた口振りで話すが……本当にどこまで知っているんだ?」
神城航と言う人間が何処まで知っていて、何を隠すのか?回りくどく聞くよりも、ストレートに勝負をかけた方が賢いと踏んだのか、奏貴の口はいつもより回る。
「何処まで知っていて、何を隠すのか、か……。そこまで踏み込む勇気嫌いじゃないな。だが、教えられるハズもないだろう?気を付けよ、天からの届け物が無くならないようにな!」
勿論、答えるはずもない航はシャトルが飛んでいった方を指差すと、素早くタキシードの上着を脱ぎ捨て、目眩ましと共に消え去った。
「………飛ぶ鳥、謎を残すか……」
その場に残された奏貴はこれから待ち受けるであろう事件を予期するかのように空を見上げ、航の言葉を噛み締めていた。ただ、分かるのは自分が向かい合う事だけだった。
(そう言えば名前を聞きそびれたな……。いや、そんな事は些細な問題か……。すぐにアイツとは会うことになるだろうな)
奏貴の予感は当たることになるが、それはまた違う話である。
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『……まだですよ、まだ……』
同時刻の闇に染まる洋館の中、不自然に発光する何かが機会を伺っていた。
「そうだ、お前はまだやらねばならぬ事がある、シーフ」
発光するモノに声をかけたのは、赤いコートを再び白装束に隠した教団幹部、ヨハネであった。
『ええ、申し訳ありませんでした……ヨハネ。仮面ライダーの注意を完全に反らしきる事が叶いませんでした』
ピース状態のまま、謝るアポカリプス。ファルべが倒したはずのシーフの意識を内包したピースはまだ生きていたのだ。
「いや、構わない。お前が種を撒いていたからこそ、我々の手順が上手くいったのだ。気にすることはない」
ヨハネはシーフの働きを十二分に称賛すると、手に隠した新たなピースを見せる。
「さあ、新たなコアだ。復活の時はすぐだ」
『ありがたく移させてもらいますよ……』
シーフのピースはブランクのピースと組合わさると、緑に発光する。
「あら、もう準備を始めたの?もう少しピースのままでいさせればいいのに……」
ヨハネの行動にけちをつけるかのように、階段に座っていたディーヴァが口を挟んでいた。
「黙っておけ、ディーヴァ」
「お冠かしら?カシラにくるようじゃ幹部の名が泣くわぁ」
「………………………………」
ディーヴァの煽りは聞きあきたとばかりにヨハネは手をヒラヒラ振り、椅子に腰かけた。
「話を聞かないなら、パラボナを教育しなきゃね」
ディーヴァはもはや慣れた、飽きたと言わんばかりに頬杖をついたまま、呟いた。
彼女が名前を呼んだ瞬間、館の電子機器は狂い始めたーー。