翌日、奏貴は再びアサンブラーシュに姿を見せていた。
いつもの青いベストに赤いネクタイ、今回はその上に真黒なジャケットを羽織り、よそ行きのかっこをしっかりとしていた。
「……時間がかかるな……」
奏貴が待っていたのは、昨日の依頼の通り風鳴翼……と言うわけでなく、あくまで調整と言うことで彼女のマネージャーと待ち合わせしていたのだ。
思わず、マネージャーと言う相手が出てくるのは踏んではいたが、トップアイドルのマネージャーがどれほどの人物であるのか、不安でもあった。
「ありゃ、珍しいじゃないの。カッチカチだよなあ」
「……ええ、真面目ですから」
「にしても仕事復帰早くない?」カウンター越しにそわそわしている春臣の話を半分で聞きながら、奏貴はネクタイに手を当てた。
「……これでいいな……」ネクタイを若干緩めた奏貴は、時計を見上げた。
時間は約束の時間の十分前をさしていた。奏貴が入り口の方に目を向けると、眼鏡をかけた茶色の髪をしたいかにもな男性が入ってくるのを見た。
「もしかして……」
奏貴は確信し、その人物に目線を送る。
どうやらこの視線に気づいたのか、眼鏡の男性が奏貴の座る奥のテーブルにやってきた。
「冴刃奏貴さん、ですね?」
もはや分かる事であるが、風鳴翼のマネージャーとは彼のことであった。
奏貴はゆっくり立ち上がると、マネージャーに頭を下げた。
「ええ、初めまして……。今回のインタビューを担当しますフリーライターの冴刃奏貴と申します」
名刺を出しながら、マネージャーに丁寧な挨拶を見せる奏貴。まさに猫かぶりはバッチリだ、と言えるだろう。
「ありがとうございます」
マネージャーも奏貴の名刺を受け取ると、自分の名刺を渡す。
名刺は実にシンプルなもので、中心にはしっかりと名前が書かれていた。
『緒川慎次』と。
「緒川さんですね、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、お忙しい中、時間を作ってくださってありがとうございます」
これからビジネスが始まるのを象徴する真面目なやりとりが始まる。
奏貴は緒川マネージャーに挨拶すると、改めてジェスチャーをする。
「どうぞ、お座りください。何か飲まれますか?」
「では、紅茶をお願いします」
奏貴と緒川マネージャーは形式的なやり取りの後、仕事の話に入っていく。
「改めてなのですが、今回は風鳴翼さんが通っていられる私立リディアン音楽院を卒業したのちに、ロンドンに渡ると発表されまして、その事に関する意気込みや、歌に対する想いなどをくるめてお聞きしたいと考えております。その旨は宜しいでしょうか?」
奏貴の始めの一投目で手帳を互いに開き、まさに打ち合わせと言うような雰囲気が形作られる。
「ええ、構いません。冴刃さんは翼さんと歳も近いですし、新たな一面を掘り下げて頂けたら幸いです」
「そこまで言っていただけると幸いですよ、緒川さんの依頼に答えられるように精一杯やってみますので宜しくお願いします」
互いにやりやすいのかすいすいと話は進み、僅か二十分足らずで打ち合わせは終わってしまった。こうも早く終わると、話題は奏貴に移っていた。
「冴刃さんはかなり若くて、フリーライターで仕事をしているんですか?色々と大変でしょう?」
「ええ。高校には行かず、こうやってこの仕事に就きましたけど、結構色々と言われますね。ですが、全力でぶつかっていけば意外に理解してくれる人もいるんです」
「分かりますよ、そういうの」
あっという間に打ち解けた奏貴と緒川マネージャー。取材もバッチリと行きそうだ。
「……あ、もう時間ですね。申し訳ありませんが、私はこれで」
緒川マネージャーが時計を見ると、もう一時間近く経っており、押しているようだった。
「ええ、ありがとうございました」
奏貴は立ち上がると、緒川マネージャーを見送る。
だが、奏貴は緒川マネージャーの雰囲気にある違和感を感じていた。
(……この人、何者だ?明らかに仮面を被っている。やはり、風鳴翼のマネージャーか……)
奏貴が感じていたのは、柔らかい物腰と言う本当の性格の中にある陰に近い何かであった。緒川慎次の背中を見送りながら、奏貴は腕を組んだままであった。
一方、緒川マネージャーも奏貴に対して、同じ印象を抱いていた。
(……冴刃奏貴、ただ者ではない……か……)
互いに予想が当たっている事を知るのは近いうちの事だ。
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『これで、仕込みは完了でやんすね……』
一方、パラボナ・アポカリプスはとある研究所に侵入していた。
宇宙開発センター。ここには様々なデータや、開発に関する研究が行われている。
そんな研究所に堂々と侵入し、計画を推し進めるパラボナ・アポカリプス。
奴が見るモニターには数日前に月に向かったシャトルの設計図が映っていた。
「……本当に、手柄を手に出来るのかね?」
そのパラボナ・アポカリプスの後ろで心配そうに見つめる白衣姿の男。
『心配無用でやんすよ、カイケル博士。どうにもなるやんす』
パラボナ・アポカリプスの協力者、カイケル博士はシャトルで手柄をたてようとしていた。
「分かった、任せる……」
『任されたでやんすよ』
パラボナ・アポカリプスの進める教団の目的は徐々に進んでいた。
だが、画面を見ていたカイケル博士の顔色が変わる。
「し、侵入者!?」
ゲートを映す監視モニターに映る謎の男。
『か、嗅ぎ付けてきやしたか!カイケル博士、裏口から逃げるでやんすよ!』
赤いジャケットを着たその男、即ち……。
「わ、分かった!」
カイケル博士を失う訳にはいかないパラボナ・アポカリプスは、彼を逃がし、その男を迎え撃つ。
「パラボナ野郎!お前の反応を捕まえたぜ、さあ、覚悟しやがれ!」
ガアン!指令室に堂々と突っ込んできたのは、やはり高凪光溜であった。
『待ってないでやんすよ!お前!』
パラボナ・アポカリプスがガンを飛ばし、光溜を牽制すると一気にコードの鞭を振りかざし、襲い掛かるのだった。