アサンブラーシュの人目につきにくい奥の席は緊張に包まれていた。
「風鳴翼さん、改めてフリーライターの冴刃奏貴です」
「風鳴翼です、冴刃さんよろしくお願いします」
凛とした空気を纏う翼の挙動のひとつひとつが眩しく見える。彼女を大和撫子と言うのは間違ってはいないだろう。
「……………………………ッ。翼さん、早速なんですが、ロンドンに進出して世界を舞台に歌うと発表されましたが、その想いをお聞かせください」
奏貴も珍しく翼の美しい姿に言葉をつまらせたが、すぐにハッと引き戻され、質問を始める。
「私も始め、オファーを受けた時は多少の迷いはありました。ですが、昔からの世界で歌うと言う夢が背中を押してくれました。私のこの歌が静寂(しじま)の世界に反響し、人々に届いてくれれば幸せです」
ところどころに防人の片鱗が見えている気もするが、どうと言うことはない。
翼の真っ直ぐな想いはメモを取る奏貴にも響く。
(……自分の歌を世界に……か……。写真で一目見た時は気難しいかなと思ったけど、目が生き生きと輝いている。夢を見るその目はやはり凄いな……)
奏貴の言葉にも熱がこもる。翼の目に触発されたように、グイッと前のめりになり、集中していく。
「翼さんの夢を追う姿、とても愚直で、美しくて、心から応援したくなりますよ!」
クールさを忘れてしまうほどの食い付きぶりに翼がどうも調子を狂わせる。
「あ、ありがとうございます……。つ、次の質問はありませんか?」
(……あれ、翼さん押されてる?)
翼の様子を見て、じっとインタビューを見ていた緒川の目が輝く。
マネージャーらしく、これはなかな見られないレア物を戦略にどう組み込もうか考えているようだった。
敏腕マネージャーは流石だ。
「では、次に……」
ここから奏貴の押しに翼は百面相を見せる。
「風鳴翼が一番大切にしている歌に対する想いを詳しく!」
「私は聞いてもらいたい、私の歌を。歌で届けられるありったけの伝えられる事を!」
ぐっと語尾を強くして、奏貴に真っ直ぐ答える。
「翼さんは素敵な人ですね。きっとあなたなら想いを形にして、手と手を繋ぐきっかけになりますよ」
「ううっ……」
奏貴の実直さに言葉につまって狼狽えてみたりと、かなり手玉に取られていた。
(ッ。この男……なかなか……。私より下とは意外だ……)
奏貴の姿に翼はなかなかの好感を持っていた。今までインタビューは数多受けたが、こうも気持ちをのせるのが上手いのはなかなかいなかった。
「………あ、もうインタビューは終わりですね……」
「あっという間でした……ね」
あれやこれやと時間が経ち、気付くとインタビューは数時間に及んでいたのだった。
「翼さん、ありがとうございました」
感謝の意を込め、頭を下げた奏貴。
「いえ、こちらこそ……。とても楽しい時間でした」
思わず翼も奏貴に頭を下げるだけでなく、口元を緩ませた。
「……翼さん、夢を語る姿、とても眩しかったです」
まだ言い足りないのか、柔らかい笑みで翼に語りかける奏貴。
「そ、その言葉、軟派ではありませんよね!」
奏貴の言葉が翼を慌てさせた。自然な流れで口にする辺りは口先の上手さが光っている。
「……さて……」
だが、その自ら作った空気を奏貴は打ち破る準備を始めた。
今、彼はもう1つの目的に移ろうとしていた。
「風鳴翼さん、もう1つお聞きしておきたいことがあります」
(空気が変わった……)
翼は奏貴のトーンと纏う空気を読み取り、真剣な眼差しに切り替わる。その目は歌手ではなく、もう1つの顔のものになっていた。
「……ここからは俺の自分だけの聞きたいことになる……」
「……………………………」
口調がインタビューから、真逆の乱雑なモノに変わる。
「冴刃さん、君は一体何者ですか?」
そんな奏貴と翼に割ってはいるように緒川も話に参加していた。
「……今は言えない。翼さん、貴女は……歌女か?青きギアを纏い、戦地を駆ける……」
「どうして、それをッ!?」
奏貴の核心を突いたそのストレートな質問に、思わず翼は驚いてしまう。いや、それだけでなく強い警戒を与えていた。
「……………………………」
奏貴は黙ったまま、翼の答えを受け止めていた。
「……お前は一体何者なんだ?」
翼の力のこもった低い声が響いた。奏貴を警戒対象と見なしたのだ。
そんな状態でも奏貴は静かに応えた。
「……今は言えない……」
緊張間が加速する。この状況は……。
「翼さん!」
緒川によってほだされた。どうやら、緊急事態のようだ。
「……分かりました……。必ず聞かせてもらうから、ね」
翼は致し方無いとばかりに話を切り上げ、奏貴に言葉を残し、急いでアサンブラーシュから出ていった。
「……………………………」
奏貴は複雑そうな表情を浮かべ、翼の背中を見送った。
そして、直ぐに席を立つ。
「マスター、ここに置いていくから……」
お金を置いた奏貴は急ぎ、アサンブラーシュから出ていく。
どうやら、彼にも思うところがあるようだ。
「ツバメ、アポカリプスか?」
奏貴は真上を飛ぶパズルドロイドのツバメドロイドからの反応を受けとる。
すると、奏貴は止めていた愛車に跨がると、ツバメドロイドのあとを追いかけていくのだった。