雲に隠されていた満月が顔を覗かせた。
月光に照らされた町の一角に睨み合う二つの影が 浮かび上がる。二つの異形。
まさに蝙蝠の化身とも言うべき、翼を生やした黒いその姿。風に踊るマントが妖怪の類いだと主張する。
ドラキュラ・アポカリプスに相違はないだろう。
対して、全身のカラーリングは白で、かなりスマートな出で立ち。肩と膝にトランプの4つの模様がばらまいてある。ダブルに近いイメージ。
マスクはマジシャンをイメージした山高帽のようなヘッド。Vのマーク輝く額と黄色の複眼。
ただし、シンプルな立ち姿とは対照的に背中にマジシャンマントと言うローブに近いマントを羽織っており、魔法使いのような姿になっているのが特徴的な『奇術師』。
「……さてと……」
奇術師、いや、白い仮面の魔術師『仮面ライダーマジック』は自分のアイデンティティであるマジシャンマントを見せびらかすように動かした。
『我のエナジーは貴公の度重なる邪魔で溜まっていないッ!』
マジックの態度にカチンときたのか、ドラキュラ・アポカリプスは派手にマジックに向かって飛びかかっていく。
「さて、さて、さて、さあてッ!いざっ!」
芝居じみた口調で、襲いかかるドラキュラ・アポカリプスの攻撃に向かっていくマジック。
白と黒の交錯が始まる。
ドラキュラ・アポカリプスの拳をマジシャンマントをマタドールのようにたなびかせながら、受け流していく。
『ッ!いつもながら……ちょこまかとおっ!』
ドラキュラ・アポカリプスの足技と素早い身のこなしがマジックに迫る。
「悪くないッ!それ故に、故に!」
その一撃、一撃をはらいながら確実に距離を詰めていくマジック。
その戦い方は先の二人の仮面ライダー、ファルべとスコアとは全く違う。
敵の攻撃を利用して戦うカウンターファイターだ。そして、それを指し示すように、ドラキュラの拳を裏手で止めると、そのままぐるんと一回転させたのだ。
『なっ!グッ!?』
力を利用され、地面に背中から叩きつけられたドラキュラ・アポカリプス。
「よっ!」
そして、マジックはさらに反動を生かし、ドラキュラの手を掴み、払い腰の要領で放り投げた。
『グッ!?だが……』
投げられたものの身体を安定させ、重力を無視した動きで着地したドラキュラ・アポカリプス。
「ドラキュラと言うより、忍者だねえ。ま、僕はこれからが華の見せ場ってやつさ!」
パチンと指を鳴らし、何処からともなく現れたトランプの4つの紋章が刻まれた杖『マジッカーワンド』を呼び出したマジック。
『ッ!また手品まがいかっ!』
「手品じゃない、魔法さ!」
今までの交戦で使ってこなかった呼び出されたマジッカーワンドに驚くドラキュラ・アポカリプスを尻目に、華麗なステッキ捌きを魅せたマジック。
彼はマジッカーワンドを口元に近づけると、小さくコールした。
「コール……サンダー!」
《イッツ!サンダーマジック!》
テンションの高い巻き舌のコールと共に、マジッカーワンドから雷光が走った。
放たれた稲妻は踊るように、ドラキュラ・アポカリプスの周りに落ちていく。
『ッ!こんな引き出しも……。もう付き合えんッ!』
マジックの手品の前に、これ以上の戦いは目的を妨げると確信したドラキュラ・アポカリプス。
ドラキュラはマントを翻すと、蝙蝠の大群にバラけた。
「あっ、またかよ……」
マジックはこれが既にドラキュラが身代わりを使い、逃げたと言う証拠であると確認し、小さく舌打ちした。
跡形もなく消え去った蝙蝠の化身がいた場所には落雷の煙が上がっていた。
「……さて……」
マジックは首をぐるりとすると、ベルトから飛び出ている『メモリ』を引き抜いた。
《シーユー・ネクスト・タイムズ》
マジックの身体を作っていた装甲が風に溶けていった。
月光が今夜一番の光を放つ。
その下に立っていたのはーー。
「……………………………」
腰に手をあて、空を見上げる神城航の姿だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
奏貴とシーフの沈黙はドラキュラが逃げた頃、動きを見せていた。
「……やれやれ……」
今まで奏貴の冷たい目線に晒されていたシーフが肩を回し、きびすを返したのだ。
「おいっ!シーフ、逃げるつもりか!」
シーフの行動を退却と睨んだ奏貴は彼の背中に言葉を投げつけた。だが、シーフは何も答えず、首を振った。
「……それは一体、どういう事だ?」
「逃げる?いいえ。私は今日は挨拶だけのつもりだったので。それに……」
シーフは誰かがこちらに向かって来ているのに気づいていた。
それはーー。
「奏貴、遅れたッ!」
奏貴と遅れて合流する手筈だった雪音クリスだった。
「……クリス……」
シーフに記を配りながら、クリスに合図を送ろうとした奏貴。
だが、その隙をシーフは逃がさなかった。
「では、また」
シーフは悠々自適に、消えたのだ。
「しまっ……」
奏貴は苦虫を潰したような顔で、シーフを逃がした事を悔しく思うのだった。