誇り高き孤高の毒蛇   作:ROCKSTAR

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今月のレイド、何とか300位以内に入って文緒3枚確保できました。
やったぜ。


勘違いマイシスター(前編)

 

 

 

 

「そういえば将ちゃんってさ、妹っていんの?」

 

 昼休み。学食を利用したいという二階堂くんを抜きにした4人での昼食中、おにぎりを頬張りながら芹澤くんはそんなことを俺に尋ねた。

 

「えっ? いないけど……そもそも俺、一人っ子だし」

 

「じゃあ、1個下の女の親戚とかは?」

 

「いや、それもいないよ」

 

「そっか……じゃあ、赤の他人ってことだな」

 

「なあ一二三、将ちゃんにそっくりな女子でも見たのか?」

 

 芹澤くんがなぜそんな質問をしてきたのか、その意図を尋ねようとすると、俺が口に出すより先に高桑くんが尋ねた。

 

「……ん? ああ。部活入った1年に、黒川って女子がいてな。黒川って名字はそこまで珍しい名字ってわけじゃないし、ただ名字が同じってだけなら偶然で済ませられる話なんだが、そいつ、結構将ちゃんに似てたんだよな。まあ、将ちゃんに比べると不健康そうって言うか、ダウナーな感じだったけどな。(くま)もあったし」

 

 芹澤くんの回答に、なぜそんな質問をしてきたのか合点がいった。

 ちなみに芹澤くんは軽音楽部に所属しているので、その『黒川さん』なる人物は楽器が弾けるということだろうか。とは言え、ここ最近はある漫画の影響で、全くの素人でも軽音楽部に入部する人間は増えているらしいので、必ずしもそうとは言い切れないのだが。

 しかしそんなことより、俺に似ている、か。顔だけならまだいいが、ろくでもない性格までは似ていないでほしい。今芹澤くんが話すまでは存在自体知らなかった人間に対して、俺はそんな願望を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 図書委員の仕事が今日はないのですぐに帰ってもいいのだが、特に家ですることもなかった俺は、購買の自販機で買った炭酸を持ってある場所へ向かう。

 

 そこは中庭の外れにある、ちょっとした芝生のスペースだった。昼を中庭でとる生徒は多いが、ここは知っている人がほとんどいないのか、昼でも閑散としている。おかげで、ひとりでくつろぐには最適の場所だった。閑散しているとは言っても、汚いわけではなく、芝生も管理が行き届いているのか、綺麗に整っており、土がむき出しになっているということもなかった。そのおかげで、中庭よりも過ごしやすいと思う。

 

「……」

 

 鞄を下ろして芝生に腰掛け、スリープ状態のスマホを再起動させる。インターネットのブラウザを開き、漫画やアニメ関連のニュースサイトを適当に見る。

 数分ほどして、買っていた炭酸飲料の蓋を開けようとした時――――。

 

「あれ、先客がいる。珍しいね」

 

 声がしたのでその方向へ顔をやると、僅かに驚いたような表情をした1年生の女子生徒がそこにはいた。

 

「あれ、それドクペじゃん。先輩も好きなの? ……よっと」

 

 ゆったりながらも妙に馴れ馴れしい口調で話しかけながら、俺の横にどっかりとその1年生は座り込む。そこから間を開けずに手に持っていた炭酸飲料の蓋を開け、一気にあおった。よく見ると、それは彼女が先に口に出したように、俺が持っているものと同じ『ドクペ』という炭酸飲料だった。

 独特な香りと味で、好みの分かれる飲み物ではあるが、俺は結構好きなのでたまに買って飲むことがある。最近はあるゲームにも、明らかにそれをモデルにしたと思われる、似た名前の飲料が登場していたので、その影響で飲む人は……増えるかもしれない。

 

「ぷは~っ。やっぱりドクペは最高だね~。先輩もそう思うでしょ?」

 

 相変わらず馴れ馴れしい態度を崩さず、『ふひひ~』と、到底女がするものとは思えない笑い声をあげながら、その1年生は俺に同意を求める。望月さんも似たような笑い方をすることがあるのだが、彼女の場合はそれよりも危険――悪く言ってしまえば『ラリっている』――な雰囲気が漂っていた。本当にラリっているというわけではもちろんないのだろうが、色々な意味で心配になる印象だった。目の下にある大きな隈も、その印象を強めていた。

 

「……最高かどうかはともかく、嫌いではないですよ。最近は結構飲みますしね」

 

「でしょでしょ~。私の周りの人、みんなまずいって言うもんだからがっかりしてたんだよ。陽歌(はるか)(すみれ)も薄情なんだから~」

 

 きっと彼女の友人の名前なのだろうが、『はるか』や『すみれ』などとさも俺も知っているかのように言われても、俺には何も答えようがない。

 

「…………」

 

 正直、かなり面倒くさい人間と遭遇してしまった気がする。馴れ馴れしい態度がそうだが、その態度が『脳筋』の人間とはまた違ったベクトルの面倒くささだった。『脳筋』の場合は暑苦しさを感じるものがほとんどだったが、彼女の場合はドロドロとした得体の知れないものがまとわりついてくるような感覚だった。

 

「……ふう。そういえば先輩、名前なんていうの?」

 

「…………黒川。黒川将平です」

 

 けらけら笑いながらひとしきり喋った後、彼女は何の前触れもなく俺の名前を聞いてきた。

 あまり関わり合いになりたくなかったので、『何で教えなきゃいけないんですか』と言いたくなったが、喉元まで来たところで抑え込み、素直に教えた。教えておいてこんなことを思うのもなんだが、面倒くさいことになってはほしくない。

 

「……あれっ、私と同じだ。私も黒川だよ、黒川(くろかわ)凪子(なぎこ)

 

「……んっ?」

 

 少し驚いたような様子を見せながら、彼女は自分の名前を言った。その名前に、俺は昼休みの芹澤くんの質問を思い出し、同時に彼女の顔を凝視した。

 

「ど、どうしたのさ。私の顔に何か付いてる?」

 

 ――もしかしてこの人が、芹澤くんが俺の妹だと勘違いした人だろうか。

 

 芹澤くんの質問を思い返してみると、隈のある目、ドクペを飲む前のゆったりしたダウナーな雰囲気はまさにそうだった。顔も酷似しているというほどではないが、確かに俺に似ているような気がする。もっとも、俺は目の下に隈などない。性格もここまで馴れ馴れしくはない。

 

「……いや、特に何も」

 

「そう。……じゃあよろしくね、お兄さん」

 

「……はっ?」

 

「だって同じ名字だし、見た感じ顔も結構似てるから、お兄さんでいいでしょ~。まさかこんなところで生き別れのお兄さんと再会できるなんてね~」

 

 またけらけら笑いながら、彼女はそんなことをのたまった。後半の言葉は棒読み気味であることから、本気でそう思って言った言葉でないことは分かるが。

 

「お兄さ~ん、ドクペ買って~。10本でいいから~」

 

「はぁ……何言ってんの……」

 

 勝手なことばかり言う彼女に何も言えないでいると、突然彼女は身体をくねらせながら甘ったるい声を出して、ドクペをねだりだした。俺は彼女の行動もそうだが、それ以上に、ねだる本数の方に呆れてため息をついた。10本なんて、過剰にも程がある。もちろん仮に1本だけだとしても、今初めて顔も名前も知った人間に買おうだなんて気はさらさらないが。

 

「そんなことより、黒川さん……だったっけ? 部活があるんじゃないの? こんなところで油売ってるのはまずいんじゃない?」

 

 どうにかこの状況を脱出できないか考えていると、再び芹澤くんの言葉を思い出した俺は、彼女にそう告げた。この人が芹澤くんの言っていたのと同一人物なら、軽音楽部の練習があると考えたからだった。芹澤くんも部活へ行ったので、休みということもないはずだ。

 

「あっ、やべっ。すっかり忘れてた。陽歌と菫にどやされちゃうよ」

 

 幸運にも俺のその予想は的中したようだった。

 慌てた様子で立ちあがった黒川さんは、そのまま立ち去るかと思ったが、僅かに不満そうな表情を浮かべて、俺を見下ろしながら言った。

 

「……『黒川さん』じゃなくて、凪子。兄妹なんだからそんな他人行儀はだめでしょ~」

 

「はぁ……」

 

 本気で言っているのか冗談で言っているのか分からない彼女の口調に、俺はまたため息をつく。

 彼女に対する俺の口調は、いつの間にか敬語からため口に変わっていたが、それでも春宮さんの場合と同じように、彼女の呼び方を変えるつもりはない。ただ名字が同じというだけで、兄妹でないどころか血縁関係すらもなく、長い付き合いというわけでもない会ったばかりの人間をいきなり名前で呼ぶなど、はっきり言って嫌である。さっきも言ったように、俺はそこまで馴れ馴れしい人間ではない。

 

「……やなこった。何を言われたって『黒川さん』としか呼ばないよ、俺は」

 

「……まったく、頑固だねぇ~。まあ今日は諦めるけど、いずれは名前で呼んでもらうよ~。これからよろしくね~、お兄さん」

 

 一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに先ほどの上機嫌そうな表情に戻り、手をひらひらと振りながら去っていった。

 

「……ったく。何だってんだ一体……」

 

 他の人とのやりとりをした後に起こる、鬱屈した気分に俺は相変わらず陥ったが、黒川さんの場合は他の人とやり取りをした場合とはまた違った方向性でのそれだった。どちらかと言えば、疲労感の強さが際立っている。

 項垂れながら、あまり冷たくなくなってしまったドクペの蓋を開けて、腹いせ気味に一気にあおった。飲み干してからふと黒川さんが座っていた箇所に目をやると、ハンカチらしき布が落ちていた。

 

「そういや、上着のポケットからはみ出してたな、これ……」

 

 大方無造作にポケットに突っこんでいたせいで、先ほど立ちあがった拍子に落ちてしまったのだろう。黒川さんが去っていった方向に目をやるも、当然ながら彼女の姿はもうなかった。

 

「しょうがない、明日返すか……」

 

 軽音部の部室がどこか分からないので、今から返しに行こうとしても変に迷うだけだろう。教員に部室の場所を聞いてまで行こうとする気概は俺にはなかった。

 とは言え、このままこれを放置しておくのも気分が悪いと感じた俺は、鞄の中に空になったドクペのペットボトルと共に放り込み、帰路に着いた。

 1年生の教室なら去年利用していたこともあって場所は分かるし、少し見ていけばさほど時間をかけずに返せるはずだ。何なら彼女の知り合いに押し付けてしまうのも手だろう。

 

 

 

 

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