ウェンディはなぜ自分の名前が呼ばれたのか、分からなかった。
だって、彼女はブレインという人間のことを先ほど知ったばかりなのだから。
それに少女はエルザやジェラと違いそこまで有名ではない。
自分の名前が彼の口から発せられることが一切わからないのだ。
隣のマキナも驚いている。だが、すぐにはっと、表情を真顔に戻すとウェンディの手を握った。
嫌な予感がしたのだ。それに、彼はマスターと誓ったのだ。ウェンディを守ると。
だから皆がやられている時も助けには行かなかった。
ウェンディの疑問はすぐにわかった。
彼が一言、こういったのだ。
「間違いない。天空の巫女。」
といっても、ウェンディは知らないが彼ら風の噂か何かで知ったのだろう。
「これはいい物を拾った……こい。」
ブレインは杖を振るい、煙のようなものでウェンディを掴み、引き寄せる。
マキナは少しばかり引っ張る強さに驚き離しそうになったが、ギリギリ踏み止まる。
「ウェンディ――!」
シャルルが手を伸ばし、ウェンディを掴もうとする。ウェンディも手を伸ばし、猫の手を掴んだ。
……と言っても掴んだのはハッピーの手であったが。
掴んだ瞬間、ウェンディたちは消えてしまう。
「うぬらに用はない。消えよ。」
ブレインはまた魔法を発動させようとする。
その瞬間、ルーナは目を閉じていたためわからなかったが、ジェラが追いついて来ていた。
「岩鉄壁!」
ジェラが、ホットアイの魔法により盛り下がった為に出来た壁の側面に岩のようなものを出現させた。
その岩の棒はルーナたち全員を守るように交差していく。
そして、その岩の棒の上にブレインの魔法が降りかかった。
少しばかり塵が起ったが、その魔法では皆が無傷だ。
「ジェラ様!」
「助かったよ、ありがとう。」
砂埃が消え、六魔が立っていた場所をナツが見るが誰もいなかった。
「くそ!逃げられた!」
「……ウェンディ…マキナ…。」
シャルルは悲しそうな表情をして六魔がいた方に目をやる。
当然だ、家族同然の少女が攫われてしまったのだから。
リオンがジェラに駆け寄り言葉をかける。
「ジェラさん、無事でよかったよ」
「いや…危ういところだった。」
そう言うジェラの腹には一つの包帯が巻かれ、1か所だけ血が滲んでいた。
どうやら、一夜の"痛み止めの香り"で抑えられてるらしい。
一夜は一つの試験管を取り出し蓋を開ける。
すると、その試験管から流れでた香りがみんなを癒していく。
「っはぁ……。」
ルーナは魔眼となっている左眼を抑えながら立ち上がる。
一夜の魔法により痛みは無くなっていた。
レンがルーナが左眼を押さえていることに疑問を持ち、話しかける。
「どうした?」
「…いや、何でもないよ。」
「…ならいいんだが。」
ルーナの魔眼は制御出来ていないのだ。エバのように眼鏡をかければ無効化されるわけでもなく、眼鏡をかけている相手に効かないわけでもない。
だが、まだ彼女には制御出来ず、一つの魔法をその眼で見てしまうとそれを見境無く吸収してしまうのだ。
ルーナは辛うじて無傷だった腰に付いているバッグを漁り、その中から黒い眼帯を取り出し付ける。
彼女が眼帯をつけている間、エルザの腕が斬られる寸前だったが彼女はそんなことを知る由もない。
「その毒、ウェンディなら浄化できるわ。」
そう言ったのはシャルルだった。
「あの娘が解毒を?」
「解毒だけじゃない、解熱や痛み止め、傷の治癒も出来るの。」
その言葉を聞いて一夜が項垂れる。そして、シャルルは次の瞬間、衝撃の言葉を言った。
「あの娘は天空の滅竜魔道士…天竜のウェンディ。」
ナツやガジル、ラクサスと同じなのだ。
驚くのも無理はない。この場にいた全員が目を見張った。
「今私達に必要なのはウェンディよ。そして目的はわからないけどあいつらもウェンディを必要としてる。」
シャルルはエーラで浮きながら言う。
「となれば…。」
「やることは一つ。」
「ウェンディちゃんを助けるんだ。」
「エルザのためにも。」
「ハッピーもね。」
「マキナも忘れちゃダメだよ?」
リオン、ヒビキ、イヴ、グレイ、ルーシィ、ルーナの順でやることを言っていく。
いつ円の形になっていたのか、ルーナの隣にはルーシィとリオンがいた。
そして、ナツが掛け声を上げる。
「いくぞォ!」
「おおッ―――!」
皆が思い思いに手を伸ばし叫びを上げる。
それが合図となった。
ルーナはナツとグレイ、シャルルと一緒に走っていた。
ふと、ナツは疑問に思ったのか、声をあげる。
「ウェンディってさぁ…何食うんだ?」
「空気よ。」
「空気って……こう考えるとナツ不憫だよね。」
「炎なんてそうそう出せるもんじゃねぇしな。」
ガジルは鉄をポケット当たりに入れておけばいい。だが、ナツが用意出来るのはせいぜい火種程度。用意するにしたって時間がかかってしまうだろう。
ラクサスだって、そう考えると不憫だが、雷を食べなくとも充分強いのだ。
「ウェンディね、アンタに会えるかもってこの作戦に志願したの。」
「オレ?」
「同じ滅竜魔道士でしょ?あのコ、七年前に魔法を教えてくれてたドラゴンが居なくなっちゃったんだって。」
ナツはそれに反応する。
「いなくなったのって7月7日か?」
「さあ。」
ナツはシャルルの方に顔を向け、問いかけた。
それでナツは少し考える。
「あ、ナツ、前!」
「んがっ!?」
余所見していたからか、木に顔をぶつけ転ぶ。
だが、すぐに起き上がり思ったことを口にした。
「そうだ、ラクサスは!?」
「ラクサスはラクリマを埋め込まれただけであってドラゴンに教えてもらったんじゃ無いよ。」
ルーナがそうナツに顔を向け説明する。
だが、シャルルの驚いた声で前を向き、自身も驚くことになる。
所々の木が黒く変色していたのだ。
「ニルヴァーナの影響だって言ってたよな、ザトー兄さん。」
「あまりに凄まじい魔法なもんで大地が死んでいくってなァ、ガトー兄さん。」
ルーナたちの後ろから、ルーナの聞いたことのある声がする。振り向くとアフロ髪のラクサスが倒した男と、髪がおかしなくらい尖った男が立っていた。
草木が揺れる音がして周りを見渡すと、大勢の男たちにいつの間にか囲まれていた。
「……ザコーだ!」
「ザトーって言ってなかったか?」
「いや、だって、弱かったよ?」
と言ってもルーナは何もしていなかったが。
「うほぉ!猿が二匹いるぞ!」
確かに猿顔だがそれは酷いだろう。と言うより、ここまで言われて切れてない二人が不思議だ。
その後ろからまた猿顔の男が来てナツは面白そうな顔をした。
「六魔将軍傘下、
「あん時の金魚のフンじゃねぇか!」
「………誰が、なんだって?そのアフロ、ハゲにしてあげようか?」
ルーナは刀に手をかける。シャルルは震えているが、グレイとナツもやる気のようだ。
「拠点とやらの場所を吐かせてやる。」
ナツとグレイは構え、飛びかかった。