正義を目指す竜殺し《完結》   作:山中 一

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第二十八話

 多くの人々が詰め掛けていた。

 王都オスティアの王宮前広場には数千からなる大群衆が集い、歓喜の声を上げている。

 振り撒かれる色とりどりの花吹雪。

 祝福の声に包まれて、ナギ、ラカン、詠春そしてジークフリートは歩を進めた。

 戦争終結と完全なる世界の黒幕を倒した英雄として、ヘラス帝国とメセンブリーナ連合の代表名代が左右に並ぶ中、ウェスペルタティア王国のアリカから直接メダルが授与される運びとなったのである。

 墓守り人の宮殿での最後の戦いから二日。

 突貫での授与式となったが、オスティアに暮らす人々と、戦争で共に戦った兵たちが総出でこの式典に参加し、栄光の一部始終を目撃していた。

 そこは英雄たちを称える場であると同時に、世界に対して戦争の終結を宣言する場でもあった。

 おそるべき巨悪の権化たる造物主の存在は、表に出すには危険すぎる情報であるとされて秘匿される方向で話は進められているが、白髪の青年らについては完全なる世界の幹部であると明かされ、墓守り人の宮殿での戦いは基本的に彼ら幹部格との戦いであったという形で報道される流れになっている。また、その戦いにおける映像資料では、宮殿外で激しく戦っていたジークフリートと二人の使徒との激闘の映像が使用されることになったため、さらにジークフリートの知名度を押し上げることとなったが、これに対してはナギは不平不満を漏らしていた。

「受勲式の直後に停戦調印式ね。いいことっちゃいいことだけど早すぎんじゃねえの?」

 受勲式が終わった後、ナギたちはメディアの追撃を躱すべく王宮に宛がわれた一室に逃げ込んでいた。外を歩けば誰もが振り返る英雄となった彼らは、この大群衆の中に割って入って無事では済まないだろう。もみくちゃにされて疲労困憊になるのが目に見えている。

「まずは世界に和平なる、と宣伝する必要がありますからね。今回はそれのいい機会だったのでしょう」

 と、優雅に紅茶を口に運ぶアルビレオが言った。

「両国の正式な講和は諸々の条件を刷り合わせる必要があるからな。基本的には領土や賠償金で方をつけるのが普通だろうが、今回は完全なる世界という裏方がいたからな。無難に戦前の状態に戻す形で講和することになるだろう」

 ジークフリートが言う。

 戦争は終わったが、どちらが勝ってどちらが負けたという戦争ではなかった。帝国も連合も悪くない。悪いのは完全なる世界であるという形にすることで、賠償責任や領土問題は棚上げすることができる。不毛な戦いに疲れているのは民も同じであり、早急な終戦を望むのならば、両者責任なしとするのが手っ取り早い。

 もちろん、物的損害や人的損害は自国で解決する必要があるため今後両陣営共に政治家たちは忙しく走り回る羽目になるだろう。

 それはそれでいいことではあるだろう。

 国のために奔走するのは政治家の勤めではあるのだから。もっとも、成人した直後に冒険の旅に出た自分が政治を語ることなどできはしないのだが。

「平和になるといっても、ただ元に戻っただけというのも……」

 と、話に加わったのは小柄な少年だった。白髪を短く刈り、逆立てているが幼さは隠し切れない。ナギよりもさらに三から四歳は下であろう。この世界の人間は、ゼクトや黄昏の姫巫女――――アスナのように見た目通りの年齢ではないものも多いが、彼は純粋な人間であろう。

「君は、確かガトウの弟子の……」

「高畑・T・タカミチと言います。初めまして、ジークフリートさん」

 そう、聞き覚えはあった。これまで、ほとんど接点がなかったので、存在しか知らなかったが、ガトウと共に水面下で動いていて『紅き翼』の協力者の一人である。戦災孤児として彼らに拾われ、その恩に報い、自らもまた世界のために働くためにガトウの弟子として日々奮闘しているのだという。

「元に戻ったといっても、戦争以前にすべてが戻るわけではありませんよ、タカミチ少年」

 と、タカミチの言葉に答えたのはアルビレオだった。

「この大戦争を経験したことで、多くの人は戦争の悲惨さを学びました。それに、今回は上が悪の組織にいいように操られていたということもありますし、迂闊な戦争拡大論はしばらくは鳴りを潜めるでしょう。世界はほんの少しだけ、前に進んだのです。おそらく、ではありますが」

「おそらく、ですか」

「古来、戦争が消え果てたことはありません。大分裂戦争は終結しましたが、各地での火種は依然として燻っているのが現状です」

「戦争の影に隠れていた問題が噴出するのに、そう時間はかからんだろうな。もともと、この戦争自体も民族間の対立などを煽り立てた結果だ。完全なる世界の者たちは、以前からあった問題に油を注いだだけなのだよ」

 アルビレオの言葉をさらに詠春が補足する。

 戦争は終わり、その元凶も倒れた。しかし、戦争の主体となった帝国と連合との間に横たわる溝は完全に消えたわけではなく、さらに細かな民族問題は何の解決もしていない。戦争という大枠が外れただけで、紛争地域は争いを繰り広げるだろう。世界は平和を知ったが、実現までには至っていない。

「これからどうなるんでしょうか?」

 タカミチは不安そうな顔をする。

「まあ、なるようになるんじゃねえの?」

 とナギは適当な言葉を投げかけた。

「そんななるようにって」

「いや、ナギの言う通りじゃ。世の中なるようにしかならん。どうにかしたいと思うのならば、きちんと努力しなければならん。逆転の目があれば、どうにかなるじゃろ」

 ゼクトがショートケーキを頬張りながら言う。

 どうなるか、というのは結果論に過ぎない。だからこそ、努力によって過程の補強を行っていく。結果をよりよくするために。個人ではどうにもならないというのならば、他者を頼ればよい。そうやって、個々が今を積み上げていくことで、平和に一歩ずつ近付いていく。

 今はそれでいいだろう。

 そこで、ドアが開いた。入ってきたのは、ラカンとガトウだった。

「お、なんだ揃っているようだな。手間が省けてよかった」

「おや、もう時間ですか」

「ああ。ま、一大スペクタクルだからな。特別に、観覧席が設けられるぞ」

 何事か、と思うものは誰もいない。

 これから起こることについては、一般人にも広く知らされているのだから。

 ジークフリートたちは、オスティアの中でも最も高い建物に案内された。巨大なホテルはオスティアの景観と不釣合いな建物ではあるが、同時に近代化の象徴として愛されている高層ビルである。

 その展望室は地上二百八十メートルにあり、王都を三百六十度一望することができる。

 ジークフリートたちがやって来ると、そこにはアリカとテオドラ、そしてリカードがいて、部屋の隅には黒服や鎧に身を包んだ護衛たちがいた。全部で四十人ほどか。世界を代表する立場にいる三人が集うには、護衛の数が少ないようにも思うが、この展望台の広さであればこれだけの人数がいれば十分なのだろう。

「ジーク!」

 ぶんぶんと手を振るのはテオドラだった。

「さっきぶりだ、テオドラ姫」

「ああ、傷ももうすっかり癒えておるようじゃな。よかった」

 にこりと微笑むテオドラは、ジークフリートの手を引いて窓際にまで案内する。地上では多くの人々が高所に集まり、一点を見つめているのが見て取れた。

 その先にあるのは、最終決戦の場でもあった墓守り人の宮殿である。遠く、ここから二十キロほどは離れた場所にある巨大建造物であり、雲の上に浮かんでいるので余計なものに遮られることもなく目視で確認できた。

「あそこで戦っておったのじゃな」

「ああ」

「ジークには、本当にいろいろと助けられた」

「気にするな。自分にできることを自分の意思でやっただけだ」

「そうか」

 ジークフリートもテオドラも、窓の外を見つめ続けている。

 そして、それが始まった。

「墓守り人の宮殿より広域魔力減衰現象を確認! 落下の第一段階が始まります!」

 ウェスペルタティア王国はその領土の大半を空中に浮かぶ島で形成されている。その浮力を支えているのが膨大な魔力である。今回の戦いでは、最後の最後で魔法無効化能力を用いた世界創世の魔法が発動してしまったために、墓守り人の宮殿とその周囲が魔力を失い、地上に落下を始めたのである。

「影響が最小限に抑えられたのは、不幸中の幸いでしたね」

 アルビレオがアリカに語りかける。

「ああ。まさか、ここまで上手くいってくれるとは思わなかった。これについては、お主たちに感謝しても仕切れないな」 

 心なしか安堵したようにアリカが言う。

 本来ならば、オスティアまでもが落下することになったはずだった。そうなれば、多くの人々が土地と財産を失い流浪の民となっていただろう。

 しかし、今回の戦闘で魔力無効化能力の影響を受けたのは幸いにも墓守り人の宮殿とその周囲半径七キロほどのごく一部の空域だけであった。

 儀式完成前にアスナを儀式場から連れ出したことで儀式そのものが不完全に終わり、影響力が極小にまで押さえ込まれたからである。

 結果、オスティアの外れに浮かぶ墓守り人の宮殿の周囲がこれから地上へと落下していくこととなる。

 その一大スペクタクルを、全市民と共に見守るためにこのホテルにやって来たのである。

「始まったな」

 ジークフリートは感慨深い面持ちで、その一部始終を見届ける。

 微細な振動が宮殿全体に広がり、やがて落下していく。あまりにも巨大な物体であるため、傍目から見るとゆっくりと落ちているように思えるが、実際はかなりの速度なのだろう。周囲の島々を巻き込み、雲を散らして地上へと真っ直ぐに落ちる。そして、広域魔力減衰現象に曝された大小様々な島々もまた、下降を始める。自重の関係だろうか。真っ先に落ちた墓守り人の宮殿とは異なり、浮力の減衰に付き従うように沈み込んでいく。それはさながら雲の海に潜っていく鯨たちのようであった。

 オスティアが空中都市であることも手伝って、墓守り人の宮殿の落下での被害は皆無である。猛烈な音が下から聞こえてきたが、この辺りの地上には人は暮らしておらず、念のために事前に避難勧告も出していた。おかげで、犠牲者は皆無に等しい――――少なくとも、行政が把握できる範囲では。

 落下現象は十分ほど続いた。最後の一つが落ちたことで、ぽっかりと空に浮き島のない円形の空間ができあがった。

「終わったか」

「そのようじゃの。いやあ、すごいモノを見た。ふふふ、父上も悔しがるじゃような。もう二度は見れぬぞ」

 テオドラは頬を上気させて興奮気味に言った。

「アリカ。あの辺りはこれからどうするのじゃ?」

「そうじゃな。まだ検討中ではあるが、観光地として応用できぬかどうか……まあ、魔力減衰現象の影響を確認してからでなければ何も始まらんがな」

「そうか。確かに魔法が使えなければ、ただの危険地帯じゃな」

 魔力減衰現象に曝された土地は、魔法すら使えない不毛の地となるとされる。その一方で、歴史的決戦の舞台となった墓守り人の宮殿は世界各国から注目されている。上手く利用すれば観光地として使えるはずである。

 使い方次第では大きな負債にも、大きな収益源にもなりうる。

 歴史と伝統、そして観光業が売りのウェスペルタティア王国にとっては、これをどう使うのかも今後の課題となる。

「おうおう、もう金と政治の話だよ。たく、強かな姫さんだぜ」

「姫ではない。わたしは女王じゃ、筋肉達磨」

「へ?」

 ラカンが茶化すように言うと、アリカは鋭い口調でそう指摘した。

「んん? どういうこった?」

 ラカンは首を捻る。

 ウェスペルタティア王国の元首は、アリカの父親である。故にこそアリカは姫だったのだが――――。

「国王陛下と完全なる世界との繋がりが発覚したのですよ。アリカ様は、半ばクーデターのような形で女王に就任されたというわけです」

「はあ? 何だそりゃ、いつの話だよ」

「三日前のことです」

 アルビレオの説明にラカンやナギが驚いて問い詰める。情報自体が規制されていて、公になっていないのだ。

「明日にも公表はする。戴冠式は暫し先になるだろうがな」

「いやいや、姫さん。つってもよ、そんな王さまがアイツラと繋がってたって、そりゃ大丈夫なのか?」

 政治に詳しくはないナギであっても、さすがに理解はできる。

 完全なる世界の本拠地があった国の王が敵の傀儡だったとなれば、国民はどのような反応を示すだろうか。世界を崩壊させる一助を王家がしていたわけだ。バッシングは免れまい。

「アリカ。それは妾も思うぞ。女王となれば、責任の追及があろう。まあ、お主はこの戦争を妾たちの勝利に導いた立役者でもあるから、何とでも説明はできるじゃろうが」

 テオドラがトコトコと歩み寄り、アリカに心配そうに話しかけた。二人は共に敵に囚われた過去を持ち、共に姫という立場にあった。育った国は違うが、共感するところは多かろう。

「そうじゃな。だが、その辺りは考えてある」

 言って、アリカは遠くを見つめる。

 一呼吸の後に、彼女は口を開いた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 ホテル一階ロビーに降りてきたジークフリートを待っていたのは、見慣れた仲間たちであった。

 アレクシア、コリン、ベティ、ブレンダ。成り行き上とはいえ、共に冒険の旅をした仲間である。

「おう、ジーク」

 コリンが親しげに手を挙げる。ジークフリートは小さな笑みで返事とした。

「お偉いさん方との話はもういいんか?」

「別に重要な会話があったわけではないからな」

「高いところから墓守り人の宮殿が落ちるところを見れたんだろ。すげー羨ましいんだけど」

「見れなかったのか?」

 ジークフリートは尋ねた。

 確かにすべての人があの光景を見れるわけではない。テレビを見る余裕すらない仕事中の者は当然、見れないだろう。警備を務めている兵士たちからも、見れなかったことを悔やむ声は聞こえてくる。

「見れたでしょう。それなりにいいところから」

 と、ため息混じりにアレクシアが言った。

「最上階から見たかったってことっすよAA」

「AAじゃありません。……ジークフリートはこれから王宮で晩餐会ではありませんでしたか?」

「そうらしい。テオドラ姫からは出席は義務だと言われていてな」

「当然です。あなたは平和の立役者の一人なのですから。それに、連合出身の『紅き翼』の面々が参加していながら、帝国出身のあなたが出なければ余計な憶測を招きかねません」

「そう、だろうな」

 一瞬、面倒だと思ってしまった。

 もっとも、ジークフリートはもともとネーデルランドの王子である。礼儀作法は時代と国によって変わるので、これから指南を仰ぐところではあるが、こうした場にあって緊張するということはありえない。

 彼も一人の男として相応の名誉欲はあったのだ。今となっては若気の至りではあるが、竜に挑んだ少年時代を振り返れば、かなりの無茶を繰り返していた。今回の栄誉は、あのときの気持ちとはまた別の、もっと落ち着いた心持で受け取ることができたというのが違いではあるか。

 千五百年経って、やっと少しばかり成長できたのではないだろうか。

「貴公らはこれからどうするのだ?」

 ジークフリートはふと気になって尋ねた。

 彼らがジークフリートと共に戦場に立っていたのは、ジークフリートが連合側に寝返ることがないか、また彼の素性が不明であったためにつけられたサポート役兼監視役であった。

 その役目はこの戦争の終結と共に終わる。

「わたしはこれまで通り、テオドラ様をお守りします。まあ、いろいろとありましたし、立場は同じというわけではありませんが」

「何?」

「コイツちゃっかり出世したんだよ。テオドラ様の警備隊の総隊長だとよ」

「本当か? それは目出度いことだ」

 コリンがアレクシアを指差して、茶化しつつ言うとジークフリートは素直に感心した。

 彼女の実力ならば、警備隊の中でも最上位に位置づけられるだろう。それに、テオドラ救出作戦を実質指揮していたこともあり、その忠義と統率力は高く評価されて当然だ。

「ちなみに俺は退役だよ。一応は、今回の働きが評価されて報酬もガッツリ貰えたしな。来月からは大手企業勤めのエンジニアよ」

 コリンが楽しそうに言う。もともと軍には辟易していた彼だ。荒事は苦手だったのだから、もっと平穏無事に過ごせる世界を目指したのだろう。

「もともと声はかけられてたんだが、タイミングがなくてよ。俺もちっと名前が売れちまったから引く手数多ってヤツさ」

「調子に乗ってると、即座に落ちぶれますよ。うちは資本主義なんですから」

「怖いこと言うなよ」

 軍人は命を懸ける仕事ではあるが、一応は公務員である。安定性で言えば、一般企業よりは上であろう。もちろん、企業と公務員の仕事や制度を同列で語るのはナンセンスではある。

「わたしたちは帝国大学に飛び級入学よ」

「皇帝陛下直々に、入学を要請された」

「ふふふ、才能が評価されたってとこかしら」

 ブレンダとベティがそれぞれ濃淡のある口調で近況を報告する。

 彼女たちは特定の分野に於いて突出した才覚を有している。まだ幼いと表現できる年齢でありながら最前線で活躍したことを皇帝が高く評価したのである。もちろん、そこには彼女たちを軍から一時的に引き離すという人道的な配慮もあっただろう。この世界は十四歳ごろにはもう戦争に駆りだされることもあるのだが、彼女たちは才能があるとはいえ、まだ年齢的に足りていない。

「なあ、ジーク。お前はどうなんだ?」

「俺か。俺は、しばらくはこの国に残りそうだ」

「何だって? 帝国に戻らないのか?」

「そうなる」

 ジークフリートは当たり前のように頷いたが、それに反論するのはアレクシアだった。

「確かにあなたは帝国に忠誠を誓っていたわけではありませんが、一応は帝国の所属という形での扱いではあったのですよ。今、あなたに離れられるのは、帝国にとっても損害が大きすぎますが」

「言わんとすることは分かる。が、テオドラ姫の頼みでもある」

「テオドラ様の?」

「ああ。詳しくは彼女自身から聞いてくれ。俺からは説明できないからな」

 テオドラからの頼みであると言われては、アレクシアも黙るしかない。

 ジークフリートの口から説明できないということは、何かしらの機密に触れることなのだろう。となれば、それ以上の詮索はしないに越したことはない。

「じゃあ、これでお別れか。寂しくなるな」

「まったくだ。と言っても、今生の別れではない。またどこかで会えるだろう」

「マジだぜ、それ。俺は一般市民になっちまうから、こっちから会いに行くのは厳しそうだ……まあ、帝都に来たら一報入れてくれ」

「そうしよう」

 快諾する。断わる理由がない。しばらくはオスティアに留まることになりそうなので、次にいつ会えるかは不透明だが、そのときは必ず連絡を入れよう。

「そうですね。ブレンダとベティがお酒を飲める歳になったら、このメンバーで集まってみるのもいいかもしれませんね」

「お、珍しくAAが酒の話をしてる。おお、おお、いいじゃねえの。後、何年だ?」

「三年ってとこかな」

 ブレンダが答えるとコリンが渋い顔をした。

「長くねえか。おい、一年に短縮できねえか?」

「無理に決まってんでしょ」

 と、ブレンダがコリンの脇腹を突く。

 いい歳をした青年が十代前半の少女に小突かれている。互いの雰囲気がいいから、仲のよい兄妹くらいにしか見えないだろう。

「そろそろ、時間でしょう。ジークフリート」

「ああ、確かにそのようだ」

 時計を見て頷いた。

 『黒の翼』などと呼ばれた面々が次にこうして揃うのがいつになることか。

 少なからぬ友誼を交わした仲間である。しばらく会えないのは少々残念ではあるが、再開を楽しみにして今はやるべきことをしよう。

 最後にジークフリートは一人一人と別れを惜しみつつ、迎えの一団と共にホテルを後にするのだった。




剣とか槍とかはクラスによる縛りがあるというのに魔術はキャスターでなくても扱えるという辺りキャスタークラスは不遇。しかも神代の魔術のほうが単純に強いという点でも不遇。場合によってはランサークラスにキャスタークラスが魔術戦で負けるということもあるからなぁ。


次回、最終話予定

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