GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~ 作:フォレス・ノースウッド
Prologue - NEW HOPE
西暦2020年代の日本の首都東京の、太平洋の海沿いに面している地点に位置している都市。
今、海面に暮れようとしている夕陽に照らされているこの街では、ある災害が跋扈していた。
認定特異災害――ノイズ。
この世界の地球の有史以前より存在していた未知なる〝異形〟。
突如空間を歪ませてどこからか現れては――人間を襲い、その肉体を生きたまま全て炭素に変え生命活動を奪ってしまう〝人類共通の脅威〟。
その脅威が、今まさにこの街を襲っていた。
つい数時間前まで、確かに存在していた〝日常〟は、最早どこにもない。
姿形、形態も大きさもバラバラ、二足歩行もいれば四足歩行も、地上を進むものもいれば空を翔る個体もいる――群れる異形たちが、まだ生きている人間を探し、生命をはく奪しようと傲岸に街の渦中を回っている。
道路や歩道で無秩序にに放置されている炭素の塊と、空気中に漂い、舞う黒い粉塵は……逃げ遅れた〝人間〟たち………確かに生ける者として存在していた筈の命の成れの果てだ。
ソーラーパネルを携えた建築物たちも、一部はノイズらの侵攻によって損傷を受けたものも少なくはなかった。
血も涙もない、無慈悲な〝殺戮〟と〝不条理〟が、人の営みの集合体を完全に支配しつつあったその時―――一つの光の柱が、地上から夕空から夜天に変わっていく空へと向かって立ち上った。
まるで、地球の〝地球〟の血液とも言えるマグマの如き、鮮やかな朱き光。
輝く柱の周辺には、多数のノイズが取り囲んでいたが、その光に近づいてはいけないと本能が悟っているのか、一体として近寄ろうとする者はいない。
その光の発生地点には――幼子を抱えて膝を地面に付けている制服姿の少女がいた。
背中の半分まで伸ばされ、真っ直ぐで艶やかで、肌触りのよさそうな黒髪。
年相応よりも伸びて均整の取れた体躯。
顔つきも、〝綺麗〟と表した方が相応しいくらい大人びて端整なもの―――その美貌を、少女は〝涙〟で濡らしていた。
この瞬間巻き起こっている災厄と、とうに〝力〟を失って無力な〝自分〟に対する絶望によって。
しかし、先程まで嗚咽に歪んでいた彼女の容貌は、ノイズたちと同様、自身が立つ大地かわ湧き出た光を前に驚きを隠せずにいる。
少女は同性の幼子を抱えたまま、ペンダントとして首に掛け、服の内側に隠れていた〝モノ〟を取り出して右の掌に乗せた。
「あたたかい……」
先史、または古代の時代の日本人たちが身に着けていた装身具――勾玉。
「シン――フォギア?」
水のせせらぎを思わす、透明感のある声で、少女は呟く。
「お姉……ちゃん」
不可思議な現象以上に、さっきまで泣き崩れていた少女が幼いなりに気がかりだったようで、幼子は彼女を案じた。
幼い命の健気な顔を見た少女は――一転して母性的で優しさに満ちた微笑みを返すと、慈愛と母性に溢れた仕草で。
「絶対―――お姉ちゃんが手出しをさせない」
そっと小さな身体を、優しく抱きしめた。
幼子も、再び目を合わせて微笑む少女に、〝うん〟と頷き返し、自分から彼女の腕の中から離れた。
少女は感謝の想いも込め、幼子の頭を撫でてあげると、その場から立ち上がり、左腕で双眸から流れ出でた涙を拭うと、数歩進み、首に掛けていた勾玉を外し、紐を右手の指の間に挟む形で持ち、胸の前で祈るように両の指で包み込んで目を閉じる。
地上から放たれる光が、より強まり、指の隙間から、光の筋がいくつもあふれ出て来た。
『―――』
どこの言語とも知れぬ、少なくとも現代の世には使われてはいない言葉を呟く。
その言葉には、このような意味が込められていた。
『我、星(ガイア)の力を纏いて――悪しき魂と戦わん』
一度閉ざされた〝翡翠色〟に彩られる少女の瞳が露わとなる。
泣き顔からも、慈愛に溢れた微笑みからも転じて、凛としつつも闘志の籠った瞳を、異形の群れたちに向けた。
最早――彼女を少女と呼ぶよりも、戦士と呼んだ方が相応しいだろう。
勾玉を握りしめた右手を左肩に一度添え――
「■■■ーーーーーーーー!!!」
――空へと真っ直ぐ突き上げた。
戦士の意志に呼応し、勾玉は彼女の全身を見えなくする程の、炎の揺らめきにも似た朱色の輝きを放ち、彼女を球体に包み込む。
程なく、球体は閃光と一緒に飛び散る。
その中にいた少女の装束は、高校の制服から一変していた。
黒を主体をし、体のラインと象る形でノースリーブのスーツと、四肢には先程の日光とほぼ同色な紅緋色のメカニカルな鎧が、身に纏われている。
頭部にはヘッドギアのようなオブジェクトが装着され、両頬に密着している部位は、どこか―――生物の長い〝牙〟を連想させた。
「覚悟しろ、お前たちの―――」
少女――草凪朱音(くさなぎあやね)は、右手から、プラズマの火炎を吹かし、その焔は棒状に押し固めると、長柄の棒――ロッドへと相成り。
「――好きにはさせない!」
高速回転を経て、構えた。
かつて、〝地球の守護神〟であった玄武は――人として、シンフォギアの装者として、再び〝最後の希望〟となる。