モンハン飯   作:しばじゃが

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ワイルズのβテストの熱意が文字になりました。




キャベツステーキ 〜エビを添えて〜

 

 

 円形の金属を、俺は地面に押し付けた。

 冷えた岩がそれを受け止め、甲高い音を鳴らす。静まり返った砂漠に波紋を浮かべるように、この空間を反響する。

 

「旦那さん、それ何にゃ?」

「ああ、これは携帯焚き火セットだ」

 

 目新しいそれに、相棒のイルルは尾をふわりと揺らしながら首を傾げた。

 俺は得意げに、その円柱の上に金網を載せる。

 

「イズモがよ、龍歴院で貰ったらしくてな。それを譲ってもらった」

「イズモさん? 元気そうだったにゃ?」

「超がつくほど元気だよ。相変わらずの軽口でさ……ま、それはいいや」

 

 その円柱の中には、砕かれた燃石炭の屑が詰められている。

 俺はその上でナイフの背とメタルマッチを擦らせ、火花を散らした。間に挟んだ木屑の火口(ほくち)へと散ったそれは、小さな燻りを生むのだった。

 

「お、ついた。イルル、ふーふーしてくれ」

「にゃ、ふーっ、ふーっ!」

 

 イルルが息を吹き出すと、その燻りは徐々に大きく膨らみ、燃石炭をも巻き込む温もりへと変わっていく。

 円柱から立ち昇る炎と煙は、とても温かい。俺は思わず両手を向けて、その熱を楽しんでしまう。

 

「あったけぇ〜。砂漠の夜は夜は冷えるからな。ありがてえ」

「ふぅ、ふぅ……疲れたにゃ。ボクちょっと休むにゃ」

 

 イルルはすとんと腰を下ろし、俺と同じように両手の肉球を火に向けた。桃色のそれが、橙色の光を帯びる。

 何だか、新しいデザートのようだ。ちょっと美味しそう。

 

「それにしても、これって龍歴院の新作なのにゃ?」

「え? あー……何だっけ。新しい調査団か何かで支給予定の道具らしい」

「調査団、にゃ?」

「俺も詳しいことはよく分かんねぇけど、ギルドの方で準備を進めてるんだとさ。新天地の調査だとか、禁足地が、どうとか。で、そのための道具の一つが、これ。その試作品らしい」

「試作品なのにゃ……」

「それが龍歴院に渡って、イズモが受け取って、俺に寄越したってわけ。飯を楽しめって言ってたよ」

「相変わらずのイズモさんなのにゃ」

 

 新大陸の調査団という話が、前にあった。タンジアの港から大型船がいくつも出航していたのを見たことがある。

 それとはまた、別の調査団らしい。

 禁足地というのは、シナト村の伝承が有名だが――同一のものなのか、別のものなのか。ギルドのお偉いさんたちが考えることは、よく分からない。

 俺がやることは、ただこれだけ。

 そう言わんばかりに、リュックから次なる道具を取り出すのだ。

 

「さ、焼くか」

「スキレットにゃ」

「シガレットのスキレット、ってな」

 

 スキレットとは、端的に言えば小型の鉄フライパンだ。

 油を塗ったり、野菜の切れ端を炒めたり、そこからさらに油を塗るなどして――仕上げたこれは、俺の愛用品の一つ。

 手間がかかるが、このシーズニングという工程は欠かせない。そしてこれが、美味い飯を手繰り寄せるための儀式となる。

 

「今日は何を焼くのにゃ?」

「でかいキャベツをもらってな。それを焼こうと思う」

 

 携帯食糧として持ち込んだのは、キャベツ。

 イルル村のイルルレタス――。

 目の前の相棒の名づけの由来ともなった、あの食材。その同郷出身であるイルルキャベツ。最近、売り出され始めたそれは、肉厚な身が素晴らしい、高品質な食材だ。

 ずっしりと手にのし掛かるそれに、俺の心は思わず踊る。

 

「夜の砂漠に、美味しいキャベツ。素敵だにゃ」

「そうだな。狩りの失敗を慰めるにはちょうどいい」

「……旦那さんが、ドスガレオスを追うのをやめて釣りにハマり出したのがいけないのにゃ。クエスト時間をオーバーするの、久しぶりだにゃ」

「怒られそうだな。なるべく時間を稼いでから帰るぞ」

「後ろめたさはあるのにゃね……」

 

 ドスガレオスの狩猟依頼を請け負ったものの、砂漠の環境は荒れに荒れ、砂嵐と雷で何も見えなくなった。

 仕方なく潜った洞窟には、地底湖があり――つい、釣りに熱中してしまったのはご愛嬌。釣果は芳しくなかったものの、有意義な時間を過ごせたのだ。クエストの制限時間は、残念ながら釣りを楽しむ気概を持ち合わせてはいないようだったのが残念だ。

 

「あ、そうだ。あの時イルル、カゴ罠仕掛けてただろ?」

「にゃ、バレてたにゃ」

「あれ獲れたか?」

「にゃ、実は結構いけたにゃ」

 

 イルルが取り出したのは、ツタを編んでツボのような形にしたもの。

 その表面には狭い入り口が付いており、それが網ツボの内部へと繋がっている。返しのような構造であり、入るのは簡単だが出るのは難しい。よくある、漁罠の一つだ。

 

「どうだにゃ!」

「お、すげぇ! エビが四、五……六匹! そんなに獲れたのか!」

「えへへ……ラッキーだったにゃ」

 

 そのエビは、小さな体をきゅっと丸める姿が可愛らしい、マッドシュリンプと呼ばれるものだった。

 大きさは、成人男性の人差し指程度。それを丸めるのだから、もっと小さくも見える。

 

「いいな。これも入れよう」

「きっと美味しいにゃ。じゃあ、まずは水を張らなきゃ……」

「革袋に水がある。ちょっと待ってくれよ」

 

 立ち上がり、この洞窟内に築いた簡易キャンプから水を取る。

 革袋に詰めたそれは、ずっしりと重い。だがこの重みは、俺の好きな重みの一つだ。

 美味い飯は、良い水が作る。砂漠の湧き水は、それだけでもう美味そうな響きだ。

 

「さて、スキレットに水を張って、と……」

「火の通りがいいにゃね。もうあったかいにゃ」

 

 とくとくと注いだそれが、じっくりと熱を帯びる。

 少しずつ、柔らかな湯気を生み始める。

 

「……外、砂嵐止んだにゃ」

「ああ。静かになったな」

 

 洞窟から少し顔を出すと、満点の星空が広がっている。

 綺麗なもんだ。砂漠は遮るものが少ないから、空が広く見える。

 

「……さむっ」

 

 それはそれとして、砂漠の夜は冷える。

 俺は逃げるように洞窟に戻り、携帯焚き火セットの火を満喫した。

 

「お、沸いてきた」

 

 ふつふつと沸いてきたそれに、エビたちを入れていく。

 獲られてから、時間が経っていたであろうエビたち。もうすでにイルルが締めたのか、抵抗もなく湯を飲み込んでいく。

 半透明の体が、少しずつ赤く染まるのだ。

 その光景は、やはり美しいと俺は思う。

 

「いい感じにゃ……泥臭いかなと思ったけど、大丈夫そうにゃ」

「地底湖は岩場が多かったからかな……ま、何にせよありがたい」

 

 塩を加え、下味をつける。

 エビの色はさらに赤みを増し、その体をさらに丸く、丸く折り曲げていった。

 

「……よし」

 

 フォークで一つずつ取り出しては、木皿に載せる。

 熱々のそれを冷ましながら、俺は熱した湯を岩場の隅に吸わせた。

 

「さて、と」

 

 取り出すは、例のキャベツ。

 半玉のそれをさらに、ナイフで切る。

 とはいえ、三等分程度。ケーキのように切り分けたそれを、油を敷き直したスキレットに並べていく。

 その光景は、さながらキャベツステーキだ。

 

「イルル、エビを剥けるか?」

「にゃ! やるにゃ……あち、あちゃちゃ!」

 

 熱々のエビと格闘する相棒を尻目に、キャベツの様子をじっくりと見る。

 油を吸って、水分を弾けさせるキャベツ。

 しかしその身から、香ばしい焼き目の匂いを漂わせ始める。

 

「……うん、いいね」

 

 ナイフを這わせ、ひっくり返す。

 それを三回分。全てのキャベツに、程よい茶色が塗りたくられている。

 

「良い焼き目だ。野菜の焼き目っていうのは、何でこうも食欲をそそるんだろうな」

 

 その焼き目に塩を塗りながら、もう片面を焼いていく。

 ちょうどその頃、イルルが全てのエビを剥き終えた。達成感があるのか、ふわふわの尾がピンと伸びている。

 

「ふう、熱かったにゃ……!」

「ありがとな。それじゃ、こいつを――」

 

 ゴロゴロ、と。

 剥き身のエビをキャベツの側に押し込めていく。

 同時に、頑張ってくれたイルルの頭を撫でる。

 イルルもまた、ゴロゴロと喉を鳴らした。

 可愛いやつだ。

 

「キャベツステーキ、エビを添えて……ってな」

「良い響きにゃ〜」

 

 じゅうじゅうと音を立てるそれは、野菜特有のあっさりとした、それでいて深い森のような香りを奏で始める。

 そこに差し込むエビの風。塩気の効いた、爽やかな香りだった。

 

「良い香りだが、しばしの別れだ」

「蓋をすると、より美味しくなりそうにゃ」

 

 エビが載っていた木皿を、蓋がわりにしてスキレットに載せる。燃え移らない程度の短時間、蒸し焼きにする。

 ちなみに、剥いたエビの殻は、いつの間にかイルルが食べてしまったようだ。こいつ、いつの間にか食いしん坊になった気がする。全く、誰に似たんだか――。

 なんて考えていると、蓋の隙間からより深みを帯びた湯気の香りが漂ってきた。

 こいつはまさに、幸せの香り。畑の恵みと、地底湖の命。本来交わることのないそれが交わり、新たな命を芽吹かせるのだ。

 

「どうかな……」

「にゃ〜。この香り、たまんないにゃ!」

 

 蓋を取れば、柔らかな香りが溢れ出る。

 蒸されたキャベツはしっとりとした質感で、黄緑と黄色のグラデーションをより鮮やかものにしていた。添えられたマッドシュリンプの赤は、どんな塗料でも出せない美しさがある。

 そしてそこに、俺は新たな色を加えるのだ。

 

「最後にワイルドハーブを振り掛けて、と」

「ふわぁ〜! たまんないにゃ!」

 

 降り掛かる、深緑の雪。

 キャベツとエビはその雪に彩られ、ますます綺麗になった。いつまでも眺めていたい光景が、広がっている。

 

「完成だ! 食べるか」

「にゃ、いただきますにゃ!」

「ああ。いただきます」

 

 ナイフで突き刺したキャベツは、柔らかく、それでいて芯の強さを残している。

 型崩れして溢れてしまう部分もあれば、まとまったままナイフにしがみついてくる部分もあった。それを、俺は一口かじるのだ。

 

「……うん。旨い」

 

 ザクっとした歯応えと、しっとりとした歯触り。

 二つの相反する食感が混在している。焼き目をつけたこと、蒸し焼きにしたことが、ここに活きている。

 仄かな塩気がキャベツの甘みを引き立たせ、噛めば噛むほど味わい深い。固い部分、柔らかい部分がほぐれ、全てが溶け合っていく。その度に優しい甘みが舌を撫で、鼻を通るような香りが俺の心をほぐすのだ。

 

「ハーブの香りがいいにゃ。ボクこれ好き……」

 

 鼻を抜ける香りは、ハーブのようだ。

 キャベツの柔らかい香りと、ハーブの爽やかな香りのハーモニー。

 主張の強い、独特のクセのあるハーブ。それが口腔を満たすかと思いきや、徐々にキャベツの甘みに変わっていく。その感覚は、とても、とても心地がいい。

 

「ここにエビ合わすと、旨そうだ」

「にゃ、ボクもするにゃ!」

 

 柔らかくなった外側の葉を、巻くように。

 くるんだエビごとナイフで刺して、口に運ぶ。蒸されたことで柔らかくなったキャベツの香りがまず届き、噛むとエビ特有の塩っ気の効いた香りに塗り替わるのだ。

 しゃおっと響く音と共に、繊維質の肉がほぐれるのを感じる。旨い。葉と肉がその境界線を無くし、溶け合っていく。ほぐれる繊維がさらなる塩気を呼んで、キャベツの甘みを引き立たせる。ずっと噛んでいたい。噛めば噛むほど、旨い。

 

「美味しいにゃ〜。たまらないにゃ〜」

「だな……」

 

 蒸し焼きにされたことで、しっとりとした身になったキャベツ。水気を含んだそれは、ジューシーであり、歯応えがあり、豊潤でもある。

 ただひたすらに、旨い。

 半玉のそれは、あっという間になくなってしまった。

 

「あー……旨かった」

「にゃ〜。幸せな味わいだったのにゃ。ご馳走様でしたにゃ!」

「ああ、ご馳走様」

 

 すっかり空になったスキレットを、布で拭き取り簡単に手入れをする。

 本格的な調整は、また家に帰ってから。

 広げた道具をリュックに戻し、俺は束の間の休息に勤しんだ。

 

「……さて、時間を潰すか。G級になってもこんなことしてたら、大老殿の連中に怒られちまう」

「時間を稼いだところで、どうせ怒られると思うにゃ」

「なら、もうちょっと食って時間を潰すか。まだ食えるだろ?」

「にゃ……食べる……」

 

 何があったかな、とリュックを漁る。

 こうした、相棒との何気ない時間が何よりも美味しいのかもしれない。

 そんな風に、俺は思うのだった。

 調子に乗ってクーラーミートを口にして、さらなる寒さで死にかけたのは、大老殿には内緒にしておこうと思う。

 

 

〜本日のレシピ〜

 

『キャベツステーキ 〜エビを添えて〜』

 

•イルルキャベツ  ……半玉

•マッドシュリンプ ……六匹

•塩        ……少々

•ワイルドハーブ  ……お好みで

 






ワイルズの飯!キャンプ飯!


βテスト、楽しかったですね。片手剣がワールドの頃のような重い動作になってくれてよかったです。ライズのは軽すぎて、なかなか肌に合いませんでした。
それはそうと、ワイルズの飯の描写、すごく良かったですね。肉、魚、野菜に付け合わせと仕上げを決める。それぞれ選んだ食材が反映されるし、クナファチーズはちゃんと伸びるし最高!飯効果より、旨そうなムービーが見たくて食材を選んでました。なんてゲームだ。ベースキャンプにもアイルーキッチンのような施設があったので、そこでも飯が食べれるのかなと期待してしまいます。まぁ、おそらく食材を得る施設か何かで、食事自体はハンターが作って食べる方式なのかなーと思いますが。
来年の二月まで待ちきれませんね。それまで皆様、良き飯ライフを!
閲覧ありがとうございました。
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