Fate/strange fake Prototype -Another Player-   作:縦一乙

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 冒頭の部分は2015年発売の小説版を読んだ後に加筆修正したものです。エイプリルフール版を読んだことのある方は特に読む必要はないので途中まで飛ばしてしまって構いません。
 また、この章だけわざと文章のスタイルを変えています。ただの演出なので気になされぬようお願いします。


01

 

 その初老の男はひどく悩ましげな顔をしている。

 悩んではいる。しかし疲れている様子はない。どこか稚気を孕んだその顔は所詮は他人事と突き放しているようである。

 そんな老人が、君の存在に、ふと気がついた。

「なんだ、こんなところまで尋ねに来る酔狂がいたのか」

 君がここにいることに驚くよりも、この場に誰かが訪れる可能性に老人は驚いている。

 君は老人は誰で、ここはどこかを尋ねた。

 しかし老人は自らの正体について触れることはない。

「ここはどこだと? さてな。そんなことを知ってどうする。異空間か、特異点か、平行世界の狭間か。はたまた交叉集時点(クロスホエン)であるかもしれない。少なくとも君の考えが及ぶ場所ではないことは確かだ。

 強いて言うなれば、これは君の夢の中だ」

 夢、と君は繰り返す。

 周囲を見渡せば、ここには本当に何もない。老人と厳めしい椅子と机、それに老人の背後には古めかしいダイヤル式の電話。なるほど、夢であれば余計なものを意識できないのも無理はない。電話の色が美しい青であるのも頷ける。

 しかし君はふと気になるものを見つける。

 机の上にある開かれた本のページに、髪を金色に染めた眼鏡をかけた少女の姿が描かれていた。

 アヤカ・サジョウ。

 君と似てるかもしれないし、似ていないかもしれない人物。他にも気になる点は多々あるというのに、君はその人物が気になって仕方がない。

 そんな君の様子に老人はようやく合点がいったと頷いた。

「なるほど。先ほどコーバックと彼女のことについて話していたわけだが、どうやら回線にまぎれてプロトタイプの情報が引き寄せられたようだな。となれば、君を招いてしまったのは私という事か」

 老人は君に理解できないことを納得する。

 しかし君は未だ理解できずにいる。

「悩むのも当然だ。君は産まれたての雛鳥のようなものなのだからな。何も知らないし、何もわからない。本来であれば別途専用に用意されたプレイングマニュアルがある筈だからな。

 しかし君を元のところへと戻すのは手間だ。ここは私が一肌脱いだ方が手っ取り早いかもしれん」

 老人はしばし思案し、やれやれと面倒くさげに君へ向き合う。

 老人は君を元来た道に戻すことなく、君をしかるべき場所へと送り出してくれるらしい。

「まず君の知識を問うておこう。“偽りの聖杯戦争”を知っているな?」

 老人の問いに君は頷く。

 君の記憶にある“偽りの聖杯戦争”とは、『スノーフィールドで行われる六人のマスターと六柱のサーヴァントで争いあうバトルロワイヤル』とある。

 そして君はその“偽りの聖杯戦争”の失われた『セイバー』のクラスを補完する存在としてその戦争に参戦することになっている。

 君の答えに老人はやや考え込む。そして面倒くさくなったのか、余計な注釈をいれることなく、君の答えに頷いた。

「概ねその通りだ。君はプレイヤーとして、その戦争に参加する」

 そこで老人はちらりと君も気になっていた本に視線を這わせる。

 思い切って君はその書類の人物、アヤカ・サジョウについて聞いてみる。

「君が気になるのも無理はない。彼女も君と同一の存在だ。残念ながら、君が彼女と会うことはありえないが」

 君が参加する“偽りの聖杯戦争”には君という可能性(キャラクターメイキング)の数だけプレイヤーがいる。対して、私が観測しようとする“偽りの聖杯戦争”に君はアヤカ・サジョウという存在に集約されている。

 君がアヤカ・サジョウが気になるのもそれが理由だろうと老人は告げた。

 君はよく理解できない。

「細かい事はどうでも良い。分かる必要もないし、分からない必要もある」

 老人の答えに君は少し不愉快になる。もっと有益で分かり易い情報を君は欲している。

「仕方がない。ならばその令呪の使い方はわかるな?」

 わかる、と君は答える。

 令呪は三日前、ラスベガスにて白い髪と白い肌の美女から押し付けられたものだ。

 他のサーヴァントとは異なり、常に召喚し続けることは不可能。

 一度喚び出して力を行使すれば、令呪と共に加護も消える。

 五柱だけ呼び寄せられる、使い捨てのサーヴァント。

 使い方によっては、他のサーヴァント達を屠ることも可能だろう。

「呼び出せる英霊はペルセウスやイアソン、スカサハ、ヒュドラといった十数種類の中から選べる。勿論、使い切ってしまえばただの“人”に過ぎない君が生きていられるわけもない。加護を失い退場したくなければ慎重に使うことをお勧めしよう」

 老人の助言に君は素直にうなずいた。

 頭の中には召喚できる英霊のリストがある。それぞれの英霊には簡単な略歴があり、パラメーターも添付されている。それらを参考に君はどの英霊を喚べば良いのか判断できるようだ。

 老人は欠陥品に哀れむように、もしくは呆れたような目で君の右手・右肩・背中・左肩・左手にある令呪を順に見る。君はそのことには気がつかない。

「ただし、破格の切り札を持つ代わりに君には四つの制約がある」

 令呪があるから制約があるのかは疑問だがね、と老人が嘯くが、君はその呟きを聞き逃す。

 老人は続ける。

 一つ、君は――『エレベーターのある建物に入れない』。

 一つ、君は――『時折、血塗れの女の子の幻影を見る』。

 一つ、君は――かつて、日本の冬木市という街に住んでいた。

 一つ、君は――どうやら何かから逃げてアメリカまで来たようだ。

 君がそれらの事象を克服できるかどうか、それもまた君次第だ。

 と、何かを思い出すように説明してくれる。

「そうだな、あとスノーフィールドのどこかに『Rin Tohsaka』と刻まれた魔力針がある。序盤で見つければ動くのが楽になるだろう。他に、日本に住む人形師が作った義手もある。腕を失った時には捜してみると良い」

 老人の目線が泳いでいる。

 そこに君は疑問に至る。

 “偽りの聖杯戦争”の情報は机の上にあるのに、何故思い出すような真似をしなくてはならないのか。

 まるで、老人の観測しようとしている“偽りの聖杯戦争”と君が参加する“偽りの聖杯戦争”が違うものかのようだ。

 そして君の質問に老人は首肯してみせる。

「その通りだとも。私が観測しようとしている“偽りの聖杯戦争”は未来の物語だ。そして君が参加しようとしている“偽りの聖杯戦争”は過去の物語。たとえ起源を同じくしようとも、もはや両者は別物だ。

 同じ食材を使っても調理の仕方は料理人次第。メディアが違えば演出も違うし、書き手が異なれば結末も違う。舞台と登場人物が同じでも初期値が異なれば尚更だ」

 老人の言っている意味を君は反芻する。

 では、二つの“偽りの聖杯戦争”では何が違うのか。

「違いを一つ一つ挙げていくには無理がある。それに、子細を語れば君の有利に働いてしまう。プレイヤーの名こそあるが、ゲーム盤の駒に過ぎない君が全体を俯瞰するのはルール違反だ」

 既にいくつかそのルールに触れていることに老人は頓着しない。あるいはどうでも良いと思っているのかもしれない。

「そうだな。ルールに触れずに違いを挙げるなら……君が参戦する“偽りの聖杯戦争”にはスノーフィールド市の他にスノーヴェルク市というものもある。多くの魔術師がスノーフィールドに集まってきてはいるが、その中にフランチェスカと名乗る少女の姿をした魔術師はいない、というくらいだ」

 それだけ抑えておけば、“偽りの聖杯戦争”のプロローグは何ら変わりはない。

 だから安心して君はプレイヤーとなりたまえと、老人は太鼓判を押す。君は訳の分からないまま頷いた。

 署長はオーランド・リーヴという名前かもしれないし、そうでないかもしれない。

 キャスターの真名は大デュマかもしれないし、そうでないかもしれない。

 胡乱な記憶のまま老人は君にそう助言する。ただし、君がその真実を得ることは絶対にないとだけ、断言する。

 その後、スノーフィールドの地理や情勢について基本的な知識を受け取り、君は礼を述べてその場を辞した。

 一体どうやって来たのか分からぬまま、君は老人の前からいなくなる。

 次に気付いた時、君はスノーフィールドの街の入り口に立っていた。

 夢を見ていたような気分だったが、そのことを君は不思議に思わない。

 ドラッグストアに入り、君は店番をしていたモヒカン刈りの男に平屋の安いモーテルの場所を尋ねる。外見とは裏腹にフレンドリーなモヒカンは道を教えてくれ、そして君の令呪を「いかしたタトゥー」と褒めてきた。君は愛想笑いをしながら店を出た。

 

 

 プレイヤーがこの場からいなくなった後、ふと老人はものすごく基本的なことを注意していなかったことに気がついた。

 老人が忘れていたのも無理からぬこと。それは老人にとってあまりに基本的で、一般的で、ことさら示唆するようなものではない。プレイヤーがその道に通じていれば、釈迦に説法ということもありえる。

 どうせ幾千幾万幾億ものプレイヤーがいるのである。そしてそのどのプレイヤーも老人と今後接点を持つことはない。老人が接点を持つ可能性があるのはアヤカ・サジョウただ一人。一期一会が確定している存在などいちいち気にしていられるほど暇ではない。

 ゲームの基本ルールはレクチャーしたのだ。駒の動き方を知っていれば、自ずと戦術は見えてくる。それに気付かなければ痛み目に合うだけ。死んだところで老人に迷惑はかからない。

 少し気にはするが、老人はすぐにその事実を忘れ自らの作業へと戻っていく。

 老人が注意し忘れていた事実。

 つまり、令呪は隠すべきという基本事項。

 でなければ、すぐさま敵に発見され、プレイヤーは駆逐されることになる。

 

 

 プレイヤーの姿を確認したモヒカンが、その後真面目な顔でダイヤル式の受話器に手を伸ばした。そのことを、老人が知る由もなかった。

 

 

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 紳士淑女のプレイヤー諸君に告げる。

 これは“偽りの聖杯戦争”のマスターとサーヴァントによる戦いの記録である。

 アーチャー、英雄王ギルガメッシュが恩を売られまくり、

 マスター、原住民族長ティーネ・チェルクが全身を辱められ、

 ランサー、神造兵器エルキドゥが役に立たず、

 マスター、合成獣の銀狼が接待し、

 ライダー、ヨハネ黙示録のペイルライダーが正義を語り、

 マスター、眠り続ける少女繰丘椿が敵を素手で殴り倒し、

 キャスター、劇作家■■■■が周囲からこき使われ、

 マスター、《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》率いる署長が部下達を裏切り、

 アサシン、美しき暗殺者が人助けに奔走し、

 マスター、六連“男装”ジェスター・カルトゥーレが流れ弾で死に、

 バーサーカー、殺人鬼ジャック・ザ・リッパーが誰も殺さず、

 マスター、時計塔の魔術師フラット・エスカルドスが恐怖に怯え、

 

 そんな彼らの願いが『全て』叶ってしまう物語である。

 

 そして残念なことに、君達プレイヤーは徹頭徹尾、活躍しない。

 君達プレイヤーが持つ英霊を時間限定で自由に喚べる五つの令呪、

 君達プレイヤーが背負う四つの制約、

 そんなものは物語に大した影響は与えない。

 君達に待っているのはただ弄ばれ、利用され、使い捨てられる運命だけだ。

 例え活躍してもそれはサーヴァントの活躍であって、君達では決してない。

 役立たずな自分を直視したいのなら、ページを捲ることをお勧めしよう。

 

 それではこの奇妙でねじ曲がった運命を開始しよう――

 

 

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 Fate/strange fake Prototype -Another Player-

 

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 それは、誰かの放った一撃だった。

 拳銃から放たれたのは一発の弾丸。日本であれば実物を見る機会はまず皆無である代物であるが、情報だけならいくらでも手にすることができる。兎角、それらの情報の中で最も大切なのは経験せずとも理解できる殺傷能力。

 ある程度距離が離れていては命中はあまり期待できないが、だからといって銃口を向けられて平気な者などいるわけがない。

 一発目、二発目は見当違いな場所に弾は当たった。運が良かったわけではなく、これはただの威嚇。三発目からは手足が狙われ、銃口が複数になった頃合いからそれもなくなった。

 そして、最初の銃弾から数えて一〇発目。

 偶然ではあった。しかしながら、必然でもあった。遅いか早いかの違いに過ぎない。

 予定調和の如く、その一撃は、気づけば眼前にあった。

 銃弾を目視する。あり得ないことではあるが、事実としてその銃弾は不可避の速度、必中の進路を持ってそこに存在していた。

 アキレスが亀を追い抜こうとしている、そんな刹那。時が止まってみえたのは走馬灯の原理に違いない。しかし走馬灯ならば身体が動かぬのもまた道理。死の間際にあって何かをしている暇などどこにもない。瞼を閉じる事も、祈ることも、座して待つことすら許されない。ただ弾がそこにあるという現実だけを頭は理解する。そしてその先に待つであろう「死」を。

 だが。

 この身を貫こうとする銃弾は、

 この身を救おうとする白刃に、軌道を逸らされた。

 軽やかな無音が戦場を支配する。銃弾飛び交う社交場に現れた無粋者は、ただその存在感だけで静寂を呼び込んだ。

「……」

 人には到底成し遂げられぬ事をあっさりと成し遂げ、次へと繋げたのは嵐を呼び起こすような静かな呼気がひとつ。他の全ての生物は呼吸を忘れている。

 足音などしなかった。

 その場に唐突に現れた影。

 それは今の今まで存在しなかった人物だ。

 

「―――問おう。貴殿が、我がマスターか」

 

 誰何の声が辺りに響き渡った。

 それは誰に問いかけたというよりも、周囲に自身の存在を知らしめる問いかけ。

 これは現実であり、かの存在がここにいる、という事実をこの場にいる全員に共有させる言葉。

「召喚に従い馳せ参じた。

 これより我が刃は貴殿のために振るい、全力を持って貴殿を守ることをここに制約する」

 ――聞くところによると、第五次聖杯戦争優勝者、衛宮士郎も自らの危機において最後のサーヴァントを召還したという。この場にもし彼がいればこの光景を自らの過去と被せたことに違いない。

 聖杯戦争の開始と見なす時期には諸説ある。

 最初の令呪が宿った時――

 全マスターに令呪が宿った時――

 最初のサーヴァントが召還された時――

 マスター全員が開催地へ足を踏み入れた時――

 サーヴァントとサーヴァントが最初に激突した時――

 どれを開始とするのか難しいところではある。ただ、後世の歴史家や研究者の多くは、ある条件によって聖杯戦争の開始とする者が多い。例えば、第四次聖杯戦争であればキャスターの召還、第五次聖杯戦争であればセイバーの召還である。

 即ち。

「サーヴァント、新免武蔵藤原玄信」

 このスノーフィールドの地に、七人のマスターと七柱のサーヴァントが出そろったこの瞬間こそが、

「――押して、参る!」

 偽りの聖杯戦争、その開幕である。

 

 

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「fakeプロトタイプなんて誰も読んでないから!」という友人の言葉で冒頭は大幅修正をして誰でも(なるべく)読めるようにしました。けど今度はプロトタイプしか読んでない人だと冒頭の老人って誰?ってことになり痛し痒し。後者は圧倒的に少ないと思うのでそのままにしてます。
原作を読んだのがつい最近なので色々と衝撃の事実がたくさんあります。フランチェスカって誰だ!?スノーヴェルク市はやっぱり誤植だったか!という感じです。他にもあるかもしれませんが、ゼルレッチが言っているようにそれだけ抑えておけば大丈夫です。
……ゼルレッチの性格ってこんな感じてよかったんでしょうか?

ちなみにこの冒頭あたりは2009年くらいに書いたものなんで記憶があやふや。ただ、このシーンを書くためだけに元祖フェイトのプロローグを何度も読み返した記憶がある。
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