Fate/strange fake Prototype -Another Player-   作:縦一乙

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 時間は少しだけ遡る。

 《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》、いや、ファルデウスの作戦開始と同時に上方から響き渡った衝撃はそれだけで何が起こったのか容易に予想がついていた。

 相次いで報告される被害報告は、いずれも七番格納庫を起点としたモノだった。

「七番格納庫……やはり、ランサーが原因なんでしょうね……」

 格納庫は完全に崩壊し潰れており、周辺施設での救助作業も相まって中の様子は確認できない。だがランサー以外を原因とする崩壊などあり得る筈がなかった。

「いやぁ、しかしこうも予想通りに動いてくれると尚更キャスターの行動が分かりませんねえ」

 生き残った施設内のカメラと砂漠地帯を遠距離から撮影しているカメラを同時に見ながら、ファルデウスは自らの策を再検証していた。

 そう、今回の対アーチャー作戦の発案者でありながらファルデウスは現場にはいない。彼はスノーフィールド地下にある基地で、その経過をコーヒー片手に足を組みながら優雅に観察するだけである。

 森を中心として半径約一キロ地点に自らの部下を配置し、定期的に連絡を取っているが、ただそれだけ。どんなイレギュラーが起きようとも、タイムスケジュールは“上”のトップが直接介入してこぬ限り変更できない。

 そのために事前準備は周到に用意されている。《茨姫(スリーピングビューティー)》を形成し、実働部隊として投入されたのは《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》のほぼ全戦力。効率を無視した広域通信妨害に、上空に配置された国際法違反のクラスター爆弾。森周辺の地雷原とその向こう側に配置された対サーヴァント仕様の機関銃の数々。

 それでいて、処刑の為の一撃も既に放たれている。

 サーヴァント一人にこれだけコストをかけていては採算が合わないが、それだけの価値が例外的にアーチャーにはある。事前に刑の執行通告を撒き散らし、それ以外にも色々な策を練って可能な限り他のサーヴァントや北部原住民をこの場へ誘い込みたかったが、食いついたのが最弱のキャスターと令呪を持たぬマスターではあまり効果はなかったようである。

 それよりも、念のためという程度でわざと作戦を漏洩しておいたランサーがこうも容易く引っかかってくれたのは好都合を通り越して意外ですらあった。

「クハハハハハッ。作戦通りにいっているというのに、浮かぬ顔であるな。ファルデウス殿?」

「だからですよ。こうも予定通りだと逆に怖くなります。では、食客として助言の一つでも聞いても良いですか、ジェスター・カルトゥーレ」

 いつも通りの顔であるのに、浮かぬ顔と評されたファルデウスはゆっくりと部屋の隅で壁を背にニタニタ笑う男に視線を向ける。

 人質として通告されている筈のアサシンのマスター、ジェスター・カルトゥーレ。ティーネとの一戦で邪魔されはしたが、この聖杯戦争に単独で挑み真相へと最も近付いた存在。だが、ティーネが失敗したことで逆にジェスターの腹は決まった。

 組するならゲームの駒より盤外のプレイヤーだ。その方が面白いし、アサシンへのアクションも期待できる。それに何より、未だその存在が良く分からぬ東洋人にも迫ることができる。

 《ロバの竪琴聴き(オノスリューリラ)》をはじめとして数々の暗躍を繰り返しておいて今更感があるが、ジェスターはファルデウスと接触し、こうして食客の立場に収まったわけである。勿論、これはかつて署長に約束した上が把握できぬ三日間の猶予があるからこその処置。公式には未だ敵同士という位置づけではある。

「ではまず、現状を確認するところからはじめてみるのはどうかね?」

「セオリーではありますが、既にこうして確認しているではないですか」

「いやいや、私が確認するべきだというのは南部以外、だよ」

 南部に戦力を集中する、ということは他が手薄になる、ということだ。もしこれを逆手に取るならば、他で何かをしている可能性が高い。

「それも問題なし、でしょう。何の報告もありませんし、カメラに異常もありません。肩透かしもいいところです」

 この場にいるのは別段二人だけではない。今もって南部砂漠地帯を監視するオペレーターもいるし、街中に目を光らせているカメラの映像もモニターに映し出されている。異常があれば即刻判明している。

「そうですかね。私には何かが起こっているように思えてならない」

 そうした発言のわりにジェスターの言葉は実に愉しげだった。ファルデウスをからかっているかのようにも思えるが、そうした予感は別にジェスターだけのことではない。当のファルデウスも胸騒ぎがしてならない。だからこそ、内心では浮かぬ顔をしているのである。

 ファルデウスは、前任者である署長の動きが気になって仕方がない。キャスターの意図は分からないが、あれが囮という前提に立てば警戒するのも当然。相手はこちらの手の内を総て理解しているのだ、急場凌ぎで登用されたファルデウスよりこの地に精通しているのは間違いない。何をしてくるのか想像つかない部分がある。

「コマンダー。G8より報告。ケースC8を確認。スペード4と8です」

 オペレーターの急な報告にファルデウスはむしろ安心した。イレギュラーではあるがこれは想定内。決まった台詞を使うだけで事足りる。

 ケースC8。現場からの《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の離脱を意味していた。

「作戦中の全トランプに離脱は許されない。警告してください」

「手信号からスペード8は重傷。両名共に加護を損傷。即時離脱を求むとあります。現在もスペード8を庇い4が森と交戦中とありますが、よろしいのですか?」

「愚問です。森の中から逃走するようなら威嚇射撃。それでも逃げるようなら銃殺してください」

 変わらぬ口調で、ファルデウスはあっさりと二人の《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》を見殺しにする。報告が本当であれば加護を失った以上、もはや森は彼らを逃しはしない。

「おやおや。可哀想なことじゃないか。不必要な犠牲を強いるのは本意ではないだろう?」

「敵に操られている可能性があります。事前に通達しているのですから、当然の処置でしょう?」

 からかうようなジェスターに表向きの説明をするファルデウスは笑うしかなかった。想定通りなら《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の損耗率は処刑時間までに四割を超えている。これにはこうしたケースでの数も含まれている。

 勘の良い《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》ならこの作戦の本質に気付くこともあるかもしれない。だがそのために通信網を封鎖したわけだし、念のために説得される恐れのあるキャスターとの接触も禁止した。軍隊において命令とは絶対だが、軍人ではない彼らがそれにどこまで従順に従うか、ファルデウスはそこに信頼など置いていない。

「ッ! スペード8、4を担ぎ森から離脱! 威嚇射撃には応じず! 宝具《毒虫化(グレゴール)》を展開! 地雷原、突破していきます!」

「お。あれが噂のカフカの『変身』を昇華した宝具か。一体何を元にしたらあんな宝具ができるのかね」

 オペレーターの緊迫した声にジェスターは興味深げにモニターに映し出される黒い虫と化しつつある《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》に見入る。

 追い詰められれば追い詰められるほどその変身宝具はその真価を発揮する。軽く硬い甲皮に強靭な筋組織は人間を遙かに超越する。頭部の触覚で匂いを感じ、肢(アシ)に生えた微毛で振動を感知、尾葉と呼ばれる器官で気流と音を捉えてみせる。

 この追い詰められた状況で、その能力は遺憾なく発揮されるだろうが、その宝具ランクは決して高くない。ゴキブリ並みの生命力などと揶揄されることもあるが、新聞紙の一撃で死ぬ程度でしかないのだ。原典ですら、妹が投げつけたリンゴが致命傷になるのである。

 ましてや、機関銃の一斉掃射に耐えられるわけがない。

「G8に通達してください。構わず殺しなさい、と」

 そのために用意した、といっても過言ではない機関銃の設置だ。宝具を身に纏っていたとしても、人の身にその威力は高すぎるし、弾もこうした事態を見越したものだ。

 そしてファルデウスの指示通りに、現場の部下は機関銃を掃射した。地雷原を抜け出し何とか仲間を助けようと逃げるスペード8の気高き精神こそ賞賛に値するが、結果的に仲間と自分の命を縮める結果となる。

 掃射された銃弾にスペード8はよく耐えた。しかし、撒き散らされた銃弾が運悪く地雷の一つに当たったのだろう。間近での爆発に耐えきれず、スペード8は宙高く舞い上がり、そして背負ったスペード4共々地へと落ち、その姿通り、虫のように死んでいった。

 念のために死体に数発打ち込んでいく光景をモニターで眺め見ながら、ファルデウスは自身の不安が的中していることに、遅まきながら気づき始めていた。

 撒き散らされる銃弾が、明らかに少ない。

 既に実践テストは済ませた宝具だ。その効果を知っているからこそ、配備したのだ。

「G8、何故宝具を使用しないのですか?」

 オペレーターからマイクを取り上げ、ファルデウスは直接問いただす。最悪の可能性が、頭を過ぎった。

『こちらG8。宝具は手順に従い使用したつもりです。ですが反応がありません。今の掃射は私だけで行ったものです』

 部下の答えにファルデウスは瞬間的に別のチャンネルを呼び出す。呼び出した先は、北部原住民勢力の偵察部隊。そこでは軽口を叩きながら異常がないとぼやく部下の声がある。先刻オペレーターと直接会話もした部隊であったが、その異常にファルデウスは早々に気付いた。

 何を指示する暇もない。予め“上”からリークされていたこの基地の秘匿コードのひとつを士官専用端末に叩き込む。事前登録された端末、静脈認証、そして秘匿コードが合わさって初めてその命令は実行される仕組みである。

 基地の動力源は正・副・予備の三系統。そして過日の基地へのダメージとラスベガスからの断線によって正から副へと動力源は変遷している。それが更に予備へと一時的に変更される。その一瞬の隙を突いて、ファルデウスは全システムをメインからサブへと以降させた。途端、それまでほとんど静寂を貫いていたスピーカーが悲鳴を上げた。各モニターに映っていた映像が悉く別のものへと映り変わる。

 悲鳴と思われていたのは、救援を請う各部隊からの報告だった。地上に露出してあるカメラの一部は壊され砂嵐を撒き散らしている。かろうじて残ったカメラは、その惨状を映し出していた。

 状況を正確に把握している暇はなかった。

「第一種防衛基準体制を発令! 既に敵は内部に侵入していますよ! 各所に伝令を! 通信ネットワークを過信しないでください!」

 ファルデウスの突然の命令に基地内の警報が鳴り響き、隔壁が次々と降りていく。この事態にあってもジェスターの態度は変わらない。最初から何か感じ取っていたジェスターにとって、これは予想の範囲内。どちらかといえば、どうやってファルデウスがこの異常を察したのか気になって仕方ない。

「はてさて? きっかけは分かるが、こうも完璧な通信欺瞞をどうやって見抜いたのかな?」

 一通り指示を出しながら、ファルデウスはジェスターの素朴な問いに律儀に答えてみせる。

「私の部下は全員一流の軍人ですよ」

「ほう?」

「その部下が、作戦行動中にこのような私語をする筈がない」

 その断言にジェスターは率直に拍手してみせる。事前に宝具が使用できなかった事態があったとはいえ、それだけのことでこの真相に気付けるとは中々の信頼関係である。しかもこの事態は想定の範囲外。

 こんな完璧な通信欺瞞となれば、もう方法は一つしかない。

 ファルデウス、そしてジェスターはそのことを正しく理解していた。

「これは素晴らしい! ああファルデウス、こんな身分の私だが、是非一方の事案に関して私に行かせてもらえまいか!」

「……では、部隊を編成し派遣するまでの時間稼ぎなら、お言葉に甘えさせてもらいましょう」

 一瞬考え込むふりをするファルデウスであるが、答えは最初から出ていた。

 この基地は現在攻撃を受けている。カメラから確認したところ、一つは地上からの北部原住民とみられる一団の攻撃。

 そしてもう一つは、一体どうやって潜入したのか、この基地の中枢区画にいる少人数の工作部隊。その中には恐らく潜入能力を持ったサーヴァント、そしてこの基地の前任者である署長がいる。

 人数的には地上から攻撃を仕掛けている原住民が圧倒的だが、戦力はむしろ中枢区画に割くべきだろう。場所柄、部隊を送り込むには向かないし、送り込み制圧は可能だとしてもどうしても周囲への被害は大きくなる。ここで必要なのはシングルコンバットの実績である。それについては、この地にいる全ての者の中でジェスターは上位ランカーである。むしろ、これから編成する派遣部隊の方が問題だ。

「物理的に無理でしょうが、アレを失うと戦略的に困ります。くれぐれも壊さないようにしてください」

「そこは奪われるくらいなら壊せと言うべきではないのかね?」

 失う、という意味をジェスターは奪われる、と解釈したが、しかしどうやらそれは間違いのようである。

「ジェスターさんともあろう方が勉強不足ですね。残念ながら壊されるくらいなら奪われた方がまだマシなのですよ。奪ったところで使えなければ意味がない。そこに“ある”ということが一番重要なのですから」

「ふむ。では、行きがてら勉強しておくとしよう」

 手にした携帯端末には以前漏れ出た情報がそのまま入っている。重要ではあるが、あまりに専門的すぎて早々に読むのを諦めた項目だ。まあ理解できずとも頭に入れることで得られることもあるかも知れない。

「それは結構ですね。しかし明かりもない点検孔内を移動してもらうことになりますので勉強するには不向きですよ」

「狭くて暗いところは私の好むところだ。では、ルート案内をお願いしようか」

 渡された無線機を耳に当て、ジェスターはこの基地中央に座す主の元へと歩き出す。

 この基地の主の名は宝具開発コード・スノーホワイト。

 その正体はこの基地のメインコンピュータである。

 

 

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 多次元交信型次世代情報管理装置――通称、スノーホワイト。

 キャスター最高傑作の究極宝具、などとこの存在を知る者は賞賛するが、実を言えばスノーホワイトは正確には宝具などではなく、宝具紛いの逸品に過ぎない。何故ならその元となったものは宝具や魔術などとは対極に位置する科学の申し子、開発途中で放置された次世代型スーパーコンピュータである。

 4フロアをぶち抜いて作られているスノーホワイトは内部に冷却用の液体と小型の魔力炉三基、そして外部に大型発電施設と大型魔力炉を備えた巨大な建造物だ。ガラスに隔てられたオペレーター室から全体を見ることはできるが、その様は異世界めいた外観となっていた。キャスターの手により生み出された、魔術と科学のハイブリッドであり、その点では真っ当に生まれた現世の産物でないことには違いない。

 元ネタとなったのは白雪姫の魔女が世界一の美女を問いただしていた魔法の鏡である。古今東西に存在する魔力を秘めた鏡を数万単位で集め、鏡の中を飛び交う平行世界の情報を取り出すことでスノーホワイトは世界中のスーパーコンピュータ全てを束ねても相手にならぬ計算処理速度を手に入れていた。

 方法的にそれは第二魔法である平行世界の運営ともいえるが、スノーホワイトが扱うのはあくまで情報素子のみ。いかにキャスターといえどそれが限度であり、限界でもある。結局機能強化にのみ終始したわけだが、ただそれだけのモノ、と謙遜するにはこの宝具紛いの逸品は性能があまりに良すぎた。

 電子情報ネットワークが遍く世界に張り巡らされた現代において、スノーホワイトの存在はあまりに大きすぎる。その計算能力によって軍民問わず全ての電子情報に介入可能であり、カードの暗証番号から核ミサイルのセキュリティまでその全てが完全に無意味と化す。

 

 具体的には、このスノーホワイトは世界を誇張なく、支配していた。

 

 爆弾入りの首輪をつけて民を支配するデストピア的光景は、今や時代遅れの産物である。最先端の監視網は、そもそも監視を意識させない。それでいて、人々を完全に支配下へと置いておく。これを人の手で行うのは不可能であるが、人ならぬ機械であるスノーホワイトが可能とさせた。

 わずか数日足らず、それも試運転でこの計画における天文学的予算を余裕で生み出したのがその証左であろう。

 だからこそ、スノーホワイトの天敵となり得るのが魔術師という時代錯誤の連中だ。世界最強の軍隊ですら一瞬で無力化できるスノーホワイトであっても、この英霊同士がぶつかり合う聖杯戦争においては役には立たない。

 この偽りの聖杯戦争は、謂わば実験場だ。“上”は敢えて《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》にスノーホワイトの機能を制限させて参加させていた。そして余剰処理能力によってスノーフィールド全域を人間・物流・通信に至るまで完璧に支配下に置いてその経過を子細に観察し分析する。

 どの陣営がいつどこで何をどうやって行動していったのか、そして一般市民がどのような反応をしたのかをあらゆる器機を使い把握する。既存のシステムで集められる限定的な情報を手にしていた《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》との情報精度差を見比べることで実験は進められていた。そのデータは今後の聖杯戦争、もしくは対英霊戦闘へと活かされることだろう。

 現状こそフェイズ5のまま推移しているが、ファルデウスが乗り込んだ段階で“上”はフェイズ6に移行することを決定していた。即ち主目的が実験場の観察から積極的介入へと、より危険度が増した状態にある。そのためにスノーホワイトを含めたレベル3の宝具のリミッターは解除されている。

 そんな重要かつ危険極まりないスノーホワイトに、安全策が取られていない筈がなかった。

 周囲の電気が一瞬だけ落ちて、復帰する。ただそれだけでスノーホワイトはその能力を活かすことができなくなった。

 外部との接続は隔壁に連動して物理的に遮断。供給される電力量と魔力量も一気にカットされたことでスノーホワイトはその機能を大幅に限定させ自己保存を優先し自閉モードへ以降。残った内部電力によってシステムチェックが開始される。

 どんなコンピュータでも、その電力供給が止まれば動くことはできなくなる。ファルデウスが行った安全策とは電力・魔力それぞれ独立させておいた供給源をストップさせる荒技である。シンプルなだけにスノーホワイト本体へのダメージが懸念される方法であるが、最も確実な方法ともいえた。

「くそっ、ばれたか!」

「そのようですね」

 コンソールをたどたどしく操作していく署長に対してアサシンは周囲の様子を窺いながら実に淡泊に答えた。

 アサシンの回想回廊によって署長と二人が侵入してわずかに十分。ほとんど基地中枢に位置するこの場所の警備は手薄である。四人の警備兵と六人の専門スタッフをアサシンは構想神殿で誰一人気付かれることなく消し去り、署長はキャスターが指示した手順に則って基地内システムに介入しその機能を一部ダウンさせると同時にモニターや通信をリアルタイムで改竄させていた。

 勿論、映像を改竄させることでで騙せるのは電子機器だけだ。それを眺める生身の人間はいずれその違和感に気付くことだろう。確認されれば欺き続けることは不可能と割り切っていたが、思っていた以上に対応が早い。地上の攻勢を誤魔化せたのはほんの数分だけ。スノーホワイトの援護が基地側にないとはいえ、城攻めをするには原住民の戦士達だけで出来るわけがない。

「それで、こちらの目的は達成できましたか?」

「無理に決まってる! これだけ特殊過ぎると操作一つにも専門家が必要だ! 欺瞞情報を流せただけでも奇跡だと思ってくれ!」

「そういうものですか」

 あまりに操作が複雑なため専用オペレーティングシステムを開発する話もあったくらいだ。だが開発期間の短さと、キャスターへの依存を嫌った“上”はそれを良しとせず、魔術に頼らず信頼度の高い既存のシステムを流用することで対応をしていた。

 何せ既存の概念が通用するかも分からぬ超々々ハイスペックモンスターコンピューターである。自己アップデートを繰り返すようになれば、いつ技術的特異点(シンギュラリティ)を超えてしまうか分からない。日々進化しかねないプログラムの変更作業を今の人類が行うにはあまりに危険すぎた。

 既に状況は専門家が複数人必要な段階へと移っている。それでも何とか今できることをしようと署長はダウンしたシステムを介さずに、持ち込んだノートパソコンをスノーホワイト本体へと直接接続し、残されたログから目標となるデータを参照しようと試みる。時間さえあれば可能かもしれないが、この短時間でやるには少々無謀だ。

 だがそういえば、とアサシンは思い出す。

 一度だけだがキャスターがこのスノーホワイトを操作しているのを見ていたアサシンである。あのときの印象ではそこまで難しいものだという認識はなかった。ひょっとすると署長がやるよりもよほど上手くできるのではないか、という根拠のない自信がアサシンの中から生まれてきつつあった。

 生前から、こうして一度見たものを理解するのは得意な口である。パズルの一ピースを見ただけで全体の絵を想像することができる。口伝でしか伝わらぬ過去の業を取得できたのもそうした事情がある。細部こそ異なるだろうが、このスノーホワイトの基本システムを徐々にアサシンは理解しつつある。

 この安全装置についても、スノーホワイトを奪取される事態を想定したものではない。頭と手足を切り離すような処置の仕方から、おそらくスノーホワイト自身が暴走した時のためのもの。外部アクセスが閉ざされた状態にあってもシステムを維持できる内部電力と常駐魔力は問題なく循環している。人手さえあれば復旧作業が簡単にできるところからも間違いない。

「……なら、もしかして?」

 システム面においても、すぐに復旧できるよう処置している可能性が高い。

 幸いにもスノーホワイトは複数人で運用するシステム。空いている席はいくらでもあった。アサシンはおもむろに席に座ってコンソール画面を呼び出してみる。想定通りであれば、自閉モードにあってもバグを見つけ修正するための手段がどこかに用意されている筈である。

「おいおいおい! すぐに敵が向かってくるってことを理解しているんだろうな!?」

 そんなアサシンの思惑を知るよしもなく、署長は叫ぶ。いや、アサシンの考えを聞いたとしても、署長は叫んだに違いなかった。

 ここでの署長とアサシンの役割はハッキリとしている。

 署長は専門知識こそ有していないものの、最低限の操作方法をスノーホワイト始動時にレクチャーされた経験があり、事前にそれを踏まえたキャスターから講習も受けた。だからこそ慣れぬ身でありながらこの場で四苦八苦しているのだ。

 そしてアサシンの役割はこのスノーホワイト制御室への侵入と署長の護衛。そこにはこうした場合に署長が作業するための時間稼ぎも含まれている。本来ならば、アサシンはここで迎撃のため出向くことが最も正しい行動である。できるかも知れない、という程度で護衛を放棄しイレギュラーな行動を起こすのは結果の如何に問わず間違いである。

 護衛の意味を果たして理解しているのか小一時間くらい問い詰めたい気分に署長はかられていた。

「来たらちゃんと対応します。気にしないでください」

「誰だこいつを召喚した奴は! もっと命令を聞く奴を呼び出せよ!」

 署長の悲痛の叫びはもっともだった。アサシンのクラスは基本的にマスターに忠実と聞くが、このアサシンははっきりいって滅茶苦茶である。両者納得の上での同盟関係でありながら自分勝手に動き回るので、一緒に行動をすればこの上なく不安である。

 そうした署長の叫びをアサシンは風がそよいだ程度に聞き流す。視線と思考こそモニターへ集中しているが、別に無視するつもりはない。ただ、傾聴するに値しないと判断しただけだ。

 その判断は、合理的思考からすれば正しい。ファルデウスの部下が作戦中私語を慎むのと同じことだ。信頼関係や仲間意識を育てるなら事前にこなしておくべきであり、こうした状況でただ喚くことは別の作業をしながらも耳を澄ませ周囲を探り続けているアサシンの邪魔でしかない。

 惜しむらくは、アサシンの経験不足を事前に把握していた署長が、この場で有用な傾聴すべき発言をしなかったことだろう。署長が無駄に喚いたのは己の不遇を発することでのストレス発散という意味合いでしかない。そしてこのタイミングでそれを行った理由は、襲撃まで数分のタイムラグがあるとみたからだ。

 ファルデウスが安全装置を働かせてまだ二分も経っていない。どんなに急いだとしても、ここへの通路には簡易ながらもトラップも仕掛けているのだ。その八割はただワイヤーを張っただけのダミーだが、中には指向性対人地雷(クレイモア)を設置している箇所もある。強行突破できたとしても五分、慎重にトラップを解除してくるなら更にその数倍は時間がかかると踏んでいる。仮にそうしたトラップを嫌って点検口を利用したとしても、その狭さから時間はそれ以上かかるし、まとまった数の投入も見込めない。この署長の常識的判断を、誰が責められようか。

 スノーホワイトの稼働音は大きい。そうしたノイズをキャンセルして耳を澄ませばかなり遠くまで気配を感じることはできる。ランサーの気配感知スキルと違い、アサシンのそれは純粋な聴覚によるものだ。壁などの障害物にもよるが、事前に周囲の簡単な間取りはその目で確認してある。物音は聞こえないし、反響音からも変化はない。このことから現時点で安全であると判断していた。

 強いて上げるなら、この近くで最も近い音の発生源は直上。音も小さいことからネズミなどの小動物を想定しこれを警戒するべき対象としなかったことが、アサシンのミスであり、直上にある点検口の存在を教えていなかった署長の非である。

 何かが落ちてきたのは、署長の愚痴の直後である。それについてアサシンはモニターから視線をかすかに動かしただけだったし、自らの上に落ちてきた署長に至っては何も気付くことすらできていなかった。

 署長はふと、顔を上げた。そこで視線が合った。

「――それはすまなかった。だが、獅子は馬鹿な子には旅をさせるというだろう?」

 その言動が、先の署長への解答であるなどと、当の署長も気づきはしなかった。あの《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》を率いていた剛の者であるというのに、ことわざの間違いなどを頭の中に思い浮かべ指摘しようとすら暢気に考える始末。それだけ、この襲撃は彼らの予想外にあった。

 このオペレーター室はスノーホワイト全体が見渡せるガラス張り。そしてスノーホワイトは4フロアをぶち抜いているのだ。この場の天井までは実に二〇メートル。強襲をかけるにしろ、何の装備も魔術も使わずに、ただ天井から落ちてくることなど予想外。着地点の凹み具合からすると、純粋な肉体強度のみで襲撃者は二〇メートルを落下してきたことになる。

「――構想――」

「馬鹿の一つ覚えみたいにこの宝具を使うのは感心しないなぁ、アサシン」

 超速で接近し業を解き放とうとするアサシンに、男は何ら慌てることがなかった。慌てず冷静にアサシンの手首を片手で掴み、背負い投げの要領で逆に数メートル先の壁に叩きつけてみせた。

 上下が逆さまになった視界で、初めて見た顔だというのに、アサシンはその男の名を間違えることなく、親の敵のように吐き出した。

「ジェスター……カルトゥーレ……!」

「気付くのが遅いぞアサシン。私からの魔力供給をこの距離になるまで気付かなかったのか?」

 心底呆れたようにジェスターは肩を竦めて手にしたモノを口につけ、流れ出てくる液体を口にする。それがただのカップで飲んでいるものがコーヒーなどであれば何の問題もなかった。

「一体、何を――?」

 それは、人間の右腕。ジェスターが飲んでいるものは、傷口から流れ出る血液に他ならない。

 では一体、それをどこから持ってきたのか。

「ふむ。やはり令呪はないな。欺瞞かと思ったがどうやらちゃんと使い切っているようだ」

「あっ? はっ?」

 遅まきながら、署長が立ち上がろうとし、そしてそのままバランスを崩す。対応の遅さといい、無様に床に転がる様といい、署長の行動はいつもの精彩さが欠けていた。だがその行動をジェスターは賞賛する。

「よく動けるな、署長? 私は魔力ごと君から奪い取ったつもりだったが、手加減が過ぎたようだな?」

 ジェスターの言葉に、ようやく署長は自らの右手がないことに気付く。そして同時に自らが酩酊状態にあることにも気付いた。

 一体何をどうやったのか定かではないが、着地と同時にジェスターは署長の右手と魔力を根こそぎ奪いとったらしい。意識の間隙を突いたとはいえ、とても人間業とは思えない。魔術師としてともかく、指揮官として咄嗟の判断を下すことのできる署長が赤子同然に扱われている。

 切り落とされた腕から流れ落ちる血が周囲を汚す。傷口に口をつけたジェスターの顔も汚れるが、一通り堪能したのか、口元を拭って署長の腕をそのまま地面へと落とした。その行為に、アサシンはどうしようもなく嫌な予感を抱いて仕方がない。

 理屈よりも直感をアサシンは信じて動く。

【……回想回廊……】

 咄嗟に繰り出した御業はこの聖杯戦争で構想神殿に次いでよく使ったモノ。だが、その使い方はいつもとは違っていた。

 展開させる通路の入り口は直径三〇センチ足らずの小さな穴。それでいて、出口までの距離はたった数メートル。未だ逆さま状態で壁にめり込むアサシンは満足に動けないが、何とかその手に持った短剣を投擲してみせる。

 その、異界の通路の入り口へと。

「ほう! ようやく応用というものに辿り着いたか!」

 通路の出口はジェスターの頭の後ろ。完全な死角にありながらも、ジェスターはその一撃を完璧に避けてみせた。紙一重で避けずに大きく距離を取ったのは、アサシンの視線から大まかに予測しただけに過ぎないからだ。

 必殺の一撃こそ外したものの、それでもアサシンの最悪の事態を避けることには成功した。ジェスターの身体から放たれていたのは赤い影。床へ捨てられた署長の右腕は赤い影に舐め取られた一瞬で骨と化す。床を這いずり署長へと近付く影は本体が大きく傾いだことでその目標を大きく逸らすことに成功した。

「すま……ない」

 朦朧とした意識でありながら、それでも片手で器用に服を破き、止血する署長。傷口を縛った痛みで意識を持ち直したのか、荒い息でジェスターから距離を取りながら立ち上がる。

「こいつが、君のマスターか」

「認めたくはありませんが、残念ながら」

 何とか床に立ち、ジェスターを中心に回るようにしてアサシンは署長の傍へ移動する。経験こそないが知識なら持ち得るアサシンから見ても、署長のダメージは無視できぬレベルに陥っている。右腕がないこともそうだが、その身体からは魔力が感じられない。立っているのが不思議なくらいである。

「離脱します」

「いや、待て」

 アサシンの言葉に署長は首を横に振る。身体を支えようとするアサシンの手さえ拒否し、その左手で腰のホルスターから銃を抜いてジェスターへと向ける。

 ジェスターからの赤い影はもうどこにもない。身体にこびり付いていた血も綺麗になくなっていることといい、魔術を用いずにあの人間離れした肉体性能といい、これだけ状況証拠が揃えば正体は自ずと知れてくる。

「死徒がマスターとは恐れ入る。今回の聖杯戦争、マスターまでイレギュラーとは聞いていなかった」

「なんだ、今頃気がついたのか?」

 馬鹿にしたような言い方に、これ見よがしにその発達した犬歯を見せながらジェスターはゆっくりと二人の元へと近付いてくる。距離は五メートルもない。二人は後ずさるが、その距離は徐々に埋まっていく。

「この聖杯戦争のカラクリを知らないわけではないだろう? 選ばれる基準を満たそうとすれば、真っ当な魔術師などが選ばれるわけがない」

 だからこそ銀狼などの人外や、魔術師として欠落のあるフラット、幼すぎる椿などが選ばれる。最初から指名されていた署長は例外であるが、最も魔術師らしいアーチャーの元マスターも、ティーネに取って代わる“運命”にあった。基準だけでいうならまだジェスターは割と正統派だったりする。

「その様子だとこの戦争の裏は知っているようだな。何故、そちら側につく?」

 その署長の質問に、ジェスターの歩みが止まった。

 この聖杯戦争に聖杯は存在しない。マスターが望む願いはこの戦争の過程の中に用意されている。問題は、願いを叶えた先にある。全陣営に確実に用意されているのは、殲滅の二文字だ。そのために用意されていた駒がファルデウスであり、署長が率いていた《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》である。

「ファルデウスに例外などない。ジェスター、君がいかに優秀であろうと、確実に殺されるぞ? 私達は、既に鍵を得ている。この閉じた箱庭をこじ開け外に出ることのできる鍵だ」

 この“偽りの聖杯戦争”の計画に、そもそも救いなどありはしない。

 最初期にスタートした段階でどうだったかまでは知らないが、少なくとも署長がこの計画に乗った時点で戦後の関係者の処分は決まっていた。そして教会や協会が出張ることになれば、その前に“上”はスノーフィールドそのものの破棄を決定する筈だ。人口八〇万のこの都市でさえ、最悪の場合そもそもなかったことにされかねない。

 生き残るためには――その可能性を掴むためには、ここで互いに手を取り合うより他はない。この戦争の裏を、その真実を知っていれば、尚のこと。

 だが、そうした署長の説得に対してジェスターの視線は冷たいモノだった。侮蔑の色すら見えるその瞳は、完全に呆れ果てていた。こうして無知を晒した署長と話をしたことを、ジェスターは後悔した。

「つまらないことを口走るな。今更それぐらいのことで私は立ち位置を変えないし、その程度で勝算が本当にあると思っているのかね?」

 先刻承知していることで説得されるとなると、これはジェスターに対する侮辱ですらある。

 はあ、とジェスターはため息をついた。

 意気揚々と出て行ったものの、結果はこの有様。リーダー格の署長がこれでは、今後期待はできないだろう。色々と暗躍していることは評価できるが、肝心要の危機感が彼らには圧倒的に足りていない。

 

 これでは一体何のためにアサシンを預けているのか分からないではないか。

 

 ジェスターの目的はアサシンの絶望だ。

 そのためにアサシンには成長し、その本性を悟らせることが必要となってくる。アサシンには教えねばならない。理解しないことが最高の幸せだったのだと。全てのアサシンクラスが持つ偽りだらけの仮面から、仮面を持たなかったアサシンを解き放つ。アサシンの生まれた意味を、ジェスターはこの世に教えてやるのだ。

 極まった希望を行き詰まった絶望へと相転移させる、そのためならば、この命ほど安いものはない。

 当初の想定ではとっくにアサシンは己の本性に気がついている筈だ。それを経験不足の一言で雑に扱われては、わざわざ敵対関係となったジェスターの意味がない。

 いい加減に気付いて貰いたいものだ。わざと署長を殺さなかっただけで、アサシンは回想回廊の新たな使い方、その応用に気がついた。その一点だけのために、ジェスターはこの場にいるといっても過言ではないのだ。

「まあ、感謝をせずにはいられないか」

 よくぞ、この場に二人だけで来てくれたことに。即座に逃げず、会話をしてくれたことに。

 ジェスターは、心の底から感謝する。

 二人がこの場で何をしていたのか、ジェスターは知らない。が、何かをしていたとするならば、アサシンはこのスノーホワイトの重要性を知ったことになる。わざわざジェスターも直々に注意されたのだ。スノーホワイトを巻き込むような真似はアサシンもできない。

 それでいて、署長の怪我は重傷。

 この二つは、アサシンに大きな枷となる。

 大きな進化の、鍵となる。

 単体戦闘能力で英霊と渡り合うことは人間にはほとんど不可能だ。これはジェスターとて例外ではない。死徒の中には例外もいるかもしれないが、少なくともジェスターの戦闘パラメーターとアサシンの戦闘パラメーターを単純に較べたなら確実にアサシンへ軍配が上がる。ジェスターがアサシンに勝てるのは特殊能力としての赤い影と、長年の戦闘経験だけ。

 署長の怪我が上手い具合にアサシンの気を逸らす。会話による情報収集と時間稼ぎに一定の成果を得たことで署長は勝機を見いだしていた。いざとなれば脱出できるという自惚れが敗因となる。

 集中力は才覚の領域ではないことを改めて実感した。鍛え、積み上げてこその集中力。天才に驕りというものを教えてやるのも悪くなかった。

 尚も会話をしようとする署長が、咳き込んだ。そのことにアサシンの視線が一瞬だけ横にぶれる。それだけで、ジェスターには十分すぎる隙だった。

 立ち止まっていれば、攻撃に時間がかかると二人は思っているのだろうか。二人の目の前にいるのは、神秘を追い求め死徒とまで墜ちていった魔術師であるというのに。

 呪文など必要ない。姿勢や呼吸による集中も不要。ジェスターが二人にやったことは、ただ己の本性を少し解き放っただけ。美しいモノを穢したい、その一心で六連男装という張りぼてが必要なほど、ジェスターの本性は純粋だった。解き放てば、それだけで人を傷つける崇高な概念。隠さなければ漏れ出てしまう醜悪で純潔の魔瘴が、二人を正面から打ちのめした。

 構えていながら、その急激な圧に蹈鞴を踏む二人。意表を突いたのは確かだが、これくらいは何食わぬ顔で耐えて欲しいとジェスターは思う。

 本性を抑えることはしない。ブースターというわけではないが、アドレナリンが出ていればそれだけでこの状況を愉しむことができる。そうでもしないと、やってられないのが本音だ。

 

 

 ……その後のジェスター対アサシン・署長の戦闘については割愛する。

 ジェスターは二人を分断し、適当に痛めつつ、隙という希望を幾度となく見せながら宝具で逃げる暇だけを与えない。時にヒヤリとしながらもジェスターは二人を殺す真似だけはしなかった。その様を表現するには訓練という言葉が相応しい。

 手抜かりなく手を抜いたジェスターの訓練は、通路に仕掛けられたトラップを解除し駆けつけた応援部隊が辿り着くその時まで続けられた。後に提出された応援部隊の報告書にジェスターの危険性が大きく書かれることになるが、単体でアサシンと署長を捕らえたジェスターの有用性は示されたことになる。

 これにより、南部砂漠地帯、スノーホワイト、基地上層という三面作戦は表向き決定打を入れられず瓦解したこととなる。

 事実上、ファルデウスの勝利がここに確定した瞬間であった。

 

 

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食客。
ジェスターの新たな立場。実にちゃっかりしている。勿論互いに利用し使い捨てようという気まんまんである。

宝具《毒虫化(グレゴール)》。
モデルは「このゴキブリが凄い!」で堂々の一位をとったあのキャラクター。なので「じょうじ」とでも喋らせたかったのだけれど、話の流れからそれはできなかった。

スノーホワイト。
敢えてカタカナでそのままにさせているのはこれが開発コードで本当の意味で宝具というわけではないから。
SF小説「銀河ヒッチハイク・ガイド」でスパコンが「生命、宇宙、そして万物についての究極の答え」に「42」を出しているのに着想を得ている。途中経過をすっとばして真実のみを告げる魔法の鏡なら入力した瞬間に答えが出る。これを使えば計算速度は劇的に改善される筈である。
実はこのスノーホワイトについてはかなり子細に考えていたのだが、あまりに長々としすぎているので割愛することとなった。残念。

専用オペレーティングシステム。
これについてキャスターは「ネクロノミコン」を要求してたりする、という展開も考えていたのだが、お蔵入りとなった。なんだか良く分からないという人は「デモンベイン」をプレイしていただきたい。
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