Fate/strange fake Prototype -Another Player-   作:縦一乙

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 最後まで残った敵はやはり別格の戦闘力を持っていた。

 敵の宝具は木槌。能力はその大きさを持ち主の自由自在に操れること。その伸縮性から間合いを測りがたく、距離を取れば直径一〇メートルを超える巨大化した木槌が上から振り下ろされる。

 だがそれだけであるのなら、この宝具はランサーの脅威になり得ない。ランサーにとってほとんどすべての打撃は《天の創造(ガイア・オブ・アルル)》が受け流してしまう。本来なら気に掛ける必要すらない。

 絶対的な実力差がそこにある、筈だった。

 もう何度目になるかわからぬ木槌の一撃が放たれる。度重なる連撃はランサーの動きを完全に縫い、そして何の意外性もなく、木槌はランサーの腕に接触した。同時に、ランサーの腕が爆散したかのように遠くに吹っ飛んでいく。

「……」

 さすがに初見こそ驚きはしたものの、それが何度も続けばその正体にも気付く。敵は単に接触した瞬間に木槌に急制動をかけ、その爆発的な衝撃だけを接触面へと伝達しているのだ。結果として、《天の創造(ガイア・オブ・アルル)》は受け流せる許容量を超えて遠くに吹き飛ばされる。

 明らかに対ランサー戦を想定した技である。これによりランサーの身体はその約二割を周囲に飛び散らせている。消滅したわけではないので回収すれば元通りだが、ここまで回収を許されたことは一度としてなかった。

 それに、わざわざ回収する必要もない。

「――ッ!!」

 木槌による衝撃を受けたところでランサー本体の動きに支障はない。そして急制動してしまった以上、すぐに敵は動けない。これまではその隙を仲間がカバーしていたわけだが、頼みの仲間は全て地に伏していた。

 動きを止めた敵の懐に潜り込み、新たに生やした腕はあっけなく敵の胸板を貫く。

 健闘を称えるべきだろう。一人になった時点で敗北は明らかだった。それでも戦法を変えなかったのは、それしか勝算がなかったからだ。

 力なく崩れ落ちる敵の顔を、なんとなしに覗き見る。フルフェイスのバイザーを上げてみれば、女の顔がそこにある。口から止めどなく血が零れ出るが、そこに呼吸音は既にない。虚ろな瞳に映る自分の顔に堪えられず、ランサーは目蓋を下ろした。

 この女の顔とランサーの顔には同一の表情が張り付いていた。

 女の死に顔が自らの未来を暗示しているようで酷く気分が悪かった。

「コングラッチュレーション、ランサー!」

 全てを影から見ていた黒幕が、お供の部下を大量に引き連れて登場してくる。新たな敵かとうんざりするランサーではあるが、彼らの目標はランサーではなく、ランサーが倒した敵集団にあるようだった。

 ひとまず戦闘継続の必要性がないことに安堵しつつも、別の意味で面倒な相手を無視するわけにもいかなかった。

「……一体何がめでたいのですかね、ファルデウスさん」

「なんだい、君は《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》を討伐目標に据えていたのではなかったのかな? 彼女が《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》最後の一人だよ」

「ああ、そうなんですか」

 語られた衝撃の真実、などというほどでもない。実に淡泊なランサーの対応にファルデウスも鼻白む。

「気に入らなかったかな? せっかく君のためにわざわざ用意したというのに」

「彼らの長である署長とキャスターがまだ生きているのに目標達成したというには無理があるでしょう。それに――」

 周囲でランサーが倒した敵を嬉々として調べている人間を眺め見る。その様は戦場跡で死体から金品を掠め取ろうとする腐肉漁りを彷彿とさせる。そしてあながちそうした表現は間違っているわけではない。

「それに、この実験は僕のためではなく、彼らのためでしょう」

 ランサーの言葉にファルデウスも笑って否定しなかった。

 彼らが漁るのは金品などではなく、技術という名の見えぬものだ。

 パワードスーツという知識ならランサーも知っている。装着者の動作を強化拡張する現代の鎧。繰丘邸や《茨姫(スリーピングビューティー)》での戦闘で《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》が装着しているのを実際に見たこともある。だが、今戦った《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》が装着していたパワードスーツは明らかにそれとは一線を画している。

 以前に見たそれはスーツの名にふさわしい大きさと形状であるが、これはスーツと呼ぶよりも鎧に近い。火力と機動力は比較にならないほど強化され、通常では考えられぬ反応速度まで向上されていた。

 熟練者であれば、これ一機でサーヴァントを打倒することも不可能ではないだろう。ましてや、これを八機同時に正面切って相手をするともなれば勝機はないに等しい。

 唯一の救いは、このパワードスーツが未完成だということか。

「実用化の目処はつきそうですか?」

「安全基準はクリアできそうにないですね」

 安全基準以外はクリアしていると告げていた。

 人間である以上、その身体の強度には限界がある。いかに外骨格で強化したところでサーヴァント並の無茶な戦闘機動を行えば自滅は避けられない。緩旋回ですら怪しいところを鋭角ターンなどすればいかに保護機能があっても内蔵へのダメージは計り知れない。事実、装着者の何名かはランサーが手を下すまでもなく数分で動きが鈍くなっていた。

「まぁ、貴重な実験データが取れましたから問題ありません」

 言って、パワードスーツから慎重に運び出される死者に対してファルデウスは十字を切る。そのわざとらしさにランサーは呆れるが、その死者の中に見覚えのある者がいた。

 かつて繰丘邸でその身体を貫き、夢の中でライダーに操られたのを殺した《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》。決して前線で戦える状態でなかった筈だ。

 分かっていたことだが、最初からファルデウスは安全基準を満たすつもりなどはなかったということだ。

「何か?」

 言いたげなランサーの視線にファルデウスが問いかける。

「……別に何も。あなたが何を企もうと、僕に何の興味もありませんよ」

 その言葉には確かに偽りなどありはしなかった。

 例え目の前で無辜の命が失われようとも、どんな悪辣な巧みがあったとしても、ランサーはそれに感知することもない。ましてや、動くことなど考慮の埒外。

 その筈だった。

「アーチャーが消滅したとはまだ確定したわけではありませんよ?」

 試すような口ぶりのファルデウスに、ランサーは瞬間、我を忘れる。

 ――一体どの口でそんな言葉を吐いているのか。

 気付けば、ランサーは先の戦闘ですら慎重を期して使わなかった創生槍ティアマトを手にしていた。神速の突きでファルデウスの喉元に迫るが、寸でのところで槍が血に濡れることはなかった。ランサーが無意識に放った殺意に、熱狂していた筈の技術者達ですら本能的に押し黙り手を止めていた。

「ああ、我々のことは気にせず続けてください」

 そんな技術者を、殺されかけた当の本人が気にすることもなく作業を進めろと命じてくる。やや戸惑いながら、そしてランサーを警戒しながら、技術者達は自らの作業へと戻っていく。

 腕をほんの数センチ動かすだけで、ファルデウスは何の抵抗もできず、自らが死んだということを認識する間もなく、簡単に殺すことができる。

 知らず、ランサーの腕が震えた。

 理性があることを恨まずにはいられない。

 このままファルデウスを殺すのは実に容易いが、ここで彼を殺すわけにはいかなかった。

「自制が利いてくれて助かりますよ、ランサー」

 未だ余裕の笑みを浮かべるファルデウスにランサーは仕方なくその矛を文字通り収めた。

 ファルデウスは確定していないというが、実際にはアーチャーの消滅は確定している。それを確定させたのは皮肉にもランサー自身のスキルである気配感知。デイジーカッターがいかに強力でその後の被害が甚大であろうとも、その程度のノイズでこのスキルを偽ることなどできはしない。

 爆発後、ファルデウスが接触してくるほんの一時間足らずではあるがランサーはこのスノーフィールド全域をその気配感知スキルで隈無く走査している。

 ティーネ・チェルクの生存は確認した。ライダーだって繰丘椿の中で生存していることも確認した。おまけのようにキャスターが生き延びているのも確認できた。他にも確認できた者はいるが、朋友の気配はどこに感じることもできはしなかった。

「……」

 もはやとりつく島もないランサーの様子にファルデウスも肩を竦め嘆息する。

 アーチャー消滅は、ランサーにこの戦争での意気込みを失わせるには十分すぎた。親友を失えばそれも当然ではあるが、本来の目的を達成しようともしないのはファルデウスにとっても僥倖だ。

「大丈夫ですよ。あなたが約束を守ってくれる限り、僕は約束を守ります」

「実に頼もしいことです」

 実に当てにならない保証をしてランサーはファルデウスに背を向ける。その後ろ姿に頼もしさを感じることはできないが、先のやる気のない戦いですらランサーは強化――狂化した《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》を圧倒していた。

 アーチャーがいなくなった以上、事実上この聖杯戦争でランサーを打倒しうるサーヴァントはいなくなった。ライダーとの戦いで消耗し、デイジーカッターの直撃で焼き尽くされてなおこのサーヴァントは圧倒的だった。

「……ああ、そうそう。二点だけ伝えておくことがあります」

 今思い出したかのようなファルデウスのわざとらしい言い草にランサーの歩みが止まる。振り返るようなことはしない。

「我々の名前が決まりました。

 ――その名もレギヲンです」

 マルコ傳福音書、第五章九節にある悪霊の名。かつてはローマ軍団を指し示し、今では軍団そのものを意味している。

「……捻りがありませんね」

「これでも、随分と考えたんですけどね」

 苦笑いするファルデウスではあるが、実際に意味があるのはその名ではない。発表のタイミングである。

 彼らの前身となる筈だった《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》は今ここで全滅した。その死骸の上に成り立つレギヲンは《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》とは似て非なる存在。総じて、ランサーが《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》に向けた害意とは関係していないことをファルデウスは告げている。

 それは臆病者の発想だ。そんなことでは免罪符になりはしない。

「それで、ファルデウスさん。もう一つは?」

 早くこの場を去りたいと、ランサーは面倒そうにファルデウスを急かした。

「……いい加減、私をマスターと呼んではくれませんかね?」

 伝達事項と言いながら、それは依頼だった。命令でないところが、やはり臆病者の発想だとランサーは切って捨てる。

 ファルデウスのその手には、令呪の輝きがある。

 残り一画限りの絶対命令権。対魔能力に乏しいランサーでは、その一画だけでも抗えはしないだろう。

「ならその令呪で命じてください」

「ハハッ、冗談ですよ」

 戯けたようなファルデウスの物言いだが、ランサーが振り返らずともその瞳が笑っていないのは確かだった。

 臆病者は恐ろしい。下手に出ながらも、慎重にこちらの出方を伺ってくる。それでいて切り札をもちらつかせても伏せ札は伏せたまま。

「僕のマスターは彼だけです」

「重々承知しています」

 それっきり、新たなマスターに対してランサーは振り返ることなくその場を後にする。結局ランサーは背後にある“偽りの聖杯”について何のアクションもとることはなかった。

 《方舟断片(ノア)》に封印され内部を覗き見ることはできないが、ランサーがその中身がどういったものか気付いていない筈がない。創生槍ティアマトを自制して使わなかったのは、万が一にもティアマトで《方舟断片(ノア)》を無力化し、“偽りの聖杯”が解き放たれるのを恐れたからである。

 大胆にも、ファルデウスは臆病者(チキン)でありながら賭博師(ギャンブラー)でもあった。

 この空間を実験場として選んだのは単に観測設備が充実し、戦闘するのに適した広さがあるというだけではない。封印され動かすことのできぬ“偽りの聖杯”を前にしてランサーがどう出るのか見極めたかったという狙いがある。

 かくして、賭けに勝ったファルデウスは多くの成果を得ることとなった。

 もっとも、“世界が滅びる”というリスクに見合っていたかといわれれば誰もが首を振るだろうが。

 

 

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 ランサーが地下の“偽りの聖杯”を後にした頃、その頭上にある基地の一室でもひとつの勝負が終わった。

 生きたまま時間をかけて身体を少しずつ切り刻む拷問を勝負というには些か語弊があるだろう。だが勝手に勝負を設定したのは拷問執行者自身である。それでいて“拷問中に声を上げさせる”という分かり易い判定に敗北したというのだから、笑うに笑えない結果である。

 女の肌を、血が絶え間なく流れ落ちる。結局女は気絶するその時まで呻き声一つあげることなく拷問に耐えていた。ここで無理矢理起こすことは可能だが、その滴る血を前に拷問執行者はどうにも我慢はできなかった。

 手枷に繋がれ、壁際に吊されたままアサシンの血を、脇目もふらずジェスターは舐め取っていた。

 手枷は強力な魔力封じであるが、マスターとの直接接触であれば魔力供給が可能である。血を舐め取る舌が触れる度に消滅寸前まで追い込まれていたアサシンへ魔力が供給され、失われた五指や両足、削がれた耳に抉り取られた眼、裂かれ内臓が見え隠れする腹がゆっくりとだが確実に癒えていく。

「――ああ、もう癒えてしまった」

 心底残念そうに、ジェスターは最後に口元に付いたアサシンの血を惜しむように舐め取った。

 アサシンの血は、ジェスターにとってどんな料理にも勝る嗜好の逸品だった。既に三度も同じことを繰り返しているが、それであっても飽きることがない。長い年月を経て数万にも及ぶ血を啜ってきたジェスターだが、これに匹敵する血を味わったことなど片手で数える程度。その砂糖菓子のような甘やかで、麻薬のように断ちがたい死徒の本能に、本来の目的すら忘れそうになる。

 自制が利かなくなる。

 あと一度。あと一度だけその血を舐めてみたい。

 壁や床に飛び散った血もジェスターの赤い影で残らず舐め取った。テーブルマナーにあるまじき行為であるがそれでもまだこの身体はアサシンの血を求めていた。アサシンの血で汚れたナイフを傷つくのも厭わずキャンディーのように舐め回すその姿は、控え目にいっても異常であった。それでいてその異常性を本人が一番良く理解している。

 気付けば意識を取り戻してすらいないアサシンにジェスターはナイフを振り上げていた。慌ててその軌道を逸らし、己に突き立てることで危ういところを回避する。

 死徒とは総じて狂気に呑まれた存在だが、魔術師上がりのジェスターにあって、本能の赴くまま簡単に狂気に呑まれては本末転倒である。

 ナイフでズタズタになった自らの舌が煙を上げて修復されていく。蕩けそうになる頭を必死になって保たせた。

 誰か私を引き留めてくれないか。

 このままだと、このままだと、私は、私は、ワタシハ――

「死徒とは随分と変態なのだな、ジェスター」

 救いの声は、近くから聞こえた。

 ゆっくりと、時間を掛けてジェスターはその声の主へと振り返る。

 声の主は、アサシンと同じように向かい側の壁に吊り下げられている。

 近代基地施設、それも使われる予定もない秘密基地にそもそも拷問部屋などあるわけがない。せいぜい尋問室と営倉くらいであり、こうした拷問部屋はジェスターがファルデウスに無理をいって作って貰った一室のみである。

 今回はそれが幸いしていた。この部屋でアサシンと二人きりであったのなら、再度同じことを繰り返し、最終的にはどうなっていたのかジェスター自身も保証することはできなかった。

「目を覚ましたようだねぇ、署長……」

 なるたけ平静を装うように時間をかけて振り向いたがその甲斐もなかったようだ。よほど壮絶な顔をしていたのか、ジェスターと目を合わした瞬間に覚悟をしていた筈だろうに、署長の身体が震えた。右手を失っていることなど関係なく、署長の全身から汗が滝のように流れ出てくる。

「醜態を晒してしまった……いつから目を覚ましていたかな。夢中になりすぎて気付かなかったよ」

 署長を落ち着かせるように、そして自身に言い聞かせるように、ジェスターはなるたけ穏やかに口を開く。

 署長にしても、ジェスターが落ち着こうと努力していることは伝わった。言葉が伝わるのならば、いきなり殺されることもない。悪魔との取引も、その契約書は読めずとも言葉が通じるのが大前提だ。

「ペチャペチャ犬みたいに血を舐めてる音が五月蠅くてな。それでいて自傷行為に走り始めたんで、つい声を出してしまった。邪魔してしまったかな」

「いいや。お陰様で目が覚めて感謝したいくらいだよ……傷の具合はどうかね?」

 自らに突き立てたナイフを無造作に引き抜き、そのままナイフで署長の失った右手の切断面を軽く撫でる。厚く巻かれた包帯に遮られてナイフの刃が通ることはないが、些細であってもその感触は傷口に伝わる。死なない程度に処置はしてあるが、麻酔などは打っていない。アサシンへの拷問とは較べるまでもないが、それでも大の大人が泣き叫ぶぐらいの痛みが署長を襲っている筈だった。

「……ッ! お、お陰様でこの通りだ……それよりも、吊されてる左肩が痛くてしょうがないな……ッ!」

 先よりも激しく噴き出す汗が署長の現状をジェスターに教えてくれる。アサシン同様に魔術封じの鎖に繋がれているせいで、魔術回路を通しての痛覚コントロールも満足にすることができない。

「令呪を使われては困るのでね。念のため切り落としてしまわねば安心できなかったのだよ」

「死徒の動体視力なら令呪を使い切っていたことくらい分かりそうなもんだがな……」

 念のため、で腕を切断されたのではたまったものではないが、署長がジェスターの立場であっても同じことはしていただろう。もっとも、署長であれば右手ではなく首を切断している。

 わざわざ生かして捕らえたのだ。無意味に拷問するためだけに生かされたのではないと信じたい。

「全ては貴様の思惑通りというわけか」

「いや、なかなか上手くはいかんようだ。署長よりもあのファルデウス、相当に頭がいかれてる」

 含みのある言い方でジェスターは悩みを吐露してみせる。

 市内は無論、ラスベガスでも確認したが、周囲で監視している“上”の幹部は悉く暗示にかかっている。その犯人がジェスターであることにもはや疑いの余地はない。

 署長が見るに、ジェスターの魔術の腕は群を抜いている。それでいてファルデウス自身の魔術の腕はそこまでではない。その気になればどうとでもなりそうであるが、実際にやっていないところから察するに、ファルデウスは相当非常識な手段でそれを封じているのだろう。

 しかしその割りにはジェスターに余裕がある。

「なら、ここで一体何をしてる? 若い女を吊すなんて趣味が悪いじゃねえか」

「クァハッ! クハハハハッ! これは仕事だよ、誰もお二方を監視しないので私が引き受けた次第だ」

「趣味、の間違いだろう?」

「おかしなことを。拷問なんて残虐非道なこと、仕事でなければできはしない。私も苦しい。殴られれば殴った方も痛いと知っているかね?」

「その言葉がどこまで本気かは知らないが、監視と拷問が同一の仕事だとは思いもしなかったぜ……?」

「クァハッ! これは痛いところをつかれた!」

 心底可笑しそうにジェスターは口元を抑えて嗤う。嗤いながら、ふらふらと気絶したアサシンへと歩み寄り、拷問によって剥き出しになったその乳房を撫で回した。荒い息と常軌を逸したその表情。その姿は劣情を催した獣に似通ってはいるが、ジェスターにあってそんな上品なことをする筈がなかった。

「そうだな、署長。そんな君に褒美といってはなんだが、アサシンを犯してみる気はないか?」

 唐突な、そして想定外の言葉にさすがの署長も言葉を失った。未だ収まりようもない痛みに幻聴だとすら思った。

「聞こえなかったか? 犯して良いといったぞ?」

 繰り返される言葉に幻聴という可能性も消し去られる。いや、ならば単にからかわれているだけに違いない。

「……何を、馬鹿なことを。自分でやればいいだろう」

「そんなものに興味はない。私は観客として愉しみたいのだよ」

 アサシンの裸体をその舌で這わせておきながら、ジェスター自身がアサシンを犯すつもりはないようだった。この男に吸血衝動はあっても性欲はないらしい。

「本当は輪姦される彼女を見たくて基地の連中にも声を掛けたんだが、サーヴァントを犯すのはどうやら恐ろしいらしい。ファルデウスにも規律を盾に一蹴された。妥協案だが仲間に犯されるというのも乙というものだろう?」

 そうして、徐にその首筋へキスをするように噛み付いてみせる。恍惚としたその表情は麻薬中毒者と何ら変わりない。ジェスターの喉がごくりと鳴ってその血を胃の腑に落とした。

「こう見えてまだアサシンは未通娘(オボコ)でな。貴様も慣れたものだろう? 腹心の部下だろうと催眠と自白剤の前に忠誠心など役にたたんよ。署長の性癖など聞く必要があったとも思えないが」

「……ついでに洗脳もされていそうだな」

「クハァッ! なかなか鋭いところを突くが、安心しろ。署長の前に敵として現れることはもうないさ。永久にな」

 離れているとはいえ、この部屋にも微振動はあった。アサシンに夢中で気付かなかったが、いつの間にかそれがなくなっている。ということは、そういうことだろうとジェスターは判断する。

「……ッ」

 部下の死を婉曲に告げられ、署長は奥歯を噛みしめ自らの怒気を抑えこむ。

 秘書官として、自らの懐刀ではあったが、《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の中で彼女だけを特別扱いするつもりはない。すでに元とはいえ幾人もの部下を失った無能な上司だ。それについて喚き散らす権利を署長は持っていない。

「一体何が目的だ?」

「……目的?」

 署長の言葉に、目を覚ましたかのようにジェスターは唐突に焦点を合わせる。またテンションが上がり、アサシンの血を啜っていたことにようやく気がついた。荒い呼吸にも同時に気付き、今度は口元を舐め取るようなこともせず、大きく深呼吸し、アサシンから離れて壁を背に座り込んだ。そのままの姿勢で、ジェスターは署長を眺め見る。

「知れたこと。アサシンの真価を見極め暴く。ただそれだけだ」

 全てを語っているわけではないが、その言葉に嘘偽りはない。最高の料理を仕上げるにはその食材にも気をつけねばならない。今はその食材をどう育成するのかをジェスターは語っていた。鶏肉を使うのにヒヨコを調理する馬鹿はいまい。素材があれだけ良いのだ。手間暇をかければ、最高級の食材へとアサシンは変貌することだろう。

「それとこれとがどう繋がる?」

「クハハハッ……クァハッ……おかしなことを言う。元とはいえ《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の長がこの聖杯戦争の仕組みを知らぬわけではあるまい? どういう基準でどんな強さのサーヴァントが選ばれるのか。なら、アサシンはそれに当てはまるのか?」

「それは……」

 ジェスターの言葉に署長は言葉を詰まらせる。

 歴代ハサンの業を習得し、各パラメーターも総じて高い。実戦経験の少なさと後先考えぬ性格というマイナス面を補ってあまりある強さがアサシンにはある。これが通常の聖杯戦争であったのなら、何の文句もなかっただろう。

 だがこの偽りの聖杯戦争には、相応しくない。

「……アサシンに令呪で縛りを入れているからではないのか?」

「クハァッ! さすがに気付いていたか」

「薄々気付いていたさ。戦い方ひとつとってもアサシンの動きには非効率で無駄が多すぎる」

 例えばあの武蔵が召喚された戦場でも、アサシンはわざわざ宝具を使って敵を排除している。単純に敵を殺すだけなら、ナイフ一本でも十分な筈だ。無駄に魔力を消費する必要もなければ、宝具の正体を知られるリスクもある、アサシンの行動にはその性格を差し引いても合理性がなさ過ぎる。

 そうした不合理も令呪の強制と考えれば納得もできよう。

 だが、そうしなければならない理由には思い至れない。

「そんなブレーキをかけて何の意味がある?」

「署長はマシンというものに詳しくないようだな。ブレーキは減速のためだけのものではない。馬力を生かすには強力な接地力は必要不可欠だろう?」

 接地力がなければ、タイヤは宙で空回りするだけだ。それだけでなく、逃しきれぬ慣性の力はコントロールすら失わせる。おおよそ魔術師らしからぬ例えだが、その意味が分からぬわけでもない。

「ひとつ、面白いことを教えてやろう。彼女はアサシンのクラス以外も適正のあるクラスを持っている。一体何が該当すると思う?」

「アサシンに、アサシン以外のクラスが該当――?」

 ジェスターのからかうような問いに署長は考え込む。複数のクラスに該当するサーヴァントは珍しくないが、アサシンに限っては難しい。正当後継ではないとはいえ、彼女はれっきとした暗殺教団の一員だ。環境からしてアサシンであり、強いて挙げるなら狂信者という意味ではバーサーカーのクラスなら該当しそうである。

 だがそんな答えはあまりに普通すぎて、ジェスターがわざわざ問いかけるほどのものでもない。

 そこまで考え、署長は思考の迷宮を突然に抜け出てしまった。

 本来であるなら考える振りをしながら時間を稼ぎ、署長の魔術回路を調整し痛覚遮断と今後の対策を練る筈だが、そういうわけにもいかなくなった。

「……馬鹿な」

 思いの外あっけなく辿り着いた答えは、荒唐無稽ともいえるものだった。

 クラス・セイヴァー。

 それは、救世主のみがなり得るクラスである。

 署長がそのクラスを知っていたのは計画の付属資料にその名が記載されていただけであるが、それがどれだけ破格のクラスか想像はつく。何せ、クラス・ビースト以上の脅威度設定であったのだから。

「アサシンが生涯幽閉されていなければ、そうなっていただろう。クハハッ、たかだか暗殺教団ごときが歴史を変えていたとは驚きだな」

 それが本当であるなら、召喚されたサーヴァントとしての選定にも納得ができる。

 当初の想定ではアサシンクラスにおいてハサンは召喚されないと思われていた。理由は簡単で、直接戦闘能力において大いに不安があるからである。対人戦闘を主とする暗殺教団ではこの聖杯戦争では力不足なのは間違いない。

 ともすれば、アサシンが繰り出す歴代ハサンの業も、彼女本来の能力の一部に過ぎないことになる。救世主のクラスで召喚されなかったために各種能力も相当に低下しているに違いない。

「勿論証拠があるのかと問われればそんなものはない。だが彼女の血はかつてルーアンで舐めさせてもらった聖人の血となんら遜色はない。少なくとも聖人並の素養はあるのだよ。そしてそれ以上の可能性をアサシンは持っていた」

 ちろりとその血を舐め取った舌がのぞいた。

 そんなものが証拠になるわけもないが、少なくともジェスターはアサシンが想定を遙かに上回る能力を秘めた別格のサーヴァントであると認識している。実際、専門家が必要なスノーホワイトの再起動にも後一歩のところまでアサシンは“何となく”やっただけで辿り着けていた。

 彼女の実力など、問題ではないのだ。

 理屈を差し置き、全てを見通す能力が彼女にはある。

 足りていないのは、その自覚だけだ。

「アサシンはバネ仕掛けの玩具ってわけか」

「そうとも。そして令呪程度ではまだバネを圧縮しきれない。だからこうして拷問し、せめて肉体だけでも痛めつけている。神に捧げるべき穢れなき肉体だ――肉体の穢れは魂の穢れに繋がっていく。

 見てみたくはないか、このアサシンの羽化を。彼女は地獄にあって最も強き光を得る者だ」

 独特の嗤い方をしながらジェスターの眼は死徒とは思えぬ輝きを放っている。アサシンがいかに素晴らしい可能性を秘めているのかを署長に力説する。納得したふりをしながらも、署長は内心嘆息せざるを得なかった。

 ジェスターの言葉は狂人の戯言に近い――いや、そのものだ。

 アサシンは追い詰められれば追い詰められるほどその真価を発揮する――だから令呪で縛り、拷問を行い、レイプを依頼する。本来であれば、そんな言葉は相手にする価値もない。仮説の一つとしては面白いかも知れないが、その程度でしかないのである。

 この戦争で彼女がサーヴァントとして選定され召喚されたのは変えようのない事実。こちらが勝手に推測し計算した結果が下回っただけで、帳尻はどこかで必ず合っている筈なのだ。

 そして何より、もう状況的に戦争終盤に入っているというのに、アサシンの羽化などと言って拷問やレイプを悠長に行っている時間などありはしない。ジェスターの目論見が日の目を見ることなど考えにくい。

 ……いや、だからこそ、こうして捕まえているのか。

 焦っているのは、ジェスターの方だ。

「なるほど。アサシンの助命を条件にファルデウスに組したというわけか」

「ただ組するだけで最低一日延命できる。安い買い物だったさ」

 この話しぶりだと、ジェスターはファルデウスが最終的に約束を反故にすることも折り込んで動いている。

 初期段階で令呪を全画使いきってまでアサシンの行動を制限し、中盤においては《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》を揺さぶって盤上をコントロールすらしている。今現在においてもファルデウスを利用しているが、これまでの経過を見る限りそれだけでないことは確実だ。

「狂人の発想にしては計画が緻密だな」

「それだけ綿密に調べたのでね」

 強いてジェスターの計算外を挙げるとすれば、肝心のアサシンが予想以上に成長しなかったことだけ。

 だからこそ、こうして直接的な行動に移らざるを得なかったのだろう。

「……ならジェスター。お前はアサシンのためになると判断したならファルデウスも裏切るということか?」

「無論だ」

 署長の苦し紛れの質問に、ジェスターは悩む間もなく即答してみせた。

 どうやら本当に伊達や酔狂で生かされていたわけではないらしい。幾つもある保険のひとつ程度の扱いではあろうが、首の皮一枚で署長の首は繋がっていた。そうはいっても、ジェスターを裏切らせるだけの魅力的なプランなど提示できるようにも思えなかったが。

「頭が回ったか? 署長が生きている理由をわざわざ教えなければならないほど愚鈍ではないだろう?」

「起きたばかりの人間に無茶を言う」

「いやいや、私は君という人間には期待しているのだよ」

 ならばその根拠を示して貰いたいものだと署長は思う。大方、この聖杯戦争に精通しているからに決まっている。

「時間が欲しい」

 署長の言葉に、ジェスターは先とは異なり、しばし思案する。

「せいぜい……半日、だな」

 それはジェスターの我慢の限界――などではない。

 半日後には、この戦争の趨勢が確定してしまう。そうなればジェスターがどうしたところでアサシンの消滅は避けることはできない。

 署長がそのタイムリミットを黙って受け入れたことを確認し、ジェスターは腰を上げる。名残惜しげに署長からアサシンへ視線をやるが、アサシンに意識が戻る様子はなかった。

「……ここに長居しすぎたな。そろそろファルデウスも次の手を打つ頃合いだろう。せいぜい彼に阿り時間を稼ぐことにしよう」

 相変わらずどこまで本気かは分からないが、今のジェスターにとって時間は黄金に等しい価値を持つ。時間稼ぎについては本気であり信頼できると思うが、その他の点については欠片も信頼できそうにない。

 ファルデウスも馬鹿ではない。ジェスターの思惑を承知の上で使い潰すつもりなのは目に見えている。早晩互いの関係に罅が入るのは確実だろう。だとすればジェスターが設定した期限など当てにはできない。

「一つだけ――」

「ふむ?」

 この場から立ち去ろうとするジェスターの背に向けて署長は問いを投げかける。これがドラマならトレンチコートの刑事の役柄だが、立ち去ろうとしているのはジェスターの方である。

「世界と、アサシンなら、」

「アサシンを選ぼう」

 署長の問いかけを最後まで聞かず、ジェスターはまたも即答し、そのまま振り返ることなくこの部屋から逃げるように出て行った。心なしか、去って行く足音も急ぎながらも一定ではない。禁断症状に苛まれる麻薬患者と似た様子であるが、まさにその通りなのだろう。ここにこのままいれば、アサシンを殺さぬ自信がジェスターにはなかったのだ。

 五分ほど、そのまま署長は沈黙していた。

 ジェスターの言葉を反芻していた、ということもあるが、署長が沈黙していたのは部屋の外を警戒してのこと。ジェスターが戻ってきたり、外に見張りがいないか、傷口の痛みを堪えながら必死に気配を探る。勿論、見張りがカメラやロボットといった機械式の場合はどうやっても気配を捉えることなどできるわけないし、ジェスターがその気になれば署長には感知することはできないだろう。よくよく考えれば、以前にも同じことをやって傍にいたキャスターに気付かなかった署長である。その精度など当てになるわけもない。

 沈黙を破ったのは警戒することの無意味さを悟ったから、ではない。単純に、自らの肉体が限界に近いと判断したからだ。

「まったく。キャスターの忠告に従ったらこの様だ。あの男は疫病神だな」

 キャスターを罵り遠のきそうな意識を何とか繋ぎ止めながら、署長は声を出す。

 キャスターがアサシンとジェスターの接触を嫌った理由が良く分かった。その見識は正しいのだろうが、わざわざ作戦変更をした結果がこれではどうしようもない。

「……それで、これからどうすれば良いと思う?」

 確信などしていたわけではないが、答えが返ってくることを予想外だとは思わなかった。

「……もしかして、私に期待しているのかしら?」

 いつ目覚めたのか、などと聞くつもりはない。最初から気絶したふりをしていただけだ。この場に繋がれてから恐らくアサシンはずっと意識を保ち続け、隙を窺っていたに違いなかった。

 そういえば脳内麻薬を自在に調整できる業を持っているとも言っていたか。

「ジェスターは俺に期待しているらしい。なら俺もお前に期待してもいいだろう、アサシン?」

 それは一体どういう理屈なのか、言った署長自身分かるわけもなかったが、特にそれについてアサシンが追求することはなかった。ジェスターはアサシンに対して随分幻想を抱いているようだが、当のアサシンからしても眉唾物だ。このことについて署長もアサシンも最初から議論するつもりはなかった。

 もっとも、各サーヴァントの力がセーブされている事実はある。バーサーカークラスで召喚されなかったランサー、誰かに寄生せねば現実では何の力もないライダー、狂気に犯されていないバーサーカー、戦闘能力を一切持たぬキャスター。そこにセイヴァークラスで召喚されなかったアサシンというのを付け加えてみるのも良いだろう。

 アサシンはゆっくりとその瞼を開いてみせる。先の拷問で抉られた眼は回復したばかりだ。まだ馴染んでいないのか、その焦点は合っているようには見えない。感覚器がそうなら、手足も同様と思った方が良い。

「その様子だとお前も自力脱出は難しいようだな」

 とっくの昔に署長は自力脱出を諦めている。そうしたスキルはないし、何より利き手をなくしたことで満足に動くことなどできはしない。

「確かに無理そうね。関節を外してもこの手枷から抜け出せそうにない。いっそのこと両腕を切断してくれればなんとかなったかもしれない」

 手枷を軽く揺らしてその強度と手首との隙間を確認する。その身体を少しずつ削られていったというのに、アサシンのその言葉はどこか他人事のように聞こえてくる。

「宝具は?」

「行使した瞬間に魔力切れで消滅するわ。それに、恐らく令呪の命令で自決に類する行為は禁止されている。自爆してジェスターを巻き込むこともこれではできない」

 またも他人事のように言うが、アサシンはすでに何度となくそれを試そうとしたのだろう。ジェスターとして当然の安全策だろうが、もし令呪で禁止されていなければ署長は巻き込まれて死んでいたことになる。

 サーヴァントは明確な触媒がない場合、マスターと似通った性格の英霊が召喚されると聞く。自分を含めた周囲の危険を顧みない点はジェスターとそっくりである。

「こっちからも聞かせて貰うわ。何か希望の光でもあるかしら?」

「直接的な希望は見えないな……が、ジェスターの言葉を信じるなら恐らくキャスターのシナリオ通りに事態は動いていると考えて良い。希望を持つとしたらそこしかないだろうさ。俺達のこの状況も想定通りだとすれば腹立たしい限りだがな」

 最後の一言はただの軽口だ。さすがのキャスターでもこの状況はイレギュラーに違いない。

「根拠は?」

「あと半日とか言っているんだ。まだファルデウスはキャスター達を掃討できていないようだし、一気呵成に潰せていないことから最低限の戦力は無事に残っているようだ。そしてスノーホワイトがすぐに復旧していればそんなことはあり得ない」

「スノーホワイトさえあればどうにかなりそうな言い方ね?」

「それをどうにかしちまうってのがスノーホワイトって宝具だ。スタンドアローンである限り無力ではあるが、ネットワークに接続できれば外部コントロール可能な機器を全て掌握される。一騎当千のサーヴァントも万軍には勝てないって寸法だ」

 まだ試験段階での話ではあったが、東部湖沼地帯での対サーヴァント試験運用では、《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》一人で六機ものM240機関銃を同時に操り制御することに成功している。遠隔操作が可能な現代兵器に限らず、宝具であっても使用者をスノーホワイトがバックアップすることで、その負荷を著しく軽減し、精度の向上も実証されている。

 最終的には《フリズスキャルヴ》のオプション兵装である無人機《エインヘリヤル》を衛星軌道から敵地へ投入し、スノーホワイトで制御するというヴァルキリー構想なるものが目標らしい。実に合衆国らしい発想だが、軍事的には理に適っている。

 肝心の無人機開発が難航しているため今回の聖杯戦争では見送られたが、無人機でなくとも「魔術師」「強化外骨格」「宝具」「スノーホワイト」という組み合わせであれば容易にサーヴァント並の戦力を得ることができる。搭乗者の安全性に難点があったため署長は採用しなかったが、スノーホワイトを完全解放できる今、ファルデウスがそれをしない理由はなかった。

「何はともあれ、半日のリミットはスノーホワイトの解放時間と見ていいだろうさ」

 思ったより時間を稼げているが、キャスターが見積もっていた時間よりも少しばかり短い。キャスター達がここを襲撃するとしても、時間的にはギリギリとなるだろう。

「では、半日以内に助けが来なければあなたは殺されることになりますね」

 さっきから他人事のように言っているが、今度こそ本当に他人事だった。

「お前を犯すって言えば多分延命くらいしてくれると思うぞ?」

「私を犯すのなら、魔力を絞り尽くして殺します。私の糧となる覚悟があるのなら、どうぞお好きに。あなたの死は無駄にはしません」

「お前、それ本気で言っているだろ……」

 サーヴァントは生粋のソウルイーターだ。アサシンが意識して魔力を吸収しようとすれば、魔力体力共にギリギリな署長は搾り取られて確実に死ぬ。要は本人の加減次第だが、この様子だとむしろ積極的に吸い取ろうとする意志すら感じられる。欠片も署長を助けるつもりはないらしい。

「まぁ、恐らく大丈夫ですよ」

「何がだよ!」

 何の慰めとも思えぬアサシンの冷徹冷淡な言葉に思わず声がでかくなる。この場はできる限り体力消耗を抑えるべき場面だが、その前にストレスで胃に穴が空きそうだった。

 だがアサシンが言いたいのはそういうことではない。

 それは、希望の光というものだ。

「あと数時間もすれば、助けは来ます」

 アサシンの言葉は、推測でありながら確信に満ちたものだった。

 

 

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最後まで残った敵。
秘書官。英雄王VS黄金王の時に色々と仕向けているのをファルデウスに見破られ、失態を冒した副官ともどもランサーの相手をさせられている。使っている宝具は夢の世界で大きさを自由自在に変えていた大黒天。
ちなみに彼女らには自由意志はなく、操られている状態。

アーチャーの行方。
ちゃんと退場している。少なくともランサーはこのスノーフィールドにいないことを確信しており、やや自暴自棄になっている。

銀狼。
元々死にかけだったりするので捕獲され令呪が奪われている。ともあれ、放置されていればもう死んでもおかしくない頃合いなので、結果的に延命してはいる。

レギヲン。
特に意味はない。

“世界が滅びる”というリスク。
正確にはこの時点では、その可能性がある、という程度。ただ、何が起こるかファルデウスにもわからないのでギャンブルには違いない。

クラス・セイヴァー。
エクストラでのラスボス。つまり到達しちゃった人というくらいの認識。プレイしていないのでその凄さが実は良く分かってない。

アサシンの令呪。
そろそろここらへんでジェスターがアサシンにどんな命令をしたのか推理してみるのもいいかもしれない。
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