Fate/strange fake Prototype -Another Player- 作:縦一乙
魔術師と相対する現場には即時臨機応変な対応が求められる。
これは魔術師を同じ人間ではなく人間の上位互換として扱い、高い知性による貪欲な探求心と魔術という看過できぬ特殊アビリティがあることを前提とした結論である。彼等独自のテクニックとセオリー、そして豊富なバリエーションは従来の軍隊でそう簡単に相手取れるものではない。
この問題点を一朝一夕に解決することは難しいが、策がないわけではない。ファルデウス率いる“レギヲン”ではそのことを重視し、従来のピラミッド構造から並列多重スター構造へとその指揮系統を変えている。現場指揮官は無論、その末端に至るまで多くの情報と大きな裁量権を与えることで、その場凌ぎながらも対応策を打っていた。
だからだろう。
こうしたヘタイロイの猛攻に対して、レギヲンは慣れぬ敵にあっても相手を侮ることもなく、よく耐えていた。
スノーホワイトが試算した通常戦力による対魔術師屋内戦闘による予想全滅時間は約三分。これを彼等は三倍以上の時間持ち堪え、更に自軍の数倍に及ぶ魔術師を逆に葬り散っていた。奇襲を受けながらのこの戦果は奇跡にも等しい。
彼等は自らを犠牲に、貴重な時間を稼いでくれた。
「報告します。各メインゲートの充填封鎖終了しました。メインシャフトの完全硬化まで残り一〇分。B2、C3、D5フロアの部隊から通信途絶。これで第二層まで完全制圧されました」
「第八区画の防火扉を閉じてください。残った部隊はその隙にバリケードを再構築。遅滞戦闘をこのまま継続しますよ」
陽が昇ると同時に仕掛けられたこの奇襲によって地上戦力はあっけないほど簡単に全滅していた。部隊の三割をものの三〇分で消耗したというのに、ファルデウスの口調は変わらない。上に立つ者の資質とかそういうものではなく、単純にこれくらいの被害は想定済みというだけだ。
奇襲当時、ファルデウスがたまたま仮眠から目覚めており、作戦司令室にいたことが幸いした。直後にファルデウスは基地第五層までの破棄を決定し、“偽りの聖杯”に至るメインシャフトも充填剤注入による封鎖を指示してある。
本来籠城目的の指示であるが、目的はほんの一時間ばかりの時間稼ぎ。いかに強大かつ多勢である魔術師を相手にするとはいえ、この決定はあまりに慎重すぎるとも思えた。これでは誰も――ファルデウス達すらも“偽りの聖杯”を確保することができない。確保するにしても、年単位の大掛かりな復旧工事が必要となってくる。
それでも、これが勇み足だったとは思わない。
「皮肉なものですね。まさか我々がここの防衛にあたるとは」
「まったくです。ですが、そのおかげで被害は最小限に留まっています。敵司令官に一言お礼を言いたいところですな。この下手くそ、と」
椅子に座って頬杖を突くファルデウスの独り言に隣で直立して指揮を執る口髭副官も同意する。最後に添えられた口髭副官の言葉に司令室の各所から含み笑いが漏れ出てくる。
上層部を赤く染めた基地の概略図がメインモニターに映し出されている。赤は敵浸透具合を分かり易く示したものだが、その侵攻速度はプロの軍人と比べればあまりに遅い。魔術師の火力と機動力、そして一〇〇名を超える数は恐るべきものだが、残念ながら敵指令官はそれらを生かし切れていなかった。
署長率いる《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》ならば、今頃この司令室か“偽りの聖杯”のどちらかは制圧を完了していることだろう。ファルデウス率いるレギヲンならば、その両方を制圧できている。
これは別に根拠のない自信から来る勘違い、などではない。
並の軍隊でいきなりこの基地を制圧するのは難しいだろう。専門の特殊部隊だって手こずるに違いない。精鋭揃いの“レギヲン”だって基本条件は同じである。唯一違うことといえば、彼らはこの基地の制圧訓練を数年前から繰り返し行っていた点である。
ファルデウスが根城にしているこの基地は、本来であればこの聖杯戦争中に使用されることのない秘密施設である。しかし大深度地下に“偽りの聖杯”やスノーホワイトといった重要機密が設置されている以上、聖杯戦争の過程で敵に発見され確保される状況は想定される。
元々ファルデウス達は戦後処理をするための部隊でもある。こうした基地制圧も仕事の内。攻め入ることを検討した以上、この基地の弱点は知り尽くしている。奇襲を受けた段階でどれだけ早くその弱点をカバーできるかが鍵だったのだ。
彼等は時間をかけすぎたのだ。
ファルデウスの視線が基地内における敵分布を指す。赤い領域は徐々にではあるが確実に下に伸びつつあるが、それでも遅い。この調子ならば、第五層に到達する前に時間切れ。“偽りの聖杯”は誰の手に届かぬ場所へと隔離され、スノーホワイトは再起動を完了する。駆逐するのは難しいことではない。
「……などと楽観視はできない、か」
「? 何か言われましたか?」
「いえ、なんでもありません。引き続き状況に注意してください」
魔術師を理解せぬ口髭副官にファルデウスの危機感を共有させても何かできるとも思えない。余計な情報を与えるより、ここは混乱を避け手堅く対処することを優先した。部隊の指揮は口髭副官に完全に任せ、自らはこの状況の分析に入る。
敵の正体には当初から気付いている。彼等は序盤で武蔵に蹴散らされた雑魚が寄り集まってできた集団だ。烏合の衆とまではいかないが、即席部隊であることには違いなく、現状のように連携などとれていないのが当然だ。
だが、それだけにファルデウスは彼等の司令官が恐ろしく思えていた。
先ほど口髭副官は敵司令官を指して「下手くそ」と笑っていたが、全員が笑う中でファルデウスだけは笑うことはできなかった。
魔術師は己の魔術を秘匿するためにスタンドプレイを好む傾向がある。いかに切羽詰まった状況であっても、一〇〇人以上の魔術師に同じ目的を持たせ、彼等をまとめあげることなどできることではない。
ましてや、今までファルデウスは彼等の存在に気づきもしなかったのだ。初日敗退からこの瞬間まで、彼等は一体どこで何をしていたのか。誰か一人でも裏切れば致命的、そうでなくとも誰か一人尻尾を出せば、その痕跡をスノーホワイトが見逃す筈がない。《ロバの竪琴聴き(オノスリューリラ)》ですら彼等の情報は全くなかったのだ。
指揮能力など、問題ではない。
脅威であるのは、異常なまでの統率力。
それでありながら、敵の大将は最初から彼等の指揮を放棄している。下手な連携など逆効果、大まかな指示だけを残し後は前線指揮官の判断で行動。他部隊の危機をろくにカバーすることもなく無駄が多い動きにも、それならば説明も付く。
問題は、その大まかな指示が何を目的としているのか分からないことか。
「……捕えた者達はどうなっていますか?」
頭を巡らすが、城攻めを行う理由を他に求めるならば、これぐらいしかファルデウスは思いつけなかった。
傍らにいた基地内管制を担当しているオペレーターに確認を取る。急な質問であってもオペレーターはすぐさまファルデウスの質問の意図を察し、モニターに順に情報を呼び出してくる。
「合成獣は第六層で拘束中です。カメラにも異常はなし。署長とアサシンは第四層で拘束中です。カメラと盗聴器の類はジェスター氏に取り外されていますが、熱源反応から同じく拘束中と思われます。そして――」
「第四層、ですか?」
「はい。第四区画Cブロックです」
引き続き報告しようとするオペレーターの台詞を遮り、ファルデウスは確認する。オペレーターの手元で表示される画像には檻の中で鎖に繋がれた合成中のライブ映像。アサシンと署長らしき二つの熱源が表示されている。続いて操作しようとするオペレーターの行動を手で制し、画面上に表示された位置を確認する。
第二層までは敵に占拠された。第三層も数分以内に占拠されるだろう。いくら遅滞戦闘を行っても第四層をこのまま守ることはできそうにない。
「これは、失念していましたね」
口元を覆って自らのミスに今更ながら気付く。
署長とアサシンが敵の目的であるとは考えにくい。彼等の生存は偶然の産物であり、敵はその生死の確認すら取れていない筈。そんな確証のないものに時間を費やすとは思えない。
しかしジェスターは別だ。ここでアサシンを奪われるようなことがあれば、彼女に固執するジェスターがどう動くか分からない。使い潰すつもりだが、ここで寝返られたらやっかいなことこの上ない。
ひとまずジェスターに二人を安全圏に移動させようと指示を口にしようとした直前、上層部の区画がまた一つ赤く染められるのが目に入った。
ランサーに破壊された七番格納庫がある区画。元より復旧できる見込みがなかったので侵入されぬよう天井を厳重に塞いだだけで放棄された区画だ。搬入リフトは生きているが、真下にある区画は充填剤によって硬化してある。ここから下へと侵入するのは不可能――
「……、何を言いかけた?」
「はっ――捕らえた者の情報をお求めの様子でしたので、」
ファルデウスの突如としたその気迫に圧され、オペレーターは一度唾を飲み込んだ。
「スノーフィールド市民の情報を出そうとしておりました」
その言葉に、ファルデスは敵の狙いがこれだと理解した。
この基地には付属となる避難シェルターが外周部に存在している。基地上層と繋がっているもこの施設には、現在八〇万市民が施設一杯に詰め込まれた状態にある。
あり得ぬ選択肢ではない。むしろ目的としては真っ当であろう。八〇万もの命はこれを論議するまでもなく、犠牲にしてはならぬもの。この戦争に巻き込まれ死なせるようなことはあってはならない。
けれどそれは、魔術師としての考え方ではない。
「……ハハッ。これは傑作です。公務員たる我々が市民の犠牲を許容し、呼ばれもせぬのに湧き出た蛆虫風情が市民の保護を進んでするとは……」
馬鹿にするのにも程がある。
挑発するにも分を弁えろ。
普段の柔和な態度でありながらも、ファルデウスの身体から我知らず殺気が漏れ出てくる。殺気を敏感に感じ取って思わず振り返る者も何人か。隣で指揮を執る口髭副官ですら素知らぬふりをしながらも、さりげなくファルデウスから距離を取っていた。
「副官」
「はっ。なんでありましょう」
「スノーホワイトの準備を急がせろ。システムチェックは省略。オプションは戦闘モードで出撃準備」
「はっ。スノーホワイトのシステムチェックを省略。オプション機は戦闘モードにて全機出撃準備急げ」
俯きながら指示を出すファルデウスに口髭副官は疑問を解消することもなく復唱し命令に従った。立場上ファルデウス自らが命令してもいいのだが、今はダメだ。このメンタルで誰かと面と向かうには、些か以上に自制が必要だった。
小さく深呼吸を二回。頬を叩けば、いつものファルデウスがそこにいる。
「……ジェスター氏はどうしていますか?」
「現在第三層エレベーターホールにて防衛中です」
先のファルデウスの殺気に咄嗟に答えることのできぬオペレーターに変わって口髭副官が答える。
手塩にかけて育ててきた精鋭が怯えるほどの殺気を出していたことに、ファルデウスは反省する。
「彼に急ぎ七番格納庫の様子を確認してもらうよう連絡してください」
「七番格納庫――お言葉ですが、ジェスター氏が応じるとは思えません」
背後にいるアサシンが奪われる可能性はジェスターの足を大きく引っ張ることだろう。実際、あの場が持ち堪えているのはジェスターによるところが大きい。ジェスターがそこから抜ければ戦線は瓦解し第四層まで一気に攻め込まれる可能性がある。
それに、七番格納庫に行くには敵中央を突破していく必要がある。いかにジェスターといえどもそうそう簡単になせることではない。
「なら、一個小隊を援軍に向かわせましょう。ジェスター氏が許可するならアサシンもより安全な場所へ移動させると伝えてください。そう言われて首肯しないわけにもいかないでしょう」
「……よろしいのですか?」
「二人の元にはランサーを向かわせます。想定外ですが、ここでジェスター氏にはご退場願いましょう」
ジェスターの不運はアサシンの元へ戻る間もなく奇襲に応戦せざるを得ない状況に陥ったことだ。アサシンの安全を確保するためにはファルデウスの協力が必要であり、この要請をジェスターは断ることはできない。断るようならば、二人の命を保証しないと暗にファルデウスは告げている。勿論、保証どころかジェスターが七番格納庫に行った直後にファルデウスはランサーを用いて二人を始末する腹積もりである。
「これから敵は何かを仕掛けてきます。不確定要素を先んじて排除するに越したことはありません」
「何か、と申しますと?」
「さあ。それはまだ何とも言えませんね」
敵の目的は、八〇万市民の脱出だ。七番格納庫を確保したのは搬入リフトを下ではなく上へ動かすためだろう。一〇〇名以上の魔術師を総動員しながら、やることは脱出ルートの確保でしかない。
これは謂わば前座だ。現状を許容するのであれば、わざわざ八〇万市民を脱出させる必要はない。逆に言えば、これから許容できぬ何かをするから、市民の脱出を試みたのだろう。
敵はファルデウスやスノーホワイトなど眼中にない。
狙うはただ一つ、“偽りの聖杯”のみ。
「彼等は“偽りの聖杯”を――倒すつもりです」
このファルデウスの言葉を裏付けるかのように、その瞬間、激しい衝撃が基地全体を揺るがした。
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「ええっ! まさかもう始まっちゃったのかな!?」
基地を連続して揺るがす衝撃に足を取られながらもフラットは慌てながら基地の通路を駆けていた。
ヘタイロイを形成させた立役者でありながら、その周囲にヘタイロイの護衛はいない。作戦が始まってからある程度過ぎた段階で彼の役目は終わっていたのだ。フラットなどいなくとも後はどうにでもなる。それ故の単独行動だ。
将でも兵でもない今の彼は、一人のマスターとして行動している。つまりは、アサシンの救出にフラットは動いているのである。
フラットとアサシンの間には魔力供給のパスがある。現在はアサシン側からそのパスを閉じられているようだが、パスそのものがなくなっているわけではない。このスノーフィールドの隔離結界を突破し、時計塔の学長の下まで連絡をしてみせたフラットである。少々手間取りはしたが、アサシンの大まかな場所くらいならなんとか把握できる。近付けば近付くほどその位置は正確に把握できる。
「アサシン、聞こえるなら返事をして!」
声にも出してみるが、反応はない。
電子欺瞞(ジャミング)は予想できてはいたが、魔術による通信も各層毎に強力な結界が張られている。ここまで近付いても反応は返ってこない。意思疎通を図るにはもっともっと、近付く必要がある。
駆け抜ける通路は地下墓地(カタコンベ)を彷彿とさせた。あちこちに戦闘の痕がみられ、血塗れの死体が思い出したかのように横たわっている。敵味方問わず死体の横を通り抜ける度にフラットは十字を切った。この責任は全て自分にあると本気でフラットは思っている。ヘタイロイを利用するような形になったことにも罪悪感を抱いていた。
ただ、そんな彼であっても嘆き悲しみ足を止める愚だけは犯さなかった。最小の犠牲で最大の成果を得る。避けられぬ争いならば速やかに、最大の効率をもって終わらせる。ヘタイロイの形成と時計塔との交信、アサシンの距離と方角を特定するという偉業を成し遂げながらフラットがもっとも心砕いたのが作戦に向けての覚悟である。その下準備はからくも役に立っているようである。
とはいえ、フラットの目論見が順調に進んでいるわけではない。
「ま、たっ!」
荒い息を抑えながら、これで三度目の外れを引く。
この基地の図面は事前に頭の中に入れてある。問題はその図面の中に隔壁という項目がなかったことだろう。
隔壁というより防火壁に近い薄さだが、それでも人力で開けられるものではない。ダメ元で傍らの走査端末から隔壁解除を試みようとするが、案の定自壊措置が作動しており中の電子回路はショートしていた。さすがのフラットもこれでは解除のしようがない。
「どうしよう……やっぱり無理してでも突破するべきかな……」
こと魔術全般について天才の域に達しているフラットであるが、物理的な破壊は性格的にも苦手な分野にある。先日には魔力切れで危うく死にかけたところだ。多少回復したとはいえ無理できるほど回復しているわけでもない。魔力にものをいわせて突破しても助けるべきアサシンに供給する魔力がなければ意味がない。
脳裏に描いた地図を検討するが、無駄に広いこの基地はどのルートも迂回するのに時間はかかるし、次も隔壁が閉じていた場合には同じように悩むことになる。ならば、ここいらで覚悟を決めるべきだ。
フラットの手に武器はない。護身用にと結構な物を渡されもしたが、丁重に辞退した。こんな状況であるが非武装だからこそ平和的解決に繋がるものがある筈だとフラットは信じている。その思いが見事に裏目に出た瞬間である。
呼吸を整え、肉体に魔力を通して強化する。魔術師として身体は多少鍛えてはいるがフラットに武術の心得などはない。なのでやることはシンプル。隔壁のとっかかりに指をかけ強引に開かせるだけだ。隔壁の材質や各部強度を読み取る限りではこの方法がもっとも魔力消費が少なく、派手な破壊音から敵を呼び寄せる心配も少ない。
その判断が、フラットの命運を分けることとなった。
悩み時間をかけていれば死んでいただろうし、強化の魔術以外を選択しても死んでいた。窮地に陥りながらも無自覚にピンポイントで回避しているからこそ、フラットは重要危険人物に指定されるのである。
強化完了した瞬間に、それは来た。
火花が散ったと見粉ったが、それが瞼の裏でない確証はなかった。
見るより早く知るより先に、吹き飛ばされたという感覚だけを得る。激痛は後から頼みもしないのについてきた。
「――なっ? くっ! かはっ!」
あまりの衝撃に受け身も取れずに固い通路の床に無様に落ちる。
武器は持たずともプロテクターは装着している。衝撃は胸部プロテクターが一手に引き受けていた。手榴弾を始めとする破壊を撒き散らすタイプの武器は一定の距離がなければその効果を発揮することはできない。その意味ではフラットが助かった一因は距離が近すぎたおかげだった。
「これはこれは。そこにいるのはもしや、フラット・エスカルドスかな?」
ガラガラと隔壁が崩れる音に混じって隔壁を潜り抜ける男が一人。
隔壁の向こう側にもフラットと同じように隔壁を壊そうとした者がいた。ただそれだけの事実。もっとも、このタイミングには悪意が存在している。
隔壁を爆散させた人物は、隔壁の向こうに誰かがいることは百も承知であったのだから。
「そういうあなたは……ジェスターさん、ですね?」
罅が入った肋骨を治癒しながら、フラットはふらふらと立ち上がる。
見覚えのある容姿ではない。それでもジェスターと確信したのはフラットの目からその人物が人間に見えなかったからだ。消去法ではあるが、こんな異形がそうそう他にいるわけもない。
アサシンの正規マスターにして、この聖杯戦争トップクラスの武闘派魔術師。事前に聞かされた情報はどれもこれも警戒するよう促すものばかり。遭遇したら必ず逃げるよう、お節介なヘタイロイメンバーに幾度も念押しされていた危険人物。
「ク……クハハハハッ。その見識眼には恐れ入る。そして想定以上の強運の持ち主。始めましてだ、フラット・エスカルドス。この奇襲の首謀者は君だと思っていたのだが、こんなところで何をしている?」
一歩、ジェスターは足を踏み出す。先の一撃で両者の距離は多少開いたが、その気になれば一瞬で詰めることは可能だった。
それが分からぬフラットでは、ある。
「アサシンを助けにいくところです。どうです、俺と一緒に行きませんか?」
敵味方を問うことすらせず、フラットは本心から己の目的を真っ直ぐに告げ、ジェスターに同道を提案してみせた。
つい数秒前に殺されかけたこともフラットにとっては些事。今まさに殺されようとしている事実ですら気付いていたとしても意に介すことはなかっただろう。彼の言葉が、ジェスターに届いている、それだけで彼には十分過ぎた。
ジェスターの顔に浮かべた笑みが、静かに消えてなくなる。踏み込もうとしていた足の力が抜けていく。戦闘状態を一時的に解除しながらも、ジェスターは瞳孔を開いていた。
ジェスターが見いそうとしているのはフラットの身体の動きでも思考ですらない。心の在処、その本性。穴を穿たんとばかりの視線を浴びせながらも、フラットの動きにはまるで変化はない。
フラットは、別段何かを待っているわけでも仕掛けようとしているわけでもない。
単純に、待っているのだ。フラットの提案に対する、ジェスターの答えを。
「……何故、私にそんな提案をする?」
「え? 助けたくないんですか? ジェスターさんはアサシンのマスターと聞いていたんですが、違いましたか?」
質問には疑問で返された。
フラットにとって、それは不思議なことではない。マスターはサーヴァントを助ける者という図式はフラットにとって不変のものとして刷り込まれている。精度の高い事前情報や真摯な忠告があったとしても、ジェスターを前にこの子供じみた強固な観念をフラットは臆面もなく主張してみせる。
ここは呆れるべき場面だ。話し合いの通じる相手ではなく、そうでなくとも戯れ言と切って捨てられるのが常道。どこかで誰かが走る音をバックに数秒の沈黙があってもそれは誤差の範囲だ。
案の定、ジェスターの返答を再度待っていたフラットは、一瞬のうちに懐に入り込んだジェスターによって二度、宙を舞うこととなる。
今度の滞空時間は長かった。
「へぷ……っ!!」
雷光一閃。
彼我の戦力差をよく感じさせる一撃に間抜けな呼気がひとつ。滞空した後でさえも威力は相殺しきれることなく、ほんの少し前に駆け抜けた通路を球のように回転しながら逆行してく。
ようやく回転が止まったのは通路の分岐路であるホールの壁にぶつかったからだ。三層と二層を繋ぐ階段こそ壊されているが、それだけに天井は高く、そして広い。休憩所もかねていたのか中央には簡易式の机と椅子が無造作に置かれてあった。電源系統が破壊されたのか光源はなかった。
一体何十メートル飛ばされたのか判断はつかない。常人なら死んでもおかしくない一撃の筈だが、幸いにもフラットにはまだ命があった。
「ごへっ、かは……ッ!」
血反吐を吐き出し気道を確保しながら、荒い呼吸を自覚する。
あまりに早すぎて何をされたのか分からない。
両足が分かり易く骨折している。さっき修復したばかりの肋骨が再び折られていた。推測するに、足払いをかけられた直後に胸を殴られたのか。酷いことをするなぁと思うが、言葉にすることはできなかった。
脇腹が酷く痛んでいた。零れ落ちる血液は鮮やかに赤く、泡混じり。折れた肋骨が片肺を傷つけたのは確実だった。出血量から血圧の高い血管は傷つけられていないと判断するが、安心できるものではない。ひとまず即時に死ぬ可能性は低いが、早急に対処する必要はあった。
骨折などと違い、内臓系統の修復は難易度が跳ね上がる。それをこの激痛の中で行うのはいくらフラットであっても難しい。
「クハハハハハハッ! さすがはフラット・エスカルドス! 殺すつもりであったのにそれを耐え凌いでみせるとは素晴らしいじゃないか!」
先の深刻な顔つきはどこに行ったのか。カツンカツンとわざとらしく足音を立てながらジェスターはフラットに近付きつつあった。通路の光源は失われていないため、その影法師が長く伸びていた。
さっき通った時は明るかったような気がした。薄暗い二層部分のテラスに人影を見た気もするが、はっきりしない。
「しかしいかんな。敵を前にして説得するなど聖人か愚者のやることだ。聖人気取りも結構だが、失敗すれば愚者の誹りは免れん」
「ぼれ、どっ……いっじょにっ……!」
ジェスターの言葉に条件反射するかのようにフラットが口を開くが、吐血するばかりで言葉にはならない。
しかしジェスターに何が言いたいかは、よく伝わっていた。
フラットの意志は、その身体よりもはるかに丈夫にできていた。
「成る程、それが君の原動力というわけか。いやはや、ここに至って挫けぬ意志があるとは素晴らしい。クハハッ……この歳になって浮気をしたくなるとは思いもよらなんだ」
「……?」
その言葉が意味するところをフラットは知らない。ジェスターがアサシンに拘泥する理由など思い至ることすらできはしない。ジェスターがアサシンとフラットを重ねて見ているなど、考慮の外だ。
「だが君は、もう喋らなくていい。私は、ちゃぁあんと理解しているさ。考えるべきは、いかにスマートに殺されるかだ」
ジェスターの歩みが止まった。
ホールの入り口で立ち止まるジェスターは丁度通路からの光を遮る形になる。逆光のためその表情は見えないのに、その赤い瞳だけが炯々と光り輝いていた。
黒い影は、フラットの足元にかかっている。
「君の噂は聞き及んでいる。その脅威も体感している。寄り道をしている暇などないのだが、君という存在は別だ。時間は惜しいだろうが、確実に仕留めなければならない。その首を刎ね、その眼は潰さなくてはならない」
一歩、ジェスターは足を進めた
通路からホールへと、場所を移動する。
黒い影が、赤く、紅く、朱く染まり――
ふと、フラットはそんな状況にあって疑問に感じた。
光を遮るジェスターがあってこその影。ジェスターの赤い影はそのままだというのに、遮蔽物の形は五体揃っていなかった。
具体的には、その頭部がない。
「―――あ?」
とん、と何かが落ちる音がして、その何かから音が漏れた。
ほぼ同時に、ジェスターの身体にいくつもの赤い線が走ったのが見える。いつの間にかその両脇には、鞘を迎えるように納刀する老体と、輝く銀糸を五指から放つ女が互いに背を向けて侍っていた。
最後に頭上から、音もなく降ってくる小さな影が一つ。崩れ落ちようとするジェスターの身体はそれすらも許されず、六連男装をその身に刻まれた一つの魔術結晶は、一瞬赤熱しただけでこの世から塵も残さず消し去られた。
降って落ちてきた影が赤い影に着地し、その上に転がる頭部の前髪を乱暴に掴み取り、その目線を合わせてみせる。
「ええ、全く同意します、ジェスター・カルトゥーレ。ここは確実に、あなたという脅威を排除するべく、全力を持って仕留めましょう」
「……でぃーで、ぢゃん?」
ジェスターに殺されかける瞬間にあって、フラットが回復の手を休めることはない。そんな彼であっても、突然のティーネの登場には思わずその手が止まっていた。
何故、彼女がこんなところにいる?
この人達は、何者だ?
渦巻く疑問の中に彷徨うフラットであってもティーネは一顧だにしない。その視線は鋭く、真っ直ぐ伸ばした手の中にあるジェスターの頭部へと突き刺さっている。ジェスターはこの状態にあってもまだ完全に死んでいるわけではない。
てっきりティーネはジェスターを見ているのかと思いきや、それは違った。
彼女が見ているのは、正確にはジェスターの耳元にあるカメラ付きの通信機器。その先にいる存在に、ティーネは己の存在を誇示していた。
「さよなら、ジェスター。そして次はオマエの番だ、ファルデウス――!」
再会と離別は簡潔に。そして敵への宣誓を行って、首はティーネの手から零れ落ちる。わずか一メートルと少しの高さでありながら、床に落ちた頃には燃え損ねた金属製の通信機器が小さな音を立てただけだった。
「ディッ、ディーデッ――」
「喋らなくて結構です。動くと傷に障ります――だから騒ぐなと言っています!」
ティーネに抱きつき本物かを確かめようとするフラットの頭をジェスターと同じように頭を掴んで大人しくさせるティーネ。少々気恥ずかしいのか、その顔は赤みがかっていた。
「げほっ、ぶはっ! っで、どうしてここにティーネちゃんが!? この人達は一体!?」
「落ち着いてください。まず吐き出した血を拭いてから喋りましょう」
肺の出血を止め、気管内へ逆流した血液を吐き出したフラットの口元を幼子の面倒を見る母親の如くティーネはハンカチを取り出し拭い去った。
重傷であった内臓を自身で治療した今、フラットの外傷を治しているのはティーネが連れてきた魔術師達だった。
二層のエントランスから素早く降りてきた彼等は即座に周辺警戒を行い、そしてその内の数名がティーネの指示の下、フラットの身体を分業して癒やし始める。
骨折は両足や肋骨だけではない。吹き飛ばされ転がった際にフラットの両手の腕や指はあらかた折れてしまっている。時間と魔力の節約のため治療を諦めていたが、同時進行で外部から治療される分にはそれほど問題はない。
状況からしてティーネを中心とした部隊なのはフラットにも理解できた。けれども、彼等の手にある武器は、その全てが宝具である。
「そうさ、フラット・エスカルドス。彼等は《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》。今は彼女の指揮下にあるが、仲間と思って貰ってかまわない」
ティーネや《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》とはかなり遅れて小太りの男が二層から垂らされたロープを伝って降りてくる。マスターであるフラットには、その男がサーヴァントであることは一目瞭然だった。
「キャスターさんですか! お目にかかれて光栄です!」
「その反応は嬉しい限りだが、握手は後にしておこうか」
さすがのキャスターも全ての指があり得ぬ角度に折れ曲がった手を握るには抵抗があったらしい。代わりにティーネが骨の位置を直すべく手を握るとフラットの喉から愉快な悲鳴が漏れ出てくる。
「さて、フラットも少し治療には時間がかかる。現状を説明するのは一度で済ませたいのだが?」
周囲を警戒する《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》を意にすることなくキャスターは傍らに設置してある椅子に腰掛け、葉巻を出しながら床に視線を向けていた。ティーネは治療に専念しているように見えて、その実下方からの動きに警戒している。最後にフラットが自らの足元に語りかけた。
「大丈夫ですか、ジェスターさん。そんな姿になって痛くありませんか?」
三者が注目していたのは、ジェスターが残した赤い影。光を遮る物がなくなった今になっても存在する赤い影は、その実よくよく見れば、薄い血で構成されていた。
「……満身創痍の君は他人より自分を気遣ってはいかがかな?」
フラットの言葉に返す声がある。
耳にした覚えのない高い女の声。
平面であった赤い影が、立体的に再構成を始めていた。
魔術世界には延命するためにその身を他のものへと置き換えることはままある。吸血種ともなれば、それはより顕著にもなろう。身体はただの器でしかなく、その行き着く先は個々人によって異なる。ジェスターの場合、それが赤い影の如き血液だっただけ。六連男装はジェスターにとって代わりの器であると同時にただの操り人形に過ぎなかった。
血が人を形作る。そこに臓器と筋肉が生み出され皮膚が表面に張り巡らされる。頭部には生糸の如き金髪が流れ落ち、眼窩から真っ赤な球体が迫り上がる。
この麗しき赤眼金髪の少女こそ、ジェスターの魂が覚えているかつての姿。吸血種に成り果てる前の、人間だった頃の残滓。
その血塗られた経歴を知る者にとってジェスターの容姿は逆に恐ろしさを醸し出すものでしかない――
「えっと……最初から演技と信じてはいましたけど、まさか女性だったとでばぎゃっ!」
「何をジロジロと見ているのです。アレに劣情を催す程あなたは馬鹿なのですか。キャスター、あなたもです」
「ばっか、裸の女がそこにいるのに見てやらないってのは失礼に当たるだろうが」
中指を鼻のラインに沿わせ、ティーネの人差し指と薬指が容赦なくフラットの両眼を突いた。視線をキャスターにやるも、好色として有名なこのサーヴァントはティーネの言葉に耳を貸すことなくジェスターの裸をガン見し続けていた。
「……ジェスター、あなたもさっさと服を着なさい」
「あいにく燃やされた血液が足りなくて服までは構成できなくてね。この姿だって十代前半だった頃か。全盛期の私の姿を晒せずに逆に恥ずかしい限り――ああ、いや、申しわけない。キャスター、そのコートを貸して貰えるかな?」
ティーネの手が自分に向けられたのを見て渋々肌を隠すジェスター。既に格付けが終わっているだけにティーネの怒りに触れたくはないのだろう。何せジェスターの本体たる血液が足りていないのは五度目に殺された時にティーネに散々燃やされたからである。
「それで――私の演技はどうだったかな? 我ながら気が利いていたと思うのだが」
コートの裾を自らの体格に合わせて折りながら、死徒は恐れ多くも自らのアドリブ劇を稀代の劇作家に問うてみる。
ジェスターの目的は最初からアサシンの救出にある。そのためにはファルデウスの眼を欺く必要があり、そのためのイレギュラーを何としても欲していた。その意味ではフラットと遭遇したのも何も完全な偶然というわけではない。最初の隔壁爆散はともかく、死徒が明確に殺そうとしていたのならあんな無駄の大きなことはしない。その場で五体を引き裂いて殺した方がよっぽど確実で手間もかからない。
「あー……そう、だな。三文くらいは貰えるんじゃないか?」
「三文? どういう単位だ?」
視線を宙に彷徨わせながら言葉を選ぶキャスターに疑問符を浮かべるジェスター。三文役者という言葉を幸いにもジェスターは知らないらしかった。
状況が特殊であり即興であることを差し引いても、ジェスターの言葉はやや直截に過ぎている。フラットに黙るよう告げ、自らの殺し方を注文し、殊更ファルデウスの眼となっているカメラを潰すよう促している。そして時間がないと言いつつもフラットへの攻撃方法は不自然であり、赤い影をゆっくりと伸ばしてカウントダウンめいたこともしている。
そしてそれらは全てファルデウスに筒抜けとなっている。
「我々が来なければどうするつもりだったんですか? この平和主義者(チキン)はどう騙くらかしてもあなたに手を挙げることなどしませんよ」
「誰か近くにいるのは足音で確認できていたのでな。そうでなければ途方に暮れていたところだったが」
フラットですら足音だけなら聞こえていた。ジェスターであれば尚更だろう。死徒の感覚を以てすれば距離は勿論、足音の数や軽重から部隊人数と練度だって判断できる。
ジェスターにとって幸運だったのはその部隊にティーネがいたことだ。
フラットと魔力を通じているティーネはフラットの位置と状態を少なからず把握でき、時間を節約して最短ルートでこの場へ辿り着き準備を整えることができた。ジェスターの六連男装も把握しているので、カメラを意識してジェスターが確実に死んだように身体を燃やし尽くすことが可能であり、その点ではよくやったといえる。
ジェスターのアドリブはともかくとして、ティーネによる演出はジェスター敗退としてファルデウスを大いに困惑させることだろう。疑念は抱かれるだろうが、この状況で確証まで得られはしまい。
「それでフラット・エスカルドス、確認するが先のアサシン救出の話は本当かな?」
自分のことはもう話したとばかりに、ジェスターは自らの胸を揉みながらフラットに確認を取る。どうやら胸の大きさが不服らしい。
「はい。今までこっそり助けてきた人達に協力して貰って、ここに捕らわれてる市民を助けるのが目的です。けど、アサシンの居場所はどうやら地下にあるようだったから俺一人だけでここに来ました」
「君の正気も含めて問い質したいことが多すぎるが、それはこの際置いておこうか」
どういった経緯で人を集め、隠れ、まとめ、作戦を練ったのか気にかかるが、時間がいくらあっても足りやしないので放置しておく。どうせ魔術師とも常人の発想とも異なるのだろうから気にしないのが吉である。
コートを引き締めやや胸を強調することで満足したのかジェスターはキャスターの向かいに座って足を組む。紙に印刷された基地の見取り図を机の上に拡げてその一点を指さした。
「アサシンがいる場所は第四層の第四区画Cブロック。三層から天井を崩して侵入した方が早い。壁抜けのための装備はあるな?」
「任せろ。天の岩戸伝説に準えどんな場所だって穴を開けるスーパー宝具を用意してある。起爆パスワードは開けゴマ」
「この忙しい時に嘘をつかないでください。プラスチック爆弾なら用意があります。いざとなれば、私がぶち抜きます」
「頼もしい限りだ。ああ、そうそう。アサシンと一緒に署長もそこにいる」
「なんでい。やっぱ兄弟は生きてたか」
何でもない風を装うキャスターであるが、その実確かに安堵していた。サーヴァントとしての利害関係上マスターの生存は喜ばしいことだが、それだけでない。戦友として、キャスターは署長の生存を好ましく思っている。
「魔力供給が止まっているのは魔力封じの鎖に繋がれているからだな。それと署長の右腕は切り落とされているから、Bブロックで人形師が作った腕を回収しておけば治療して戦力にもなるだろう」
キャスターから赤ペンを受け取り、ジェスターがそれらの場所に印を付ける。二人を痛めつけた張本人でありながら厚顔無恥なこと甚だしいが、幸いにしてその事実を知る者はここにはいない。
「ジェスター、情報には感謝しますが、場所を教えるということは我々と同行はしないということですか?」
「私は欲ばりでね。全てを手に入れたいと思うのさ。アサシンについてはフラット・エスカルドス、君に任せる。私は地下のスノーホワイトを目指すとしよう。折良く裏道を教えて貰ったばかりだ」
ジェスターは以前通った点検孔を思い起こす。以前の侵入口は六層からだったが、この三層からも繋がっていた筈だ。ジェスターが死んだとファルデウスが思い込んでいるのであれば、このルートは比較的安全ともいえた。
「話が早くて助かるぜ。こっちの思惑は承知済みというわけか」
「クハハッ! なに、一番慣れている場所を選んだまで」
キャスターの言葉を否定はせずに、ジェスターは他にも選べる目標の中から慣れているというだけでスノーホワイトを選んでみせる。
ティーネ達の目的はアイオニオン・ヘタイロイの援護であるが、そこを更に分ければ三つになる。市民の避難に協力するのが繰丘椿とライダーのペア。ティーネは“偽りの聖杯”とファルデウスの確保、キャスターはスノーホワイトの制圧担当である。《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の護衛はあるものの、飛び抜けて戦闘能力の低いキャスターでスノーホワイトを制圧するには荷が重過ぎた。かといって操作もできぬ他の者が行っても仕方がない。
ジェスターが先行することで露払いをしてくれるのなら、キャスターにとって願ってもないことだ。これで《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の戦力を分散する必要もなくなってくる。
……などと恩を売るような真似をしているが、ジェスターはそんな殊勝な存在ではない。何か裏があるに決まっていた。
探りを入れるにしても時間はないし、ここは乗るより他の選択肢はない。
「それでフラット、ヘタイロイの動きからして市民の救出で終わるわけではないのだろう?」
「あ、はい。救出が第一段階で、第二段階がこのあとにあります」
「ならその第二段階にタイミングを合わせた方が攪乱できるな。投入予定はいつ頃だ?」
折良くフラットの治療が一段落したのを機にキャスターは最後の質問をしておく。ファルデウスが睨んだように、市民の避難をわざわざするからには、それなりの次撃が用意されているとキャスターも読んでいた。
第四層突入までは同行できるが、そこからは別行動。互いの様子が分からなくなる以上、今後どんなことが起こるのかは確認しておかなければならない。
「えっと、そのことなんですが……」
身体を動かし調子を確認しながらフラットは申しわけなさそうに答えた。
「俺、方針とかに口出しはしましたけど、実はこれからどうなるのかほとんど何も知らされていないんです」
頭目でありながら作戦を聞かされていない事実をフラットはカミングアウトした。その事実にその場にいた全員が納得すると同時に、全く同じ疑問にぶち当たる。
では、一体誰が作戦を考えた?
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フラット再登場。
久しぶりの出番。読者諸兄もまさかフラットが裏方に徹している展開など予想はすまい。本当はその間の出来事を少し書いていたりもするのだが、フラットの暗躍を直接的に書いてしまうとネタバレになってしまう点もあったので自粛した。
隔壁の破壊。
本当はアルミの粉や空き缶とかを利用して(テロリストみたく)科学的にドアを灼ききったりするシーンもあったのだが、ここは魔術敵にいってもらった。
ジェスターの正体。
原作設定なので著者の趣味でこうなったわけでは決してない。ただし後半に出過ぎたのでこの設定を活かせていないのが残念。もっとアサシンとイチャラブ(?)させたかった。
ちなみにこの展開にするために予めティーネにジェスターを戦わせた(殺させた)わけである。
裸の女。
後で指摘されて気付いたのだが、実はなにげにフラットはアサシン・椿・ティーネの裸を見ている。別に狙ったわけではないのだが、この聖杯戦争での女性陣全員をコンプリートするとは中々のラッキースケベである。
ジェスターの裸について、キャスターには筆者の心を代弁して貰った。
人形師が作った腕。
原作HPによるとそうしたものがあるとか。この作品冒頭で宝石翁が助言もしている。原作での伏線の回収のためだけに署長には腕を失って貰った。
実はこの頃から右眼が見えなくなり(左目も数秒くらいしか開け続けられない)、そんな状態で指の感覚だけでタイプして書いたものだから、以後の文章は相当酷いことになっていた。
後で大幅な手直しをしてはみたものの、当時何を考えて書いたのか思い出せず、削除してしまったところも多々ある。
現在はテイク3であるが、もしかしたらテイク4どころか、新たなストーリーを書くかもしれない。