Fate/strange fake Prototype -Another Player- 作:縦一乙
長い待機時間を終えて《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の男は伏射を解いた。
凝り固まった筋肉を軽くほぐしながら広げたロングライフルをバラしてアルミケースの中へと片付ける。時計を見ることもなく、雑居ビルの屋上から非常階段で下りてみれば、それほど離れていない場所に見覚えのあるいかにも清掃業者といった風情のワゴン車が待機してあった。
周囲を軽く見渡し他に誰もいないことを確認しつつ、素早くワゴン車へと乗り込む。リュックサックをぞんざいに放り投げ、アルミケースを慎重に車内で待機していた男に受け渡す。
「お疲れさまです」
労う運転席の男にいかにも疲れたといった顔で男は手を上げ、やはり周囲を警戒しながら助手席に身体を滑らせた。
「周辺状況はオールグリーン。北部で多少問題が起きたようですが、南部の我々はそのままだそうです」
「次回からは装備品の中にシートを入れておいてくれ。いくらなんでも夜の屋上は寒すぎる」
「他二カ所の奴らからも同様の要望が来てたようですよ。却下されていましたが」
「シート一つ被るだけで発見率が下がるから、か? サーヴァントの目はどんだけ節穴なんだ?」
悪態をつくものの、今後のやることは変わらない。
《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》はその性質上実働部隊の人数が極端に限定されている。その上で街どころかスノーフィールド全域をカバーし、サーヴァントを倒していかねばならない。
当然、人数が足りる筈もない。
そこで考案されたのが――この囮作戦。
《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》においても様々な担当部署があり、現在のこのチームの最優先事項は情報収集にある。こうして分かり易い囮を適当な屋上に配置することでサーヴァントに発見させることが目的である。囮を中心に半径500メートルを集中観測することでサーヴァントを補足しようという魂胆だ。
「効率的といえば効率的です。囮に対する配慮がない――いえ、ほとんどないのが玉に瑕ですが」
言い直してはみるが、事実はまるで変わらない。
作戦上、囮に求められるのは魔術師として適度な能力と兵士として適度な練度である。 サーヴァントにとって魔術師が何人いようと問題はない筈だが、強すぎれば警戒されて遠のいてしまいかねないし、弱すぎれば雑魚として見向きもされない。隠れるのが上手すぎれば気付かれないし、バレバレではこれもまた逆に警戒されてしまう。
釣りというのはなかなかに難しい、とマーカーで書いた遠目では令呪に見えなくもない落書きを拭い落とす。聞くところによると偽令呪ひとつとっても複数のバリエーションが用意されているらしいが、それにどれだけの意味があることか。実行する本人はともかくとして、マスターをはじめとする作戦部は大まじめなのだから質が悪い。
「サーヴァントが人間の魔術師如きにどれほど警戒してくれるものかね」
「本部は囮を攻撃してくる可能性は一割以下とみているようですよ」
囮役のため息に囮役にもなれない下位の《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》は生真面目に返答する。それで慰めになると思っているところが上位と下位の意識の違いだ。彼等の役割は上位の《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の補佐であり、周辺観測要員でしかない。仕事の危険度は雲泥の差がある。意識が違うのも当然だ。
「まあいい。それよりこれからどこへ行くか聞いているか?」
無用な会話を切り上げ、手元の液晶ディスプレイで状況の確認に務める。先ほど聞いた通り北部区域でトラブルがあったらしいが、事態は既に沈静化。警備状況に変更なし。
詳細を探ろうにも閲覧が制限――いや、そもそも情報がアップされていない。それだけで、本部が多少なりとも混乱状態にあることは容易に予想できる。末端に対して軽くとも情報が伝達されていることから事態はすでに収束しているのだろう。後はどう処理するのかが問題だ。大いに会議室で悩んでいただきたい。
「ええ、これからポイントチャーリーで下ろすよう言われています。マルタイの監視――ああ、いえ、護衛ですね。ご苦労様です」
「ほんと、忙しくて嫌になる」
「この戦争中は確実に休めないとは聞いていましたが、こうも休みなく働きづめとは思いませんでしたよ。マルタイが大人しくてくれればちっとは休めるんでしょうが」
互いに苦笑いを浮かべながらワゴン車は市街を走り抜けていく。
マルタイ――サーヴァント・キャスターといえば聖杯戦争においてもっとも注意するべき味方である。第五次キャスターの例をみるまでもなく、キャスターのクラスはもっとも裏切りやすいサーヴァントである。
幸いにも現状においては一応の関係性を築くことには成功しているが、あのサーヴァントは「面白いから」という理由であっさりと裏切りかねない危うさがある。これは別に個人的な意見ではなく、マスターをはじめとしてあのサーヴァントと相対した全員の感想である。当のキャスターですらそうした自覚があるのだから始末に負えない。
それ故に本任務は最初から「護衛」ではなく「監視」であり、そして「ご機嫌取り」である。
これからのことを考えれば、頭も重くなると云うもの。それでも避けては通れぬ道である。
「できれば少し休憩したいところだがね」
「あと三〇分は市内をドライブしますから、寝てもらっても結構ですよ」
「お言葉に甘えるとしよう」
宣言通り、三〇分の追尾欺瞞行動をとってから市内にいくつもある《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の秘密施設へと到着する。外観はどこにでもある普通のオフィスビルにしか見えないが、実際には一般には秘匿された地上五階もある建造物である。合衆国内の至る所によくある汚い仕事の清掃会社であり、他の会社と違う点は地下にあるフロアが魔術的にも神経質なまでに要塞化してあることか。
当然、彼らは地上ではなく地下の要塞部に用がある。
イメージとしては地下迷宮(ダンジョン)に近いが、実際にはそれほどのものではない。エレベーターに乗ればケージごと半回転して向きを変えたり、五感に負荷をかけて見当識を失わせるような錯覚、その程度だ。富士の樹海を踏破してみせる練度があれば、この程度は気楽な散歩コースと何ら変わりない。
古城よろしく守備を重視し直線の少ない通路を右へ左へと移動し、ようやく目的の金属製対爆扉の前へと辿り着く。
極太の金属棒で何重にも閂が嵌められたその扉の制御板に事前に渡されていたカードキーを通し、暗証番号を打ち込み認証が確認されると、小さな電子音と共に扉のロックは解除された。
キャスターの居室と位置づけられたこの部屋は厳重な監視と結界の張り巡らされたスノーフィールドで最も頑強な部屋の一つでもある。物理的にも魔術的にも優れた防御力を発揮するのは無論のこと、例え大統領ですら決められた手順を踏まなければおいそれと入ることのできないよう法的にも守られた場所である。
しかるべき手順を踏んだからこそあっさりと入ることはできたが、ここまでの厳重さはキャスターに対する保護よりも裏切りを恐れてとしか思えなかった。
一歩二歩と中に入れば自然とセキュリティは再度ロックされ、後ろのドアが音もなく閉じていく。
入り口からの光量がなくなれば室内がいやに薄暗いことにすぐに気付く。普通に電灯は天井に張り巡らせている筈だが、それをどうやら使っていないらしい。部屋唯一の光源は壁に埋め込まれた大型モニターから発せられる映像のみ。
そのモニターの目の前で、キャスターはやたらでかいソファーに寝転がりながら、にぎり寿司を食べ、カップヌードルのスープを飲んでいた。
小太りで色黒、きちんとした身なりをしてはいるが、菓子のカスがそれを台なしにしている。一目見る限りではとてもではないが、英霊の類には思えない。
「俺は思うに――」
部屋に入ると同時に、口を開いたキャスターに、思わず立ち止まる。何かミスをしでかしたかと自らの行動を振り返ってみるが、そんな心配は杞憂だった。
「米とこのヌードルスープ、これはもしかして相性がいいんじゃないか?」
「……その発想は別に珍しくないぞ、キャスター」
周囲を見れば寿司とカップヌードルどころか炭酸の抜けたコーラや冷めたピザ、食べかけのフライドポテトにイチゴだけがなくなっているショートケーキもそのまま放置してある。どうやらこの英霊は自らに科された作業を放置して食べ合わせ研究でもしているようである。
「ふむ。この俺と同じ発想をした点については大いに褒めるべきところではあるな。ではこのニューヨークチーズケーキにチリペッパーというのはどうだ?」
「それはやめておけ」
嘆息しつつ、キャスターの背後へ近づいていく。
キャスターの左手はジャンクフードへ手を伸ばし、右手はリモコンで操作を続け、その視線はモニターの中へと注がれている。地元ニュース番組に海外ニュース番組、バラエティもあれば普通に街頭カメラの映像も映し出されている。せわしなく次々と移り変わるモニターの情報を頭に入れているかは疑問だが、唯一片隅のジャパニメーションのモニターだけは変わらない。
「ところで頼んでいた三不粘(サンプーチャン)を手に入れてきてくれたか?」
「ふむ?」
モニターから目を離し、振り返ってこちらを見入るキャスターの質問に、足が止まる。サンプーチャンとやらが何か、記憶の中を探るが心当たりがない。
「……何のことだ?」
「おいおい、ちゃんと頼んだだろう? 卵・砂糖・デンプン・水・ラードしか使わないシンプルな料理。逆にそうであるが故にごまかしがきかない高難易度デザート。皿にも箸にも歯にも粘り着かない不思議食感。故に三不粘! 一度味わって見たくてなぁ」
「ああ、そんなことも言っていたか。すまないな、キャスター。忘れて――」
いたようだ、と言う言葉は続けられなかった。
かちゃり、と実に自然な動作でキャスターの左手にはソードオフショットガンが握られている。脂でべと付いた手ではあるが、その引き金は確実に添えられていた。安全装置も最初から解除されている。
「……どういうつもりだ、キャスター?」
ひとまずは両手を挙げて無抵抗を演じながら口を開く。
ソードオフショットガンは、ショットガンの銃身を切り詰めた改造銃の一種だ。射程は短くなるものの、通常のショットガンに比べて散弾が拡散しやすくなる。間近で発砲されれば、回避はほぼ不可能の至近距離での戦闘特化の武器である。キャスターとの距離はわずかに三メートル。一息で詰められるものの、引き金を引く方が確実に早い。
そして何より、このショットガンの弾にはハッキリと判るほどに強力な魔力が込められている。ここにきてこれが些細な誤解だと通せる筈もない。
「はん。脚本としちゃ王道だが使い古されてつまらないな。俺は三不粘なんざお前に頼んだことはねえぜ?」
「誤解だ、キャスター。キミの機嫌を損ねまいと嘘をついた」
「いいや、誤解なんかじゃねえぜ。お前の右足、その小さなイスを蹴り上げようとしただろう? それが何よりの証拠さ。時間稼ぎなんざ無意味なことさ」
図星、であった。
例え手足を打ち抜かれようとも、即死を防げたのならまだ次がある。ここで唯一の頼みの綱は右足傍に落ちていたイスを盾にキャスターに接近すること。接近さえできれば、手負いであっても勝機は必ずある。
いや、本当にあるのか――?
迷いが胸中に渦巻く。覚悟を決めるにはまだ早い。キャスターに指摘されようがとぼけることは十分に可能。第一にわざわざキャスターが指摘したということはまだ時間的にも交渉の余地があることを示し、それからでも決して遅くは――
「遅えよ」
内心を読まれたかのように呟くキャスターは、男が右足を動かしイスを蹴ろうと思うよりも早く、あっさりと引き金を引いた。
魔力を込めた弾は文字通りの魔弾。その効果は様々であり、威力や命中率の向上は無論、後々まで尾を引くやっかいこの上ないものもある。いずれにせよ、深刻なダメージは避けられない。
銃口からマズルフラッシュと共に円形に広がる散弾は豪雨のように降りかかるため、装甲を持たない対象への効果は文字通り致命傷となる。回避しようにもそんな空間はどこにもなく、防御しようにも貧弱なイスがあるだけでそんな頑強な盾はどこにもない。取り得る有効な選択肢は先制攻撃だが、交渉の余地を見いだそうとした男はそれを選ぶことをしなかった。
分かり易い破裂音。男の後方に銃弾がめり込んだ後、男は静かに膝を付いた。蹴って防御にでも使おうとしたイスはその前に散弾の巻き添えとなって原形もとどめずばらばらとなっていた。これでは最初から盾として機能することもなかっただろう。
全ての選択肢は無意味だった。キャスターは男があの場に来た時点で銃を向けることを決定し、一片の疑惑でもあれば即座に引き金を引く予定だった。あの威力の宝具を最初から用意していたこと、それ事態がこれが罠だという証左。
即死でないことに男は感謝した。右手は動く。念のためにと懐に隠しておいた手榴弾のピンを抜くくらいの猶予はある。霊体たるキャスターにダメージはなかろうが、これで少しはキャスター陣営にダメージを与えられ――
「……うん?」
静かに倒れ伏そうと思ったのだが――わずかな違和感が男を襲った。手榴弾のピンを抜く直前にその事実に気がつく。
これは一体――どういうことだ?
力の抜けた膝に力を入れれば、倒れ込もうとする身体はその場で止まった。右手で身体を触る。左手も――身体を触る。両手で顔を触れてみても、手のひらには自らの汗以上のものは何も見当たらない。
男の疑問の視線にキャスターはワインのコルクを歯で抜き取りながら薄笑いを浮かべる。未練も無く足下へと放り落としたソードオフショットガンが、もう一度構えるつもりはないことを雄弁に語っていた。
「《我が銃は誰にも当たらず(オール・ミス)》」
口元のワインを豪快に袖で拭いながらキャスターはあっさりと手品の種を口にする。
「一応銃の名手である俺が自殺をし損ねた逸話が具現化した宝具だ。おそらくこれ以上なくくだらない宝具だな」
こういうときには役に立つ、と続けるキャスターの言葉に男は静かに立ち上がる。確かに背後の壁は凄惨たる有様だが、男の身体に傷一つありはしない。対象を決して傷つけぬ宝具、フェイントにはうってつけだろう。
無論、それだけであるなどとお目出度い頭の持ち主ではない。
「……なるほど、キャスター、君は最初の問答で私の正体を見破ったのではなく、銃を向けられた時の反応で見破っていたわけか」
魔力を込められた銃を向けられれば、普通の魔術師ならキャスターの行動に何らかの反応をすることだろう。回避・防御・説得、または攻撃。キャスターの宝具を知っている者であれば、そんな無駄なことをせず泰然としているだけでよかったのだ。
「俺と接触する《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》には俺が銃を向けても気にしないようマスターが暗示を掛けてる筈だからな。例え尋問したとしても口にしなかったろ? その様子だと、俺の正体も知らないようだしな?」
「……それはどうかな?」
内心九分九厘ばれていることを自覚しながら男はブラフを口にした。
真実を語ることにはあまり意味はない。確実に倒せる隙があったというのにキャスターはわざわざそれを見逃し、あろうことか正体に関するヒントまで与えている。
つまりは――下手に出ている。
圧倒的優位であるこの状況、で。
「俺は同盟を組みたいのだよ、なぁ、サーヴァント?」
キャスターの言葉に。
男は――《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の一人に化けていたバーサーカーは、その正体を隠すことなく顕した。
姿形こそは変わりはないが、偽装のために抑えていた気配を解放し、自らの宝具も解放する。バーサーカーから湯気の如く立ち上る漆黒はまさしく禍々しき魔力を放つ宝具そのもの。バーサーカーを取り巻く気配が先と変わって一変し、その眸は炯々と猛禽の如く異彩を放ってみせる。
――無論、全ては虚仮威し。バーサーカーの宝具と変身能力の合わせ技に過ぎない。しかしその存在感、殺気、圧迫感は本物以上に本物だ。バーサーカーが殺人鬼である事実には変わりなく、例えその気があろうとなかろうと、むき出しの本性は他者に根源的恐怖を及ぼさないわけがない。
「この私と、同盟だと?」
「そうとも。俺はお前と手を組みたい」
だというのに、張りぼてとはいえこの圧倒的存在を前にキャスターは動じることなく平然と返答してきた。
キャスターの言葉に嘘偽りはない。どう目を凝らしてもキャスターの気配に変化はなく、それどころかごく自然に脂塗れの手で握手すら交わそうとする。書面が良いと言えばその場で何の躊躇もなく作成したことだろう。
「もう一度言っておこう。俺にはお前が必要なのだよ」
三顧の礼というやつだ、とキャスターは嘯く。
それは意味が違うという突っ込みの代わりに、バーサーカーは漆黒の宝具をキャスター本人を取り巻くかのように展開させてゆく。もちろんそれだけでなく、部屋の隅々にまで漆黒を張り巡らし、今や床に落ちたショットガンの弾倉や、机の下、ソファーの裏、果てはポテトチップスの袋の中までくまなく探索を終了させる。
結論として――キャスターは、何の備えもしていなかった。
部屋の中には様々な火器もある。魔力を持った宝具もある。しかし扱える武器と呼べるものは足下に無造作に落としたキャスターのオール・ミスとかいう宝具のみ。効果のオンオフができるかは疑問だが、次弾を込めていない以上脅威にはなりえない。
「……本気か?」
正気か、と言う言葉を何とか呑み込んだが、吐露した言葉は似たようなものだった。
思わず眉間に皺を寄せより一層警戒を増すバーサーカーに対し、キャスターは口角を上げた。
「どうやらその漆黒、探索能力があるようだな? 俺が何か策でも弄していると思っているのか?」
「まるで策を練らぬのが策といわんばかりだな」
バーサーカーの言葉にキャスターは何も応えない。
卑怯卑劣が売りの外道や、先のことなど考えぬ獣であればキャスターの首を取ったに違いない。しかし狂戦士のクラスにありながら高い理性を併せ持つバーサーカーにその選択肢はない。
未だ知り得ぬ、黄金の粒より尊き情報を、このキャスターは持っているのだから。
「ああ、そうだ。先に聞いておこうか。その顔の男、殺したのか?」
バーサーカーの漆黒をまるで無視して握手を諦めたキャスターはソファーに座りこみ、ケースから葉巻を咥えて火を点けながら聞いてきた。その行動を子細に観察はしたが、特に怪しげな様子もない。ただ、そう言いながらも安否を気にしている様子ではない。
「あの男なら今頃ビルの上で夢の中だ。あと数時間もすれば目覚めるだろう」
「殺した方が面倒がないだろうに」
「無益な殺しは私の主義に反するのでね」
殺人鬼の台詞とは思えぬ大嘘だ。もしくはマスターたるフラットの影響が大きいのだろうか。あのマスターに誰かを殺したと知られれば、面倒なことになるのは確実だ。
「ふむ。まぁ下手な嘘ではあるが同じ嘘吐きとして共感はできそうだ」
一体何がキャスターの琴線に触れたのかバーサーカーは判らないが、キャスターのその眸はひどく嬉しそうだった。オモチャを見つけた子供のような好奇心がそこにある。
キャスターが吐き出した紫煙は室内に篭もり、バーサーカーの漆黒と入り交じる。
「換気扇を付けてもいいかね?」
「……勝手にするがいい」
何気ない風を装っているのかいないのか、したり顔のキャスターに舌打ちをしたいところを我慢してバーサーカーは自らの宝具を収め、また元の《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の男へと姿を戻す。
キャスターにどこまで見抜かれていたのかは分からないが、キャスターはバーサーカーの虎の威を見事に見切っていた。こちらの殺気と威圧と不可解な宝具を前に欠片も動揺しない相手にこれ以上の意味はない。
むしろ、バーサーカーにしてみれば自らの弱点を覗かれた気分ですらある。
「まあ、同盟を組もう言うのだ。質問があれば答えられる範囲で答えよう。信じるかどうかは別として、それを聞いてから考えても損はあるまい?」
ずいぶんな大盤振る舞いはキャスターの誠意か、それとも裏があるのか。しかしおかげで本来の目的を思い出す。
バーサーカーの目的は何を差し置いても情報なのである。
「ではまず聞こうか。何故、私がこの場に来ることを知っていた?」
「そいつぁ違うな。逆だぜ。俺が、お前を呼んだんだ」
ひとまずジャブとして問いかけたバーサーカーにキャスターはストレートでカウンターを仕掛けてきた。そのもの言いにバーサーカーは不信感を露わにする。
「と言っても、俺が実際にやったのはあの宮本武蔵の退治に《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》を向かわせようとしてたのを止めただけだ。有象無象の魔術師の間引くのに丁度いい――と言っておいたが、俺の真意は別だ。あの場にいた他のサーヴァントを特定し、そしてこの場に――この俺の元へと呼び寄せたかった」
その結果が今ここにある。
「貴様は予言者か何か?」
「いいや、ただの劇作家さ」
バーサーカーは時計を見る。キャスターが時間稼ぎをしている可能性を考慮したが、事前に確認したタイムスケジュールではあと十五分は大丈夫である。それだけあるなら、バーサーカーの保険は十分に作用するだろう。
「《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》を投入しないと分かれば選択肢はほとんど一つに限られている。この弾丸の魔力に覚えがあるだろう?」
そういって床下に無造作に置かれたケースを机の上で開いてみせる。中にあったのはビニールで梱包された弾丸が一発。見覚えはないが、身に覚えはある。
「俺が昇華した宝具、その名も《忠実なる七発の悪魔(ザミエル)》。これはその試作品の一つだ」
「ザミエルと言えば……これはドイツ民話の?」」
「話が早くて結構だ。こいつはドイツオペラの傑作『魔弾の射手』で作られた魔弾だ。発見された当時は錆だらけで使い物にはならなかったが」
込められた魔力と呪いはそのままだが、中はともかく外はそうもいかなかったらしい。キャスターが手を掛けたのは中の魔力と呪いだけで、外側はその手の職人にそのまま任せたとか。ビニールで梱包されているということは中には酸化防止のための不活性ガスでも入っているのだろう。
狙った獲物は例え物陰にいようとも外さない。ただし、伝説の魔弾には七発中一発は射手ではなく悪魔の狙う場所に当たる致命的な呪いがあった筈。それは聖杯戦争においても致命的になるだろう。
「もちろんそのままじゃ使えねぇ。だから弾丸にはサーヴァントや宝具といった高い魔力を持ったものだけに当たるよう細工を加えた」
射手が狙いを付けなければ、標的があるわけもない。必然的に《忠実なる七発の悪魔(ザミエル)》は射程内にあるターゲットをランダムで狙撃する宝具へと昇華している。使用前に射程内から友軍を追い出せば、必然的に敵の誰かに当たるという寸法である。《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》という数の利と連携があるからこそ使える宝具だ。
そこまでであれば、武蔵の助言を得てバーサーカーも辿り着くことができていた。いつどこから狙われるか分からぬ必中の宝具。事前に知り得ていても心休まることもないだろうし、知らねば武蔵のように不意を突かれて消滅するのみ。
よく考えられている――と言いたいところだが、この宝具の真の意図は全く別のところにある。ただ必中というだけの宝具であれば、バーサーカーのような宝具を持っていればこれは何の脅威にもなりはしない。バーサーカーがフラットの行方を差し置いても優先してキャスターを捜さねばならなくなった理由がそこにある。
ことり、とキャスターは次なる品を机の上に出す。
水筒サイズのボトルではあるが、中に入っているのは何らかの粉末のようである。
「二〇〇年に渡って遺体が埋葬された墳墓の塵や不凋花、木蔦の葉を用いて製作した粉でな。そこに俺がちょこちょこっとブーストをかけたものだ」
ハハハハとアメリカ人のように笑うキャスターを思わず殴りたくなる。
俗に、このアイテムの名を《イブン=ガズイの粉末》という。かの有名なネクロノミコン断章にも伝えられる、霊を物質化させる霊薬だ。当然、サーヴァントにかければ霊体化はできず、実体化を強制されることになる。
「《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》について少し調べたんなら分かるだろうが、初期段階での《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の活動はこの粉末をサーヴァントに振りかけ、実体化させることにある。霊体化してカメラに映らないままだといかに警察の監視網とはいえ無意味だからな」
そのために《忠実なる七発の悪魔(ザミエル)》は着弾と同時に周囲に四散するよう調整されている。バーサーカーは見事にそれに引っかかった形である。
霊体化できないということは、ただそれだけで圧倒的に不利となる。特にバーサーカーは奇策を用いた搦め手こそ真価を発揮する英霊である。サーヴァントにとって当然である霊体化も彼にとっては切り札にも等しい。そのアドバンテージを失ったとなると早急にその対処策を考えねばならなかった。
「それで、こいつの解除方法は?」
あらゆる可能性の写し身としてバーサーカーにも魔術師の知識というモノはある。だが、彼の知っているこの霊薬の効果は短時間だった筈。にも拘わらず、すでに丸二日以上経過した今もって彼の実体化は解除されていない。
「無理無理。サーヴァントの霊体と上手く交じるように調合してるから、魔力を持っていればいるほど長時間実体化するぜ。サーヴァントくらいになるとたぶん消滅ぎりぎりまで実体化する感じだな。下級霊に実験したら二日間は怨霊からゾンビにジョブチェンジしてた」
聞くだけ聞いてみたが、やはり無駄ではあった。
苦虫を噛み潰したような顔をしてみるが、その実この情報はバーサーカーには吉報ともいえた。この状況はバーサーカーにとって決して悪いだけの話ではないのだが、そんなことをわざわざキャスターにばらす必要もあるまい。
「あとは……この資料を見てくれ」
もう予め用意していたとしか思えぬ手際の良さを鑑みるに、キャスターは本気でここにサーヴァントが来ることを確信していたのだろう。
「魔術師一五六名に対して確認できた死者は四名、逮捕者四二名、逃亡者三〇名、そして行方不明者七八名……これが一体何を意味しているか分かるか?」
「あの戦場への参加者、か?」
「まあその通りだ。警察ってのは探偵と違って地道な捜査が基本でね。街中のカメラから画像データを引っ張り出して一人一人丹念に検証してたわけだ」
キャスターの言葉にバーサーカーは嘘だと断じていた。いかに警察機構の操作能力が凄いとはいっても、仕事がいささか早すぎる。情報量が莫大なのだ。現代社会にあってもその解析には数日はかかる。何か裏技めいた監視網でも別途構築されている可能性が高かった。だとすれば、バーサーカーの行動も読まれている可能性がある。
そんなバーサーカーの思惑に気付く様子もなくキャスターは二枚の写真をバーサーカーに差し出してくる。一人は見覚えのない目つきの悪い男。そしてもう一人は見覚えはない……が、これもまた身に覚えはある。
「戦場に入った人間の顔は過去一週間に遡って全てチェックされている。だというのに、出てきた者の中に二人ほどチェックされていない者がいた」
「………」
「この内どちらか、もしくは両方がサーヴァントの可能性が高いと踏んだ。現場検証の結果両者とも《イブン=ガズイの粉末》を踏んでおり、写真の骨格鑑定から変身もしくはそれに類する能力を持っていることも判明」
「そこまで言うのなら、私がここに来るまでのヒントは全てお前の差し金というわけか?」
「いいや? 先も言ったが、俺がしたのは《忠実なる七発の悪魔(ザミエル)》を使わせるようマスターを誘導しただけだ。必要ならヒントも出しただろうが、その必要もなかったみたいだしな」
ここまで来られたのはお前が優秀だからだ、と賞賛し喝采までするキャスターではあるが、気分は釈迦の手のひらで小便をする小猿と大差ない。
事実、バーサーカーはあの戦場での違和感から調査を開始し、その後の魔術師の大量確保という普通ではあり得ない事態から警察組織が怪しいと睨んでここに辿り着いた。だが《忠実なる七発の悪魔(ザミエル)》という特殊な宝具を使われていなければ早期の段階で逆に《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》側に補足されていたに違いない。
実体化の不便を感じつつも警察内部へと侵入し、資料を漁り、不自然な改竄から内部情報を掴む。なまじ不正行為をしている「お巡りさん」が多いだけに《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》に辿り着くまで無駄な時間を浪費してしまった。
「となると、二課のパソコンをいじっていたのはやはりお前さんか」
「……ああ、そうだ」
資料を漁った結果、どうみても非合法くさい情報が本文から抜け落ちていた。リムーバブルメディアか何かに入れて作業していたのだろうが、専用ユーティリティを使ってゴミ箱のファイルを全修復してまで情報を漁ったが、あいにくと不正の証拠は見つかれど《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》への手がかりはそこにはなかった。
「少しばかり騒ぎにはなりかけたが、そこはフォローしといたぜ。たぶんマスターにも気付かれてねえよ」
「幻滅したかね?」
いかに優れたスキルをもったサーヴァントといえど、数百年前の人間であることには違いない。最新技術をいじれるほうが異常なのだ。ミスがない方がおかしい。
「いや、ますます気に入ったぜ」
キャスターの言葉は嘘っぽくともその語気は本気だった。
控え目に言ってもこの同盟は魅力的であろう。バーサーカー単体でこの聖杯戦争を勝ち残るのは至難であり、根本の戦力からいって戦術以上の戦略が求められる。
だがこの同盟は明らかに一方的だ。いかに下手にでようとも情報を制するキャスターの上位は揺るがない。キャスターはバーサーカーのちょっとしたミスまでいつの間にか処理してみせる手段を最低限持っている。キャスターは手足がないからバーサーカーを欲したのではない。思い通りに動く手足を今以上に増やしたいだけなのである。
今この場でキャスターを殺すのは簡単でも、同盟後にキャスターを殺せる可能性はゼロに等しいだろう。それだけの情報力の差が両者にはある。
半ば諦めにも似た気持ちでバーサーカーは次の手を考えようと――した。
何かもっと別の優位となり得る情報を知りたい、がそんなことは不可能だろうと、諦めかけていた。そんな想いが天に通じたのか、はたまた無駄に高いバーサーカーのラック判定によるものか。次のキャスターの言葉にバーサーカーは我が耳を疑った。
「いやいや、俺は本気でお前さんでよかったと思ってるんだぜ? 傲慢なアーチャー、交渉余地なしのランサー、引っかき回して消滅したアサシン、瞬殺されたバーサーカー。組みするなら、もう一人しかいないだろう――」
「なぁ、『ライダー』?」
それは。
キャスターからすれば出し惜しみしても意味のない情報の筈だった。
キャスターの誤算は、バーサーカーが知り得ていた情報をキャスター自身が知り得ていなかったこと。圧倒的とも言える情報差が裏目に出た瞬間だった。
これがバーサーカーからの質問であればキャスターはそこに違和感を持ち、誤解を咀嚼し逆手にとって翻弄したことだろう。嘘と真実を揃えて並べ売り飛ばすのが劇作家の真骨頂であり、そこにつけ込む隙などありはしなかったろうに。
バーサーカーの驚愕はキャスターにも通じている。いかに偽ろうともキャスターの目を誤魔化すことはできはしない。しかし何に驚愕しているのかについては、キャスターの目は節穴でしかない。
「なんだ、知らなかったのか? この偽りの聖杯戦争にセイバーのクラスは存在しないし、エクストラクラスも有り得ないらしいぜ」
わざと少しばかり論点をずらしたキャスターではあるが、当然バーサーカーはそんなことに驚いているわけではない。
最初に遭遇したサムライサーヴァント宮本武蔵。
同じ場所で遭遇した気配遮断スキルを持ったアサシンとおぼしきサーヴァント。
この二人の英霊と遭遇した段階でバーサーカーは気付いてしかるべきだったのかもしれない。違和感を押さえ込み、偶然や勘違いと思い込んでバーサーカーは闇雲に……定石通りの行動をとった。
定石通り――自らの間抜けに自殺したくなってくる。
これが“聖杯戦争”ではなく、“偽りの聖杯戦争”であることをようやく自覚する。
「キャスター」
「あん?」
少しばかり遠回りに《二十八人の怪物(クラン・カラティン)》の情報を披露していたキャスターではあるが、バーサーカーの言葉に不審な感じを抱いても不満の声はあげなかった。
「なぜ私をライダーだと思った?」
「そりゃ……」
バーサーカーの言葉にキャスターは思考を巡らせる風を装うが、現段階で困るようなことがキャスターにあるわけもない。なにも全てについて赤裸々に話す必要はないが、キャスターの目的は外部協力者の確保。聖杯戦争の定石など彼にとっては保身くらいにしか意味はないのだ。
バーサーカーがキャスターの思考を読んだ通りに、キャスターの舌は滑らかだった。
「アサシンの消滅は知ってるよな。あの場にいたんだからよ」
「ああ。宮本武蔵は消滅した」
確認するように、バーサーカーはあえてアサシンとは言わず武蔵の名を強調する。既に多くの勢力が知っている事実だ。別段不自然なことではない筈だ。
「次にランサー、真名はギルガメッシュ叙事詩のエルキドゥ。これはつい先日うちの連中とやり合ってな。現在は西の森林地帯に居座っている」
手元のリモコンを操作して、モニターの一部をクローズアップすれば、確かに森林地帯の中にやたら人形めいた人影が静かに立っている。カメラのアングルと木々の大きさから数キロメートルは離れた場所からの撮影だと分かる。
「そんでアーチャー、第四次聖杯戦争最強を謳った英雄王ギルガメッシュだ。北を根城とする原住民をマスターとしている。そしてこれが、」
ピッ、と更にキャスターがリモコンを操作すれば、ビルが瓦解していく様子がモニターに映し出された。
「そしてこれが、つい一時間ほど前に繰り広げられたその英雄王とバーサーカーの映像だ」
巻き戻し、再生された映像は、一瞬にして実体化された巨大な多頭の怪物と、それを瞬殺する英雄王の姿が映し出されていた。近場にあったカメラは直後に壊されたのか、いくつかある遠くからの定点カメラが現場の様子を切り替えられて映し出している。
「この化け物が英霊――バーサーカーだと?」
「幼体ならともかくこいつは誕生から長い年月が経過している成体のヒュドラだ。英霊の定義はともかく、聖杯クラスでもなけりゃそうそう簡単に召喚できるものでもないしな」 ふと、キャスターの言い方に違和感を覚える。この偽りの聖杯戦争に参加しながら、召喚方法を「聖杯」ではなく、「聖杯クラス」とキャスターは語る。
些細な違いだ。言葉の綾だと気にするほどのものではないが、今のバーサーカーにはそれだけで十分だった。
キャスターが同盟を結ぼうとしている裏の理由にも納得するというもの――なるほど、キャスターはこの“偽りの聖杯戦争”の真の姿を知っている。
そして――それだけなのだ。
他には何も知らない。
キャスターは盤上の駒でありながらプレイヤーを気取ってゲームを眺めているつもりだろうが、盤上の駒には警戒していてもそのプレイヤーの背後に忍び寄る者を予想だにしていない。
既にバーサーカーはキャスターの言葉を聞いていない。消去法だの、状況証拠だの、スキルだの、そんな的外れな推測など聞くに値しないし、時間の無駄だ。
はあ、とため息をつきたくなる。
バーサーカーの予想によれば、彼の悲願たる己の正体を知るには想像以上に障害は多く、難度も高く、それでいて正解への道のりがあるのかすら分からない。
それでも、とバーサーカーはため息を吐いたその口で、笑みを浮かべ、むしろ高らかに宣言する。
「――いいだろう、キャスター!」
先の看破された際の殺人鬼モードとも言うべき表情とは違う、全てを見通したような名探偵モードとでも称すべきバーサーカーの内面の変化に、当然ながらキャスターもすぐに気付いた。
その豹変に多少眼を細めるが、劇作家たる彼の驚きはその程度だ。内心の動きを身体で表現することに長けていても、ただそれだけ。それが一体何を意味ししているのか、彼の目からは分からない。分かる筈もない。
故に彼のスタイルは変わらない。情報をバラ撒き、上手く誘導し、同盟を組み、動きを扇動し、傀儡に仕立て上げ、舞台の総仕上げに使い潰す。唯一の誤算というならば、キャスターはバーサーカーを見誤っていた。
元より彼は殺人鬼。損得を考えるような存在などではあり得ない。そんな存在と同盟を組もうというなら悪魔とでも契約した方がよっぽど御しやすいことだろう。
「俺が言うのもなんだが、情報を引き出すだけ引き出して、帰ってマスターと検討するとか言って反故にする選択肢もあるんだぞ?」
「必要はない。私の目的にはかなりの修正が必要とわかったからな。キャスター、君と私は一心同体だ。今更異存などないだろう?」
脂塗れのキャスターの右手を先とは打って変わってバーサーカーは積極的且つ無理矢理に握り込む。握手と呼ぶにはいささか粗暴にすぎるが、それでもシェイクハンドに違いはない。
急なバーサーカーの変化にここにきてようやくキャスターの顔に露骨な疑問符が浮かぶ。その顔だけでもバーサーカーは十二分に満足である。そしてこの調子なら、もっとこの顔を拝めることになるだろう。
と、ここでタイミングよくバーサーカーの懐で短く振動が起こった。てっきり電波遮断施設かと思いきや、そうした対策まではしていなかったらしい。
「なんだ、悪い知らせか?」
キャスターは他人ごとのように……それでいてバーサーカーの反応に興味津々といった様子で問うてくる。ポーカーフェイスを気取りたいところだが、あいにくと事前に用意していた携帯電話にかけてくる人間の心当たりは一人しかいなかった。
「……便りがないのが良い知らせだったのだがね」
中身を確認してみると、案の定返答に困る内容だった。
一難去ってまた一難。これは一体どうしろというのだろうか。さすがは我がマスターである。魔力の供給がないので死んでいる可能性も高かったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。どこかで仮死状態になってでもいたのだろうか。
「さて。キャスター。同盟を組むにあたって要望と依頼がある」
「おいおい、次は俺の要求を聞いておく番じゃないのか?」
そこは笑って無視しておく。
何はともあれ、この二点を通しておかねば話が進むことはない。これ以上口を挟んでこないようにさっさと要望を口にしておく。
「まず要望だが……私のことはジャック、と呼んでくれ。私のマスターもそう呼んでいる」
「ジャック?」
「ジョン・ドゥでも構わない。私をライダーと呼ばなければ」
元々切り裂きジャックにしても有り触れた名前というだけで付けられた名だ。真名には違いないが、マスターたるフラットがキャスターと後々遭遇したことを考えると非常に拙いことになるし、どちらかというと自分の正体がバーサーカーとばれることの方が問題である。
ライダーである誤解を解いてはいないが、真名を明かしたということで同盟関係としてはここが境界線だろう。
ちなみにジョン・ドゥ(名なしのジョン)というのは身元不明の死体の呼び方で、明らかな偽名という意味である。
「いいぜ。これからはジャックと呼ぶことにする。それで、依頼とは?」
「ああ、それは簡単だ」
大きく頷いて依頼内容を切り出す。
宝具と情報と金と時間、ついでにバックアップをバーサーカーはキャスターに依頼した。
古今東西、足元を見るのは交渉術の大原則だ。これからバーサーカーは再度疑問符を浮かべるキャスターよりももっと珍しい、引きつった笑顔のキャスターを拝めることになる。
一抹の後悔を覚えた株主のようなキャスター、そして大海原に旅立つ船長のようなバーサーカーの顔はさながら大航海時代を彷彿とさせた。そしてリスクとリターンを考えればその関係は決して間違ってはいない。
キャスター&バーサーカー同盟がここに結成された。
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三不粘
キャスターが食べたがっていたもの。元ネタ(?)は氷室の天地。
バーサーカーキャスター同盟。
一番最初に書いた時は、物語の冒頭から実は同盟を組んでいた設定だった。バーサーカー&キャスターVSアサシンという展開もあったのだがお蔵入り。キャスターが銃の名手であるシーンがあったのだが、ついに活かす機会がなかった。
ヒュドラなどについて色々と思うところがあったのでついでに解説してもらってる。
バーサーカー能力
アポクリファだと情報抹消スキルなんてものを持っているらしいが、そういう情報は見なかったことにしている。アサシンじゃなくてバーサーカーだしね。