神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 麻婆豆腐は型月の中華料理にて最強。異論は認めます。作者は炒飯が一番好きな中華料理ですが。
 とのことで、マーボー最終回です。



エピローグ
最期の聖杯戦争


「―――ふむ。良い未来だ。

 聖杯戦争は世界全てを巻き込み、冬木の地に運命が集約する」

 

 そう独り言を漏らすのも無理はない。想像した以上の至高の悪夢が言峰士人の目の前で実現した。

 

「この世の冬木の大聖杯と、平行世界から並列存在として持ち込まれた三つの大聖杯。

 ―――何と言う奇跡だろうか。

 第二魔法によって第三魔法が生み出され、根源の渦が幾つも具現する神代を超えた異次元の領域」

 

「……んー? ボソボソ何を言ってるカ、士人?」

 

「ああ、すまないな。店長、迷惑を掛けた。余りに久しぶりだったので、今まで禁断症状に悩まされていてな。その反動が出てしまった。

 この泰山の麻婆豆腐が食べられない日々は、まこと悪夢であったぞ」

 

「―――そうアルカ!

 いやぁ、士人は相変わらず料理人を誉めるのは巧いネ。サービスに、麻婆豆腐をまたお代りするなら、激辛よりも更に辛い地獄の泰山級の、真なる辛味を足してもいいアル」

 

「―――素晴しい。更にこの麻婆豆腐が美味くなるとは、神父として天の奇跡と呼ばずにはいられない。名前的には、地獄に住まう獄卒の加護なのだろうがな」

 

「ハッハハハハハハ。またまた上手い例えアル!」

 

 そう笑って、中華飯店泰山魃店長はキッチンに戻って行った。そんな後ろ姿を見て、神父の脳を疑問が支配する。見た目は何故か、士人が子供頃から全く変わっておらず、今となっては自分の方が年上に見えてしまう様になっていた。明らかに可笑しな事態になっていた。既にこの店で士人がマーボーの衝撃を受けて二十年以上経過しているのに、店長は二十年前から二十代程度の小柄な女性の姿。もしかしてこんな辛い麻婆豆腐が魃店長の主食になっている所為で、苦行を身の内に積み重ねた果て、仙人化してるかもしれないと神父は予想いていた。

 やはりこの店の麻婆豆腐、使ってはならない漢方薬やら、成分不明の香辛料とか使われているに違いない。

 そして白状するなら、士人が解析魔術を使っても何故か、この麻婆豆腐には解析出来ない無明領域が存在していた。訳が分からなかった。星の聖剣や、地獄の原典である乖離剣並の神秘で在ると言うことのだろうか。名前的には泰山を冠する麻婆豆腐なので、乖離剣の親戚とも呼べるのも偶然の一致なのか。確かに構成材料全てが生物の細胞であるので解析し難いのは当然だが、他の料理であればそれなりに解析魔術は機能しているのだが。

 

「ふぅふぅ、ぐ……―――ンム、はむ。ゴク―――ふぅ、は……―――」

 

 そんな意味不明な事まで考えてしまう程に、神父は麻婆豆腐を食べることに集中していた。

 

「―――ンム、はむ……ゴク―――ふぅ、はふはふ……く―――ごくぱく……」

 

 しかし、確かな事が一つある。好物を食べることで精神が高揚し、霊体が香辛料に反応し、何故か奇跡的に神父の魔術回路は微妙に活性化していた。そのことを考えれば、泰山のマーボーには何か有るのは確実であり、しかし神父は全てを許容した。

 ―――だって、美味いし。

 理由としては本当にそれだけである。

 麻婆豆腐を賛美せずに、神と人の為に異端を滅する気力など湧きはしない。

 

「――――――言峰」

 

「何だ、衛宮か。アルコール中毒に苦しんでいると聞いたが……ふむ。いや、良かった。無事な様だな」

 

 丁度今この瞬間、泰山に来店した人物。死んだ魚の目をした男――衛宮士郎が、此処にいる成り行きは簡単な話だ。言峰は殺生院から逃れた衛宮を拾い、あの後ルヴィアに預けていた。物の序でにもう頃合いで良いだろうと、衛宮の居場所をアルトリアと美綴にも連絡したと言う流れである。

 神父も神父で衛宮を壊そうとした殺生院を狩り殺す事を考えたが、今は良いと止めておいた。あの真性悪魔を殺すなら仲間を集った方が良く、一人で滅ぼすには自分も十中八九死ぬ。ならば、どうして彼がアルコール中毒になったのか原因を聞き出す方が面白そうだと思い、電話越しで世間話をしただけに留めた。その時にキアラも士郎がアルコール中毒になるだけで神さえ歪める自分の異能から逃れた事を知り、キアラは士郎を想像するだけであの時味わった性的快感を思い出す変態性に目覚めてしまった。

 

「アルトリアと再会した直後、顔面を殴られて鼻を圧し折られた。美綴からは突然キャメルクラッチされたよ」

 

「気にするでない。あいつらなりのラブシーンだ」

 

「―――は。その後酒瓶でルヴィアに頭を殴られ、バックドロップをされたとしてもかね?」

 

「それは……あれだな、気にした方が良い。しかし、霊媒医師として強い衝撃を与えてみろと面白半分でアドバイスはしてみたが、俺の診立ては外れではなかったか」

 

「おまえの所為か」

 

「判断は間違っていないがな。要は心理的ショック状態であっただけに過ぎん。お前の精神的主柱であるアルトリアにでも思いっ切り殴られれば、殺生院祈荒が施した酩酊状態から覚醒するかもしれないと考えていた。

 ……それに、そもそも聖剣の鞘がある。

 もし、それだけで加護が足りないのだとしても、お前には恋しい愛人がいるからな。その彼女から魔力供給と共に加護も増幅させれば、その魂と精神を正常に戻す事も余裕であろうよ」

 

「――………あれはおまえの差し金か!?」

 

「羨ましい限りだよ。青春時代に想いを寄せた美女と過ごす一夜となれば、男にとって山ほど積み上げた金貨以上に価値がる時間だ。

 何より鞘へのパス繋げと、その魔力供給と言う大義名分があった霊的治療行為である。全く以って(やま)しい事ではない」

 

「何を言ったらあんな事になるんだ。言え、言うんだ」

 

「おいおい、衛宮。ここは泰山、昼間の大衆食堂だ。聖職者たる神父の俺じゃ、こんな公共の場では言えぬ事も多くある。男同士の猥談であろうとも、TPOを弁えないとならんだろうて。

 しかし―――騎士王と性行為するだけで、殺生院の呪いも一撃必殺か。

 色々と酷い話だ。だがまぁ、あの乱交マニアの淫乱僧侶に対する意趣返しとしては良い治癒方法だな。セックスはセックスで上書きすれば万事無事に生き延びられるとな」

 

「思いっ切り言葉にしているのだが!?」

 

「ああ、すまん。食事中であったな。とは言え、仕方がない事。神に使える聖職者故に場を弁えるが、しかしそれでも嘘は吐けない。神父を志す者として、神の言葉にはなるべく従順で在れねばな……ふむ。直接的ではない遠回しな表現となるが、ここは魔術学的に性魔術の魔力供給とでも言っておこう。まぁ、魔術師の常識で言えば、供給(イコール)体液摂取を目的とする性的行為だが。

 しかし、あれだ。魂を自在とするあの魔性菩薩と言えど、呪いと鍛錬で強まった今の衛宮士郎の精神防御を完全に崩すのは不可能。聖剣の鞘とお前のラインを誤魔化して鞘を認識出来ない様にし、その機能を使って回復出来ない状態にしていると考えていたが、俺の読み通り当たっていた様だ。よって大元が無事となれば、物理的衝撃で精神を一時だけ修正し、後はアルトリアがちょめちょめと頑張れば元通りと言う訳だ」

 

 士人も士人で、士郎には思い入れがある。キアラの汚染に対処法があるからこそ、最悪の事態にならないだろうと士郎に殺生院キアラの情報を与えた。

 実際、危惧した通りの事態になった。

 ここで衛宮士郎がサーヴァントで言う所の黒化もどきや、精神と人格が魂ごと変異でもしたら無価値になる。正義の味方と言う理想は、冬木の聖杯に呪われた言峰士人にとっても意味ある求道だ。最期まで走り抜けて貰わなければ、あの地獄で生き延びた意味が空白の中へ融けてしまうだろう。

 何より自分の友人(ゴラク)を、他の友人(ゴラクヒン)に取られるのは気に食わない。念に念を入れる必要があり、士人はアルトリアへ聖剣の鞘(アヴァロン)を利用した霊媒治療方法を提案した訳だった。

 

「それでアルトリアか。いや、そもそも一発殴られた時、私はもう正気に戻ってはいたのだがね」

 

「ほう……」

 

 そんな士郎を見ながら、麻婆豆腐を掬ったレンゲを手に持つ士人。

 

「……で―――食うか?」

 

「――――――食わない」

 

「…………………そうか。

 だが、旨いぞ。辛さも万全だぞ。本格以上の地獄味だぞ。食うか?」

 

「――――食うか!」

 

「そうか。食わんか……―――」

 

 何時も通り士郎は麻婆豆腐の(いざな)いを断り、何時も通り士人は残念そうな表情を浮かべていた。

 

「ハイ、麻婆豆腐お持ちネ……アイヤ! 衛宮さんお久しぶりアル。注文はどうするネ?」

 

 そして、士人へ麻婆豆腐を持って来た魃店長は、相席していた士郎を見て一言。ここ数年は来ていなかったが、学生時代は何だかんだと士郎も常連客になってしまっていた。

 

「餡かけチャーハン一人前で……ああ、それと餃子も一人前で」

 

「承りましたヨ」

 

 さささー、と厨房へ向かった店長。一人で経営しており、来客は少ないとは言え仕事量は多い。そもそもこの店の味は魃店長のみが作れる香辛料を極めた本場泰山(中国)地獄(中華)料理であり、アルバイトができるのも数が限られる。

 

「……若いな。まさか、仙人か?」

 

「お前もそう思ったか、衛宮。あの人、俺達が十歳程度の頃から二十歳のままだぞ」

 

「そう考えれば泰山も長いな。ふむ……やはり、仙人か。どう考えても、人間に可能な事ではない」

 

「大陸の山で、気功の自然修行でもしていたのかもしれんな。向こうの神秘はまだ社会にも民間医療として浸透している地域もある。仙術や道術の類も秘匿はされてはいるものの、学問ではなく医術や武術としてなら不可思議ではない。霊的素質である回路も必要ではなく、重要なのは体内循環と呼吸法による経絡系。よって必須なのは魔力でなく生命力だ。

 とは言え仙人となるには魔術師と同様、霊体の素養がなくてはならないが」

 

「むしろ、神仙道の覚えも幾らはあるのかもな。魔術回路がなくとも、学術知識として仙道は気の真髄に通じている。私も大陸思想の術師と戦った事があるが、あれは厄介極まる。言わば、魔術戦と白兵戦を両立させた気功の使い手だ。

 ……にしても、若いな」

 

「ああ、若いな」

 

 四十歳を超えているのは確かな筈。下手をすれば五十以上だと言うのに、あの若々しさ。そんな魃店長の後ろ姿を見ながら男二人は、特に意味の無い会話をしていた。

 

「言峰……ッ――」

 

「――……神父!」

 

「遅かったな。先に来ていた衛宮はもう注文してしまったぞ」

 

 うんうんと話しつつ、士郎の注文を持つ間に客が来訪した。四人掛けのテーブルが満席となり、加えて空気を壊す程の圧迫感を持つ怒気に満ちる。

 

「あぁあん、なにそれ!

 何でそんな……やぁ数年ぶりだねって、雰囲気の元同級生みたいなノリで挨拶する!?」

 

「その通りです。あれだけ我々が探していたのを知っていながら、何でもないように良くも其方から連絡しましてね?

 斬りますよ?

 肉片のブロックになりますか?

 それとも魔力放出で轢殺ミンチ惨殺刑に処しますか?」

 

「気にするな。俺は気にしない―――」

 

 殺の文字が二つ入った轢殺ミンチ惨殺刑だけは気になるも、本当に神父は二人の怒りを気にせず、麻婆豆腐をぱくりと一口。

 

「―――で、食うか?」

 

「食べません―――!」

 

「……なんだと。それは残念だな、アルトリア。こんなにも辛くて旨い食べ物は、この世に他は存在せん筈なのだが」

 

「無理ですからね。まだ普通の泰山マーボーなら大丈夫でしょうが、貴方が食べているのは既に麻婆豆腐ですらありません。と言うより、何故原材料の香辛料以上の辛味を料理で出せるのですか」

 

「聞いた話、何でも店長オリジナルブレンドの香辛料であるらしいぞ」

 

「なるほど。要らない豆知識(トリビア)ですね」

 

 そして、騒がしくなったテーブル席に様子を見に店長がまた来た。

 

「アイヤー。お客さんがまた増えてるではないか、士人。今日もまた一人かと思えば、お連れさん多いネ。最初に全員分の注文を言ってくれれば、時間に合わせて作っておいたアル。

 ……おっと、スマナイネ。

 それで注文は決まってるアル?」

 

「アタシ、麻婆豆腐と麻婆担担麺を一人前で。後、老酒(ラオチュウ)の泰山府君を瓶で」

 

「綾子!?」

 

「すまないな、アルトリア。アタシ実はマーボーが好きでね。どうせ言峰に払わせるし、昼から酒も飲む日があっても良いじゃんかと思ってさ」

 

「分かったネ。そちらはどうするアルか?」

 

「遠慮は要らんぞ。俺が誘ったのだ。好きな物を食べれば良い」

 

「―――でしたら遠慮なく。

 炒飯(チャーハン)一人前、酢豚(スブタ)一人前、乾燒蝦仁(エビチリ)一人前、青椒肉絲(チンジャオロース)一人前、炸醤麺(ジャージャーメン)一人前、水餃子(スイギョウザ)二人前、焼餃子(ヤキギョウザ)三人前、小籠包三人前、叉焼肉(チャーシュー)二人前。

 そして、北京填鴨(ペキンダック)を四人前です。後、ボトルで白酒(パイチュウ)を」

 

「おー、沢山ネ。少々お待ちして下さいアル」

 

 速筆で注文を書き取り、店長は素早く厨房に戻って行った。この大量注文を如何に素早く料理するか、料理人として腕の成りどころだ。

 

「全部食べるのかね、アルトリア?」

 

「勿論です、シロウ。ここの料理は凝ってますし、食べ応えがあります」

 

 世界中を旅する合間、各国の郷土料理を食べ歩いたアルトリアである。生前の食生活であるブリテンは兎も角、日本風だけの食事だけでなく、あらゆる地域の風土の食べ物を娯楽としてこの二年間食べまくっていた。何だかんだと魂的に衛宮士郎の家庭料理が不動の一位なのだが、生前よりも遥かに舌は肥えた。

 無論――中華料理も同じく、食べる専門で彼女は詳しい。

 肉まんや焼売などの日本で代表的な物も好きであり、鱶鰭や燕の巣などの珍味もまた知っている。

 

「そうだ。食べ給え。折角の甦った現世である。とことん魂の髄まで愉悦を得て、食でも何でも娯楽を探究すべきだ。

 死すればまた訪れるのは悠久の殺戮なのだ。

 この瞬間に楽しめる事柄は、現世で生きる人間に迷惑を掛けてでも行い、生前の行いなど棚上げして遊ぶのが一番だろうて。

 さすれば、溜まりに溜まった気苦労も少しは解消されることさ」

 

 言峰士人は、正に神父だった。何処に出しても恥ずかしくない完璧な聖職で、アルトリアが欲する言葉をいとも容易く与えてしまう。

 神父は、とても綺麗な笑みをアルトリアに向けていた。

 片手で激辛マーボーを掬ったレンゲを持っていて、神聖な気配も含めて何もかもが台無しではあったが。

 

「神父……―――って、その気苦労の主な原因は貴方なのですが?」

 

「気にするな。俺は気にしない―――……む。この台詞、二度目だな。泰山の麻婆豆腐をお代りして食べていると、感覚的にループしているような気分に陥る」

 

「知りませんよ。単純に、頭を香辛料にやられたのでは」

 

「かもしれんな。毒も薬物も効かぬが、何故か泰山のマーボーのみ中毒性を感じる」

 

 と言いつつ、強迫観念に突き動かされた操り人形の如き虚ろな表情で、神父は一切澱みなく蓮華(レンゲ)を動かして食べ続ける。そんな士人を見ながら、まだかまだかと料理が来るのも待つアルトリアも、中々に幼い雰囲気に包まれている。

 士郎も、綾子も、アルトリアも、士人から聞きたい事がある。

 しかし確かなのは、この神父が麻婆豆腐を食べるのを中断させるのは不可能だと言うことだ。こうなると士人が勝手に喋り出すのを持つのは一番効率的だった。

 

「ハーイ。お待たせネ」

 

 士郎と綾子が頼んだ料理と、アルトリアが頼んだ大量の料理が続々と店長が運んで来た。士人が頼んだ最上級辛味泰山麻婆豆腐も届き、全員が食事を始めた。

 

「それで、だ。お前達三人に俺は……―――いや、私は神父でも代行者でもなく、一人の人間として頼みごとをしなくれはならない。この冬木に来た時、あの元凶はもう見た筈だ」

 

「ああ。アタシ、あれ見た瞬間、実家帰りするの止めたくなったさ」

 

「目立つからな。千里眼がなくとも、魔術師ならば否応もなく視界へ入る」

 

 やっと本題に入るのか、士人は言葉を重々しく発する。自分以外の職人が作った料理を食べるアルトリアを微笑ましく見ながらも、士郎は綾子の言葉に同意した。

 

「結論を言おう。我が師―――遠坂凛が、この冬木へ帰って来た」

 

 そして、神父以外の三人が沈黙した。それぞれの思いは心の中で煮え固まり、あらゆる感情を向ける所為で無表情になっていた。

 

「冬木の新都。建造された狩猟王ニムロドの宝具―――王の巨塔(バベル)

 既にローマで師匠が起こした聖杯戦争で確認はされていたが、あのアーチャーの宝具は他に召喚されたサーヴァントが破壊したのも分かっていた。

 蠍の王(スコーピオンキング)、原初のファラオ。ナルメル。

 秦最強の武将、武安君。白起。

 この二体のサーヴァントによってローマは、我が師遠坂凛が直接召喚したアーチャーのバベルの異界化から逃れた。しかし、どうやらアーチャーは他のサーヴァントを皆殺しにし、師匠と共に聖杯を完成させて受肉した。

 ……故に、ここにバベルの塔が存在するのは簡単な話。

 あの涜神者の巨塔は遠坂凛の手で、アーチャーと共に最初から作り出した四つの聖杯の集合体である」

 

「……ニムロドですか。確か最も古い神々の言葉、統一言語を使う魔術師でもある弓兵ですね」

 

 それを聞き、食事をしていたアルトリアは座に住まう英霊としての知識を喋った。

 

「博識だな。その通り、統一言語を使う魔術師でもある。あの沙条と同じ根源接続者の一人だ。とは言え、バベルは神話通りローマで崩壊し、今はまだ統一言語を使う事は出来ないと予想できる。

 ……冬木の塔が完成すれば、また話は違うのだろうが。

 新都で確認できるあの塔も蜃気楼のようなもので、まだ未完成だ。

 どうやら塔そのものは第二法によって作り出された鏡面世界と、固有結界によって生み出された異界で建築が進んでいる。その位相が違う空間で今も天を目指して建造され、その濃厚な魔力が現世に漏れ出ているに過ぎないと思われるからな」

 

「それはまた。と言うことでしたら、侵入には綾子の能力が……――ああ、それで」

 

「察しが良い。流石はブリテンの元国王。鋭い直感を持っている」

 

「御託は良いです。神父、その固有結界内部へ入る為、私たちをこの冬木に召集した訳ですね」

 

「無論だとも。異界への門を作り、それを開ける鍵が要る。つまるところ、我が弟子が存在せねば戦場に赴く事も不可能。いやはや、面白い展開だ。私が作り上げた最高の魔術師が、こうも都合良く重要な役目を与えれる。そして、アルトリアのエクスカリバー(聖剣)もバベル破壊に必須となり、衛宮の固有結界と狙撃も同じく敵対する英霊を皆殺しに必要となろう。

 その事に、我が師が気が付かない訳もない。だからか、冬木に居た魔術協会と聖堂教会の職員は、バベルより送り込まれたサーヴァントの手で全滅され、我々がまた冬木に来れる様になった。

 単純に誘っているのだ。

 ―――私は此処に居る。第三魔法の完結を止めたければ貴方達が殺しに来なさい、とな」

 

 薄気味悪い笑みを士人は浮かべ、次には真剣な顔で麻婆豆腐を食べ始めた。ある意味何時も通りのマーボーオタクっぷりを発揮する神父を胡乱気に見ながらも、綾子も同じく自分の麻婆豆腐を食べた。辛くて旨かった。

 

「嫌なヤツだね、アンタ。こう言いたいんでしょ。抑止力の後押しによるご都合主義だって。アタシもアンタも、衛宮もアルトリアも、世界を救う為に必要なただの駒だってさ」

 

「さぁな。しかし、世界を旅して回り、幾度も世界滅亡の危機を見て来た。この手で数多に起こる人類滅亡の危機を防ぐこともあった。

 ―――都合良く、な。

 例えばだが、実験を成功させて魔術師が根源への孔を開いた結果、その余波で人類が運営する物理法則が引き剥がされ、国が滅びる直前なんて事件もあった。星を覆うテクスチャの崩壊によって起こる神代回帰だな。そして、その事件を解決する為の能力を持った人間が都合良く存在し、都合良く事件に関わり、都合良く世界は救われた。

 ……何故だか、滅亡の危機に頻繁に陥る現世では、そう言う運命が準備され易い。

 魔術師が根源を開こうとすればガイヤとアラヤの手で直ぐ殺されるように、どうしようもない袋小路に文明が行き止まるまでは何とか人類史を続けようとする後押しがある」

 

「分かってるさ、んなことは。アタシが持つ超能力(サイコキネシス)も元を正せば、阿頼耶識が霊長個人に与える抑止力の一つ。人間を害する異端の怪物を殺す為、そして自分達人間を守る為の異能だしね。そう言う意味では殺人貴が持つ魔眼も大元は超能力だったし、彼はその力で人間を結果的に守っていた。とても、都合良くね。

 与えらた黄金の鍵も、目覚めた門の魔術も、何度も人類を守る力になった。

 殺人貴に殺された代わりに付けた義手も、この義眼も、人類を滅ぼす敵を殺す刃になった。

 どれか一つでも欠けていれば、アタシは敵になった奴らを殺す事が出来ず、そのまま世界は危機に落ちていただろうさ」

 

 この現世は人類滅亡が溢れている。高度に発展した文明技術と、それによって滅び易くなった脆い世界。物理法則が支配することで神秘を排しながらも、逆にその神秘に対して非常に弱くもなっている。魔術師が今の世界で魔術師が根源の渦が開いた場合、外側の魔力やら真エーテルが現世へ一気に逆流でもすれば、あっさりと国家は崩壊し、人間は遺伝子レベルで魔素や霊子に耐え切れない。

 アヤラには幾十もの防波堤が必要なのだろう。人間はしぶといようで、直ぐ死ぬ。滅ぶ。

 引き継いだ理想を足掻く士郎のように、人々を救うのは余りに難しい。しかし人類滅亡の危機を引き起こす人間を殺し、世界を救うのは力と知恵があれば簡単だった。

 

「―――抑止力。

 ―――カウンターガーディアン。

 死した人間霊の魂を、奴隷の走狗にする贄の契約。相も変わらず、胸糞悪いシステムさ。何より、超能力者って言うのも抑止力の一部だしね。カウンターガーディアンのミニチュア版だよ」

 

「道理だな。私もまた、そう言うのは良く見たものだ。原子力発電所が暴走した時も……いや、もう今は如何でも良いことだったな」

 

「……シロウ。それは如何でも良いことではありません」

 

「セイバー……?」

 

「セイバーではありません。アルトリアと呼んで下さい」

 

 その名はもう捨てた。嘗てセイバーと呼ばれたサーヴァント、騎士王アルトリア・ペンドラゴンは死に絶えた。今この場所にいる者は受肉した死霊。だたの人間、ただの剣士、ただの女に過ぎないアルトリアである。

 

「いや、すまない。偶に忘れてしまってな。それで如何したと言うのかね。らしくなく、憤っている様子に見えるが」

 

「当然でしょう。あれを如何も良いと言うのは、余りに酷だ。せめて救えたことは誇るべきです。誰の為でもなく、自分自身の為に」

 

「私は、誇るべきことなど成していない。自分の手で救った訳ではない。所詮は犬にならねば、理想を目指し始めることも出来なかった落後者だよ」

 

「貴方は……それでは――――」

 

 隣でそんなシリアスを様子見しながら、士人と綾子は黙々とマーボーを食べていた。しかし、綾子は放っておけず、二人の話に介入した。

 

「まぁまぁ。過ぎ去った昔話さ、アルトリア。そもそも男してならば、アンタみたいな良い女に愛されてる時点で勝ち組じゃないか。遠坂や桜にも……ッチ。このハーレム野郎が。ハーレム好きな男なんて碌な奴がいない。

 どうせ衛宮のことだ。他にも世界各国で現地妻とか作ってるんでしょ?」

 

「――――――シロウ?」

 

「おっと心は硝子だぞ。アルトリアを使って私を殺したいのかね、美綴」

 

「良く言うな、衛宮。俺が知る限り、十人以上の美女アンド美少女だっただろうて。ハリウッド映画の主人公ばりにヒロインと一夜の関係となり、何だかんだでこの世界を、人間として生まれた事を堪能している。この身は神父故、嘘はついていないと断言しよう。

 ……無論のこと、こんな世界だ。辛い事の方が多いがな。

 それでも絶望するような悲劇ではないだろうて、アルトリア。

 俺もお前も美綴も、そして衛宮も、この現在を決める自由があった。この未来で良いと選んだ過去があった。ならば本望のまま生き、欲望のまま死ぬだけだ」

 

「まぁ、アタシが言いたいのはそんな雰囲気の事さ。結局、不幸があろうが絶望があろうが、やりたい事してるんだし良いじゃないか。

 それでも死んだとしても、別に構わないから一度だけの人生よ。

 夢や理想に溺れた結果なら、幸福な死に様だって胸を張れる事は出来る筈さ。それはそれとして、悔いや報い、恨みや憎しみが残ったなら清算するだけ。そうすれば人間万事塞翁が馬って事じゃない」

 

 うんうん、と衛宮士郎の生き方を全肯定する美綴綾子と言峰士人。似た者同士達と言うこともあろうが、絶望している暇があるなら突き進み、恨み辛みがあるなら遠慮なく復讐し、夢も欲も手に入れたいなら努力する。自分のことを棚上げし、敵の都合を娯楽にし、良くも悪くもこの現在を有りの儘に感動する。

 二人共、人間賛歌を突き詰めた在り方の一つ。

 基本的に衛宮士郎やアルトリアみたいな人間こそ、手助けしてくなる相手なのだろう。

 

「―――とは言え、遠坂凛が相手では戦力不足だ。他にも聖杯戦争が各地で引き起こされており、この冬木に来れたのはこの四人だけだ。

 沙条と殺生院は自分達で聖杯を生み出して死都を作り出し、あの殺し屋や聖堂教会はそっちの解決に勤しんでいる。獣血教会の連中も聖杯を使って異界常識が支配する死都をイギリス国内に作り、バゼットさんや魔術協会の戦力はそちらに削がれている。

 となると、この国でバベルに対処する勢力は俺らだけとなる」

 

 麻婆豆腐を食べ終えた神父は手を組み、重々しい態度で告げなければならない事を言葉にした。

 

 

 

「さぁ、今より―――最期の聖杯戦争を始めよう」

 

 

 











 これにて、神父と聖杯戦争完結です。
 今まで本当に、ここまで長い期間読んで頂き、ありがとうございました。






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大体は題名の通り。▼一度カーマと契約したことがあるオリ主が、好感度はそのままに再契約して人理修復に挑む話です。▼藤丸は女性で登場(ヒロインにはならない……はず?)▼ 設定が穴だらけな可能性があるので、気になった所は指摘して貰えればと思ってます。▼ 前日譚はこちら→ https://syosetu.org/novel/286124/▼ 


総合評価:8953/評価:8.07/連載:60話/更新日時:2023年03月21日(火) 18:00 小説情報


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