※この作品は、GF(仮)の二次創作小説です。
※恋愛要素が皆無。ご注意を。
※この作品はGF(仮)の二次創作小説です。
※恋愛要素が皆無。ご注意を。
※息抜きに書いた短編です。設定を詰めようと思って何も明かさない小説となりました。あくまで自己満足ですので、足りない空白は想像で補ってください。
聖櫻学園。
特に進学校として有名でもなく、矢鱈と行事が多いことで有名な、我が高校だ。
この学校に入学して二年目。俺は今迄の人生の中で、経験したことのない種類の危機に直面していた。
「……あの、記事を書け、とは……」
「そのままの意味よ。最近マンネリ化してきたから、偶にはゲストに書いてもらってるの」
だとしても、無理矢理連れてくることは無いのでは……。
視界の端の同級生を軽く睨むと、申し訳なさそうに笑っていた。
聖櫻学園新聞部。
野球部から吹奏楽部、オカルト研究会から大道芸研究会なるよく分からないものまで、実に様々な部活やサークルが存在するこの学園で、その活動を知らぬ者はいないとされる大きな部活だ。
その活動内容は、校内新聞の発行。また、放送部とは別に生徒会広報としての役割もある。
現在の部長は、笑顔で座っているだけで泣く子も黙る編集長・神楽坂砂夜。つまり、今俺の目の前に座っている人だ。
その名声……というか悪名は、善良な一生徒である俺の耳にも入ってくる。一年の頃から実質部長だったとか、教師に通用する発言権があるだとか、生徒会を影から牛耳っているだとか……。聞きようによっては影の支配者と言われても間違いではないと思われる。大半は誇張だろうが。しかし、実際に対面してみると、なんとなく本当でもありえそうな雰囲気を感じるのは何故だろうか。笑顔ですら威圧感を感じる。これは断れない。
「……おい南条、どういうことだ」
「いやーごめんねぇ。部長にキミの事を話してみたら、予想以上に食いついてきて、連れてこいなんて言うもんだから、断れなくて」
同級生でクラスメイトな新聞部員、南条クミコは、全く悪びれる様子もなくそう言った。絶対嬉々として了承した。
そうやってけらけらと笑う南条を見ていると、なんとも怒る気力も起きず、俺は机に突っ伏した。
「校内新聞を書けったって、なあ。何をどうやって書けばいいのか、全くもって分からんぞ」
「まあ、何も全部って訳じゃなくて、頼まれたのはコラムでしょ?気楽に書けばいいんじゃない?」
気楽に言ってくれる。
俺は作家志望でも記者志望でもない。人に読まれて笑われない文章を書くなど、久しくやっていないし自信もない。最後に書いたのは小学校の卒業文集だ。
頼まれたのはコラム欄の執筆。校内新聞はあまり読んだことが無いためによく知らないが、なんでも何号か毎に、新聞部以外の一般生徒に執筆を依頼する何でもコラムの枠があるらしい。大抵は紙面の空きを埋めるためで、今回もその例に漏れず、といったところだ。
つまり、テーマは自由。設定されたスペース内ならば論評だろうが小説だろうが漫画だろうが部活の宣伝だろうが何でもありらしい。実に聖櫻らしい。
そんな、言ってしまえばそこまで重要ではない依頼だが、生憎俺は話が作れるわけでもなく絵が書ける訳でもなく、はたまた社会批判を出来るほど知識が豊富な訳でもない。その上帰宅部でほぼ無趣味ときている。……やめよう。自己評価で悲しくなってきた。
ともかく、新聞部部長に目をかけてもらう理由が分からないほど無個性な俺は、ただのコラムに書くことも四苦八苦だ。自由研究が一番難しいとか、そんな感覚だ。
「うむむ……どうするか……」
などと頭を捻っていると、耳にチャイムの音が響く。見やれば授業の時間だ。もうそんな時間か。朝早く神楽坂さんに呼び出されてからそこまで時間は経っていなかったと思っていたが、そんなことはないらしい。時の流れは残酷である。
放課後。
結局一日中考えても何も浮かばず、浮かんだのは自分が如何に無個性かということぐらいであり、半ば諦めかけていた。
南条は無責任にも自分の取材で大忙しらしく、「キミなら出来る」というありがたいお言葉を残して去ってしまった。自分から推薦しておいてなんて無責任なヤツだ。
そんなことはさておき、いや結構重要だとは思うがさておき、問題は目の前である。脇を見る余裕は残念ながらない。
〆切まではまだ時間があるとはいえ、執筆する時間を考えると題材は早い内に決めたいものだ。
そんな俺の前に、それは待ち構えていたように現れた。
学校の中において、最も多種多様な知識を持つ部屋。俺とは色々な意味で余り関係のない場所。しかし今回に限っては、素晴らしく使い道のありそうな場所。要するに、図書室である。
戸を開く。辺りの喧騒とは隔絶された、本のための静寂が広がっていた。
図書室には言わずもがな、大量の本がある。ここで興味が引かれた何かしらを調べるなりすれば、何とかなるであろう。
数十分後。
「……」
分からない。
何を調べればいいかも分からない。
とりあえず手当たり次第に適当な本を手に取り読んでみたが、普段から本を読まない生活をしてきた俺には、斜め読みだの速読だのといったテクニックは身につけておらず、 読む速度も内容の理解度も遅く浅い。要するに、何が書いてあるか理解するのに時間がかかりすぎ、これだけ時間をかけてもマトモに読めていないのだ。
そうこうしているうちに、図書室の中を探るのにも蛍光灯の灯りが必要になっていた。本棚に本を片付けていると、少し離れた場所に、何となく見慣れた頭が本を片付けているのが見えた。あれは……。
「……で、私に相談してきた、と……」
帰り道。図書室で出会ったクラスメイト、夏目真尋と共に歩いている。学園では文芸部に所属し、南条に聞いた話では新聞に小説を寄稿しているらしい。そんな人ならば、相談してみれば何かしらよいアイディアを出してくれるであろうと期待していた。
「ああ。いつも小説とか書いてる夏目なら、何かいいアイディアでもくれるかと思ってな」
「うーん……文章の書き方なら教えられなくもないけど、アイディアは……」
難しそうな顔でそんなことを言われた。やはりそうなのか……。
何を書くか、ということはあくまで書く人間が何を書きたいかで決まる。他人に決められるものではないのかもしれない。
「――あ」
ふと、隣の夏目が声を出した。そしてこちらを見て何かを言おうとしたが、すぐに目を伏せた。
「なんだよ」
「……ううん、なんでもない」
そう言う夏目は真っ直ぐ帰路を見据えていて、その雰囲気は何でもなくは感じられない。
しかし、それを聞き出す気にはなれなかった。それは、俺の中で夏目が何を考えたかが何となくではあるものの分かっていたからだろう。
暫く、無言で歩く。帰路は完全に一緒ではなく、途中の交差点で分岐する。そうして、その交差点に辿り着く。
無言のまま、別れて帰るのかと思い、自分の帰路に足を向けた。別れの挨拶でもしようかと思った俺は、後ろからの夏目の声に引き留められた。
「貴方が良ければ、だけど。
――少し遠慮がちなその言葉は、俺の中に深く聞こえた。
「……考えておくよ。ありがとう」
言い返す言葉が見つからず、無難な返事で俺は逃げた。
確かに、あれからもうすぐ一年だ。振り返り考えるには丁度いい時期かもしれない。しかし、俺の中ではその事実に背を向け、考えることを放棄している自分が強い。いつかは自分の中で決着をつけなければいけないことは分かっているが、しかしその事を、こともあろうに聖櫻新聞の紙面において発信してしまってもよいのか。その葛藤が渦巻き、前に進む事を拒否する。
「……なんだか、なあ」
口から零れた呟きは、自分の耳にははっきりと聞こえた。
「――新聞のバックナンバーが欲しい、ですか?」
それから。
不眠症とはこうして罹患するのかと思えた夜を越え、俺は朝早く図書室を訪問していた。図書委員の一人がいるだけの図書室で、案内された場所に丁寧にファイリングされていた聖櫻学園新聞のバックナンバーを閲覧机に積み上げ、捲る。
大きな学校行事から、何でもない日常の一コマも。通年発行される新聞はかなりの量で、ただそれの大見出しをなぞるだけで、去年一年の動向が事細かに把握できる。しかし、俺が探すのはそんな事ではない。別に一年を振り替えるためにわざわざこんな事をしている訳ではない。
今年の入学式を過ぎ、去年の卒業式を過ぎる。送別式、クリスマス、ハロウィン……。
次々過去を遡っていく。そうしてやがて、去年の夏休みの記事にまで辿り着く。
探し物はもっと先。かつての俺の、今は振り返りたくもない過去。
探し当てた記事。かつて見たままのその大見出し。苦々しい思いを押し込め、読み進めていく。
そこに書かれていたのは衝撃的な内容で、確かにそれには俺の事実。しかし、やけに克明で、まるで記者本人がその事件を体験して書いたようであった。
何か嫌な予感がした。そうして記事の締めくくりの後ろの記述を目にした。
「……ああ、そういうことか」
俺は、全てを理解した。そして同時に、俺の中の俺が、初めて前を向いた。
―――
数日後、聖櫻学園新聞部室。
一人の長髪の女生徒が、一枚の原稿用紙を挟んで、一人の男子生徒と対峙していた。
「……よく、この事を書く気になったわね。本当に掲載していいのかしら?」
その言葉はどこか探るようで、原稿が〆切に間に合った喜びはない。
その言葉を聞いた男子生徒は、短い溜め息の後に切り返した。
「それが、貴女の仕向けた理想の結末でしょう、神楽坂先輩。貴女のお陰で高校生活は滅茶苦茶ですよ」
神楽坂砂夜は、何かを反射的に言おうとして、しかし口をつぐんだ。
そして一度考えの空白を置き、口を開いた。
「その節は、私の考えとは違う方向に動いた結果、確かに貴方を傷付けてしまった。それは謝罪するわ。ごめんなさい」
神楽坂砂夜は、頭を下げた。そこまでされるとは思ってもみなかった男子生徒は、少し驚いたが、謝罪を素直に受け取った。
「……では、俺はこれで」
「ちょっと待って頂戴」
さっさと踵を返した男子生徒を、神楽坂砂夜は引き留めた。
「この件で私は、貴方に恩を仇で返すような真似をしてしまった。そんな私が、こんなことを言うのは変でしょうけど……」
「――聖櫻学園新聞部に、入ってくれないかしら?」
「……ははっ、それは面白い冗談ですね」
「貴女のお陰で、俺は学校の人気者です。俺をそうした部活に入れと?冗談じゃないですよ。その掲載記事で、俺は晴れてスターの仲間入りです。それでいいじゃあないですか。それで……」
神楽坂砂夜は、その男子生徒を良く知っている。それは数日前までは一方通行的な知識であったが、今では男子生徒が断片的に神楽坂砂夜の事を、もっと正確に言えば過去の真実を知ったことで、双方向な知識となった。そして、それは非難されるべき二人の間だけの後悔となった。
「許してとは言わないわ。恐らく貴方は私を許さないでしょう。だけど、私は貴方に、贖罪がしたいの。それは許されて然るべきじゃないかしら」
「……卑怯ですよ、貴女は」
男子生徒はそう呟いて、向き直った。静かな室内で、その呟きは神楽坂砂夜にも届いた。
「条件が、二つ。その原稿を掲載すること。そして――」
「貴女が、神楽坂先輩が自分の言葉で、もう一度コラムを書いてください」
彼は毅然と、そう言った。
息を飲む音は、静寂に広がって消えた。
―――
扉をノックすると、聞き慣れた声で入室が許可される。ので、俺は何の躊躇なしに扉を開けた。
もはや見慣れた机の配置の最奥に、俺の仇が座っていた。
「原稿、上がりましたよ、編集長」
俺が手に持った紙を渡す。座っているのは編集長、神楽坂先輩だ。
「ええ、確かに。期限ギリギリよ、もう少し早めにお願いしたいものだけれど」
「ちゃんと出しただけマシだと思って下さい。どこぞの漫画家志望よりは」
その言葉に少しの苦笑いを見せると、神楽坂先輩は立ち上がった。
「さ、帰りましょう。チェックは明日でも十分間に合うし。どこか寄って行く?」
彼女は彼に無かったものを与え、贖罪とした。
そういうお話です。