えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
「それじゃあ、オーダーメイドの杖が出来上がるのはしばらく先になる訳か」
『えぇ、『
「……あれ、俺の趣味のために組織全体が巻き込まれている?」
大盛況で終わった杖大会が終幕して数日が経った頃、俺は大会中に連絡先を交換していた
『当然でしょう。むしろ積極的に研究に加わりたいと魔法使い達が押し寄せ、組織側からエレインのための工房まで作ってもらいましたから』
「えーと、それってもしかしなくても俺との接点を少しでも得るため?」
『あの大会であなたと直通のコンタクトを得られたのは、実質私達だけでしたからね。それに『
「まぁ、つけないな…。良いものを作ってくれるならそれに越したことはないし、素晴らしい技術には相応の対価を払うのが礼儀だからね」
俺の趣味のために総動員してくれるのは何か申し訳なさを感じるけど、やりたくてやっているならいいのかなぁ…。俺自身はそこまでガチじゃなくても…、と考えてしまうが。相変わらず、俺と世間の温度差に風邪をひきそうである。今回の大会でわりと自覚は芽生えてきたと思ったけど、まだまだ足りなさそうだと感じてしまった。
あと、杖大会の優秀者達による俺とラヴィニアの杖製作は『
ちなみに、メフィスト様からこういう時は値切ったり、ケチったりしない方がいいと言われていたりする。研究職や技術屋というのは表だって目立つことが少ない。腕の立つ職人ほどこだわりやプライドが強く、そんな彼らが思いっきり力を出せるのは上客が相手の時だ。この人になら腕を振るってもいい、という気持ちは作品の出来に影響もしてくる。それに、せっかく『
「ところで、俺は契約したウェストコットさんに連絡を入れたはずなんだけど、なんで当たり前のようにペンドラゴン家の次期ご当主さんに繋がったんだ?」
『エレインは隣でちゃんと私達の会話を聞いている。あなたがエレインと契約してもらった件は感謝しているが、それはそれとして恋人が他の男とマンツーマンで会話するのは我慢ならなかった』
「思春期か」
事情がマジで私情過ぎるぞ、このお坊ちゃん!? いや、まぁちょっと俺も気持ちはわかるけど、それはそれとしてゴーイングマイウェイ過ぎるだろ。俺じゃなかったら、怒られても仕方がないぞ。さすがは原作で、我が道を行くヴァーリチームに馴染めた訳だよ。
「というか、無事に交際の許可をもらえたんだ。おめでとう」
『あぁ、ありがとう。『
「……俺の名前で解決できて良かったよ」
『そうだ、名前を借りた手前こちらも手助けできることがあったら言って欲しい。たとえば、そちらも恋人になれるように協力を――』
スパァーンッ! と良い音が通信先からなった。
『兄がすみません。浮かれているとはいえ、さすがにデリカシーがなかったのでエレインに締めてもらっています』
「あっ、いえいえ。素晴らしい対応で」
『本当に申し訳ないです…』
兄がぶっ飛んでいると、妹はしっかり者になるという大変よくわかる事例であった。原作のクールな眼鏡イケメンのイメージが、どんどん妹と幼馴染(恋人)に頭の上がらない残念イケメンに代わっていく気がする。たぶん、ラブコメさえ絡まなければ問題ないタイプだったんだろうなぁ…。俺は気にしてないと安心させるように笑うと、ルフェイ・ペンドラゴンもホッとしたように息を吐いていた。
「そんなに固くならなくてもいいぞ、今後も空飛ぶ杖でお世話になるだろうし。ペンドラゴン…じゃ、お兄さんと被っちゃうか」
『でしたら、ルフェイとお呼びください。兄さまのことも名前呼びで問題ありませんよ。えっと、エレインは……』
「たぶん、ウェストコットさん呼びがよさそうだよね」
『本当にすみません…』
いえいえ、なんとなくアーサーのことがわかってきたから大丈夫だよ。なんというか、それだけウェストコットさんのことがずっと好きだったんだろうなぁーとわかってしまう。次期当主として身分差がある故に、独占欲を表に出すこともできずにいた。それがようやく堂々と隣にいられるようになったのだ。貴族としての政略結婚がどうしても嫌で、テロ組織に加入するほど拗らせた男である。そこの線引きさえ間違えなければ大丈夫だろう。
それに、俺も気持ちはちょっとわかるのだ。もし、ラヴィニアの傍に同じ年ぐらいの異性がいたらと考えたら、俺だって気になってしまうだろう。たまたまラヴィニアには、俺以外に年の近い異性が傍にいなかっただけのこと。天然気味で誰にでも分け隔てなく接する彼女の人柄を考えれば、同年代の異性との距離に目が行ってしまうのは自分でも理解できた。
正直、アーサーの『恋人』発言で色々自覚させられて、こんにゃろうと思う気持ちと一緒に感謝も一応あるのだ。俺達のことを全く知らない第三者だったからこそ、俺とラヴィニアの関係に口を出せたのだと今ならわかる。フレイヤ様からも聖書陣営側が俺達の関係に突っ込むことはできなかっただろうとも言われたし。なので、思春期真っ盛りの面倒くささとリア充の羨ましさに肩を竦めたくはなるが、そういうものだと納得はしていた。
『すまない、思慮不足だった』
「おう、反省しろ思春期男子。けど、良い妹さんと恋人だな」
『もちろんだ』
自慢げに眼鏡をくいっとする仕草が見えた気がした。あと数年したら原作みたいに落ち着いた英国紳士に成長するだろうし、うちの保護者の皆さんのように後方腕組み勢として見守っておこう。恋のキューピット的な役割だった俺への好感度というか、遠慮のなさはよくわかったしな。暴走した時は素直に女性陣に任せよう。
「俺のことも奏太って名前でいいよ。ルフェイちゃんからアーサーって呼んでいいって言われたけど」
『こちらもそれで構わない。話は戻すが、映写機能、動画機能を杖につけるとして、あと一つ機能をつけられるが大会でエレインが見せたような魔法弾にするか?』
「魔法少女にする弾丸やビームって撃てる?」
『…………』
「空飛ぶファンネル型魔法少女変身ビーム機能が欲しい」
『悪魔か?』
俺恩人だぞ、ガチで引くなよ。
『えっと、奏太さん。魔法少女ビームと言うのは、大会の警備で使われていたコンパクトのことでしょうか?』
「そう、それそれ。魔法少女の変身は可愛いアイテムを使ってこそという矜持を魔法少女達は持っているから、こういうことを頼みづらくってさ。彼らの気持ちもわかるし。でも、咄嗟に俺が使うものなら、コンパクト形態より持ち運びが便利で奇襲もできる杖の形状が最適だと思うんだよね」
前にフリードくんの師匠であるダヴィードさんの背中にコンパクトを突きつけた時、あれが杖だったらもっと格好よかったと思ったんだ。昔の相棒の時と同様に「当てる」までの動作がコンパクトだとやはり難しい。俺の場合、敵の動きを止めないといけないし、戦闘中だとより至難の業だ。今は禁手によって『概念消滅』を蝶にして飛ばすことでかなり戦闘の幅が広がったのと同じように、そろそろ魔法少女も性能アップしていくべきだろう。
「護身用に持つにも最適だろ」
『身を守るための防衛手段としても、凶悪なのは間違いないだろうな…』
「あとでペンドラゴン家と『
『もはやテロだろ』
実際にテロ組織に加入していた人(未来)に言われた…。別に魔法少女変身魔法は秘匿した技術じゃないから、どんどん研究してもらって大丈夫だしね。普通なら技術の漏洩にはリスクがつきものだけど、魔法少女の場合そもそも自分達に使用済みだから何も恐れることがない。オープンな組織って素晴らしいよね!
『『
『が、頑張りましょう、皆さん! 『
『完成したら我々もそっち側に見られますが、背に腹は代えられません。請け負った仕事を完璧に仕上げられなければ信用問題に関わりますから』
「えっ、俺そんな決死の覚悟を決めさせるようなことした?」
こうして、『
「うーん、とりあえず直近でやらないといけない仕事はこれで終わったかな…」
テーブルに広げていた書類を一まとめにして、ふぅと一息つく。運営のほとんどはメフィスト様がやってくれたとはいえ、主催者の一人である俺にもそれなりの責任はある。組織運営の勉強のためにも、大会運営で起こったことや金銭の流れなどを確認する書類を読んでは判を押す作業を繰り返していた。おかげで目がしょぼしょぼするが、こういう裏方作業にも慣れていかないとなぁ…。
俺の場合、相棒がいるのでわからないところはすぐに教えてもらえるし、間違っていたらその場で訂正してくれるので助かっている。いっそ相棒に全部任せたい衝動に駆られることもあるが、そこはズルには手厳しい相棒なので「ちゃんと仕事を覚えなさい」と容赦がない。その分、仕事が終わったら凝った身体を解してくれたり、疲れ目を治してくれたりはしてくれるのだ。相棒の飴と鞭が的確過ぎる件。
そんな凝った身体を伸ばして漏れた欠伸に手を添えていたら、コンコンと控えめなノック音が扉から聞こえた。俺が返事をすると、金色の長い髪を後ろに軽く縛ったエプロン姿のラヴィニアが顔を見せる。レースの付いた水玉模様のエプロンと三角巾に、普段の魔女としての姿ではない家庭的な姿に思わず息を飲んだ。
「カナくん、お仕事の方はどうでしょうか」
「ちょうど終わったところだけど…」
「よかった。それなら、お菓子を作ったので一緒に食べませんか? 疲れた時には甘いものが一番なのです」
「マジで! ありがとう、ラヴィニア」
実際、小腹が空いてきた頃だったので彼女の申し出は素直に嬉しい。俺からの返事にぱぁっと笑顔を見せたラヴィニアは、茶色いココアパウダーのかかったデザートを持ってきてくれた。コーヒーの仄かな香りとフワッとした生地はティラミスのようだ。さすがは本場イタリアのお菓子、おいしそうである。ラヴィニアはクレーリアさんとお菓子作りをしているからか、どんどん腕が上がっているのが目に見てわかった。
「ティラミスは疲れた時に最適なのです。ママもよく作ってくれたのですよ」
「確かイタリア語で「
「いつも紅茶でしたが、抹茶も合うのですか?」
「これが意外と合うんだ。ティラミスって後口がわりと残るんだけど、それを温かい抹茶でスッキリさせることでティラミスの味がより味わえるんだよ。抹茶ティラミスだってあるぐらいだしな。ちなみに鳶雄直伝」
「トビーが言うなら間違いないのです。カナくん、抹茶をお願いしてもいいですか」
「まかせろ」
さすがは鳶雄、料理チートを地で行く後輩である。俺だってお菓子作りはできないけど、お茶なら朱芭さんに叩き込まれたからな。お茶を点てる用の道具を用意してお椀の中に粉末を入れたら適量の水を入れ、
「良い匂いなのです。えっと、お茶の作法は…」
「今回は気にしなくていいよ。せっかくなら温かい内に食べちゃおう。いただきます」
「はい、いただきます」
コーヒーのほろ苦さとカスタードソースの甘さに自然と頬が上がり、二人で御椀を両手で持って抹茶を流し込む。そんなシンクロする姿がなんだかおかしくて、つい笑ってしまった俺につられてラヴィニアも笑みを浮かべる。本当に何気ない日常だけど、この時間がやっぱり心地よくて温かい。みんなでわいわい賑やかに過ごすのも好きだけど、ラヴィニアと二人でのんびり過ごすこの時間も大切だと思った。
「このティラミス、めっちゃ美味しいな」
「ふふっ、よかったのです。……カナくん」
「ん?」
「私はカナくんとこんな風に過ごす時間が、やっぱり好きだなって改めて思ったのです」
「……俺も同じ」
率直な彼女の意見に一瞬虚を突かれたが、照れながらも俺もしっかり返事は返す。それにくすくすと目を細めたラヴィニアの笑顔に見惚れながら、最近はこうやって一つひとつの時間を過ごしては言葉にしていく彼女に押されっぱなしだ。これで思ったことを天然で伝えているだけなのだから、マジでこっちの情緒がヤバい。もう少し手加減してください。
「その、杖の事とかそっちに任せちゃって悪いな。進捗とかはどんな感じ?」
「今は設計図やデザインを練っているところなのです。出来上がったらカナくんにも見せに来ますね。カナくんはオークションの方を担当してくれていましたよね」
「そっちは何とか全部捌けそうかな。良さそうなやつは何本かカイザーさんが落としてくれたし、世界でも上澄みの杖職人達が作ったものだったからどれも人気だったよ」
材料はほぼ全部こっち持ちで、技術を競い合うための大会だったので、元手を回収するためにも使われた材料や技術に応じた値段で製作された杖のほとんどは
ちなみにオークションは大々的なものではなく、ネットで金額を提示して選考するタイプだ。このあたりのシステムはアジュカ様に手伝ってもらった。杖大会で杖自体は公開されていたので、欲しい杖にこれぐらいの金額を出しますと身分証明を付けて提示してもらう。そこからオークション担当で選別して当選が決まるのだ。誰が杖を買い取ったのかは製作者以外は公開されないため、盗難防止も兼ねている。ただ当然匿名性が高いやり方なので、悪い魔法使いの手に渡る可能性があるのがネックだった。
「そこで活躍するのが相棒の直感ってね。当選予定の人達の情報を事前にもらって、「この人なんか嫌な予感がするなぁー」っていうのを振り分けて調べてもらった訳」
「相棒さんってそこまでできちゃうのですか」
「相棒って自分で触れるのが難しいとはいえ神器システムの大本だからね。
なお、俺は相棒の直感が外れたところを見たことがないけど。ラヴィニアにはぼかしたが、これは俺の身体に相棒を憑依させてやってもらった選別作業だ。俺自身は俺に対する善悪ぐらいしか把握できないけど、相棒が憑依状態なら相手の情報から演算と予測を立てて予知レベルの性能を叩きだしてくれる。それこそ、電子情報さえ取り込めばネットの先の相手だって割り出せるらしい。イングヴィルドの新規神器みたいに、いつか電子機器に特化した神器とかも出てきそうである。
そうやって振り分けたおかげか、オークションの商品は問題なく捌け、金銭のやり取りもさっきの書類でようやく終わった訳だ。終わってみれば、俺の貯金が元手を上回ってさらに膨れ上がっていてビビったけど。多くはスポンサーや協会に還元されたはいえ、本気の職人たちのやる気を嘗めていたわ。これは第二回目が切望されるのもわかるな。技術革新的にも、利益的にも経済効果が高い裏付けがとれてしまった。
「ただこれやるとすっげぇ疲れるから、あんまり多用はできないけどね。かなり集中しないといけなくて、目も頭も痛いのなんの…」
「お疲れ様なのです。あのカナくん、そんなに疲れているのなら…」
完食したティラミスのお皿を下げてくれたラヴィニアは、口元に手を当ててちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめた後、意を決したように俺の隣にちょこんと座った。それにびっくりした俺の顔を覗き込むように、パンパンと自分の膝を軽く叩いて見せた。
「クレーリアが言っていたのです。マーシャが疲れている時は、これが一番効果的だって」
「あの、ラヴィニアさん。それって…」
「膝枕なのです。オプションで耳かきもつきますよ」
「初心者がバカップルを参考にしないでっ!?」
俺も見たことあるけどさっ! 疲れてスライムみたいになっている正臣さんが、吸い込まれるようにクレーリアさんの膝に引き寄せられていった光景を何度も! 俺も見慣れるぐらい耐性出来ちゃっているわ、あのバカップルめッ!! そりゃあ、ラヴィニアもそれが平常運転だと思っちゃうよ…。
「嫌ですか…?」
「嫌…、ではないです」
「では、どうぞなのです」
「……し、失礼します」
これ、未だ友達の距離感でやっていいことなのか? ラヴィニアがあんまりにもにこにことしているから、断る勇気も出ない。覚悟してとは前に言われたけど、マジでラヴィニアの天然猛攻がヤバい。あとでクレーリアさんにバカップル基準で天然を嗾けないでくださいってお願いしておこう。心臓が持たない。
ただ彼女の申し出を受け入れた以上、男は度胸である。俺はラヴィニアの太もものあたりにゆっくり頭を下ろすが、羞恥から紅くなる頬が出来るだけ見えない様に背中を向けるしかない。正直気持ちよさより、緊張で心臓がバクバクして汗をかいてしまっていないかの心配しかない。ヤベェ、自分がヘタレすぎる。これを役得だと、存分に堪能できる原作イッセーの心臓の強靭さに戦慄した。
「どうですか?」
「えっと、良い感じです?」
「ふふっ」
笑われてしまった。でも、その声が心地よく鼓膜を打ち、俺の髪を梳く手の優しさに少しずつ気持ちが落ち着いてきたのがわかる。張っていた肩の力がだんだん抜けてきたあたりで、好きな女の子に翻弄され続けるのはちょっと男として受け身過ぎるかと考えてしまう。だから、俺も素直に言葉で返すことにした。
「ラヴィニア」
「はい?」
「いつもありがとう。俺の体調とかこうして気にしてくれているの、少しくすぐったいけどすごく嬉しいよ」
「……どういたしまして」
相手からの献身を当たり前だと思わないこと。感謝と尊重はちゃんと言葉にして返すこと。彼女の前で好きだとはまだ言葉にできないけど、せめて気持ちぐらいは返してあげたい。そんな俺からの言葉に一瞬彼女の頬に朱が走ったが、次にふわっと見せた笑顔に安心した俺はもうしばらくこの心地よさを享受しようとそっと瞼を閉じた。
――――――
「やっほー、朱乃ちゃん。この前はいきなり堕天使紹介PVをお願いしてごめんね。でも、すっごく好評だったよ」
「ごきげんよう、兄さま。本当にアレは唐突だったからね…。ちなみに悩殺できてたかな?」
「いけない扉をあけそうなファンは出来てたと思うよ。お兄ちゃんは妹の将来が大変心配です」
「そう? 母さまとベネムネ先生からは絶賛されたのに」
さすがは堕天使の幹部を悩殺した母の直伝である、娘さんを英才教育し過ぎじゃないかな…。原作では妖艶なお姉さまキャラで儚さと献身さに胸を打たれるヒロインだったのに、原作とは違った方向性で魔性の女性に成長しそうなんだけど。姉と妹を使い分けられて、妖艶さと天真爛漫さを兼ね備えているとか無敵すぎる。たぶん、バラキエルさんが一番頭を抱えているな。
あと、ベネムネさんはやっぱりそっち方面の教育によろしくないタイプだったか。原作で両親のSMプレイを勝手に暴露して、女王様のコスプレを朱乃さんに渡していたあたりから色々察してはいた。
「朱乃ちゃんは堕天使の幹部勢に会ったことはあるんだよね?」
「うん、父さまと一緒に挨拶はしたことあるよ。兄さまは今日会うんだよね」
「総勢七名の堕天使と一気に会うってなると圧巻だろうなぁ…」
原作での影は薄かったけど、キャラは濃いヒト達ばっかりだったからね。待ち合わせ場所としていつもの姫島家へとお邪魔した俺は、朱璃さんが用意してくれたお茶を飲みながら溜め息を吐いた。ついにやってきた堕天使施設の訪問日。俺は魔法使い用のローブを羽織り、念のために武器一式もちゃんと携帯している。今回は顔合わせがメインで遊びに来たわけじゃないし、警戒は怠らない様に気を付けなければならない。でも、友好関係が築けるなら築いていくスタンスでは行こうと思っている。
ちなみにヴァーくんは、
「あれ、幹部の皆さんって総督さんを入れて九名じゃなかった?」
「さすがに幹部全員が本部にいないのはまずいから、シェムハザさんが残ることになったんだって。バラキエルさんは俺の護衛に就いてくれるし」
「あぁ、副総督さんなら安心だね」
「あとアザゼル先生から一名、「人間の神器に興味はない」って言って任務に出ていったヒトがいるから、そのヒトは機会があればまた今度ってことになったんだ」
当然そんな台詞を吐いて幹部の集まりをバックレられる堕天使幹部は一人しかいない。原作の三巻で登場するにはあまりに大物だったネームドボス、堕天使コカビエルである。正直先生から仕方がなさそうに報告を聞いた時、内心ちょっとホッとしていた。原作からして過激派の幹部だったし、人間に対して友好的かと言われたらそんな感じはしない。もちろん、実際に会ったことがないのだから決めつけはいけないが、だからって積極的に会いたいかと言われたら難しいと答えるだろう。
先生も無理やり顔合わせをさせても遺恨を残しそうだし、他の幹部からも「彼なら仕方がない」と納得されているあたり、コカビエルさんの我の強さは組織内でもお墨付きのようだ。そのため、今回の顔合わせは先生を入れて七名になった訳である。
「あぁ、コカビエルさんだね」
「朱乃ちゃんも会ったことがあるんだ」
「ちょっと…、えっと、だいぶ怖そうなヒトだよね。でも、挨拶をしたら短く返事をしてくれるし、確か半年ぐらい前から時々訓練所で父さまと鍛錬している姿を見るようになって、そこまで怖くないのかなって思うようになったよ」
「えっ、バラキエルさんと?」
あれ、コカビエルさんって仲間内で訓練に励むようなヒトだったっけ? 原作では序盤で退場したこともあり、そこまで深掘りがされていなかったからなぁ…。バラキエルさんはコカビエルさんと同じ武闘派の堕天使だから、鍛錬相手には最適かもしれないけど。話を聞いている感じ、わりとストイックに鍛錬に励む真面目なヒトだったのかな。でも、半年前って確か停戦協定が成立した時期だったし、もしかしたら何かしら心境の変化でもあったのかもしれない。
うーん、ちょっと気になるけど今回の集まりに彼はいないんだし、今は頭の隅にでもおいておこう。なんせ堕天使の初めましてはいつも驚きの連続だったからな。未だに鉄球ファーストコンタクトの印象を越える相手はいない。あと、サタナエルさんとのファーストコンタクトも何だかんだで心臓に悪かった記憶があるしな。前回は想定外の接触で咄嗟に嘘をついてしまったから、少し気まずさはあるけど。
「朱乃ちゃんがあと知っている幹部のヒトって誰がいるの?」
「よく会うのはアルマロスさんかな。アルマロスさんも『
「あぁ、アンチマジック研究者と言う名の物理で殴る持論を持った、カイザーさんと仲良くなれそうな悪役ファンの堕天使さん…」
「あとタミエルさんからは、堕天使の営業活動としてトップアイドルを目指してみない? って誘われているかな」
「今すぐお父さんに相談して、拳で語ってもらおう」
うちの妹に何を吹き込んでいるんだ、堕天使の営業担当ッ!? 堕天使の中では一番マシかもと思っていたタミエルさんが、一番けしからん気配がしてきたぞっ! 朱乃ちゃんのポテンシャルを考えれば、アイドルでもぶっちゃけやっていけそうだから目の付け所はいい。だがしかし、そこはしっかりコンプライアンスが問題ないかを兄として見極めるぞコラァッ!!
「朱乃ちゃんがアイドルをやりたかったら応援するけど、ちょっとでも嫌ならちゃんと言うんだぞ。朱雀が喜んで燃やしに来るから」
「兄さま、姉さまはそんな簡単にヒトを燃やしに来ないから」
「夏の集まりに北欧の女神が遊びに来るから取説よろしく~、ってメールで送ったら『燃やす』って返信が来たのに?」
「兄さま、姉さまのためにちょっと燃えた方がいい気がするよ」
あれ、朱乃ちゃんが慰めてくれない件。ちなみに杖大会で北欧の女神様に気に入られて、夏に遊びに来ることになったのはそれなりに伝えてはいたりする。実際、杖大会で交流して連絡先ももらっているしな。フレイヤ様も推し活として俺達のことを北欧に語りまくっているらしいので、公にはできないが暗黙の関係となっているらしい。
さすがに北欧の主神たちも実は夏に来ます、と暴露することはできないため、さりげなくお願いするしかなかった訳だけど。異世界関係を伝えるのに、受け入れる覚悟は大事だからね。俺と朱乃ちゃんで朱雀への認識の違いに首をかしげるも、夏のバカンスでみんなに会えるのは非常に楽しみにしている。メフィスト様が旅館を建てちゃっていい無人島を交渉で借りてきてくれたし、幹事として計画をしっかり考えなくちゃな。
「えーと、アザゼル先生とバラキエルさんのいつもの二人に、欠席のシェムハザさんとコカビエルさん。あとは朱乃ちゃんの担当教官のベネムネさん、悪役大好きなアルマロスさん、アイドル営業のタミエルさん。残っているのは、研究職のサハリエルさんとサタナエルさんって感じか」
「サタナエルさんも担当教官さんなんだけど、あんまり接点がないんだよね。サハリエルさんは研究施設にいることが多いから」
「まぁ、何となく名前や特徴は覚えられたよ。ありがとう、朱乃ちゃん」
改めてみても、バリエーションが多彩な堕天使陣営である。本当に仲良くなれるのか気が気じゃないけど、先生やバラキエルさんも傍にいるんだし大丈夫だと信じよう。だから、不意に胸に感じる嫌な予感的なものは杞憂だと思いたい。改造フラグや鉄球フラグは、絶対阻止できるようにマジで頑張ろう…!
「おっ、そろそろ時間だな。じゃあまたね、朱乃ちゃん」
「うん、いってらっしゃい兄さま」
玄関からバラキエルさんの気配を感じとり、待ち時間に付き合ってくれた朱乃ちゃんにお礼を告げて立ち上がる。堕天使の組織にこうしてちゃんとお邪魔するのは、朱乃ちゃんに会う前だったからもう五年も前なんだよな。そう思うと、なんだか感慨深く感じた。あの頃は、相棒の聲を初めて聞けて驚いたり、バラキエルさんの訓練メニューに泣いたりで大変だった記憶が蘇ってくるけど。今回ぐらいは平和に終わりたいものである。
こうして、俺にとって二回目となる堕天使組織の訪問が始まったのであった。