えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二十五話 ドラゴン

 

 

 

 『ハイスクールD×D』において、ドラゴンは中心的な存在である。主人公――兵藤一誠の神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』にはドラゴンが宿っていて、その純粋なパワーは凄まじいの一言だ。ドラゴンは単純に強い。故に、どの勢力からも恐れられた。大半の名のあるドラゴンが退治・封印され、その魂のいくつかは神器の中に宿ることとなったのだ。

 

 俺がタンニーンさん以外で知っているドラゴンは、『二天龍』と称され、現在は神滅具になったドライグとアルビオン。『五大龍王』と称される、五匹のドラゴンたち。ソーナ・シトリーさんの「ポーン」である匙元士郎(さじ げんしろう)さんの神器に宿る『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』ことヴリトラ。金髪シスター大好きなパンツ龍王、ファーブニル。西遊記で有名な、玉龍(ウーロン)。ロキによって生み出された居眠り龍、ミドガルズオルム。そして唯一の女性のドラゴンであり、現役とされるティアマットだ。後半三匹は、原作でもちょっとしか出てこなかったから俺も詳しくは覚えていないけど。

 

 他には、テロリスト集団「禍の団(カオス・ブリゲード)」のトップに祭り上げられた『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』と呼ばれる最強のゴスロリマスコット、オーフィス。そしてこの作品の題名の一角ともされる『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』、グレートレッド。彼(?)の「ずむずむいやーん」連呼は、今でも俺の心に衝撃的な意味で残っている。主人公の業は深い。

 

 英雄派が利用した『龍喰者(ドラゴン・イーター)』のサマエルやら、リゼヴィムがつくったオーフィスの分身、リリス。神滅具『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』により復活した邪龍など、ドラゴンは本当に深くこの世界に関わっている。その性格は様々だが、共通していることとしては、とにかく我が強い。アザゼル先生も言っていたが、超マイペースでこだわりがすごいのだ。その分、自分の興味の範疇外なことにはかなり無頓着になってしまうらしいけど。

 

 そしてもう一つ、ドラゴン関係で共通していることがある。彼らの「逆鱗」には決して触れないことだ。その逆鱗はドラゴンによって様々だが、一度でも触れてしまうと恐ろしい執念で襲いかかってくる。それこそ、自分が死ぬか相手を殺すまで止まらない。ドラゴンは、己の宝物に執着する生き物だ。どれほどの強者であろうと、絶対に触れちゃいけない領域。だからこそドラゴンは、神や魔王にさえ畏怖され、恐れられたのだ。

 

 

「うっわぁ、すげぇ……」

「高いのですー」

「元とはいえ、天下の龍王の背中に乗れるなんてお前ら運がいいぞ。俺もさすがに初めてだがな」

「翼で飛べるから当然だろう、アザゼル。俺も堕天使を背中に乗せたのは初めてだ」

 

 現在俺たちは、空の上にいる。飛行機なら旅行とかで乗ったことはあったけど、こんなにも直に空を感じたのは生まれて初めてだ。感動も相まって、これ以上の言葉が出てこない。俺たち三人が乗っても余裕があるほど大きな背中もすごいし、何もかもがとんでもなさすぎる。こんな景色が見られただけでも、冥界に来てよかったと思う。

 

 タンニーンさんは、わざわざ俺たちを迎えに渓谷の入り口まで来てくれたらしい。なので俺たちは、彼の背中に乗って渓谷の奥にある火竜の巣に向かうこととなった。アザゼル先生が面白そうにタンニーンさんの背中を叩き、それに何とも言えないような声音で溜息を吐く元龍王様。すみません、この先生色々愉快犯で。

 

 二人とも大戦時代に元々知り合っていたけど、それなりに話をするようになったのは、やはりメフィスト様経由らしい。アザゼル先生は研究でたまにドラゴン系の素材を取りに来るらしく、タンニーンさんは堕天使の技術を借りてドラゴンたちが住みやすいように改良していたようだ。先生って本当に抜け目がないというか、人脈の幅が広いな。

 

「最初はドラゴンの背中に乗るって吹っ飛ばされたりしないか心配だったけど、すごい快適だな」

「お前たちが背に乗っている間、特殊な結界を背中に発生させている。客人を落とす訳にはいかんからな」

 

 やばい、さすがはタンニーンさん。常識がある故に、かわいそうなの代名詞がついてしまっただけはある。

 

「そういえば、依頼でお願いされていた卵って大丈夫なんですか?」

「今のところはな。俺の眷属が魔力を使って、熱を抑えてくれている。だが、細かい制御はやはりドラゴンには難しくてな。ラヴィニアが来てくれたのは素直に助かる」

「眷属?」

「タンニーンさんの眷属ドラゴンさん達ですよ。みなさん、すっごく大きいのです。今から向かうドラゴンの巣も、そこの長さんがタンニーンさんの眷属さんなのですよ」

 

 えっ、そうなのか。そういえば、タンニーンさんって最上級悪魔なんだよな。当然『悪魔の駒』だってもらっているはずだ。だから、彼に眷属がいてもおかしくないってことか。悪魔に転生したドラゴンってタンニーンさんしか知らなかったけど、意外に多かったりするのかもしれない。

 

「タンニーンのチームはえげつねぇぞー。レーティングゲームでこいつらに当たったチームは、ドラゴン恐怖症なんて症状を発症させたりするらしいからな」

「えっ、タンニーンさんがゲームに参加するの!?」

「大きな戦ができなくなったからな、様々な連中と戦えるレーティングゲームはなかなか面白い。時々眷属と共に参加している」

「大型のドラゴン軍団って、悪夢以外の何ものでもないだろ……」

 

 レーティングゲームにはルールがあるから、強ければ勝つという単純なゲームじゃないのはわかっている。それでも、こんな威圧感たっぷりな大型ドラゴン集団と戦うなんて絶対に嫌だ。対戦相手さんがライザーみたいに、ドラゴン恐怖症を発症しても仕方がないよ。圧倒的すぎるパワーチームだ。しかも魔力まで使う。時々しか参加しないのが、せめてもの救いだろう。

 

 そんな風に少しの間だけど、俺たちは談笑を楽しんだ。それにしても、俺ってとんでもない人たちと普通に会話をしているよな。神滅具持ちの魔法少女に、堕天使の総督様に、最上級悪魔の元龍王様。俺の場違い感がすごい。肩書きが何にもないし、俺のモブ感が半端ない。細々と頑張るつもりだからいいんだけどさ。ここは有名になると、その分だけ死亡フラグが二乗になる世界だからな。二倍じゃない、二乗である。

 

 改めて、地味に堅実にコツコツ生きようと俺は心に決めた。そうして、俺たちは遂にドラゴンの巣へとたどり着いたのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

氷姫(ディマイズ)よ、この者に安息を」

 

 ドラゴンの巣には、数十匹の火竜の姿があった。全ての竜が俺よりも何倍も大きく、圧倒的なまでの存在感である。そんな火竜たちはタンニーンさんが空から降りたつと、息を合わせたように頭を垂れた。本当にドラゴンの王様なんだな、とその光景に息を呑んでしまった。

 

 人間が珍しいのか、アザゼル先生がいるからか、タンニーンさんの背中から降りた俺たちに興味深そうな目が多数向けられる。それに居心地が悪くなるが、敵意は感じないのが救いだ。じっと立ち続けるドラゴンたちの間から、タンニーンさんぐらいの大きさの火竜が姿を現した。あの大型ドラゴンが、タンニーンさんの眷属ドラゴンさんらしい。

 

 そのドラゴンの後をついて行くと、石造りで作られた大きめの遺跡のようなものが見えた。その中を歩いていくと、次に俺の目に入ったのは赤い子竜たちだった。夜も近いからか、十数匹のミニドラゴンたちが身体を寄せ合って眠っている。それにラヴィニアと一緒に、口元に人差し指を当てた。

 

 同じ種族とはいえ、徒党を組むのをあまり好まないドラゴンがこれだけ集まっていたのは、今が出産・子育ての時期だかららしい。タンニーンさんはドラゴンの種を残すことを大切にしている。そのため、彼に守護されているドラゴンたちもその意を汲んで、この時期はお互いに協力して子育てをするそうだ。

 

 俺たちは子竜たちを起こさないように静かに進み、ようやく遺跡の奥にたどり着いた。そこには数個の卵が安置されていたけど、そのさらに向こう側の離れた場所に、一つだけ置かれている卵があった。おそらく、アレが例の卵なのだろう。離れていても、熱気が肌を焼くように感じた。俺は神器で外から受ける熱を消滅させ、ラヴィニアの周囲にも冷気がキラキラと纏うように光っている。

 

 それから打ち合わせ通り、ラヴィニアは卵の前に立ち、神器の力でゆっくりと卵内の熱を冷ましていった。水色の光が彼女を包み、熱を発していた卵に浸透していくように広がっていく。目を閉じて集中する彼女の頬に、一筋の汗が流れる。熱によるものじゃないだろうから、それだけ制御が難しいのだろう。氷の力に長けた彼女だからこそ、できる方法って訳だ。

 

 でもそのおかげか数分後にはあれほどの熱気が落ち着いていき、ラヴィニアが大きく安堵の息を吐くと同時に、火竜の卵の熱はほとんど感じられなくなった。彼女は俺たちの方に振り向くと、嬉しそうに笑顔を見せる。成功、ということだろう。それに俺も笑顔を見せ、リュックからタオルと水を取り出して手渡した。小声で労わりの言葉をかけると、達成感に満ちた様子でうなずいてくれた。

 

 

「助かった、ラヴィニア。来て早々感謝する」

「いえ、これが私のお仕事ですから」

「えーと、これでラヴィニアの仕事は終わりなのか?」

「いえ、残念ながらまだです。私が行ったのは、一時的に卵内の熱を下げただけなのですよ。時間が経てば、また卵内の熱は上がってきてしまいます。そのため、定期的に冷気で冷やしておかないと駄目ですね」

 

 あれから卵の安置場所から離れ、俺たちが腰を落ち着ける場所へと案内してくれた。ようやく一息つけたので、俺は水筒の水に口をつけて喉を癒しておく。それにしても、どうやらお仕事はまだまだ終わらないらしい。熱を卵外に逃がせないことは変わらないし仕方がないか。だけど、それだと俺たちってずっとここにいないとまずくないか。

 

「そこは任せてください。数日時間があれば、魔法を組み合わせて熱を逃がすための通り道を作ってみせるのです。メフィスト会長からこのために、色々術式を教えていただきましたから」

「なるほど。つまりその術式ができあがるまで、ラヴィニアが冷気で冷やし続けるってことか…」

 

 冥界に数日泊まるだけの準備はしてきたから大丈夫だけど、本当に俺の仕事が何もない。魔法は座学中だから力になれないし、俺の神器を卵にぶっ刺す訳にもいかない。ラヴィニアは術式づくりや冷やし作業に忙しいだろうけど、俺はどうしたらいいんだろう。

 

「さてと、それじゃあ俺は一度『神の子を見張る者(グリゴリ)』に戻るぞ。お目当ての鱗も分けてもらったしな」

「えっ、帰っちゃうんですか」

「お前らにずっと付き合っていられるほど、俺も暇じゃねぇんだよ。ラヴィニアの術ができた頃にまた迎えに来てやるから、それまでタンニーンに修行でもつけてもらっておきな」

「…………えっ?」

 

 待って、ちょっと待って。今ものすごく不穏なことを言いませんでしたか。誰が誰に修行をつけてもらうんですか。タンニーンさんですよ。最上級悪魔で、元龍王で、隕石の衝撃に匹敵する魔王級の攻撃力を持ったドラゴン様ですよ。そんなすごいお方に、修行を付けてもらうだなんて絶対におかしいって。何より、お忙しいと思いますし。

 

「あぁ、この仕事の依頼をメフィストにした時、対価としてこの者たちの面倒を見るように言われている」

「あの、タンニーンさん。たぶんその面倒って、修行を付けてという意味ではないと思いま――」

「術式ができあがるまで、カナタのやつが手持ち無沙汰だからなぁ。……こいつがこれから先、生き残るためには色々足りないものが多すぎる。しかしあまり時間をかけてもいられない。だったら、ある一定以上の効果が必ず得られる修行を行うしかねぇだろ」

「先生、死にます! 俺人間だから死にます! 人間がドラゴンと修行をするのはおかしいと思いますッ!!」

 

 日本人のノーと言えない精神なんてかなぐり捨てて、俺は本気で泣きつくぐらい必死に訴えまくった。本当に涙も出てきそう。無理だ、絶対に無理だ。鉄球も改造手術もなんだかんだで回避できたのに、ここに来て一番最悪な選択肢が残されるなんてあんまりすぎる! 修行じゃないよ、それはいじめって言うんだよ! ただの死亡フラグだよっ!?

 

 原作で兵藤一誠がタンニーンさんの修行を受けていたけど、あれは彼がドラゴンを宿していたから、そのドラゴンのオーラを使いこなすために行われたはずだ。俺にドラゴンの力なんて全くない。タンニーンさんにわざわざ修行をつけてもらうなんて恐れ多いし、何より自分が生き残れる未来がマジで見えない。

 

 常識的で良いドラゴンだけど、「死なないぐらいに苛め抜けばいいんだろ」とかさらっと言っちゃうようなお方だよ。俺は主人公のようにエロのために頑張れる根性なんてないし、身体能力もないし、ここで得た実戦経験は不意打ちばっかりなんだけど!

 

「安心しろ、さすがにタンニーンに直接しごかせたら、今のお前じゃ丸焦げにされるぐらいわかっている。メニューは俺が考えてやったから、半殺しにいかないぐらいで済むだろう」

「先生、安心って言葉の意味を、今すぐに辞書で調べてください」

「ラヴィニアにサポートを頼むから、衣食住は確保されている。人間だから数時間だけの修行になるが、それでもかなりパワーアップできるかもしれない。そしてたぶん死なない。これほどの好条件な修行は早々ねぇぞ?」

「絶対にわかっていて言っていますよねッ!?」

 

 そんなすっげぇ楽しそうなニヤニヤ顔で言われても、説得力がねぇよ! あと、たぶん死なないって何!? 俺は便利な神器を持っていますけど、本当にそれだけの普通の人間なんですよ! 冥界、ドラゴン、と原作のように確かに揃っていますけど、それでインフレ主人公と同じような状況になるっておかしいだろ。さっきまでの冥界に来てよかった、と美しい思い出にできていた時間が恐怖で塗りつぶされそうだよ!

 

 

「アザゼル。本当にいいのか」

「まぁ、本人はこんな調子でなぁ。神器は厄介な代物なんだが、それを使いこなすだけの下地が足りねぇ。元一般人だから仕方はないだろうが、……このままって訳にもいかない訳だ」

「ずいぶんと、目をかけているな」

「俺はこいつの先生だからな。半端なことはできねぇよ。……おい、カナタ」

 

 ドラゴンとの修行に頭の中が真っ白になり、混乱していた俺に向け、アザゼル先生はデコピンを一発当ててきた。その痛みで目尻にまた涙が出てきたが、それに文句を言うことはできなかった。先生の表情から先ほどまでの笑みが消え、真っ直ぐに自分を見ていると気づいたからだ。

 

「お前からしたら無茶を言われているって気持ちだろうが、こんぐらいやらなきゃ夏休み中にお前をある程度仕上げることなんてできねぇんだぞ。確かに本来なら、ここまで危険な修行をする必要はないかもしれん」

「それじゃあ…」

「だがその時は悪いが、お前を元の日常に戻す訳にはいかなくなるがな。メフィストに言えば、留学期間を延長させることぐらい簡単だ。俺が認めた基準値を超えねぇ限り、……日常に戻れると思うんじゃねぇぞ」

 

 アザゼル先生からの言葉に俺は目を見開き、言葉を失った。絶句、というのはこのことを言うのだろうか。俺は当たり前のように、夏休みが終わるころには日本に帰れると思っていた。だけどそんな俺の考えは、本当に甘かったのだと知った。

 

「前に話しただろう、『神の子を見張る者(グリゴリ)』で保護した神器所有者の処遇について。基本的に、俺たちは他勢力への力の流出を避けるために所有者を留め――いや、監禁している。例え、力の制御を覚えても。どれだけ一般人としての普通の生活を望んでもだ」

「…………」

「俺は堕天使の総督だ。自分の趣味に全力で走るし、凝り性だし、好き勝手やっているけどよ。それでも俺は組織を、仲間(ダチ)を守らなきゃならねぇ。そのためなら俺は、神器所有者(お前ら)の権利を踏みにじってでも、俺たちのルールに従ってもらう。それが裏の世界、力を持つ者が治める場所だ」

 

 ……そうだ、そうだった。忘れていた。夏休みが始まる前に俺は考えたはずだ。今の俺の生活は、たまたま偶然が重なって起こったものだって。運よくラヴィニアに出会えて、メフィスト様に保護してもらえて、本当に運が良かっただけの人間なのだ。普通は日常になんて戻れないって、わかっていたはずなのに。俺は心のどこかで、自分には関係ないことだと思ってしまっていた。

 

 先生が言っていることを、理解はできる。神器が制御できるようになった人間を野放しにしたら、他の勢力が放っておく訳がない。悪魔の眷属にされたり、教会や英雄派の手だってある。それで結果的に、堕天使勢力が被害を受けたら元も子もない。神器所有者だって、それは望んでいないだろう。だけど、納得はできない。当たり前だ、納得できなくて当然なんだ。

 

 だって神器を持ってしまったのは、自分の意思なんかじゃないから。偶然持ってしまった力で、人生を翻弄されて、さらに人外のルールで押さえつけられるのだ。こちらの意思なんてお構いなしに、力で従わされる。それに怒りを感じるのが自然だ。悔しくて、当たり前なのだ。

 

 だけどそれが、この世界なのである。理不尽でふざけんなって思っても、そういうものなのだ。自分の我を通したいのなら、通せるだけの何かしらの力が必要だから。これからも日常を過ごしたいと願うのなら、それができるだけの力がいる。本当に鬼畜だよ、この世界。

 

「……堕天使組織にいる所有者さんたちに、先生は恨まれているかもしれませんね」

「俺は堕天使だぜ、恨まれるのには慣れている」

「でも、きっと恩を感じている人もいると思いますよ。口には出さないだろうけど」

 

 強くならなきゃ、日常には帰れない。理不尽だと思うけど、それに理解を示す自分もいる。俺は本当に運がいいのだろう。だって、俺には選択肢があるから。すっげぇ怖いし、嫌だし、泣きそうになるけど、それでも俺にはチャンスがある。それを与えてくれる人が、ちゃんといるんだ。

 

 いいさ、やってやる。俺は弱い。神器がすごくても、一番足を引っ張っているのは俺自身なんだ。兵藤一誠のように「ハーレムを作る」と夢を追いかけるために強さを求めることや、ヴァーリ・ルシファーのように「最強になる」ために純粋に強さを求めるような気概は、俺にはないかもしれない。それでも、相棒を使いこなせるようにはなりたいと思う。

 

 俺にはみんなのような、すごい目標や誇りがない。だったら、たった一つでもいいから作ろう。俺が誇りに思える唯一を。たぶんこれから先、俺の性格的に自信満々に任せろ! なんて言えるような場面はないだろう。だけど、この神器を使いこなせるのは俺しかいない! と思うことなら頑張れる気がした。神器は一蓮托生だから。

 

 俺は日常をこれからも過ごしたい。そのためには強くならないといけない。だから、生涯まで付き合いのある相棒に相応しい使い手になる、それを目標に頑張ってみようと思った。

 

 

「アザゼル先生」

「……なんだ」

「鬼、サボり魔、苛めっこ、愉快犯、堕天使」

「堕天使は罵り言葉と同列なのかよ!?」

「やりますよ、ちくしょう。ドラゴンとの修行だって頑張ってやりますよ。もし修行で死んだら、絶対に化けて一生女性にモテたり、妻子持ちになれないように全力で因果すら捻じ曲げて縁を消滅させてやる」

「地味に最悪な仕返しすぎるっ……!」

「あっ、タンニーンさん。お忙しい中、時間をとっていただきありがとうございます。死なない程度にご指導のほど、よろしくお願いします」

「おい、俺との態度の違い…」

 

 恨まれている自覚があるんだから、ちょっとした八つ当たりぐらい受けてくださいよ。体長十五メートル級の大型ドラゴンと修行なんて、本当に怖いんですからね。やらなきゃ日常に帰れないのなら、やるしかないんだけどさ。必要なことだってわかっているし、俺のためを考えてくれているのもわかっているから、心の中で感謝は告げておく。口には絶対に出す気はない。

 

「カナくん、大丈夫なのですか?」

「人間自棄になればなんとかなる」

「自棄は駄目な気がします…」

 

 ラヴィニアにツッコまれた。こうして俺は、『ハイスクールD×D』伝統の堕天使式神器特訓法のドラゴンバージョンを受けることになったのであった。

 

 


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