えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百五十話 宿敵

 

 

 

「バラキエルさんとこうしてゆっくり話す機会って、何だか久しぶりですね」

「そういえばそうだな。会うこと自体はそれなりにあるが、こうして二人きりになるのは朱芭殿の葬儀以来かもしれん」

「そっか、もう四ヶ月経ったんだ…」

 

 三月の終わりに歩いた桜が舞い散る並木道を思い出し、朱芭さんとの日々が頭を過ぎって懐かしさに目を細めた。その葬儀の後すぐに玄奘老師に説法されたことも思い出し、仏教陣営との関わりもそこからだったなと気づく。今更だがまだ出会って半年も経っていなかったのか、仏教陣営…。めっちゃ裏方でフォローしてくれるし、対応も早いからお馴染みぐらいの濃さになっていたよ。いつもありがとうございます。

 

 心の中で感謝を伝えながら、俺は迎えに来てくれたバラキエルさんと人間界にある堕天使の神器研究施設に向かっていた。魔方陣でジャンプしながらだから移動距離はそこまでではないが、転移酔いが時々あるから相棒に消してもらいながら進んでいる。堕天使の組織に治療へ行く時は主にシェムハザさんが対応してくれて、協会との直通のルートがすでに用意されていたから楽だったけど、今回は堕天使の研究所の中でも重要拠点の一つだから警備が厳重だな。

 

「そういえば、バラキエルさん。今更ですけど、以前サタナエルさんに会っちゃった時にシェムハザさんのクラスの生徒だって嘘をついちゃったことどう説明したらいいですかね」

「あぁー…、それなら心配するな。その嘘なら、とっくにバレている」

「えっ!?」

「あの誤魔化しをしてから一ヶ月も経たないうちにバレた。あいつは気になることがあると、とことんまで追求する悪癖があるからな…。おかげで追求がひどかったが、アザゼルとシェムハザが取りなしてくれた。だがその所為で、他の幹部勢にもアザゼルが囲っている謎の神器所有者の存在が露呈してしまってな。五年間、お前をこっちの組織に寄せ付けなかったのは、幹部の興味を少しでも逸らすためもあった訳だ」

 

 まさかの説明に頬が引きつった。幹部の皆さん、どんだけ俺の神器に興味津々なんですか。確かに中学一年生の時に堕天使の組織にお邪魔してから、それ以降全く音沙汰はなかった。いつも姫島家で用事を済ませていたし、ネビロス家の発覚で組織の裏切り者疑惑も浮上したから余計に難しかったのかもしれない。

 

「ということは、もしかして『変革者』=アザゼル先生が隠していた神器所有者ってことは、すでにバレてるってことですか?」

「そう思ってもらって構わない。だから、虚言への謝罪はやつに必要ない。それ以上にあっちがやらかしているからな」

 

 嘘をついたのは悪いことだったけど、サタナエルさんの興味関心の高さ故に余計な火種を生んでしまったのも事実だからってことか。アザゼル先生達のおかげで俺に火の粉が降ってくることはなかっただけ。あとでアザゼル先生達にお礼はしっかり伝えておこう。堕天使幹部勢の研究意欲を甘く見ていたわ。

 

「そういう意味でお前が気を付けた方がいい者は、筆頭としてサタナエルだろう。サハリエルは月や月による各種術式作用の研究を主にしているが、あいつは未知への探求心が強い。ベネムネとタミエルは面白がっていたように思うが、色々聞きたそうではあっただろう」

「アルマロスさんは?」

「あいつは……他の者と比べるとそこまでではなかったように思う。『堕ちてきた者たち(ネフィリム)』の教官だから知識はあるが、アルマロスは対魔術研究を主にしているからな」

「つまり、神器に対する興味的に考えるとアルマロスさんがまだ安牌ってことか…」

 

 バラキエルさんからの忠告を聞きながら、思わず肩を竦めてしまう。とりあえず、一番キャラが濃そうなアルマロスさんがそこまで警戒しなくていいのは助かった。アルマロスさんの立ち位置的に、バラキエルさんに近いのだろうな。武闘派の幹部は研究関係はさっぱりしている印象で、研究が専門の幹部はマッド傾向に傾いている感じか。中間地点が切実に欲しいです。

 

 これまでの堕天使の初めましては衝撃が大きかったから、今回はどうなることか…。初対面磔鉄球を越えるインパクトは早々ないと信じたい。そんな世間話をしながら、ついに最後の魔方陣を越えた先でデザイン的なレリーフで創られた『G』の文字が刻印されたでかい扉の前までやってきていた。ごくりと俺が唾を飲み込む中、バラキエルさんの先導のもと、その扉が両開きになっていく。

 

 そして、一歩足を踏み入れた時だった。

 

 

「ぐはははははっ! 待っていたぞ、『変革者(イノベーター)』ッ!! ここで会ったが百年め! 決着をつけてくれるわっ!!」

 

『グリィィィゴリィィイィィーー!!』

 

 鷹か鷲をイメージした鎧と兜を装着してマントを羽織り、顔には眼帯と無精ひげを生やした体格のいい男性が待ち伏せていた。肩には大きな斧を装備し、彼の傍には奇怪な声で「グーッ!」と叫びながら、黒い全身タイツを着込んだ戦闘員達がアクロバティックな動きで集結していた。後方からダダダダーーン! と爆音が奏でられ、BGMと一緒に照明や演出にまで力が入っていた。

 

 いや、あれ後方で関わりたくねぇな…、って雰囲気で他の幹部勢が演出担当をやっているのか!? サタナエルさんが呆れ顔で照明を動かしているし、サハリエルさんらしき瓶底メガネのヒトが「しっしっしっ!」と笑いながら音響装置を弄っている。あと、タミエルさんらしき頭部にサークレットをつけた長身のローブの男性が、さっきからポンポンと煙幕をリズミカルに投げ込んでいた。マジで何やっているの、堕天使幹部男性陣ッ!?

 

 そして、それを見て爆笑するアザゼル先生とベネムネさんらしきクールビューティーそうな薄紫色の髪をした女性。止めろよ、トップと幹部勢!? まったく部下の制御が出来ていないじゃないかよっ!! 裏切者どころか、完全に敵視されていますよ、俺ッ!?

 

「……あの、バラキエルさん?」

「すまん。これは悪ノリをしているな」

「初対面に身内のノリを持ってこないでもらえます!?」

 

 ビシィィィッ! と効果音がつきそうな勢いでこちらに指をさして哄笑をあげるアルマロスさんと、愉快な堕天使(仲間)達に俺は遠い目で現実を見つめるしかなかった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「あのー、すみません。俺とアルマロスさんって初対面だったと思うんですけど、何か敵対する理由とかってありましたっけ?」

「ふっ、惚ける気か」

 

 とりあえずまずは交渉をしようと話しかけてみたが、鼻で嗤うように言われてしまった。惚けるも何も、マジで意味が分からない。俺が首を傾げて訝しんでいると、ふぅ…と呆れたように溜め息を吐いたアルマロスさんは斧を床に降ろして悪役っぽいポーズを決めた。

 

「まったく、ここは『神の子を見張る者(グリゴリ)』の組織である。つまり、世界を征服する悪の組織のアジトと言っていい場所だ!」

「アルマロスは日本の特撮ヒーロー番組の悪役に魅入られてしまってな…。周りも悪ノリして接するので、普段からこの調子になってしまったのだ」

「世間の堕天使のイメージが悪いの、そういうところだと思いますよ」

 

 もうツッコむしかねぇよ、この組織…。しかし、このアルマロスさんの台詞は原作でイッセーに向けて告げられていた内容だ。イッセーは冥界の英雄として名声が届いていて、正義のヒーローとして世間では扱われていた。それが悪の組織に憧れるアルマロスさんの琴線に触れてしまった、という経緯だったはず。俺に英雄らしいエピソードは何もないはずなのに、何でこんなに敵意を向けられるんだろう。

 

「そんな我が目をかけていた組織が存在していた。その者達は約四十年という時間をかけて組織を育て、あらゆる悪を飲み込み、悪の組織としての理念も徹底されたまさに素晴らしい者達だった。最初は噂程度であったが、少しずつ実績を積み上げていくその組織に、部下からの報告で我も興味が惹かれていたのだ」

「四十年続いた悪の組織…」

「だが、その組織は五年前に壊滅した。他ならぬ、正義のヒロイン達の手によってッ!!」

「やっべ…、すっげぇ心当たりがあるわ」

 

 つまり、アルマロスさんがちょっと気になっていたお気に入りの組織を潰されたことを根に持たれていたってこと? カイザーさん達、悪の組織に拘っていて色々ぶっ飛んでいたけど、実際にスペックはめちゃくちゃ高かった。この世界で後ろ盾もなしに四十年も組織として継続させる難しさは並大抵の覚悟じゃない。堕天使の幹部に目をかけられるだけはあったって訳か。

 

「しかし、恨みはない。その抗争は互いの夢と執念をかけた素晴らしい戦いだったため、我も称賛を送ったものだ。悪が敗れたのは残念だったが、正義と正々堂々とぶつかって散ったのなら文句はない」

「えっ、じゃあ『渦の団(ヴォルテックス・バンチ)』の(かたき)ってわけじゃない?」

「直接の関わりはなかったからな。だが、それから魔法少女組織『ミルキー☆カタストロフィ』のことはずっと注目していた。我が悪の組織『グリゴリ』と、いずれ相まみえるかもしれない宿敵(ライバル)としてな。……そして、それはついに現実となった。今日その『変革者(ボス)』が、我が組織に足を踏み入れたのだからなッ!」

「神器とか立場とか関係なく、まさかの魔法少女でとばっちりが来たッ!?」

 

 まったく知らないところで、堕天使の幹部に勝手にライバル認定されていた! 前回の杖大会で魔法少女達を警備役として裏の世界に進出させたことで、世間で謎とされていた魔法少女組織のボスが俺だと明言はしていないがほぼバレたという訳だ。だから、大会の警備に誰も文句が言えなかったわけである。そりゃあ、謎の大金が組織運営に使われていて、何故か大勢力たちが魔法少女を黙認する理由が『変革者』がボスだったからで解決するもんな。

 

 つまり、悪の組織の者であるアルマロスさんからすれば、正義の味方である魔法少女組織のボスである俺は敵だということ。どうしよう、筋が通ってしまった…!? 反論材料が見つからねぇッ……!!

 

 

「だが、今回はアザゼルの顔を立てねばならんからな。なので、軽く挨拶だけで済ませてやろう…」

「いや、何話は済んだみたいな空気を出しているんですか。俺は非戦闘要員だからね、だからにじり寄ってくるんじゃねぞ、怪人の皆さん!?」

 

 アルマロスさんの掛け声と一緒に「グーッ!」と俺の方に向かってきた全身タイツの戦闘員たち。バラキエルさんはこれお前の所為かよ、って顔で護衛すべきか悩ましい顔になっているし、他の幹部勢は完全に余興として楽しんでいやがる。軽い挨拶で原作のイッセーみたいに鉄球磔コースとか絶対に嫌だぞ!

 

「魔法少女組織のボスが戦闘の理由なら、こっちだって世間体は容赦しねぇぞ! アザゼル先生の顔を立てるとかなしで、『地獄の姫島編』を再来させてやる!」

「おい、やめろ」

「クククッ、やはりその兵器を出してきたか。だが、甘い!!」

 

 俺が懐からコンパクトを取り出すと、隣で絶望を浮かべる護衛役とは裏腹に、アルマロスさんの高笑いが響き渡った。杖大会でこのコンパクトの威力はすでに全世界へ配信済みだ。戦闘大好き種族のドラゴンですら、その威力に戦闘を放棄するレベル。それなのに、戦闘員たちに怖気づく様子はなく、むしろ俺の抵抗をあざ笑うかのように肩を揺らしていた。

 

「無駄だ。その兵器の攻略はすでに済んでいる」

「何っ…!?」

「言っただろう、五年前から魔法少女組織をライバルだと認識していたと。なら、対策を練るのは当然であろう?」

 

 片手で髭をゆっくりと撫ぜ、決めポーズをとっていたアルマロスさんは、機敏な動きで身体を左に一回捻り、次に右手を額のあたりに親指・人差し指・小指を立て、中指と薬指を折り曲げる「愛」を表すハンドサインを決める。左手は斧を前へ突き出すように掲げ、左足を内股気味に前へ出し、右足だけで立ちながら揺れることのない素晴らしい体幹。そのポーズはあまりにも見覚えがあり過ぎた。

 

「ま、まさか、そのポーズは……!」

「そう、魔法少女ミルキーの決めポーズさ。もちろんそれだけじゃない」

『グーッ!』

 

 アルマロスさんがパチンと指を鳴らすと、全身タイツの戦闘員たちが次々と歴代ミルキーたちの決めポーズを決めていく。中には映画版でしか見られなかったラストアタックの再現まである。それと同時にじっとりとした汗が俺の頬を流れた。なんということだ、このポーズの迷いのなさは一朝一夕でできるもんじゃない。血の滲むような練習と凝視するレベルのアニメの視聴をしなければたどり着けない極地だ。

 

「五年もあったんだ。歴代だけでなく、最新版の魔法少女も全て履修済みだ。さらに魔法少女魔法しか使えないという制約も我らには効かん。何故なら――魔法少女アルマロン! 漆黒の魔法で凶悪魔人をたくさんやっつけちゃうもん☆――『グリゴリ・ダークネス・ファイヤァァァァッ!』」

「――ッ!? オリジナルの魔法少女魔法だと!」

 

 アルマロスさん――いや、魔法少女アルマロンの漆黒の攻撃魔法が施設の壁に着弾し爆ぜた。掛け声だけでなく、ポーズもウインクさえも完璧だった。大柄な体格などハンデにならないと魅せつけるように、機敏な動きは熟練されたプロのもの。普段から特撮ヒーローの悪役のコスプレをしている人に羞恥心なんて存在しているわけがなかった。後方でアザゼル先生とベネムネさんがお腹を抱えてバンバンとテーブルを叩いて腹筋崩壊している。あとで殴ろうと思う。

 

「ぐはははははッ! どうだ、これぞ魔法少女に対するアンチマジック! 我が悪の組織の対魔法研究の神髄に恐れ入ったかッ!」

「…………」

「その兵器(コンパクト)の唯一の弱点、それは魔法少女を知る者には効果がないということ。これで魔法少女側のアドバンテージは消滅したと言っていいだろう」

 

 五年間、俺を支えてくれてきた武器がついに攻略されてしまったことにショックは隠しきれない。これをぶん投げておけば、ほとんどの敵を完封できると考えてきたからだ。だが、それは確かに甘い考えだったと痛感する。さすがは堕天使の組織が誇るアンチマジックの使い手。この世界で対魔術のスペシャリストと呼ばれるだけはあった。

 

 

「……素直に称賛を送りたいと思います、アルマロスさん」

「ふっ、敗北宣言か?」

「まさか、ここでただ心を折られただけだと魔法少女達(部下)に示しがつかないじゃないですか。何より、魔法少女変身魔法が五年前から進化していないとでも?」

「何ッ……?」

 

 俺は手に持っていた量産型のコンパクトを懐にしまうと、小型の魔法陣を召喚して最新版の魔法少女コンパクトを取り出した。お忘れでないだろうか、これまで俺や魔法少女達がぶん投げてきたのは、開発や研究で余ったものや試作品を流用していたことを。億越えの研究資金で創られた成果をただ捨てるのは勿体ないことから、有効活用し出したのが始まりだった。

 

 つまり、現在魔法少女達が本採用しているコンパクトは最新版の研究成果の結晶が詰まっている。俺は本採用で使われているコンパクトを構えると、一番近くで第三シーズンの魔法少女ミルキーのポーズをとっていた戦闘員に向けて投擲した。ポーズを取ることに気をとられていたのか、普通に命中して魔法少女の変身が始まった。神秘的な光が堕天使達の目を焼くが、アルマロスさんと他の戦闘員たちは不動の姿勢を貫いた。

 

「先ほどのコンパクトと変わりはなさそうだが?」

「このコンパクトはあまり数がないんだ。変身まではこれまで通りだけど、ここの戦闘員ならチェックメイトだね」

「どういう……、これはッ!?」

 

 全身タイツのコスプレから魔法少女に変身した戦闘員は、これまでの経験のおかげで問題なく復帰しようと身体を動かそうとして、「グゥッ!?」と呻き声をあげてそのままパタンッ! と倒れ込んだ。ピクピクと痙攣している様子からなんとか立ち上がろうと藻掻くが、仰向けの状態から起き上がることさえ叶わなかった。それどころか身体に感じる負荷に耐え切れず呼吸さえ浅くなり、魔法の詠唱さえ困難な状況だった。その異様な様子に戦闘員達に緊張が走り、一斉に俺から距離を開けだす。俺の不敵な笑みに、アルマロスさんは信じられないものを見るように目を見開いた。

 

「まさか、自分達用ではなく、拘束用にコンパクトを製作していたのか」

「いいや、これはミルたん達が現在使用している魔法少女コンパクトそのものだよ」

「馬鹿な。なら、何故魔法少女の衣装に常人ではありえないような重りとなる術式が刻まれ――まさかッ!?」

 

 魔法少女変身魔法を攻略したからって、魔法少女の全てを知った気になってもらうのは困る。魔法少女達のストイックさと正義のために燃える心の熱さとおっぱいのように盛り上がった筋肉のしなやかさを、俺は誰よりも見せられて来たのだから。

 

「数年前からミルたん達に相談されてね。正義の味方として町の警備や平和を守る活動を毎日しているけど、何も起こらない日だって当然ある。それは平和の証でもあるけど、同時にその時間を修行に当てられていたらという気持ちもあったみたいなんだ。正義の味方は悪に負けないために、常に自らを高めないといけないからね。だから、毎日の仕事と修行を同時並行で出来る方法がないか考えることにしたのさ」

「つまり、この魔法少女衣装に施された過酷なまでの重しと負荷は…」

「『日常生活そのものを修行に変える』。俺のよく知るアニメを参考に、「重圧」と「制限」を自らの衣装に施したんだ。疑問に思わなかったか、何故魔法少女組織の魔法少女達はあんなに筋肉がモリモリなのか。それぞれにあった負荷を常に受け続けた努力の結晶さ」

「……我が戦闘員が立ちあがることさえできぬほどの負荷を、魔法少女達は常に受け続けているということか」

「さらにパージ機能による本気衣装も搭載されているから、極限の負荷からの解放による爆発力も可能という訳だ」

 

 今回俺がぶん投げた方は、パージ機能は機能しない様になっているのでただの重しにしかならないけど。俺が参考にしたのは、当然某子どもに大人気だったアニメの影響である。重たい道着が地面に落ちた時の、地響きや地面の陥没による絶望感と全能感は脳汁がヤバかったからな。ミルたん達のフィジカルの高さを底上げするなら、まさにこれしかないという修行方法だった。

 

「この重力負荷機能を完成させるために、リーバンを魔法少女組織に拉致って『魔眼の生む枷(グラヴィティ・ジェイル)』で重力修行させまくった研究成果だからな!」

「お前の学友、可哀想すぎるだろ」

「えっ、でも神器制御の修行にもなりましたよ。重力負荷機能が完成したら家に帰っていいからって言ったら、すごい速さで制御を覚えていきましたし」

「命の危機レベルの精神負荷を与えているじゃねぇか…」

 

 ドン引きしているアザゼル先生の言葉にツッコむと、呆れたような返事が返ってきた。神器は宿主が極限状態の危機に真価を発揮するというけど、魔法少女組織に拉致したぐらいで? みんな個性的だけど良い人達なのに。重力を魔法少女衣装に付与するために、ミルたん達を見つめ続けるぐらいしかお願いしていないよ。最初は驚くけど、見慣れれば大丈夫だと思ったんだけど。

 

 

「見事だ、『変革者(イノベーター)』。やはり魔法少女は一筋縄ではいかない宿敵(ライバル)だと認識を改めさせられた」

「こちらこそ、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という兵法をあなたはよく理解している。この奥の手を使うことになるとは思っていませんでした」

「ふっ、『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部のアルマロスだ。今回は矛を収め合おう、我が宿敵よ。ようこそ、我らの組織へ」

「倉本奏太です。本日はよろしくお願いします」

 

 お互いに生まれた敬意から敵意はなくなり、当初の目的である挨拶へと変わっていた。俺を囲んでいた戦闘員達も整列してビシッと敬礼を送ると、部屋から出て粛々と帰って行った。自己紹介と同時に握手を交わし合う俺達に、隣にいるバラキエルさんが死んだ目で溜め息を吐いていた。まさかこうしてぶつかり合うことで芽生える友情って本当にあったんだな、初経験である。今度ヴァーくんの気持ちがわかったって教えてあげよう。

 

「おう、挨拶も終わったみたいだし、とりあえず自己紹介タイムといくか」

「今までのを挨拶の一言でまとめないでください」

 

 いつの間にか近くに来ていたアザゼル先生の陽気な言葉に胡乱気な目を向けたが、アルマロスさんとの挨拶でだいぶ時間を取ったのは事実なので飲み込むことにした。やっぱりおかん(シェムハザさん)がいないとこの組織駄目だわ。今からでも、総督と副総督の居場所を交換しません? 癒しという安全圏が欲しいです。

 

「まず照明担当をしていたのがサタナエルな。前に会ったことはあるみたいだから以上」

「紹介の仕方がそれでいいんですか」

「次に音響担当の白衣を着た瓶底眼鏡がサハリエル。一目で研究者ってわかる見た目をしているな」

「はじめまして、倉本奏太氏。さっきのBGMはどうだったのだ」

「戦闘員達のポーズに合わせてBGMを合わせてくるのはプロだなって思いました」

「しっしっしっ。アルさんの悪役ファンほどじゃないけど、ロボットアニメはよく見ているのだ。盛り上がりに音響は必須なのだよ」

 

 アザゼル先生の雑な紹介にサタナエルさんが「えっ」って顔で佇んでいる。よっぽど五年前に騒がれたのが嫌だったらしい。とりあえず前回嘘を言ってしまったのは事実なので、ペコリと頭を下げるとひらひらと手を振ってくれた。たぶん怒ってはいなさそうかな…?

 

「煙幕を投げまくっていた金髪がタミエル、組織の営業担当だな。で、俺の隣で笑い転げていたのが書記長のベネムネだ」

「ベネムネよ、よろしくね。朱乃ちゃんの担当教官って言った方が覚えやすいかしら」

「タミエルだ。ベネムネの持つ生徒のことを知っているなら、バラキエルの説得をぜひ手伝ってくれないか。堕天使の営業成績を間違いなく向上させられる逸材だと常に言っているんだが…」

「うちの娘を大衆の見世物にするつもりはない!」

「バラキエルさんみたいに頭から否定はしませんが、そのことについてコンプライアンスがどうなっているのか詳しく資料にして提出してくれませんか。アイドルと言っても一口では語れません。ムーブメントを支えていくビジネススキームはどうするのか。給料は基本給は当然で歩合制や社会保険はありますか。決めるのは朱乃ちゃんだとしても、俺も可愛い妹を安く見積もらせるつもりはありませんよ」

「バラさんの娘さん、すでに魔性の片鱗を見せているのだ」

 

 俺からの疑問にフッと笑ったタミエルさんは、どこからともなく取り出したそろばんをパンッと手で弾いて、計画書の写しを見せてくれた。これは冗談ではなく、真面目に本格化しようとしている眼つきだ。上等だ、妹の為なら苦手な書類も隅々まで見てやるぞ。もちろん、相棒の叡智の結晶もフル回転させるけど。

 

「待て、タミエル! お淑やかで上品なところは同意するが、このエッ…エッチで小悪魔的な部分を垣間見せるなど、破廉恥すぎるだろう!?」

「今の時代、アイドルにはギャップが必要不可欠ですよ」

「じゃあミサイルを搭載するのだ! 間違いなくみんな釘付けになるのだ」

「娘に余計なオプションはいらん!」

「見た目が気になるならミサイルが撃てる人工神器を開発すれば…」

「ミサイルから離れろ、研究馬鹿共! 朱乃は朱乃であるだけですでに素材として完成されている!」

「そうそう。素材を生かすなら、バラキエルが奥さんと毎夜のごとくやっていたっていう女王様的な要素も入れちゃったらどう? 前に訓練で鞭を持たせてみたら、すごく才能を感じたわよ」

「むっ、それは確かに我が組織の女幹部の素質がありそうだな」

「ベネムネェェェッーー!!」

 

 言っていないよな、朱乃に朱璃とのSMプレイのことは言っていないよなッ!? と詰め寄るバラキエルさんに「おほほほほっ」と笑いながらスルスルと逃げだす女幹部。たぶん、この組織でのバラキエルさんの立ち位置って、こういう弄られキャラ的なところもあるんだろうなぁ…。真面目でリアクションもしっかり返してくれるしね。原作と違って家族と仲良く過ごしているから、弄りネタとしても扱われていそうである。

 

「まっ、これが堕天使(うち)の組織の幹部ってわけだ」

「……賑やかですね」

「だろ」

 

 俺からの感想に二ッと笑い返すアザゼル先生に、本当にこのメンバーが好きなんだろうなと感じた。そんな先生が、仲間を疑わなくちゃいけない心境がどれほど辛かったのかと思わず考えてしまう。久しぶりに大勢の幹部同士で集まったからか、わいわいとする様子は友人同士にしか見えなかった。魔王様達や熾天使の皆さんとはまた違った距離の近さだと思った。

 

 こうして、二度目の堕天使組織の会合は騒がしくも始まったのであった。

 

 

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