姉になりたいセインさん   作:青色好き

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まさかの5000字。予想外だ。 いや、小説は字が多い方がいいんだけどね。


第四話 彼女と遭遇

「セインの様子が変なのか?」

 

 そう言ったのはノーヴェだ。その周りにはセインと同じくナンバーズの一員であったチンク・オットー・ディエチ・ウェンディ・ディードがいた。彼女らが居るのは、赤く染まりつつある空の下にある中規模程度の飲食店だ。円形のテーブルを囲むように彼女たちは椅子に座っている。テーブルの上には彼女たちが頼んだ料理が湯気を出しながら並んでいる。

 彼女たちが集まった理由は、セインの事だ。(セインは現在聖王教会でイクスの世話をしている。)

 

「ええ、ここ最近大分面倒見が良くなったというか… 性格が良くなったというか…」

 

「外見はセイン姉さまなのですが、中身は少し変わった感じなのです。シャンテに対しても『サボらないでシスターの仕事してね~』と言ってて…」

 

「何だそりゃ…」

 

 オットーに続いてディードがセインの事を言い、ノーヴェが思った事をはっきり言う。ノーヴェにとってセインは姉だ。彼女のマイペースぷりにやや苦手なところがあるものの、なんやかんやで姉として慕っている。そのセインの様子がおかしくなったとオットーとディードの二人から少し前に聞いた。当初はあまり気にしなかったが、このように皆が集まった事もあり事態は重いと実感したのだ。ついでに、ノーヴェは今でもヴィヴィオたちのコーチを務めている。(一応ヴィヴィオ達からセインの変化は聞いていた。それはオットー・ディードが知らせた少し後の事だ。)

 

「まあ、面倒見が良くなったのは良い事だ。しかし…」

 

 そう言ったのはチンクだ。妹のセインがそのような事をするのは姉として嬉しいものの、何の予兆も無くそれを始めた理由が分からない。何か意図しているのだろうと思っているが、今のところさっぱりだ。思考を回転させるが、その複雑さはチンクの目の前にあるスパゲティの複雑な模様が正にそれだ。

 

「何考えてるんだろう…」

 

「セイン姉の事だし、お小遣い上げようとしてるんじゃないんスか?」

 

 ディエチとウェンディがそう言った。ウェンディが自分の説を軽い口調で言う。その軽さの程度は、今ウェンディが片手で持つフォークに刺さってる小さなエビの質量と同じくらい軽い。

 

「いや、それは… ねーと思うけど。ヴィヴィオがちょっと前に言ったんだけど、『金よりも妹の事が大事なんだ。私はお姉ちゃんだからね』って言ってたんだよ」

 

「セイン姉がそんな事言ってたんスか!?」

 

「結局振り出しか…」

 

 だがノーヴェがウェンディの説を否定したことで、セインが変わった原因は特定できなかった。彼女たちの思考は暗礁に乗り上げてしまった。店の中で優雅なオーケストラ風の音楽が流れ、料理の熱が2度から3度程下がった頃、

 

「あ、分かったッス!」

 

 ウェンディが突然口を開けた。チンクたちはウェンディの声に驚き椅子から少しだけ跳ね上がった。店内を流れる音が店から流れる音楽と客たちが食事・厨房から流れる音・外の車の走行音くらい、つまり店では当たり前の音の中発せられたため驚いてしまった。

 

「いきなり声出すなよ!」

 

「もしかしてウェンディ、セインの事分かったの?」

 

 ノーヴェがいきなり声を出したことに文句を言い、次にディエチがウェンディに尋ねる。それを聞いてノーヴェもハッとする。自分たちが今探してるセインの変化の原因がウェンディの頭の中で思いついたのだから。チンクとオットーとディードの目はウェンディに向けられてる。ノーヴェとディエチについても同様だ。

 

「聞きたいスか?あたしの名推理を!」

 

 そしてウェンディは口に出した。彼女たちが求めているであろう答えを。胸を張って堂々と言う。

 

 

 

 

 

「あのセインは偽者ッス!」

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 ウェンディを除く5人の周辺のは時間が止まった。目が白い丸となり、口も力が入っていないかのようにポカンと開けている。そんな状況にも関わらずウェンディは続ける。

 

「分からないんスか? 誰かがセインに化けてるんスよ!」

 

「……。 それ、有り得るかな?」

 

 ディエチがウェンディの説を疑問に思う。とは言え可能性としては有り得なくは無い。

 

「…まあ、可能性の一つとして考えとこう。」

 

「そうですね。そうしましょう」

 

「うん、そうしよう」

 

 チンクとディードとオットーが一旦ウェンディの説を頭の片隅に入れることにした。ウェンディの説が事実かどうか現段階では分からないが、もし事実だとすれば大事である。本物のセインが何処かにいるということにもなる。そこで、

 

「じゃあ、明日セインを捕まえて確かめるのはどうッスか?」

 

「そうだな、直接問いただすか。それでいいな?」

 

「ええ、構いません」

 

「ああ、いいぜ。チンク姉」

 

「うん」

 

「はい」

 

 オットー・ノーヴェ・ディエチ・ディードが返事をして首を縦に振る。こうして、チンクたちは明日セインを捕まえることに決めた。料理から出る湯気は僅かに減少していた。

 

 

 -     -     -     -

 

 

 聖王教会の一室、セインは自室で就寝していた。今日はイクスの世話で少しばかり疲れていたので、それを取り除こうとぐっすり寝ていた。その外見は王子のキスを待つ白雪姫のように不動の状態だった。だがかなり微かな寝息を出しており、誰がどう見ても寝ていると判断するような様子だった。そんなセインの頭の中では、ある夢を見ていた。

 

 ノーヴェが、自分を自慢の姉と他の人に言う様子を。

 

 オットーとディードが、自分を立派で素晴らしい姉と教会に訪ねて来た人に言う様子を。

 

 ディエチが、自分を微笑ましい表情で姉と呼ぶ姿を。

 

 ウェンディが、自分を尊敬するような目で見つめられながらセイン姉と呼ぶ姿を。

 

 チンクが、自分を私の次の姉と呼んで大事にしてくれる姉を。

 

 セインは嬉しかった。今まで妹たちから姉扱いしてくれなかったがために、『姉』になりたかった。それが叶った将来を頭の中で思い浮かべていた。その様子の片鱗は外部にも表れていた。セインの表情が、微笑んでいるのだ。まるで何かを喜んでいるかのような笑顔なのだ。

 

 

 

-ずっとこのままでいたい-

 

 

 

 セインはそう感じていた。自分の幸せを、自分の努力で、自分自身が掴んだ。あたしは立派な姉なんだ、と胸を張って言える姉になれたんだ。そんな未来をもうすぐ掴めるんだ。もうすぐ…

 

 

 

 

 

「何をやっているのよ。セイン」

 

 

 

 

 

 突然、声がした。知らない人の声だ。

 

 

 

「だ、誰!?」

 

 セインは思わず叫んだ。いきなり声がしたので誰なのかという疑問が湧いてきた。今の声は聞き覚えが無い。つまり会った事が無いはず。にも関わらず自分の名前を知っていた。それ故発言者に得体の知れない不安感を抱いていた。辺りを見渡すが誰もいない。

 

「それじゃあ『姉』を演じてるような物よ。演劇みたいな物ね」

 

「!」

 

 その言葉を聞くと僅かな苛立ちが心の中で生まれた。自分に向けて言った声が、自分の夢を否定するかのような、呆れたかのような、無下の物質をみるかのような声だったのだ。まるで自分の夢を馬鹿にされたかのように感じたのだ。

 

「何処にいるの!?」

 

 辺りを見渡して、声の生成主を探す。このまま発言者の言葉を聞いていると、『姉』である自分自身が否定されてしまう。それだけは絶対に阻止しなければいけない。なかなか見つからず、セインに苛立ちが募っていき、それが表情にも表れてゆく。

 

「ここよ」

 

 すると発言者が自分を誘うかのような声を出した。セインはその声がした方向を向く。セインはそいつの発言を撤回させるつもりでいた。そうでもしなければ自分の気が済まない。何より、自分自身の姉になる努力を『演じる』と表現したことに怒りを感じているのだ。セインの視線の先には黒い煙が立っていた。そこから人影が見える。そこにいると感じてセインは目を細めた。そして煙がセインの方向に向けて僅かに盛り上がり、一人の女性が出て来たのだ。

 

「え…」

 

 セインは絶句した。信じられないような目で現れた女性を凝視している。その表情は死人が蘇って驚く人そのものである。この例えは正確だ。なぜなら、

 

 

 

 目の前にいる女性は"死んだ"はずだからだ。

 

 

 

「まあ、驚くのも無理ないわね。」

 

 女性はあまり気にしないような調子で喋った。彼女は金髪で、美人と言っても差し支えの無い顔立ち、青いスーツを着ている。かつての自分が着ていたあのスーツと全く同じだ。右手には鋭い爪のような装備をしている。それは針の如く尖っている。

 

 セインは口にした。その女性の名前を。もし自分の記憶が正しければ、その女性の名前は…

 

 

 

 

 

「ドゥーエ姉…?」

 

 

 

 

 

 そう、ナンバーズのNo.2、ドゥーエ。時空管理局に潜入していた2番目の姉。彼女自身長期間潜入していたためNo.1からNo.5までのナンバーズしか面識がない。JS事件の最中、ゼストの攻撃を受けて死亡した"はず"だ。その彼女がセインの目の前に立っているのだ。

 

「初めまして。私がNo.2のドゥーエ。6以降の妹に会うのはあなたが初めてよ」

 

 ドゥーエは何事も無いように喋る。その口調は何処か優しく母親のような包容力がある。それを聞くセインはまだ驚愕しているような表情だ。だがドゥーエはそんなセインの状況を気にしていないように表情を変えない。まるでこの先の未来を分かっているかのように。

 

「どうして…」

 

 セインはやっと口開いた。だがその言葉は

 

 

 

「どうしてあたしは姉になれないの!」

 

 

 

 セイン自身の努力を否定しかねない言葉だった。セインの両頬には一筋の涙が流れていた。セイン自身何時流したのかは分からない。その涙はさながら白金の煌めきを放つ絹を彷彿とさせる。その絹のような涙は頬の下部で垂れて、地面に落下し小さな水たまりを形成する。そんな中彼女はドゥーエに疑問を投げたのだ。

 

「もしかしてさっき私が言った言葉の事かしら?」

 

「そうだよ! あれで、姉になることができないの!?」

 

 セインは半ば言葉を荒くしてドゥーエに訊ねる。その言葉遣いは年長者に対する言葉遣いとは思えない。普段のセインとはあまりにもかけ離れている。それ程セインは正気を失っているのだ。自分の努力が無駄だと信じたくないと自分の心が言っている。だから言って欲しかった。あれは冗談の類だと。自分は『姉』であるということを。

ドゥーエはセインの言った疑問を理解していた。だから言った。セインの疑問の答えを。

 

「ええ、無理ね。それどころかそんな事する必要は無いわ」

 

「!!」

 

 だが現実は残酷だった。耳にしたのはセインが聞きたくない「否定する答え」の方だった。セインは驚愕し目を見開いて顔を下げた。よく見るとセインの全身は小さく揺れている。頬から落ちる涙の量は大幅に増し、嗚咽している。その様子は、明るいナンバーズのNo.6セインではなく、ただ答えを受け入れられず悲しく絶望する一人の人間である。

 

「じゃあ…… どうすればいいの!? どうすれば『姉』になれるの!? どうすれば『お姉ちゃん』になれるの!?」

 

 それでもセインは方法を求めている。姉になる方法を。お姉ちゃんになる方法を。顔を上げて見開いた目の視線をドゥーエに向ける。諦めたくないのだ。今のセインは姉になる意思を捨てきれない。だからこそドゥーエにその方法を尋ねたのだ。

 ドゥーエは小さなため息を出して、答えた。

 

 

 

「何言ってるのよセイン。 貴方はもう『姉』になってるでしょ。ずっと前から」

 

 

 

「え…」

 

 

 

 ドゥーエの出した答えは意外なものだった。セインはもう『姉』になっている。それを聞いたセインは、一瞬彼女の言った答えの意味が分からなかった。

 

「ど… どういう事…?」

 

「言葉のままよ。貴方はもう立派な姉なのよ」

 

「そ… そりゃノーヴェやウェンディたちの姉だけど… あたしが言いたいのは…!」

 

 セインは、ドゥーエは番号的に姉だと言いたいのか? そうでは無いと言おうとしたが、ドゥーエが先に発言した。

 

「番号上だとね。貴方自身気付いてないだけよ。チンクにも負けない『姉』の要素を持ってるのよ」

 

「え… あたしが…」

 

 セインは信じられなかった。自分が一つ上の姉に負けない『姉』の要素?それが分からない。だからドゥーエにもう少し問いただそうとする。だが、

 

「…もう時間のようね」

 

「ド、ドゥーエ姉…!?」

 

 突然ドゥーエの体が霧の如く消えていくのだ。彼女の体が星屑のような光を出しながら透けていく。

 

「そろそろ帰らないといけないようね。私は死んで魂となった以上、この場所に長く居られないの」

 

「そ、そんな… あたしが持つ『姉』の要素って何なの? せめて、それだけでも…!」

 

 出会ってからあまり経っていないにも関わらず別れなければならないということに悲しみを覚えるが、セインは何とか『姉』の要素を聞こうとする。

 

「大丈夫。明日になれば分かるわ。みんなが教えてくれるから」

 

「え、みんなって…?」

 

 セインは困惑した。「みんな」とは誰の事なのか?その事も聞きたいが、

 

「出来ればチンク達や他の妹達にも会いたかったけれど、セイン、貴方に会えただけでも嬉しかったわ」

 

「ド、ドゥーエ姉…」

 

 嬉しいと聞かれてセインは涙が流れていた頬を少し赤く染める。

 そしてドゥーエは左手をセインに向けて伸ばし、手のひらをセインの頭を撫でた。

 

「それじゃあ、さようなら。私の妹で、立派な姉のセイン…」

 

 そして、ドゥーエは霧や水蒸気のように消えてしまった。星のような光は上に登っていき輝きを失って消滅した。ドゥーエが出て来た黒い煙も何時の間にか消えていた。

 

「ドゥーエ姉!」

 

 セインは思わず手を上に上げて叫んだ。届かないはずだと分かっていても上げずにはいられなかった。

 

 だが

 

 

 

 

 

「あ、あれ……?」

 

 気付くとセインの視線上には洋式と思わせる電灯と石で構成されてる天井があった。明かりは点いておらず、夜のように暗い。周りには自分の部屋の用具が置いてあった。

 

「ゆ… 夢…?」

 

 セインはそう呟いたのだ。夢だとすれば少し前の出来事に説明がつく。だが、あの体験はどこか現実のように感じたため、本当に夢なのか分からなかった。

 

「…… もう寝よう…」

 

 セインはを体に掛けて顔を横にして目をゆっくり閉じた。だが二番目の姉が言った事がセインの頭の中で何度も思い出された。空にはドゥーエの霧のように光る星が多数浮いていた。




廃線を見ると、何だか感慨深くなる。思い出すのは、かつての人々の往来と駅の賑わい・そして鉄道。

それはそうと誰かドゥーエさんに救いを…(泣)
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