夜に集いし七人の”マスター”と七体の”ペルソナ”。
勝者のみが手に入れられる”万能の釜”たる”聖杯”を求めて殺し合う。
それぞれが異なる願いを叶えるために――。

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はじめましての方は、はじめまして。
いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
作者のクレナイです。
この作品はFateシリーズとペルソナシリーズのクロスオーバーとなっております。どちらの作品からも原作キャラクターは登場せず、双方の要素を取り入れたオリジナルとなっております。
ふと思いついたものなので、連載するかについては検討中ですが、どのような話になっていくのか想像を膨らませる材料になればと思っています。


仮面の集う夜

 深く、深く意識が落ち行く。

 そこは黒く、どこまでも黒い……深い闇の底。

 自分が今どのような体勢であるのかさえ、分からない。

 立っているのか、座っているのか。

 斜めになっているのか、さかさまになっているのか。

 手や足を動かそうにも、まったく動かせない。否、これは手や足という実態がないからなのかもしれない。意識はかろうじてあるが、その感覚がない。

 まるで海のそこに沈んでいく感じだ。

 もちろん本当にそんな体験をしたことはない。

 だが、最もあてはまりそうな例えがそれだった。

 ようやく目に何かが映りこんだ。

 ここまで見渡す限り漆黒の闇ばかりだったので、まるでそれが夜空に自らを誇るようにして輝きを放っている一番星のように見えた。

 しかし、それは星などというロマンティックなものではなく、一つのどこか部屋に通じると思われるドアだった。

 ドアノブがあり、押し戸であることが見て分かる。

 とはいえ、ドアノブにかける手がないためにどうしようもない。

 そのドアの向こうにいるものだろうか、何者かが入ってくるようにと誘っているのは感じられるのだが。

 ただただそのドアを見つめているしかできないのだろうか。

 そう思っていると、突然ドアの向こうから誰かの声が聞こえてきた。

 

『おお、申し訳ありません。こちらからお呼びしたのですから、お客さまのことをご案内しなくてはなりませんな』

 

 やや声色の高い男性のものだった。

 紳士風に丁寧な口調で話す。

 ギギィ――軋むような音。ゆっくりと開けられないでいたドアが開く。

 立ち尽くすというのは正しいのかは分からないが、ドアの前にいたのを手を引かれるようにして中へと連れ込まれる。

 後ろの方でドアが閉まる音が聞こえる。

 部屋の中はドアに比べて倍の大きさがあった。

 部屋全体が青色に統一されており、天井からは月明かりであろうか、わずかな明かりが差し込んでおり部屋を照らし出している。

 部屋の中央には大きな丸テーブルが置かれており、それをはさむようにして二脚の椅子がある。

 部屋全体に響き渡る、どことなく悲しみを感じさせる歌声とピアノ伴奏。

 しかし、明かりで照らされているのはわずかな範囲であるために、それらをしている者たちの姿を見ることはできなかった。

テーブルの向こう側にある椅子にはおそらくここから外にいた自分に声をかけた者と思わしき 人物の姿があった。背丈は腰が大きく曲がっているために小さく見える。大きくはげた頭と白髪、顔に浮かぶしわを見れば彼が老人であるのが一目で分かる。特徴的なのは長い鼻で、顔を俯かせれば胸までつくのではないかと思ってしまうほどだ。指を絡ませ手を組み、目を伏せている。

 さらに、彼の隣には従者と思わしき女性がいた。

 部屋全体を統一している色と同じ青色を基調としたものだ。月明かりを浴びて輝いている銀色の髪。人形のように穢れのない白い肌。すらりとした体型はモデルのようで、一見して目を奪われてしまう。さらに、彼女のもつ独特な雰囲気が強烈な印象を与えてくる。

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 

 伏せていた目を開け、こちらを見てきた老紳士が言う。

 ベルベットルームという聞きなれない言葉に頭を傾げる――感覚はないが。

 

「わたくしの名はイゴール。お初にお目にかかります」

 

 彼の名はイゴールと言うらしい。

 

「ここは一体……?」

「驚かれるのも無理はない。あなたが今居るここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所……。ここは、何らかの形で運命に引っ張られた方のみが訪れる場所なのでございます」

「つまり……夢ってこと?」

 

 自分は確かいつものように自室のベッドに入ったはずだ。そこからウトウトとして眠りに落ち、そして、今ここに至る。

 

「さよう。ここにあるのはあなたさまの意識のみ。現実世界のあなたさまは今も眠っておられる」

 

 どのようにしてここに来たのかは理解できた。

 

「ご理解がお早いことで」

 

 しかし、大きな疑問――どうして自分がここに呼ばれたのか――それが問題だ。

 

「端的に言いますと、あなたさまは運命に魅入られたということございます」

 

 さっぱり分からない――首を傾げてみると、イゴールはクツクツと小さく笑い声をもらす。

 

「そうでしょうな」

 

 からかっているのだろうか。

 思わずムッとしてしまう。

 イゴールは片手をテーブルの上に差し出し、指を鳴らす。乾いた音とともに、虚空から数枚のカードが現れてバラバラとその上に重なり合う。偶然にもすべての絵柄が見えるようになっている。そこにはヒトガタをしたさまざまな絵が描かれている。

 

「これから行なわれる“聖杯戦争”と呼ばれる万物の願いをかなえる“聖杯”を奪い合う争い。

それに参加する人間のことは“マスター”と呼ばれ、さらに七つのクラスに分けられた“ペルソナ”を使役し、たった一つ存在する“聖杯”を求めて殺し合う……」

 

 淡々と説明するように話すイゴールであるが、聞いているこちらとしては頭が混乱する一方で理解するのに苦労する。

 

「すなわち……戦わなければ生き残ることのできない、そのような戦いの運命にあなたさまは魅入られたのです」

 

 冗談じゃない――。

 思わず叫んでしまう。

 もし身体が実体していたのなら座っている椅子を弾き飛ばし、カードごとテーブルをなぎ倒していただろう。さらに、正面に座るイゴールに掴みかかっていただろう。隣に立つ従者の女性が邪魔をするとしたら彼女も一緒に、だ。

それくらい理不尽さが頭にきていた。

 だが、イゴールは相変わらず落ち着いた様子を崩していない。

 手を組み直して、一呼吸置く。

 

「“ペルソナ”と言われますのは、もう一人のあなたさま自身でございます」

「どういうことだ?」

「“ペルソナ”とはあなたがあなたの外側の物事と向き合った時表に出てくる“人格”のこと……。様々な困難に立ち向かっていくための、いわば“仮面の鎧”とも言ってよいでしょうな」

 

 自分がその“聖杯戦争”というものに参加するかどうかは別として、その戦いでは“ペルソナ”同士が戦い合うのだということは理解できた。

「“ペルソナ”はさらに“騎士”“弓兵”“槍兵”“騎乗兵”“魔術師”“凶戦士”“暗殺者”という七つのクラスに分かれるのでございます。あなたさまがどのクラスの“ペルソナ”を覚醒させるのか。いやはや楽しみでございますな」

 

 まるで喜劇を待ち望んでいるかのように言う。

 巻き込まれることになるかもしれないこちらとしては御免被ることなのであるが。

 

「さて……あなたのいらっしゃる現実では、すでに多少の時間が流れたようですな。これ

以上のお引止めはできますまい。今度お目にかかる時には、あなたは自らここを訪れるこ

とになるでしょうな。では……その時まで、ごきげんよう」

 

 イゴールの言葉を最後に意識は遠のいていった。

 

 

 七人の“マスター”と七体の“ペルソナ”によるバトルロワイヤル。

 参加した“マスター”と“ペルソナ”が自分たち以外の参加者を殺しつくすまで続けられる。

 それが――“聖杯戦争”。

 すべては勝者のみが手にすることが許される万能の釜たる“聖杯”を手に入れるために。

 ある者はこの悲しき戦いを止めるために戦う。

 ある者は愛する者を取り戻すために戦う。

 ある者は永遠の命を得るために戦う。

 ある者はおのれの欲望を満たすために戦う。

 ある者は真実を手に入れるために戦う。

 ある者は幸せを手に入れるために戦う。

 ある者は更なる栄光を手に入れるために戦う。

 かくして“聖杯戦争”という名の仮面舞踏会は今宵、幕を開ける。


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