モモンガ様は自称美少女天才魔導師と出会ったようです   作:shinano

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第六話 赤法師レゾ

 鬱蒼と茂る森の小道。

 まだ昼だというのに薄暗く、見通しはほとんど効かない。

 さらに木々の根元には下草がたっぷりと生えていて、身を隠すにはうってつけであった。

 待ち伏せをするならここ、とでも言わんばかりのポイントだ。

 リナたち一行は、この小道をゆっくりと列になって進む。

 先頭には勘が鋭く、戦闘力に長けたガウリイ。

 二番目に今は魔法が使えないリナ。

 そして、後ろをナーベとモモンの二人が並んで歩いていた。

 

「モモン様、本当に良いのですか? 金貨二十枚ではなく、金貨二十枚相当のアイテムで支払うなど話が違うように思われますが」

「良い。ナザリックのものでなければ、売っても足はつかないだろう。それに、あの娘は『格安価格で売っても』と言っていた。きちんと売れば、それ以上にはなるということだ。こちらの世界での交渉を学ぶ良い機会にもなる」

 

 現金ではなくアイテムでの支給はさすがのモモンも驚いた。

 だが、考えてみればそれほど悪いことでもない。

 金貨二十枚相当のアイテムを売れば、少なくとも相手に名前ぐらいは覚えてもらえるだろう。

 そうなれば、のちのちナザリックのアイテムを売り払おうというときに役に立つ可能性は高い。

 この世界の人間とのつながりを作る機会は、多いに越したことはなかった。

 

「ですが……恐れ多くも、モモン様を騙そうとしているのでは?」

「その時は確実に償いをさせる、問題はない」

 

 そういうと、モモンは前方を歩くリナの背中を見やる。

 今のところは、やたら勝気で強引な人間の少女にしか見えない。

 果たして、あの小柄な体にはどれほどの魔力が詰まっているのか。

 アバターの力を得てはいるが、歴戦の武芸者というわけではないモモンは、彼女のことを測り兼ねていた。

 同様に、リナの前方を歩くガウリイの実力も彼にはようとして知れない。

 剣士だとは聞いているが、いかほどのものであるのかモモンにはまだ推察できない。

 

「もし戦闘が始まったら、お前は私の支援に徹してくれ。攻撃魔法は使うな」

「はい、心得ました」

「前にも言ったが、出来るだけさりげなく支援するのだぞ。未知の魔法を大々的に使ったら、間違いなく怪しまれる」

「了解です、可能な限りばれないようにいたします」

「それから、敵やリナが魔法を使ったらよく観察するのだ。お前の観察眼には期待している」

「はい! 誠心誠意、観察させていただきます!」

 

 モモンの言葉がうれしかったのか、かなりハイテンションで答えるナーベ。

 その嬉しそうな声に、リナがニタアッとからかうような顔で振り返る。

 

「なんだか嬉しそうねえ? お金でも落ちてた?」

「ち、違う! どこぞの虫けらでもあるまいに、私は小銭ごときでは喜びません!」

「虫けらッ!? あんた、そんな口の利き方ばっかりしてると友達無くすわよ!」

「お前が言うな、お前が!」

 

 ガウリイの冷静なツッコミ。

 ちなみにだが、リナ=インバースは『友達にしたくない人ランキング』で一位を取っている。

 友人――というよりも腐れ縁と呼べる人物は、高笑いの似合う時代遅れな悪役風の女魔導師くらいのものだ。

 友達の少なさに関して、右に出るものはなかなかいない。

 もっとも、この場に居るモモンはその数少ない対抗馬かもしれないが。

 

「今後の参考までに、お二人の戦いを見せてもらおうという話をしていただけです」

「なんだ、そういうことか。旅の戦士なら、他の人の戦い方って結構気になるもんね。でもそれだと、今回はちょっと残念かしら」

「どういうことでしょう?」

「私、今は魔法がほとんど使えないのよ。こんな状態じゃなかったら、この美少女天才魔導師リナちゃんがパパーッと敵を片付けるところを見せてあげるんだけどさ」

「……魔法が使えない?」

 

 やや低い声で、モモンは問いかける。

 この世界の魔導師に関する、重要な情報が得られるかもしれなかった。

 すると、ガウリイが軽い調子で答える。

 

「『女の子の日』なんだよ」

「が、ガウリイ!?」

「ぶッ!」

 

 予想外の理由に、思わず吹き出してしまうモモン。

 その隣では、ナーベが白い頬を真っ赤に上気させた。

 

「女なのにな、なんと破廉恥な! これだから人間は……!」

「言い出したのはガウリイよ! 私じゃないからね! とにかく、魔法は使えないの。剣もそれなりには使えるから、足手まといにはならないつもりだけど……っと! おいでなさったようね」

 

 木々の枝が揺れる。

 やがて下草をかき分けて、獣人たちの群れが姿を現した。

 その後に続いて、全身に包帯を巻いた細身の男とドワーフをデカくしたような鎧の男が姿を現す。

 ここ数日、リナたちを執拗に追いかけまわしている一味だった。

 

「この程度の数の獣人で、私たちをどうにか出来るつもり? というか、あのゼルガディスって奴は来てないの?」

「ゼルガディスの野郎なんぞ、いなくても十分だ!」

「あら、新手?」

 

 奥の草むらから、灰緑の毛並みをした獣人が姿を現す。

 狼の獣人だろうか。

 首元にふさふさとした毛を蓄えていて、体格も相当に立派だ。

 とくに腕が太く、その辺の木と変わらないほどに見える。

 

「このディルギアさまが、一人で片づけてやるぜ!」

「こんな時に、めんどくさそうなのが……」

「こちらは私がやりましょう。リナさんたちは、そちらを願いします」

 

 そういうと、モモンはディルギアの前へと進み出た。

 すかさず、ナーベが彼の陰に隠れながらバフをかけて行く。

 モモンの体がにわかに輝きを帯び、その能力が見る見るうちに強化されていった。

 その様子に安心できるものを感じたのか、リナたちは前方を見る。

 

「よし、任せたわ! ガウリイ、こっちはこっちでちゃちゃっと片付けるわよ!」

「オッケー、やってやるぜ!」

 

 戦いの火ぶたが切って落とされた。

 モモンは背中の二剣を手にすると、力に物を言わせて振り下ろす。

 子どもの背丈ほどもある剣が空を切り、風が唸った。

 並の魔物ならば、一撃で二つに裂けるであろう攻撃。

 それをディルギアは、自慢の怪力で持って受け止める。

 ぶつかり合った三本の剣が、激しく火花を散らした。

 

「大した馬鹿力だぜ! てめえ、獣人か?」

「どうかな? 確かめたければ、私に勝って鎧を脱がせるといいだろう」

「舐めるなよッ!!」

 

 ディルギアはモモンの剣を跳ね除けると、そのまま横に薙いだ。

 モモンは体を大きく曲げると、どうにかその一撃を回避する。

 大きな隙。

 ディルギアはそれを逃すことなく、次々と攻撃を入れていく。

 無駄のない素早い連撃。

 モモンは二刀流の手数とレベル100の反射神経で、どうにかそれを捌く。

 

「なかなかやるな」

「てめえがなってねえのさ。なんだ、その訓練したての新兵みたいな動きはよう! 力はすげえが、技ってものがまったくないぜ!」

「ふん、こちらにも事情というものがあってな! ナーベ!」

「はいッ! 上級筋力増大<ハイ・ストレングス>!!」

 

 バフが追加され、さらに膨れ上がるパワー。

 その猛りに任せて、モモンはディルギアを大きく薙ぎ払った。

 一閃。

 衝撃を堪えることが出来なかったディルギアは、近くの木まで吹き飛ばされていった。

 腹の毛皮が裂けて、赤く染まり始める。

 その勢いは相当なもので、たちまちのうちに地面へと滴り落ちた。

 

「所詮はこの程度か」

「舐めるなよ」

「む、まだ生きているのか」

 

 返事を返して来たディルギアに、驚きを隠せないモモン。

 肉を切った感触は、確かに手に残っていた。

 並の生物ならば、確実に死亡するであろう怪我を負わせたはずである。

 しかし、ディルギアはにやりと余裕のある笑みを見せる。

 

「あまり言いたくはねえが、俺の身体にはトロルの血が入っていてな。そう簡単には死なねえのさ」

「面倒な……しぶとさだけはレベル50相当と言ったところだな」

 

 モモンは一瞬、魔法で焼き払ってやろうかと思った。

 第七階位以上の魔法を使えば、おそらくはけりが付くはずだ。

 しかし、それでは何のために戦士の格好をして今まで苦労してきたのかわからない。

 彼は頭に浮かんだ考えを振り払うと、すぐさま剣を構える。

 バフが切れないうちに何とかしなければ、それこそ面倒だ。

 だがその時――

 

「振動弾<ダム・ブラス>!!」

 

 飛来した小さな赤い球。

 それが直撃するや否や、耳をつんざくような轟音が響いた。

 爆発が巻き起こり、ディルギアの体がそれに巻き込まれる。

 それによって高く聳える木々すら飛び越えて行った彼は、そのままいずことも知れぬ場所へと消えていった。

 モモンは唖然とした様子で空を見上げると、すぐさま声がした方へと視線を移す。

 するとそこには、紅いマントを羽織った男の姿があった。

 柔らかな微笑みを湛えた彼は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「あなたは?」

「あなた方に、少し用がある者です」

 

 そういうと、男はそのままモモンを追い越してリナたちの方へと向かった。

 あまりにも堂々としたその姿に、戦闘を続けていたリナたちの手が止まる。

 相手の方は、突然現れた男の姿に心なしかリナとガウリイよりも驚いているように見えた。

 

「あなたは……なぜ、こんなところに!」

「言う必要はありません。爆裂陣<メガ・ブランド>ッ!!」

 

 杖を振り下ろす男。

 彼を中心として大地がひび割れ、裂け目が蜘蛛の巣のように広がった。

 相手の男や獣人たちの足元にまで達したそれは、一気に膨れ上がると上に載っていたものをすべて吹き飛ばす。

 大爆発。

 火山が噴火したかのように、人も大地も木々も、何もかもが上空へと舞い上がっていった。

 その勢いの凄まじさたるや、とっさに逃げていなければリナやガウリイまで巻き添えを喰らっていたであろう。

 

「ちょっと! あんたいきなり何すんのよ!」

「いやあ、手っ取り早く済ませたかったもので」

「危うく私たちまで巻き込まれるとこだったじゃない! やられたら責任とってくれるわけ!?」

「あなたなら、そんなへまは犯さないと信じてましたから。リナ=インバースさん」

「なッ!?」

 

 名前を言い当てられて、動揺するリナ。

 とっさに剣を構えた彼女に、男はおどけた様子で頭を掻く。

 

「そんなに警戒しなくとも。私はレゾ、怪しい者ではありませんよ」

「レゾ? もしかして、赤法師レゾ!?」

「ええ、そう呼ばれることもありますね。私自身は、赤法師などと名乗ったことはありませんが」

「嘘、伝説級の魔導師じゃない……!」

 

 胡散臭そうな顔をしつつも、興奮を隠しきれない様子のリナ。

 どうやらこの赤マントの男は、相当な大物のようである。

 挨拶ぐらいはしておいた方がいいだろうと、モモンとナーベも彼の前へと足を運んだ。

 すると――

 

「ほう、これはこれは。まさか、こんな『骨のある人』があれを所有していたとは」

 

 モモンの姿を見るや否や、レゾはとてつもない爆弾を投下した――。

 




ディルギアの設定を改めて調べて驚愕。
ゼルガディスに匹敵する剣技と、トロルの生命力を併せ持つかなり強力な存在なのだとか。
そういうわけで、原作よりもちょっとばかり活躍です。
……最終的にこいつをペットにした姉ちゃん、さすがすぎ。

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