俺がアンナの家から旅立ってから7時間。
時計が無いため正しい時間帯が詳しく分からないが陽はとっくに沈み、黄金色に輝く月―の様な惑星―がこの森の不気味さと怖さを和らいでくれた。
薄暗いため地図も見えず現在地が分からないままこの森を彷徨っている訳だが、中々に森の出口らしき場所が見当たらない。これはどうしたものかと大樹の盛り上がった根の腰をかけると――
――リン......
という音と共にキラキラと小さな妖精らしきモンスターがこちらへと向かってきた。
俺は念の為に持って来ていた鉄剣を、ガチャ......と構えた。だがその必要はなかったらしい。
「剣を収めください......。」
「ん......? 喋るのかお前......?」
「えぇ。貴方様がこんな暗い森にお一人で迷っているのをお見かけして来た次第です......。」
「あ、そ、そうなのか。これは失礼したな。」
「いえ、お気になさらずに。」
取り合えず敵ではなかった事が幸いだろう。この森には『死狼』『闇黒の騎士』やらが彷徨っている。
こいつらは実に群れる習性があるので出会うと厄介な敵なのだ。
「それで君はこの森の出口を知ってるのか?」
「もちろんです。ですが、なぜ森の奥にいた貴方様が出口を知らないのですか......?」
「あぁ何て言うか最初にいたのがこの森だからかな......?」
あはは......。通じねぇよな。
「そうでしたか。それなら仕方ありませんね。」
「そうですよねー。あはは」
通じるとは思わなかったが、まぁ運が良かったのだろ。
「それじゃあ早速案内してもらえるかな?」
「えぇ。私に付いて来てください。」
俺の掌サイズの妖精さんはそう言うと俺が進んでいた北方角の少し北西側へ進む。
妖精さんは金色に光る小さな羽を羽ばたかせながら俺の方をチラと見て(*^^*)←の様な愛らしい笑顔を向けた。
俺は突っ立っているだけでは何もならないので少し警戒しながらも付いて行く。
「おっと......」
足に大樹の根が引っ掛かったがすぐに、バキ――と折れた。
俺ってこんなに脚力あったっけ……? 柔らかかっただけかな?
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ」
そんな様子に気付いた妖精さんが声を掛けてくれたが、何もなかったのでそのまま返事をする。
◆ ◇ ◆
それから俺は刻々と妖精さんの後を数時間は追いかけた。
少し怪しげな雲にかかって月の光は薄暗くなる一方で妖精さんの様子も徐々にだが全身から発せられている不思議な光の方も弱くなってきている。
だがそれでも進むスピードは衰えない為に俺は心配になって声を掛けてみる。
「ちょっと様子が変だけど大丈夫かな......?」
「今の所は大丈夫です。心配になさらずに付いて来てください。」
「あ、あぁ。それならいいけど……」
妖精さんはそう言い少し元気なさげな笑顔を俺に向けた。
心配だが相変わらずのスピードで進むため気にせず付いて行く。
すると――――
「ワオォォォォォォン......」
少し先に狼と思われるモンスターの遠声が響いた。
それに連れて他にもいたと思われる仲間の狼も1匹、2匹と続けて鳴いていく。
総勢10匹程と思われる狼の種の名前は――『死狼《デッドウルフ》』
この森特有の群れを為す狼だ。大きさは2m位だが、ただそれたけではない。
死ににくいのだ。
なぜかわからないが、剣や弓などの武器はいくら斬りつけ矢を放っても亡骸になることはない。
ただ一定以上の威力のダメージを食らわすと死ぬのだが、剣や弓の武具はダメージ判定が半減するので倒しにくい。とのこと。アンナが教えてくれた知恵はこれくらいだ。
それよりどうしたものか……。アンナが言うには『私なら瞬殺だ。』とのこと。事実俺はまだ一回もこいつらには手を出したことはない。一応こいつらの5倍はあるドラゴンを倒した事はあるから怖くはないんだけど。ただなぁ......数が多い!
そんな事を考えていると一番近くに居た一匹が、俺――じゃなく妖精さんの方に飛び出してきた。
俺はすぐさま、ダッ――と駆け出し、妖精さんを越えて迫って来ていた死狼の腹部まで来ると
――ブフォンッ!!
と手に少し回転をかけた弱めのパンチをいれた。
だがそれだけで充分であった。
俺が殴った死狼は地面に力無く倒れ込み少しずつ月の僅かな光を反射していた目からは光が失われていき、粒子分解してドロップアイテムを落とした。
だがそんな物を拾う暇はない。
すぐさま他の死狼―暗くてよく見えない―がガルゥゥゥ......と威嚇の声を上げてターゲットを妖精さんから俺に定めた。
「さぁ、来いよ」
俺はそう言うと残り9体と思われる死狼のうち2体が左右から飛び出してきた。
だが、姿を見せたが運の尽き。
俺は右から這い出てきた死狼を僅かのところで避け、油断を見せた瞬間、シュッ――と死狼の横腹付近に脚を振り上げた。すると死狼の体はくの字を上向きにした形で曲がり、力無く地面に落ちる。
そしてもう一匹が俺の隙をみて喰らおうとしているところに――
――ブファンッ!!
俺との距離僅か50cmのところで俺は死狼の迫ってきた顔面に奇襲してきたお返しに強めに殴った。
その威力が半端ないものだった。
――ドゥガン、ドゥガン、ドゥガン、ドゥガンッ!!
太さ4mもあろうかと思える大樹が4本―2本先からは暗くて見えないが―も折れた。
そんな様子を暗い中でも利くであろう死狼の眼が俺への威嚇が恐怖へと変わりすぐさま逃げ出した。
「ふぅ。意外と弱かったな。」
「す、すみません。何も出来ず見守る事しか出来ずに......」
「いや気にしないで」
「ありがとうございます」
俺は先程倒した3匹のうちドロップアイテムが近くに落ちている2匹の分を拾った。
ここの世界のドロップアイテムは俺が触れるまでは光の球の中に入っている。
それに触れると脳裏に『○○を入手しました。』という音声が流れる。その音声は俺がここに来る際に転移する直前に聞いた声によく似ている。
気のせいだろうけど――
「それじゃあ、また案内よろしくね」
「は、はい。もう少し、したら出れるので付いて来てくださいね」
「あぁ、わかった」
少しずつ進むにつれて虫達の小さな囁きが響いてきた。
俺の住んでいた日本の夏によく耳にした、ミンミンミン――や、キュルキュルキュル――などといった心落ち着かせるような音色でこの森の出口を示しているかのように少しずつ大きくなっていく。
森の少し奥に光が見えた瞬間、妖精さんが止まった。
すると少し苦しげに
「す......すみません......。私はこれ以上......進めないのでどうかお一人で......」
「あ、あぁ? 案内本当に感謝する」
「は、はい。それでは......」
「…………?」
俺は不思議に思いながらも、俺達が通ってきた道を妖精さんはキラキラと光るその姿が少しずつ遠のいていき、1分後にはもうその光さえ見えなくなった。
「どうしたんだろうか……? 森の外から出られないとかかな」
そんな事を思いながらも、もうすぐ出口なので迷わず前に進む。
一歩、一歩と歩みを進めると大樹の隙間から見える光がどんどん明るくなっていく。
そして
ピカン――――
森を出たと同時にその光が発せられている場所の全体図が見えた。
そこにあったのは――城壁、大きな城に群がる色々な建物、そして『人』