ここは転移門の入り口前だ。
俺はエリーナにここまで案内してもらい、その際にマリィの同行を許可してもらった。
Sランク冒険者はどんな権力持ってんだ。と最初は思ったりもしたが、元々エルフ種は戦闘力が高いため連れて行って良いとのこと。
それを聞いたマリィは凄く喜び俺に飛びついてきた。てかいつの間にこんだけ好かれてんだろうか。
まぁ、そんなことは気にしない。
そして転移門はというと、地面に数十mほどの魔法陣―魔法で稼働はしていないと思う―の様な円く俺にはよく分からない複雑な記号やらで書かれていた。
魔法陣の端からは光の壁みたいなのが空高く続いていた。
そしてそこからは次々と帰還した冒険者達が、シュン――と現れては、シュン――と魔法陣から消える。
それを数分、呆然と眺めているとエリーナが「なにを呆けている。さぁ行くぞ」と言った。
つい数日前までは名前で呼んでいなかったくせに、いつの間にか呼ばれるほどエリーナは親しいと思ってくれていた。それに俺は嬉しく感じた。
「んじゃ、行くか……」
「うんっ、アント頑張ろ!」
「あぁ」
「くっ……。」
「どうした?」
「何でもない! 羨ましいとか妬ましいとかもっと接してほしいとか思ってないからな!?」
「そうかいそうかい」
「う、うむ!」
エリーナの内情はよく分かんねぇな……。んじゃさっさと行くか
そして今回は引っ付いていないマリィと顔を合わせ、ニコッと頷いたので転移門へと近づいて行き、足を踏み入れると徐々に体が浮いたような感覚に包まれていき、そして気が付けばダンジョン内と思われる、だだっ広い草原に俺達3人はいた。
俺はダンジョンといえば、じめじめとした洞窟や地面の下にある迷宮とばかり想像していたが違ったようだ。
空中ダンジョンなのかは分からないが現時点では爽快なほどにここは気晴らしがいい。
ここ1階層の草原は涼しい風が吹き、その度に俺の足首位の草花が、サーと揺れて自然な音色が流れる。
そして、空にはいくつもの雲が個々違った速さで、この空を駆けていく。
なんとも居心地が良い場所だ。
そこには色々な冒険者達も懸命に戦っていた。
そのほとんどがパーティを組んで色んなポジションから敵の隙を突いていくのがよく見える。
そして隣にいるマリィは色々と楽しんでいた。
「ここがダンジョンなんだっ、すごーい! 色々なモンスターもいるけど最高だね、ここ!」
「マリィは来るのが初のようだな。まぁ……アントもそうだろうな」
「私はアントが来るまであんまり外には出てなかったからねー」
「まぁ、そうだな」
「取り合えず、この人数のパーティでは何かと不備が生じるからして今日はまずこの階層の攻略といこう。パーティの最低人数は5人で組むのだが、ここの階層ならB級冒険者1人で何とか持つからして大丈夫だ。」
「へぇ……。まぁ頑張ろうか」
「うん! それじゃ進もっ」
マリィは見た目に反して喋り方がかなり幼く見えるのだが、そこは個性ということで完全無視をしよう。
そして1歩踏み出す毎に俺に踏まれた草花達が、サァ……と微かに音をたてて沈んでいく。
睡眠欲を誘われるほどにここの草原は気持ちが良くどんどん癒やされていく。
そんなことを考えているとエリーナがこのダンジョンについて教えてくれた。
「言ってなかったことがある。」
「ん?」
「なにをー?」
「ここのダンジョンの次の階層への上がり方だ。」
腕を組み、ふむふむ。頷くエリーナさん。
「うむ、ここのダンジョンには階層主という特別種がいる。」
「階層主……か」
「そしてその階層主は1階層ずつに2体存在している。このうちの1体が特殊体質でな……。私達は『亜種』と呼んでいる」
「何か不気味な名前だな……。それでそいつはどんな体質なんだ?」
「ふむ。通常の階層主の数倍の力を持っている。それに最初の姿は通常の奴と見分けがつかないので遭遇した際はまだ識別できない状態下にある。」
「うわぁ……。すげぇ面倒くせぇ奴だなぁ……遭遇なんかしたくもねぇ」
「あはは……そうだねアント」
「んでどうやったら正体が分かるんだ?」
「階層主を倒した際に階層主の頭上に『ЀлЄоџлҭѐг』と表示される」
「え、えんかうと?」
「遭遇したってことは違うモンスターになっちゃうんですか?」
「よくぞ気づいた、ここで本当の姿になる。油断をしていたら殺られてしまうのが亜種の特徴だ」
「ってことはステータスは全部回復してるってことか……?」
「うむ、そうだ」
うわぁ……まじかよ。
本当に厄介な敵だ。
最初は見分けがつかないくせして倒したら亜種になりそんでは全回復とか……。
もし負けでもしたら俺どうなるんだろうな……まぁ死ぬしかないけどな。
「私も何回か遭遇はしたことあるが実に厄介であるが故に注意していなかったパーティメンバーは殺された。」
「まじか……」
「亜種怖いです……」
そんなことを言った刹那――
マリィがある方向へ指差した。
「そのぉ……勘違いならいいですが、もしかしてあれ……亜種ですか? エリーナさん」
「おぉ、そうだ」
そういうとそこには木霊の様な5mほどの大きなモンスターがいた。
その体は俺の数倍にも達しており、暗黒というのが相応しいほどのオーラを全身に纏って、その眼球は生きたものではありえないほどの赤色で染められていた。
そのギラギラと紅く光らせている眼球は周りにいる6人のパーティへ向けられていた。
だがそれはパーティと呼べるものではなくなっており、今立っている者はたったの2人だけである。
すこぶるやばい状況である。
遭遇したことは元より不幸だが、それよりも壊滅的な今の状況を眺めているのも不幸過ぎる。
「おい、エリーナどうすんだよ!」
「このままいけばあのパーティは全滅するだろうな」
「なら助けねぇと!」
「ふ。あのパーティは自己判断で階層主へ挑んでいるんだ。わざわざ手を出す必要は――」
「んなこと言ってんじゃねぇ! 目の前で殺られるのを黙々と黙って見捨てる馬鹿がどこにいんだよ!!」
俺はそう言い、ダッ――そのパーティの所へ急いで駈け出した。
やれやれと後ろで見つめるエリーナ。あわあわと戸惑っているマリィ。そして駈け出す俺。
そして階層主がドカドカと、もうボロボロな冒険者へと近付き腕を振り上げようとした刹那……
「ウォラァッ!!」
――ドカァァァァン!!
俺は木霊が振り上げようとしていた大きな腕をこちらからも腕で受け止めた。
その衝撃が大きいせいか俺の立っている地面には少しのクレーターが出来上がっていた。
そして肝心な冒険者二人は寸前で身を低くしていたため何とか無事であった。
階層主が自分の攻撃を受け止められたことに動揺し、隙が出来たのを俺は見逃さず「オラァッ」と木霊の切り株の様な体の中心部分に軽めに一蹴り入れた。
すると意外と強かったのかそのまま階層主は後ろへぶっ飛び、地面に盛大な跡が残った。
俺はわざわざ行くのは面倒臭かったのでそこら辺に転がっていたスーパーボール位の大きさの石を拾い。
――ヒュッッ
俺は起き上がろとしていた階層主へと渾身の一振りを投げると、階層主の眼球の少し上の真ん中辺りへ食い込み、貫通しそのまま屍へと変わっていった。
するとやっとマリィとエリーナが追いついてからの一言。
「相変わらずな馬鹿力だな、アントは……」
「アント本当に良い人で良かった……」
そしてマリィが倒れている4人へ一人ずつ安否を確認し、全員無事だったようでこちらへと安心した笑顔を向けた。
そしてこのパーティのリーダーらしき男性が、傷だらけの防具でこちらへと向かってきた。
「そ、その……助かった。なぜ俺達を助けたんだ……? 恩を着せるためか……?」
「んなはずないだろ? それともあのまま放置してもう仲間達と冒険出来ないような事態に発展した方が良かったのか?」
「それは……嫌だな。」
「ならそれでいいだろ? 俺の故郷では困ってる奴がいたら助けるのは当たり前だったから」
「珍しい故郷だな……。本当にありがとう」
「いえいえ」
取り合えず助けれて良かったよ本当に。でも意外と階層主弱いな……まぁ一階層だからか
そんな会話をしていたのを見てエリーナから疑問が吐かれる。
「本当にアントは初心者の冒険者なのか……?」
「まぁこの街に来るまでは、3ヶ月ほど修行みたいなもんしてたからな」
「でも3ヶ月でその強さは……アントだからなのだからなのか」
「まぁ、そういうことにしといてくれ」
すると、ふとマリィが俺に変なことを言い出した。
「アントー? なんか聞こえない?? これ私だけかなぁ……」
「ん?」
そう言われた瞬間、脳裏にある声が響いた。
『階層主の撃破を確認。次層「冒険者達の街」への立ち入りが授与されました』
こういう内容だった。よく分からないが今回も何回か聞いた声のアナウンスだった。
「なんか次層へ行けることになったんだが、これって階層主を倒したからでいいんだよな?」
「あぁ。毎回倒す毎にそれが流れてくるはずだ。そうだ、ギルドカードを見てみるといい」
「ギルドカードを? なんで?」
「まぁいいから」
そう言われ、物質保存鞄から例のギルドカードを取り出し内容を確認してみた。
『галк《F》Ⅱ』
と書かれている。
俺は記憶を呼び起こし、ふと気が付く。
「あ、ギルドカードの級が変わっている。 前は確か『Ⅰ』だったはずだ。でも『Ⅱ』なってやがる」
「そうだ。階層を突破する度に、表示が変わっていく形式になっている。級がそのランク最高になり突破すると、次はランクの表示が変わりランクアップする。単純だが面白いだろう」
「へぇ……。それでどうやって次の層へ行けることが出来んだ??」
「その場合はギルドで買える転移結晶が必要になってくるがやけに高い……」
「それっていくらなんですか??」
「一つ7G《ジル》位だった気がするが……」
「7G《ジル》もするのっ!」
なんかよく分からないが俺は途中から話についていけなくなった。
ジルジルばっかり言っていては何も分からない。
なんかの汁かよ!? と思ったのは他言無用だ。
そのために聞いたらエリーナに「そんなことも知らぬのかっ!?」と怒鳴られたが素直に教えてくれた。
ジルというのはこの世界でいう名のお金のことらしい。
金銭配列的にはこういう風になっている。
A《アル》=百円単位
M《メル》=千円単位
G《ジル》=万円単位
という形だ。
転移結晶が7G《ジル》なので7万ということになるだろう。(高っ……!!)
そして、話しながらも負傷者の手当てを行っていたマリィは、それを終わらせて一階層の出口へと運び、何とか無事に死者を出すことなく救うことが出来た。
時間が少しあった為、もう少しこの階層をウロウロすることにした。
「マリィって何かと良い嫁さんになれそうだよなぁ……。それにエリーナは……不器用だろ??」
「私がアントの良いお嫁さん!?」
そんなこと言っていない!! 言ったくせして恥ずかしくなってきた……!!
言い出したクセして後悔している俺は、頬を紅く染めているマリィを直視は出来ずそっぽを向いた。
そしてエリーナにてっきり怒られるだろうと思っていた俺は何も言わず俯いているエリーナの方へ目を向けた。
表情は見えないが雰囲気からしてとても落ち込んでいるように見えた。
もしかしてデリケートな部分に触れたのかもしれない。
するとエリーナが、パッと俺を見て言い放つ。
「すまないっ、産まれ付き人との接し方がまったく分からずっ……!!」
「え、え、あ……」
エリーナは目に涙を浮かべて上目遣いで俺になぜか謝ってきた。
俺は、言う言葉を間違った……。って思いながらもその表情についドキリとした。
まるで飼い主が離れるのが寂しい子犬のようなその表情に。
そしてなぜか気不味い空気になってしまった。
マリィは俺の発言のせいか上の空である。
「べ、別にさっきのは気にするな。私はただ惚れた男が離れていくのが―――――」
「え」
「もしかしてエリーナもアントのこと好きなの??」
おい、ちょその発言は……!?
俺が思った通りそれを聞いたエリーナは、ボウッと頭が茹で上がったかのように顔を真っ赤にして俺に倒れかかってきた。
「え、エリーナ!? おい大丈夫か!?」
「あ、あれ私変なこと言っちゃった……??」
そりゃもう大変なことをな……
それから俺達は街へ戻りまだ顔を紅くしているエリーナに水をぶっかけて何とか無事に今日一日が終わった。
――だが目覚めたエリーナは唐突にあの衝撃的な発言を放った。