リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

28 / 42
27 魔を断つ剣

ティアナに連中へ渡せるだけのデータを封入したデータキューブを渡し、ついでに修理の終わったギンガを抱えさせて、先に彼女達を送り届けたポイントへと転移させる。

 

ギンガは大体の部分は元のまま――に、見えるが、投与したナノマシンの所為でメンテナンスフリーになってたり躯体耐久率が130%向上してたり本体重量がガッと減っていたり。体重を落とさなければ躯体強度をもう少し上げられるのだが、すずかやアギトが重量軽減を優先するべきと訥々と語られてしまったので、こんな感じに仕上がっている。

 

因みに彼女の魔改造に関しては俺はほぼノータッチ。基本的にすずか(技術者)とアギト(兵士)のディスカッションから、要求値を出して、そこにいたる方法を俺が提出、施術は再びすずかとアギトによる。

 

「さて。これで残すはアレの処理だけなんだが……アギト」

「おうっ。あの怪獣、イリスだっけ? なんだけど、現在のサイズは全長60メートル強。大分安定してきたけど、この十数分で一気に成長したみたいだ」

 

そういって画面に映し出されるのは、大穴の開いた聖王のゆりかごから姿を覗かせる巨大な怪物の姿。

よく閣下、もといレギオンと比較し、レギオンのが強いんじゃね? なんていわれる平成ガメラ三部作最後の敵、イリス。

 

「……なるほど。聖王の、というかヴィヴィオの遺伝子データを取り込んだか」

 

原作だと誰だったか。ヒラサカアヤナ? なんだろう、女郎蜘蛛にでも変身しそうな名前に感じるのは俺だけだろうか。とにかく、そんな名前の少女を取り込んで力を得ていたはずだ。

 

ところが今回奴が取り込もうとしたのは、ただの一般人であるヒラサカアヤナではなく、血族としてとんでもない実力を持つ聖王、その末裔に値するヴィヴィオの血を取り込んでいるのだ。

 

「戦いたくねぇ……」

「――メラ君の弱気って、はじめて見たかも」

 

隣を向けば、何か驚いたような表情のすずかが目を丸くして此方を見ていた。とはいえ、相手はあのイリス。それも原作よりも明らかにパワーアップしている奴だ。

平穏に生きる為、といってこんな戦場に出てきた俺だ。矛盾を抱えたまま進んではいるものの、あんな怪物を相手取って五体満足で戻ってこれるとは思わない。

……まぁ、俺の場合腕が千切れても生えてきそうではあるのだけれども。

 

「とはいえ、コレもお役目か」

 

俺ことメラは、そもそも対ギーオス戦用に開発され、先のアルハザードの後の文明の為に残された戦闘用の生体兵器、に類する物だ。正確には分類不能の良く分らない、妖怪、もしくは神霊の類みたいなモノでもあるのだが。

 

そんな俺に預けられた任務は、後進文明をギーオスの驚異から守り、ギーオスと戦う力を与えるというもの。

 

原作のガメラなら…いやそれでも、俺一人に次元世界すべてを救え、なんていうのはさすがに無理だ。そもそもとして、残されていたその命令に俺が従う義務も設定されていない。本当に時の揺り篭に託されただけなのだ。

 

一応俺が平和に暮らす為に、ウルに残されたデータを使って月村を盛り立てたりしたが、現在のようにEFFが出来たのは俺の努力とは関係なく、ただ俺から得られたデータを運用した月村とバニングス、それと怪獣達の動きによるところが大きい。

 

少なくとも地球を守るため(という名目で俺の周囲の安全を整える為)に技術を供給した時点で、一応俺を生み出したアルハザードに対する義理立ては果たした、と考えている。

 

……のだが、一応ミッドチルダもアルハザードの系譜に近い存在だ。直系とは言わないが、少なくとも因果関係を持つ文明圏である事には変わらないだろう。

つまり、この世界に対する助力も、一応義理の範疇に含まれるのだ。とはいえ、さすがにこんな世界に技術提供までする心算は無いが。

 

精々一時的に戦力としてギーオスと戦う事。……考えてみれば、ここでイリスを撃退してしまえば、最低限以上の義理は果たした事になる、か。

 

「よし、それじゃ、出撃するか」

「勿論私も出るよ」

「ダメだ。すずかはアギトとイクスと三人で管制を頼む」

「そんな」「ちょ、マスター!?」「……」

「確かに面倒な相手ではあるが、だからと言って此処を空にするのは拙い。三人には此処をしっかりと守っていてもらう」

「ぬぐぐ……」

「そんな、メラ君……」

「分りました。留守は確りとこのイクスがお守りして見せます」

「あっ、イクスちゃんずるい!」

 

若干むっとしているものの、一人だけしゃきっと返事をして見せたイクス。そんなイクスに何故か涙目でプンプンと怒るすずか。アギトはといえばムグムグと唸りつつも、既に環境のコンソールに身を寄せていた。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

言いつつポートを経由して大型格納庫へ移動。そのまま移動バーにつかまって目的の場所へとたどり着く。

 

「……まさか、本気でこれを使う事態になろうとは」

 

目の前に仁王立ちする鋼の巨人。理不尽に晒された怒りと涙が生み出した、絶望を打ち砕く剣。命の切なる叫びによって練磨された、魔を断つ剣。

ある種の諧謔として建造された筈のSR機の最後発機にして、諧謔では済まないレベルの力を持ってしまった最強の矛にして盾。理不尽を打ち砕く矛盾そのもの。

 

「……やるか」

 

小さく呟いて、コックピットへと飛び乗る。コックピットのコンソールに手を置いた途端、静かに全天周囲モニターが光を灯した。

霊素次元共振機関、銀鍵守護機関、共に正常稼動。G・ギアとのコンフリクトも正常稼動許容範囲内に収まっている。

艦に接続したパネルをトントンと叩く。途端、静かに起動した艦のシステムにより、俺の搭乗する機体が移動し、カタパルトへと運ばれて。

 

――さぁ、虚数の海を渡るアルハザードの技術。その意味を見せよう。

 

カタパルトデッキに運ばれた機体の周囲。展開された立体魔法陣と、ソレを覆う無数の目玉にも見える、玉虫色の沫のようなそれ。

ぐるぐると回転する魔法陣。その回転が頂点に達した瞬間、術式は奇妙な輝きとなり、目に映るのは奇妙に歪んだ空間だけで。

 

「虚数展開カタパルト作動! メラ、デモンベイン・ストレイド、出るぞ!!」

 

そう叫んで、機体――デモンベイン・ストレイドを渦巻く虚数展開カタパルトへと投下する。

途端、玉虫色の輝きの中、あふれ出す白い輝きに飲まれ、デモンベイン・ストレイドはその姿を光の中に消したのだった。

 

 

 

 

 

 

Side Teana

 

 

 

「ティアナ、無事やったか!!」

 

戻ってきた私を最初に見つけた八神部隊長。そういって駆け寄ってきた機動六課の面々に苦笑と共に「無事帰投しました」と返しておく。

メラさんに頼んだとおり、ちゃんとゆりかご近隣に浮かぶ機動六課の拠点、時空航行艦アースラへと戻ってきたらしい。

 

「それで、や。ティアナ、あの人らについて、説明してもらえるか?」

 

そうして一息ついた頃。あの怪物、イリスとかいう怪物が居座るゆりかごの風景を映し出すスクリーンの前。ブリーフィングルームに座した機動六課前線メンバーの前で、八神部隊長はそんな事を言い出した。

 

「あの人たち……メラさんたちのことですか?」

「せや。ホンマは今話すべきことや無い言うんはわかっとる。せやけど、小康状態に入った今の内に出来る事はやっとかんと」

「……まぁ、私も知ってることは少ないんですけど……」

 

そう前置きしてから話し始める。本当のところを言ってしまえば、私も結構深いところまで情報を得ているのだけれども。ソレを態々口に出す積もりも無い。

 

「メラさんは97管理外世界地球における、地球連邦軍の大佐で、特殊部隊の隊長、だったと思います」

 

「地球連邦軍? 地球にそんな組織は無かった筈だぞ!?」

 

御剣陸士が叫ぶ。そういえば彼もEFF結成前に地球を離れたんだったか。まぁだからといって一々叫ばれるのは五月蝿くて仕方ないのだけれども。

 

「貴方が知らないだけでは? 結成は四年前と聞いてますが」

「……俺がコッチに来たのは5年前だ」

「正確には3年と半年ほど前、地球はギーオスとレギオン、と呼ばれる宇宙怪獣によって滅びかけ、その復興に際して結成されたのが地球連邦政府と、地球連邦軍、つまりEFとEFFなんだとか」

「ギーオスとレギオン……ギャオスとレギオン? ガメラか? ってことはあれは……」

 

いつの間にか機動六課に復帰していた鳳凰院さんが小さく呟いた。ガメラ? メラさんの事だろうか?

 

「でもねティアナ、私達地球の出身だけど、そんな話一切聞いてないんだよ?」

「なのはさんは地球の出身でしたよね? 地球とは連絡取ってましたか?」

「…………………………その………………仕事が忙しくって………………」

 

そう、この人、高町なのはは地球の家族と連絡を一切取っていない。過去私が恭也さんに師事を仰いでいた頃、士郎さんや桃子さんがその事を嘆いていた記憶がある。

というか、10年……は無いだろうが、少なくとも地球が封鎖されてから5年近く。その間一切連絡を取っていなかったというのは、ある意味驚異的な話だ。どれだけ不義理なんだか。

 

「ウチは住居がミッドやし、グレアムおじさんもミッドに引き上げてきたから、地球との縁は殆ど切れ取るし……」

「最近、っていうかここ数年家に連絡入れてないな、そういえば」

「……もしかして、三人とも知らないの?」

「何がやフェイトちゃん?」

 

愕然とした表情のハラオウン執務官。……まぁ、気持ちは分る。

「地球……97管理外世界は、今、管理世界との渡航が断絶してるんだよ?」

「「「えっ?」」」

 

首を捻る三人に、愕然とした表情のハラオウン執務官と鳳凰院さん。そりゃ、管理局出身の二人が知っていて、地球出身の三人がその事に気付いていないとか。

 

「そ、それって如何いうことなのかな!?」

「言葉通り、97管理外世界への侵入が不可能になってるんだ。何故なのかは分ってないけれど、丁度ギーオス被害が出始めて、地球居住者が疎開を終えた頃だった所為で殆ど問題視されてなかったんだけど……」

「……ってことは、俺達家に帰れないのか!?」

 

まぁ、帰れないも何も、そもそも地球から亡命した扱いになっているこの三人だ。地球に戻ったところで、地球人として扱われる事は無いと思うのだけれども。……なんでミッド人の私が地球で正式な戸籍持ってるのに、この人たちに無いんだか。

 

「そんな……で、でも、あの人たちは地球の軍人さんなんだよね!?」

「せや! あいつ等がホンマに地球の軍人なんやったら、航行不可能になってる状況で如何やってミッドまで来おったんや!?」

「さぁ、其処までは……」

 

言ってしまえば、虚数航行システムによる虚数転移による移動、もしくは次元断層領域外からの往来なのだろうが、少なくとも虚数空間を『魔法“が”使えない場所』としか捉えていないミッドの人間には理解の出来ない方法だろう。

 

「まぁ、それはええ。ソレよりも、あの魔法、触手の怪物に吸収されへんかった魔法について教えてもらおか!」

「ガイア式の事ですか」

「ガイア式ゆうんか? あの魔法は」

「ええ。ガイア式はそもそも魔法ではなく、地球では“魔術”と分類されている技だそうです」

「魔術、な。まるでオカルトやけど、魔法は科学の技やで」

「いえ、ガイア式はオカルトなんです」

 

その言葉に怪訝そうな表情になる八神部隊長。まぁそれもそうだ。ミッドの魔法は魔法という名前こそ冠しているが、魔素を取り込み魔力と言うエネルギーを生成し、それをプログラムに乗っ取って扱うと言うSFじみた科学であり、間違ってもオカルトやファンタジーな力ではない。

 

「ミッドやベルカの魔法は、そもそもリンカーコアを使い、大気中に存在する魔素を吸収・生成することで魔力と呼ばれるエネルギーを生み出し、それをプログラムに則って操る技です」

「まぁ、基本だな」

「ええ。ガイア式もプログラムを使うという点は同じなんですが、エネルギーのほうが全く違って、ガイア式はリンカーコアや魔力というエネルギーを一切使ってません」

「なんやと!?」

 

驚く八神部隊長。その背後を見れば、スターズ、ライトニング、ロングアーチの面々も大体揃って同じように驚愕の表情を浮かべていた。

 

「それは、ホンマのことか?」

「ええ。……シャマル先生、簡易計測お願いできますか?」

「え、ええ」

 

その場に居たシャマル先生に頼みつつ、ガイア式を用いたシューターを一つ手の平の上に浮かべてみせる。

クラールヴィントを展開したシャマル先生。そのペンデュラムがガイア式シューターを指し、シャマル先生の表情が次第に強張っていくのが見て取れた。

 

「どや、シャマル」

「……本当に魔力反応が検出されないわ。コレ、似てるけど別のエネルギーよ」

「それは、戦闘機人のような?」

 

強張った表情のハラオウン執務官がそんな事を言い出す。……あれ? もしかして成体改造兵器みたいな認識されてる?

 

「いえ、それともまた違うエネルギーみたいだけど……」

「これがマナと呼ばれてるエネルギーです。利点は習得に関して資質が問われない点。難点は使いすぎると死に至るという点ですね」

「死ぃ!?」

 

マナと魔力は似て非なる存在だ。

魔力が世界に存在する魔素を取り込み、生成する……いわば呼吸する事で酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出すというモノに近いのであれば、マナは血液を使って文字を書くようなものだ。

 

呼吸はしすぎたところで過呼吸になる程度。間違っても死ぬ事はない。然し血液は流しすぎれば貧血になり、場合によってはそのまま死に至る事もある。

 

「成程な」

「でも、なんでそんな危ない技術が……」

「そうだな。間違っても地球でそんな技術が発生する、なんてことは考えられないだろうし」

「……そういえば、あのメラって人、アルハザードの生物兵器だって名乗ってたけど……」

 

その言葉に、あの場、ウルのブリーフィングルームに居なかった面々が目を見開いた。

 

「アルハザードの生物兵器!? なんだそりゃ!?」

「正確には半人半プログラムの、対ギーオス戦及び人類最終絶対防衛機構・生体型守護プログラム・汎用人型決戦兵器G計画発プロジェクト『M.e.r.a』完成固体、だったかな? そんな感じだったかと思います」

「エヴァでガ×ラかよ」

 

ボソッと突っ込みを入れたのは鳳凰院さん。なんだかちょっとテンションが低いのだが、それでも突っ込みのキレは相変らずである事にちょっと安心した。

 

「つまり、ガイア式の大本になった技術っちゅうんは……」

「アルハザードの技術、って事になるのかな」

 

その瞬間、その場に居合わせた全員に戦慄が走ったように見えた。それはそうだろう。管理外世界などと見下していた世界が、自分達よりも優れた技術を手に入れた可能性があるのだから。

 

「それじゃ、今地球に渡航不可能なのも……」

「それは知りません。が、やろうと思えば今だって出来るんじゃないですか?」

「如何いうことや」

「大出力のAMFを惑星全域で展開すれば、そりゃ次元転移による侵入も出来なくなるでしょうし」

「そんな阿呆な。そんな事したら魔法が……」

「使えなくてもいいんですよ。そもそも魔法文明の無い世界では必要ない技術ですし」

「そ、それは……」

 

そもそもの話、魔法と言うのは本当に必要な技術であるのか? という事。魔法と言うのは確かに“比較的”クリーンなエネルギーだろう。然し、あくまで比較的であって、最終的には人類滅亡に繋がる兼ねない危険な汚染を発生させると言うのはメラさんから聞いた話で、結局の所質量兵器と大差ない。

 

むしろ魔法という携行可能かつ汎用性の高い戦闘技術が普及してしまった所為で、逆に次元世界全域における小規模な戦場の拡散という問題を引き起こしてしまっている辺り、補給の重要性の高い質量兵器のほうがミリタリーコントロールは容易であった可能性はある。

 

……まぁ、そもそも優れた技術を戦闘技術に用いている辺り、精神的な習熟が成っていない。精神的習熟が成っていない以上、クリーンだろうがなんだろうが、質量兵器も魔法兵器も大差はないのだ。

 

「…………」

「そ、それでガイア式の事なんだけど……」

「そうですね、話を戻しましょうか」

 

そもそものガイア式とは、古アルハザードにおいて、ギーオスを倒すための術、その一つとして考案された技術だ。

魔力、およびそれから派生する魔法を吸収するという破格の能力をもつギーオス。それに対抗するには、魔法と言う手段は到底抗い得ない。

 

そこで幾つか生み出された技術があり、その中の一つが魔法に変わる新たな力、マナと呼ばれる生命力そのものを対価とし、魔法に似た現象を引き起こす術だった。

 

「プログラム自体はアルハザードで使われていたものを流用しているらしく、リンカーコアを用いてガイア式を行使する場合、それはアルハザード式なんて呼ばれるそうですよ」

 

まぁ、若干プログラムの内容も違うらしいのだが、ほぼ互換性のある術式になっているのだとか。

 

「生命力そのもの、なぁ?」

「ギーオスと戦う為には必要だったのかもしれないけど、危険な技術だよ……」

「いえ、むしろある意味で魔法よりもクリーンなエネルギーではあるんですよ?」

「えっ?」

 

首を傾げる高町一等空尉。

 

「魔法、廃魔力は一定以上の堆積で変異し、人体に有害な汚染物質に変化する、と言うのは既に聞きましたよね?」

「え、あ、うん」

「それに比べ、マナを用いるガイア式はそういった廃魔力を排出する事がありません。魔法のようにリスクを世界に残す事は無く、あくまでリスク・リターン共に術者が被る、と言うだけの話です」

「なるほどな。確かに魔法よりも堂々としとるっちゅーのも理解できる。ティアナの説明やと、魔法っちゅーのはその負債を他所に押し付ける性質の悪い貸付みたいやし」

 

利益を得るのも、不利益を被るのも、すべて自分で引き受ける。利益しかないように見えて、陰で莫大な負債を溜め込む魔法よりも、これほど分りやすいものはないだろう。

 

「因みにそれをウチらに教えるっちゅうんは……」

「無理です」

「なっ、なんでだよ!?」

 

声を上げる御剣陸士。先に説明してなかったのかよと八神部隊長を見るが、苦笑のような表情を浮かべていて。

 

「先ず最初に、コレを教えてしまうとミッドチルダの社会が崩壊してしまう可能性がある、と言うのが一つ」

「社会が崩壊!?」

「生まれながらの才覚に支配された魔法至上主義社会において、ソレと同等かつ生まれ持つ才能に左右されない、代替可能技術。そんなものが広まってしまえば、魔法至上主義の現行社会が崩壊するのは目に見えてます。それに、二つ目。私が他人に教えるのが苦手っていうのですね」

「っておい」

 

いや、コレが実際に大きな問題なのだ。

ガイア式、マナを使う技術と言うのは、その練習過程で常に命の危険と向かい合う事になる。

マナとは命のエネルギー。使いすぎれば命に関わるのは必然であり、扱いの未熟なままソレを使おうとすれば、制御出来ずにそのまま死に至る、なんて可能性も否定しきれないのだ。

 

これが教導に長けたメラさんやキャロであれば、例えば暴走するマナを包み込むように押さえ込んだり、もしくは流れ出るマナ以上のマナを供給したりなんて方法で、かなり安全に教導することが出来る。

 

ところが私は、あくまで自分の能力を伸ばす事を優先していた。そりゃ確かにホロウの任務でアグレッサーや教導隊なんかもやったが、私はあの人たち程教導は上手いと思えない。ましてそれはマナを用いる技術に関して設備の整っていたEFFの訓練学校での話だ。こんな何の設備も無いに等しい場所で教えるなんて、自殺行為以外のなんでもない。

 

「……まぁ、分った。つまり知ったからといって、今のうちらに何か出来る事があるってワケでもあらへんっちゅうこっちゃな」

「はい ……それに、そろそろ動くみたいですよ」

 

そういって、その場の注意をスクリーンに向ける。途端、その場に居る全員の注意がスクリーンに向くのを感じた。

空間に現れる立体魔法陣。その中心に燃える瞳の浮かび上がる五芒星を抱いた立体魔法陣。存在し得ない存在が撒き散らすエネルギーが、その蒼穹に嵐となって顕現して。

 

「なんや、あの馬鹿でかい魔法陣は!?」

「虚数展開カタパルト……来た!!」

 

瞬間、スクリーンを焼く白い光。爆発が起こったかのように視界を染めたその光。咄嗟に手で光を遮って、再びスクリーンに視線を戻すと、其処には空中に仁王立ちする鋼の巨人の姿があった。

 

「きょ、巨大ロボット……やとぉ……!?」

「し、しかもスーパー系なの!?」

「はやて、なのは!?」

 

興奮したように叫ぶ二人に、話についていけないのか悲鳴のように声を上げるハラオウン執務官。

 

「ティ、ティア……あれ、何?」

「多分、地球で生産されてるSR機……スーパーロボット。細かい所までは知らないけど」

「ち、地球ってあんなのを生産してるの!?」

「……スバルさん、少なくともあれ一機だけって事は無いんじゃないでしょうか……」

「つまり、量産されてるってこと?」

 

愕然とした表情のスバルとエリオ。まぁ、私の知る限りでも量産型ゼオライマーと量産型ガオファイガー、あと各国独自のSR機なんかもあり、かなりの数のSR機が存在しているのは間違いないだろう。

 

「デモン、ベイン……だとぉ……」

「なんだ、元ネタ知ってるのか?」

「なっ、御剣、お前まさか知らないのか!? デモベを!?」

「お、おぅ、知らないけど……」

「………………」

 

唖然とした様子の鳳凰院さんと、その様子に珍しくうろたえた様子の御剣陸士。

……なんで地球出身の御剣陸士が知らないのに、鳳凰院さんが元ネタ知ってるんだろうか。というか、元ネタを知ってるか如何かでなんでこそまで驚いてるんだろうか。

中々カオスな状況に染まっていくブリーフィングルームを眺めながら、スクリーンの中、動き出したSR機の様子に視線を移し、改めて状況の推移を見定めるべく集中するのだった。

 

 

 

 

Side Other

 

 

時空管理局本局・次元航行部隊次元航行艦隊。

次元管理局のそもそもの理念、次元世界の平和と安定を守るという根本たるそれを守るために存在する、次元の海を渡る船。

 

本来であれば次元世界のありとあらゆる地域へと派遣されているはずのそれらが、本来ならばありえなかった全艦集合という奇妙な光景がそこにあった。

 

「艦長、聖王のゆりかご、及び同目標上に出現した怪獣、共に動きはありません!」

「そうか……」

 

次元航行艦隊旗艦『クラウディア』艦橋。そこに泰然と座す男性。クロノ・ハラオウン艦長。

オペレーターの言葉を確認した彼は、再びモニターの中に映る聖王のゆりかご……いや、その中央に映る巨大な怪物の姿を真直ぐ睨みつけていた。

 

「解析結果は如何だ」

「はい。あの怪物についてですが、予想通りギーオスのソレに似た存在である事が確認されました」

 

オペレーターの言葉と共に表示される画像とテキストのデータ群。要約すれば、其処にはあの怪物がギーオスと似た器官、遺伝子などを持つ、という事が記されていて。

 

「……なら、あれにもアルカンシェルは効く、と言うことだな」

「はい。魔法攻撃であれば不可能では在りますが、アルカンシェルは魔法を使って空間歪曲及び反応消滅を誘発させる技術ですので……どうかされましたか?」

 

ふとオペレーターの彼が顔を上げると、複雑そうな表情で手で目元を覆うハラオウン艦長の姿があった。

 

「いや。……魔法を使っているだけで、実質質量兵器以上に危険だとされるアルカンシェル。こんなモノを使わなければいけない事態があるという事が、な」

 

手に覆われたその下。表情こそ隠されていたものの、吐き出された言葉の調子は明らかに憂鬱気なもので。

こんなモノに頼らなければならないのなら、結局魔導師である我々はなんだったのか、と。

 

「それでも。矛盾を孕んででも市民のために、次元世界の平和と安定のために戦うのが我々です」

「――そう、だな。すまない、少し気弱に成った」

「いえ」

 

静かな、けれども力強い意志の籠められた彼の言葉に、改めてクロノはその視線を真正面――その先に居座る触手の怪物へと向ける。

 

「――敵艦、有効射程範囲に入りました」

「アルカンシェル、エネルギー充填完了。何時でも撃てます」

「よし、全艦に通達。これより我々は、聖王のゆりかご、及びギーオス変異体の殲滅を開始する。カウントダウンはじめ!!」

 

その言葉と共にモニターに表示される数字。等間隔ごとに減っていくその数字を見つつ、クロノは自らの座す席の正面に一つの球体状の物体を顕現させ、其処に自らの手首に巻きつけた鍵を差し込む。

 

それこそがこの次元航行艦クラウディアにおける最大火力、アルカンシェルを使うに当る最後の認証キーであり、それを封印するFLS、ファイアリングロックシステムある。

 

「5,4,3……」

「アルカンシェル、発射!!」

カチッという鍵を回す小さな音。そんな小さな音を合図に、モニターの中に浮かび上がる光。緑、赤、白、黄色、紫……。瞬間毎に色を変えるその光は、美しくもあり、同時にその光の意味をしる人々の心に冷たいものを感じさせて。

 

そうして数十秒。漸く収まった光を確認して、誰もが再びモニターへと視線を向ける。

 

「……オペレーター、報告!」

「はっ、アルカンシェル、全弾命中を確認しました」

「空間安定――聖王のゆりかご、消滅を確認しました!」

「……っ、ギーオス変異体、現存!!」

「なにっ?!」

 

聖王のゆりかご消滅の報告を受け、既に戦勝ムードへと転じかけていたクラウディア艦内。けれども最後のオペレーターの報告に、再びその空気が硬くなっていく。

 

「馬鹿な、アルカンシェルを凌いだというのかっ!?」

「――映像、出ます!」

 

オペレーターの一人の言葉と共に、正面スクリーンに投影されるソレ。ゆりかごの残骸と思しきデブリの中、それに紛れつつも尚圧倒的な存在感を放つソレ。

 

「……っ、虹色の、翼……?」

 

瞬間、世界が震えた。真空の音無き世界に響く咆哮。魔素を伝播し伝わるその叫びは、その場に居合わせたすべての管理局員の耳へと届き、瞬間その全ての背筋を凍て付かせた。

 

「っ、拙い、全艦、防御体制!!」

 

咄嗟にクロノが叫ぶ。モニターの中では、その触手の先端に光を溜めるギーオス変異体の姿が映し出されていて。

次いで響く衝撃。

 

「何事だっ!!」

「っ、アエミリア、轟沈しましたっ!!」

「なんだとっ?!」

 

オペレーターの悲鳴のような叫びに怒鳴り返すクロノ。ピックアップされたモニターには、クラウディアに並び戦列を築いていたXV級次元航行艦、アエミリアが爆発する様子が映し出されていた。

 

「くっ、救護班、即座にアエミリアの生存者を探せ! 手の空いている物はその援護、解析班、何があったのか報告しろっ!!」

「魔力共振メスです! ディストーションバリアの出力を超えた魔力共振メスがアエミリア主機を貫通、誘爆した模様!!」

「生物でありながら、VX級のディストーションバリアを上回る出力だと……っ、化け物め!!」

 

憤り机を殴りつけるクロノ。だがそうしている間にも再び放たれる魔力共振メス。ギーオスのソレと違い、多数ある触手から放たれるそれは時限航行艦隊のディストーションバリアをまるで紙の如く容易く貫き、XV級の装甲を熱したナイフに削られるバターの如く容易く引き裂いていった。

 

「リウィア大破!!」

「艦長、撤退を!!」

「出来るかっ!! 此処で引けば、後ろにはクラナガンがあるんだぞっ?!」

 

ギーオスの最大の餌は、魔力を持つ生物だ。あの生物がギーオスの係累であると予想されている現在、であれば間違いなくあれも魔力を持った生物を食うのであろうと予測される。

 

そしてこの場の近隣で最も魔力を持つ生物と言えば、間違いなく魔導師であり、ミッドチルダの人類である事は間違いない。

 

「く、アルカンシェル、第二派装填準備!」

「装填開始します!」

「――ダメです、主機出力上がりません! アルカンシェル起動出力値が得られません!!」

「ぐっ ……万事休すか。オペレーター、各艦に退艦命令を出せ! こうなればクラウディアをアレにぶつける!」

「なっ!?」

 

オペレーターがギョッとした表情でクロノに向き直る。が、クロノはといえば既に覚悟を決めたような表情でモニターを睨みつけるばかりで。

 

「そんな無茶な!」

「無茶でもやるんだよ! 最早この戦場、我々管理局にアレを打倒する手段は他に残されていない」

「アルカンシェルをも耐え切ったバケモノですよ!?」

「だからと言って素直に引けるかっ。ユリア以外の艦の操縦権をクラウディアに。ユリアは退避した局員を収容後、本局へ撤退!」

「艦長はどうするんですかっ!?」

「此処からリモートで制御する。誰かがやらなければならないんだからな」

 

そう言って艦のコンソールを展開するクロノ。表示されるデータには、既に満身創痍の次元航行艦隊の姿が映し出されている。最早損害が無いのは最後列に待機していたユリアの一機のみという有様だった。

 

「なら、我々も残ります!」

「いや、君等も退艦しろ。こんな事に付き合う必要は無い」

「馬鹿言っちゃいけませんよ艦長。貴方に艦船の遠隔操作、しかも複数を同時になんて器用な真似出来るわきゃ無いでしょうが」

「そんな拙い手じゃ出来る事も出来ませんよ。成功確率を上げる為にも、我々が残るのは必須です」

「というわけで、艦長はいつもの通り、其処に堂々と座っててください」

「キミ達……すまない、有難う」

 

そうして、再びコンソールに指を走らせるオペレーターたち。ミッドチルダを守るため、覚悟を決めて無人艦の特攻準備を進めて。

 

「艦長、各艦の遠隔操作準備、整いました!」

「よし、それでは、これより艦隊を特攻させ……何事だっ!!」

 

不意に艦橋が赤く染まり、非常事態を知らせる警報が鳴り響く。即座にオペレーターが状況を確認すると、ギーオス変異体を観測していた物とはまた違った種類の観測装置が、ギーオス変異体から少し離れた場所で異常を感知していた。

 

「これは……次元震反応?!」

「次元震だとっ!?」

「いえ……それに似た反応ではあるみたいですが……これは……」

「反応座標、拡大してメインスクリーンに投影します!」

 

ピッ、という音と共に表示されるくらい星空。その中の一点に、白い光が顕現していた。

 

「あれは……魔法陣?」

 

誰かが呟くと同時、浮かび上がる白い光が爆発した。

誰もが咄嗟に目を覆い、収まった光を確認し、再びそこを見て、絶句した。

 

「なにが……あれは、何だ?」

 

そうして、クラウディアのメインスクリーンに映し出された、仁王立ちする巨大な人型。

緑色に輝く光の鬣のような物を真空の宇宙で棚引かせ、額に当る部分から突き出す一本角が目立つ、黒と紺色、さらに金色に輝く光を走らせたその巨人。

 

「あれは何だ!!」

「魔力反応ゼロ!! 然し類似した何等かのエネルギーを検知!!」

「同時にアレの周囲に整理された空間の歪みを検出!! ディストーションバリアに近い物と推測されますが詳細は不明!!」

「魔力光っぽいのは見えてるのに、魔力反応が無いって……」

 

その背に接続されているのであろう巨大な翼。そこからあふれ出す白い光は、それ自体が推力となっているかのように、その巨体をミッドチルダの重力から常に距離を取らせていて。

 

巨人のその右手。其処に握られているのは、二又に分かれた槍のようなもの。それ自体かなりのサイズを誇るであろうソレを、巨人はギーオス変異体に向ける。

 

「……まさか、戦うと言うのか?」

誰かがそう呟く。

視線の先、巨大な人型とギーオス変異体は、互いに互いを敵だと認識したのだろう。

 

―――――――――――!!!!

 

互いに互いを向き合って、白と虹の輝きが、星の海で激しく輝きをぶつけ合ったのだった。

 

 

 




■デモンベイン・ストレイド
またやっちゃった。

■正確には半人半プログラムの、対ギーオス戦及び人類最終絶対防衛機構・生体型守護プログラム・汎用人型決戦兵器G計画発プロジェクト『M.e.r.a』完成固体
長い名乗り。アルハザード表記を無理矢理和訳した後に更に英訳したものをミッド語に変換したらこうなった、という感じで一つ。
G計画があるなら、どこかにアレも存在するのかも。
アルハザードにおける対ギーオス戦略には幾つかの戦略構想が存在し、
・強化人型兵(クローン兵・戦闘機人・遺伝子強化兵・人型プログラム)の運用
・魔力運用を廃絶した質量兵器の運用
・過去に提唱され、しかしその危険性や魔力に比べた場合の効率から否定されていたオカルト寄りのエネルギー『マナ』の運用。
の三つの軸があり、メラ本人はれらを束ね合わせた最終フェーズに生産された数少ない成功個体。
但し“目覚め”は間に合わず、本人は時のゆりかごに託された。

■チート少女キャロ
本編中に言及される通り、マナ式魔術の教導は凄まじく難易度が高い。
想像して欲しい。ムキムキマッチョの男女軍人に、笑顔で教導を行なう幼女の姿を。

■お前まさか知らないのか!? デモベを!?
鳳凰院さんはエロゲ・燃え・渋めのアニメ派。
御剣くんは萌え・コメディーのアニメ派

■「キミ達……すまない、有難う」
OVAのHELLSING見た影響だと思う。
後にエイミィにより大幅に装飾されたクロノ武勇伝がカレルとリエラに語られたとか。

■アエミリア、ユリア
オリジナルのXV級次元航行艦。本当は車の名前にしようかとも思ったんだけど、クラウディアの名称の元ネタがラテン語の氏族名だったというところから。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。