オーバーロード ー 死の女王 ー   作:溶き卵

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遅くなりました


異世界の空

「ムササビ、少し外に出るか」

 

 上位道具創造で造り出したフリューテッドアーマーを身に纏いおれは義妹に提案した。

 彼女は“なんで?”という表情で首を傾げているのに対して気分転換だと告げる。

 大分気が楽になったとはいえ、上位者であるのは結構、精神的にくるからだ。

 というのは建前で、本音は義妹の気を紛らわすためだ。

 俺は現実の世界に未練などない。友も彼女もいない。起きては社畜のように働く毎日。楽しみだったユグドラシルもサービスが終了して生き甲斐がなくなったのだ。

 もし、義妹が現実にいたなら一人残してきてしまったという未練が残ったことだろう。

 けど、沙織ことムササビはアバターモモンガの妹として共にいる。良かった。これで現実に未練なくこの世界での活動に専念できる。そう思ってた。

 けどその認識は彼女の一言によって塗り替えられた。

 

 

 

 私なんてもう子供産めないんだから

 

 

 

 思わず心臓が止まったように錯覚してしまった。

 俺に、俺自身には現実への未練などない。けど沙織には友達もいたかもしれないし。まだ見ぬ運命の相手だっていたかもしれない。

 リアルの義妹は無愛想だが見てくれは兄の贔屓目を抜いても美人の部類だ。結婚していった七姉妹の姉たちに続き、彼女も時間の問題だっただろう。そして義理の兄である俺とは違い唯一、血の繋がった子供を宿したかもしれないのだ。

 なのに俺と同様、ギルドと共にこの世界に渡り、俺と同じアンデットになってしまった。

 彼女は気にしていないと言ったが俺にはそうとは思えなかった。

 

 結婚し、子供を産んで幸せな家庭を築くのは女性の夢のひとつと聞く。彼女はNPCを娘として愛しているが娘達は彼女がお腹を痛めて産んだ子ではない。自分では気づいてないようだが、俺の目には彼女の表情に僅かに影が差したように見えたのだ。

 

 俺が義妹として迎えてから何年経っただろうか。

 最初は寂しさを紛らわせる為にだったが今では当たり前の言葉が当てはまる家族のように思っている。

 そんな妹に、今までダメ兄貴だった俺を支えてくれた彼女になにかしてやれることはないか?

 それを考える為に、夜風にあたりたくなったのだ。

 

「私達はこれから少し出てくる」

 

「近衛の準備は既に終わっております」

 

 ナーベラルの返答にため息をつきそうになるのを耐える。

 義妹の言葉により供を引き連れて歩く行為の重みが大分減ったが考え事をしたいときはできたら一人にしてほしい。

 義妹の言葉を借りるならナザリックに残る最後の父親である俺の身になにかあってほしくないのだろう。その気持ちは嬉しい。

 

「すまないな。ナーベラル私の身を案じてくれるのは嬉しいが。今は妹と二人にしてくれ」

 

「そ、それはお待ちください。お二人だけではなにかあった時に私達が盾となってし・・・御守りすることができません」

 

 こいつ危うく死ぬなんて言いそうになったな。

 妹は気付いてないが俺は気付いたので小さく苦笑するだけに留める。

 

「問題ない。私達兄妹を相手に圧倒できる相手はユグドラシルでもそうはいなかった。お前の父親である二式炎雷さんでさえ手を焼いた程だ」

 

「二式炎雷様が・・・」

 

「頼りない親だが少しは信用してくれ」

 

「畏まりました」

 

 頭を撫でてやれば擽ったそうに目を細め、うっすらと頬を赤くした彼女は素直に引き下がってくれた。

 

「ではナーベラル。掃除ご苦労。次は妾と茶でもしよう」

 

 ナーベラルに労いの言葉を掛ける妹。目が何やら俺を睨んでいたが理由が分からなかったので触れないでおいて俺たちはドレスルームを後にした。

 

 

 まぁ、この場合は大概俺が悪いらしいが・・・解せぬ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 義兄さんの指輪。リング・オブ・アインズ・ウールゴウンの力で転移した場所は大きな広間だった。

 左右には細長い石の台が幾つも置かれ、床は磨かれたような白亜の石。私達の後ろには下り階段がありその先には大きな両開きの扉。

 義兄さんによるとここはナザリック地下大墳墓地表部中央霊廟。 指輪の力で転移できる最も地表に近い場所だそうだ。

 その言葉の通り、壁に作られた松明台には明かりが灯っておらず、そこが地表だというのは正面入口から入ってくる青白い月光から判断できた。

 現在義兄はフリューテッドアーマー。私は顔ローブを身に纏い、鍔の広いとんがり帽子を被っている。正に魔女のコスプレ。

 

 しかし、歩けばすぐ外なのに義兄さんは足を動かさないでいた。

 視線を辿ればそこには幾多の影。

 そのうちの一人は正に悪魔な顔つきで、牙を生やし、鱗に覆われた体を持っているモンスター。

 もう一人はちょっとエロいファッションの女性の体とカラスの頭のモンスター。

 そして、前の大きく開いた鎧を着込んだ腹筋主張の激しい角がなければモンスターに見えないモンスター。

 

 彼等はそれぞれ、憤怒の魔将、嫉妬の魔将、強欲の魔将。義兄さん曰く、第七階層守護者の親衛隊だそうだ。

 更にその親衛隊の中には我が娘、キャサリンとエリザの姿もあった。

 多分、私が万魔殿に帰るまでここで守りを固めていたのだろう。

 彼等の目が一斉に動いて私達に集まる。

 服装が服装だから不審者だと思われてるのだろうか?

 

「おかあさんとおじさまどうしたんだろ?」

 

「きっとアレだよ。お忍びで現状視察」

 

 あ、バレてた。

 どうやら変装は意味がなかったようで彼女達にはバレバレだったらしい。

 

『仕方ないね。行こう義兄さん』

 

『だな』

 

 義兄さんに《伝言・メッセージ》を送って歩きだす。

 親衛隊はその場でじっとしているが娘二人は私達の元に駆け寄ってくる。

 

「はじめましてモモンガおじさま。地獄の万魔殿第三階層守護者、エリザです」

 

「守護者統括、キャサリンで~す。お会いしたかったですモモンガ伯父様!」

 

「あぁ、よろしく。親に似て可愛い子達じゃないか」

 

「当然です。妾達の愛娘ですから」

 

 娘に挟まれて義兄さんは骸骨がカラカラ言ってどこか嬉しそうだ。私も娘が誉められて嬉しかったりする。

 

「これはこれは」

 

 アットホーム状態な私達に歩み寄る一つの影。

 スーツに身を包んだ悪魔は私達の前で片膝を着くと頭を下げた。

 

「ムササビ様におかれましてはお初にお目にかかります。第七階層守護者、デミウルゴスと申します」

 

 親衛隊の長であるデミウルゴス。

 義兄さんによるとナザリックの軍事面を任せられた知将とのこと。

 

「お二方が近衛もお連れにならずここにいらっしゃるとは、一体何事でしょうか?それにそのお召し物」

 

「少々事情があってな。私達がが何故このような格好をしているかか。それはデミウルゴスであれば分かるはず」

 

 いや、わかんないから。

 ほら、デミウルゴスってば必死に頭を捻ってる。多分深く考え過ぎてるんだろうね。

 あぁ、キャサリンも無理して考えなくてもいいのよ?貴女が言ってた予想でほぼ合ってるから。エリザは妹が頭いいからってそっちに丸投げしないで少しは考えようね?

 

「大変申し訳ありません。私ではモモンガさまの深遠なる思慮ーーー」

 

「ダークウォリアーと呼べ」

 

「ダークウォリアー様ですか・・・」

 

『ダークウォリアーって・・・ぷっ』

 

『いいだろ!お忍びなんだから!ほらお前もなにか名乗れよ』

 

「・・・妾はダークウィッチで」

 

『お前も大差無いだろうが!?』

 

 なにか言ってますが無視。

 ダークウォリアーってなに?と思もうがようするにこんな知人の往来する場所でモモンガの名前を呼ばれたくないだけだ。

 いいじゃんダークウィッチ。

 そんな私達を他所にデミウルゴスは分かったと言わんばかりに頷いた。

 

「なるほど。そういうことですか」

 

 え、なにが?

 

 多分私と義兄さんは同時にそう思ったにちがいない。

 ナザリックが誇る頭脳は一体どんな結論に達したのか怖いもの知りたさで聞いてみたいところだ。

 

「おっ、デミグラスはわかったの?」

 

「デミウルゴスです。も・・・ダークウォリア-様の深遠たるご意向の一端は把握できました。正にこの地の支配者たるお方に相応しいご配慮」

 

 だからなにが?

 

「おー、伯父様の考えに追い付くなんて流石デミグラス」

 

「デミウルゴスです。・・・ですが、やはり供を連れずにとなりますと私は見過ごす訳にはいきません」

 

「でも、おじさまとおかあさんが揃ってる状態でわたしたちがついていったら足手まといだと思うな」

 

「そうかもしれませんが盾になることぐらいは!」

 

「ママが死を妥協するなってお願いしてたのに?」

 

「も、モモンガ様!!」

 

「あー、わかった。お前が供をせよ」

 

 うちの娘たちに封殺されて主人に泣きつく知将。

 既にダークウォリアーではなくモモンガに戻ってるし。

 義兄さんも哀れに思ったのか、なげやりにデミウルゴスの供を認めた。

 あと、キャサリン?デミグラスソースが食べたいの?

 

「この哀れな者に寛大なる御慈悲、感謝します、ダークウォリアー様」

 

「もう、遅いよデミウルゴス」

 

「デミグラス・・合ってるな。ではお前達はここで待機し、私がどこに行ったか説明しておけ」

 

「空はピューレお姉ちゃんの航空部隊がここから半径一キロの所を周回しながら警戒してるからなにかあればママに連絡が行くよ」

 

「おかあさん、おじさま。いってらっしゃい」

 

 

 手をフリフリと振るエリザに同じくフリフリと振り返し、私は義兄さんについて歩きだす。

 その後ろをデミウルゴスが付き従った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 表層へ繋がる第一階層の扉を開いて階段を登る。

 目的地は中央霊廟、第七階層守護者であるデミウルゴスが待つ場所だ。

 私の姿を見た途端に二人の少女以外は一斉に跪く。

 私からすれば当たり前の光景なのだが、その二人が加わっていると少しばかり新鮮に感じた。

 

「さっきぶりあるべど」

 

「わざわざ警戒ありがとうエリザ、キャサリン。ところでデミウルゴスはどこかしら?」

 

 周囲を見渡して目的の人物を発見できなかった私はムササビ様のご息女達を労いつつ彼の所在を問う。

 

「さっきダークウォリアー様とダークウィッチ様が来てそのお供に着いてったよ」

 

「・・・・?」

 

 ダークウォリアー?ウィッチ?聞いたことのないシモベね。それにデミウルゴスがお供に着いてった?守護者が?

 

「ぶっちゃけ、おじさまとおかあさんが来てたぶん現状視察?にでたからついていったの」

 

「も、モモンガ様とムササビ様がこちらに!?」

 

「近衛はここに来るという連絡は受けていたの!?このままお会いしては失礼ね!直ぐに湯浴みのーーー」

 

 ここで私は思考する。

 ムササビ様のご息女達に私が彼女達の伯父であるモモンガ様を愛していると知られた後の影響を。

 

 狂的なまでの好意を見せる。

 娘達が嫌悪感を抱き障害となる。

 

 それとなくな好意を示す。

 娘達の好感度が上昇(少)し、かつ、将来的には障害どころか味方になってくれる。

 

「なんていってる場合ではないわね。それよりも貴女達は御母様に着いていかなくてよかったの?なんならここは私が代わるけど?」

 

 そう計算した私はすぐさま話題をずらす。

 ついでに大好きな御母様の元にいけるようにそれとなく提案する。

 しかし、二人の口から出たのは遠慮の声だった。

 

「ありがとう。けどわたし達はだいじょうぶ」

 

「ママも久しぶりに伯父様と会えて嬉しそうだし」

 

 ここで私はある疑問が浮かんだ。

 この二人は自分の親についてどう思ってるのだろう?

 

「ねぇ、二人は自分の創造主についてどうおもってるの?」

 

「?・・・大好きだよ?」

 

「うん」

 

 ここまでは予想通りの応え。次はギリギリの所を攻めてみる。

 

「もし、もしよ?貴女達の御母様が貴女達を見捨てて御隠れになってしまったら?」

 

 さあ、どうでる?

 

「それ、もしかして至高の方々のおはなし?」

 

 エリザの深紅の瞳が私を射た。

 思わず思考が停止する。

 

「あるべど。おじさまからお話し聞いてないの?」

 

 語られたのは衝撃的な真実だった。

 ユグドラシルの消滅の危機。それに立ち向かう至高の方々と地獄の七姉妹。理由を述べずに姿を消したのは無理矢理でも着いて行こうとする私達をここに残す為だ。

 キャサリンによればモモンガ様が訳を話さなかったのは私達を出来るだけ悲しませたくなかったのだろうと言う。

 

 それを聞いた私達は全員涙を流していた。

 悲しさからではない。嬉しさからだ。

 至高の方々は私達を見捨てていない。むしろ大事にしてくれていた。

 

 

 

 有らぬ恨みを向けて申し訳ありません。タブラ・スマラグティナ様・・・いえ、お父様。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。みっともない所を見せたわね。それとありがとう。嬉しい話が聞けたわ」

 

 暫くして泣き止んだ私は僅かに目をなき張らしながら二人に礼を言う。

 

「わたし達の事はきにしないで」

 

「皆に教えてあげるのもいいけど伯父様に詰め寄るのだけはやめてね?ママが小さく愚痴ってたけどギルド統括ってホント大変なお仕事みたいだから」

 

「分かったわ。私の方から皆に厳命しておくから心配しないで。お前達も分かったな?」

 

 デミウルゴスの親衛隊にも厳命し、私は晴れやかな気分で霊廟から見える夜空を見上げる。

 そこに見えるのは切り抜かれた夜空。まるで宝石箱のようなそれを少しの間だけ見つめ私は己の主、愛する人に向けて翼をはためかせる。

 

「それじゃ、私はモモンガ様に現状の報告に行くわね?」

 

「「いってらっしゃい」」

 

 

 二人とシモベ達の見送りを受けて私は夜空へと飛翔した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「・・・・凄い」

 

 外へ出た私の第一声はこれだった。

 空に広がるのはまるで宝石箱をひっくり返したかのような夜空だった。現実でもお目にかかることのなかったこの光景に私はただただ感動していた。

 なんでこの世界に来たときにこの空に気付かなかったのだろう。それほど切羽つまっていたのだろうか。

 

「あははっ」

 

 ローブを脱ぎ去り、白骨と化した翼に力を込める。翼から薄紫色の翼膜が広がり、それで空気を掴んで私は空へと飛び上がった。

 背後では義兄さんが鎧姿のまま飛んでいる。恐らく何かのアイテムのスキルだろう。

 そんなことよりも私は高度をぐんぐんと上げてナザリックや万魔殿のある森を一望できる高さまで上がった。

 気持ちいい。

 空を飛ぶのが気持ちよかった。それにこの素晴らしい星空を堪能できるなんて夢みたいだ。

 追い付いた義兄さんに笑顔を向ける。

 

「凄いですね兄様!!」

 

「あぁ、ホントに凄いな・・・」

 

 ゆっくりと星空を眺める私達の耳にばさりと羽音が飛び込む。

 視線をずらせば見覚えのあるスーツを着た異形がいた。

 おそらくこれがデミウルゴスの半悪魔形体なんだろう。

 

「星と月明かりだけでものが見えるなんてほんとに現実の世界とはおもえない・・・」

 

「そうなのかもしれません。この世界が美しいのはダークウィッチ様の身を飾る為に違いないかと」

 

「ほう、気の効いた世辞だな。兄様、現在妾は口説かれてますよ」

 

「デミウルゴス後で話がある・・・という冗談はおいといてだ」

 

 くだらない冗談はさておき。

 

「姉様達にも見せたいです」

 

「そうだな。私達だけで独占するべきものではないな」

 

 私達は同じことを考えているだろう。

 他のギルドメンバーにこの空を見せてあげたい。共に感動を分かち合いたいと。

 

「それは魅力的なお言葉。お望みであればナザリック全軍をもってこの宝石箱を敬愛するお二方にそれらを捧げさせていたたければ、このデミウルゴス、これに勝る喜びはございません」

 

そんな芝居がかったセリフに私達は思わず苦笑する。

 

「ムササビ、お前はこの宝石箱が欲しいか?」

 

「欲しいと言ったら兄様はくださるのですか?」

 

「この世界にどのような存在がいるかも不明な段階で、この発言は愚かなんだがな・・・。そうだな、まずは世界征服を成さないとな」

 

 はい。現在私達はデミウルゴスのせいで厨二病発症しています。

 子供向けテレビの悪役のセリフを口走った義兄さんはやらかしたと《伝言・メッセージ》で笑いながら嘆いている。

 そんな時、私はある光景が目に入った。

 範囲にして約束、100メートルを越える大地がまるで海原のようにうねりだした。平原から産み出された隆起はゆっくりとナザリックに向けて進む。

 

「《大地の大波》スキルで範囲拡大しているな。流石はマーレ。ん?あれはムササビの娘か」

 

「あの子はリィリィ。がんばるヤンデレ姉様の娘です」

 

「ほう、あの爆撃精霊の娘か。なかなかやるな」

 

「その名前。言わないであげてください。多分泣きます」

 

あの子はお母さんの綺麗な部分しか知らないはずだからユグドラシルでの悪行を聞いたら本気で泣くと思う。

 それよりも私はナザリックの隠蔽工作をしている二人に陣中見舞いに行こうと義兄さんに告げて返事を待たずに二人の元へと降下していった

 




 来週から定時が水曜だけ。
 肉体労働職だからキツイです。


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