突然ですが赤ん坊をどう思いますか?
可愛い、愛くるしい、愛しい。産みの親である女性たちは皆そう感じることでしょう。
小さな目をキョロキョロと動かして母親を見つけ。
小さな口で笑みをつくり。
小さな手を握ったり開いたりして。
身体全てを使って感情を表現する。
そんな赤ん坊達はまさに天使。
私はそう思います。
さて、なぜこんな事を冒頭で話しているのかというと
「・・・・・・」
「・・・・・・」
目の前にその赤ん坊がいるからである。
七姉妹が四女、昼の幼女が産んだ末娘、ギルド“地獄の七姉妹”最強の切り札であるセブンスチャイルドの一人。名前はルェフ。垂れ下がったロバの耳が特長的な悪魔の女の子なのですが。
「ルェフ。あなた生きてる?」
白目を向いて、だらんと口は半開きで涎がたれており、両手、両足は適当に投げ出した状態。
正直死体にしか見えない。
いや、これはこれで可愛いのだけど赤ん坊というのはもっとこう生命に充ち満ちているモノだと思う。
「・・・一応、生きてるわよね?」
ぐでんとしている娘の右手を軽く持ち上げては落とし、軽く持ち上げては落とすを繰り返して反応があるかどうかを確認するも全く反応はなし。オシメ授業の時はあまりに静で寝ているものとばかり思っていたけどどうやらこれがデフォルトのようだ。
「赤ん坊に言っても仕方ないけど女の子なんだからもう少しかわいらしく・・・ねぇ」
なんとか反応させようと
「コショコショ~」
足の裏側を擽ってみるも。
「高い高い~」
勢いよく抱き上げてみるも。
「からのイナバウアー」
全く反応がない。
娘は女の子独特の柔軟性と赤ん坊特有の柔らかさでこれでもかって程に仰け反っている。
身を捩ったり、呻き声もださない。
流石にこのままじゃ可哀想なのでちゃんと抱き直してあげる。
しかし、母親としては少し寂しかったり。
実母である昼の幼女さんならお腹の上に抱いて一緒にお昼寝したりするのだろうけど私はアンデットなので全く眠くないし、それ以前に必要に迫られない限り長時間無心でいるということができない質なのだ。
「ルェフ~。何か反応してほしいなぁ~。ママ、寂しいなぁ~」
娘に頬ずりしながら甘えた声で哀願する。
せっかく戯れようと連れて来たのにこれでは寂しい。
ちょっとでいいから何らかのリアクションをーーー。
「まぁ、ま・・・」
チュッ
小さく可愛らしい声の後、頬に柔らかい感触を感じた。
少し呆然とした後にルェフを見てみれば白目だった目にくりっとした瞳があり、だらけた表情は小さく笑顔を作っていた。多少疲れてるような笑顔だけど、それはまごうことなき笑顔。
娘は私と目が合うと再び
「まぁ、まぁ・・・」
チュッ。
と私をよんでキスしてくれた。
今度は頬ではなく、唇にだ。
下降気味だったテンションが一気に跳ね上がる。
きっと私の頭上から天の光が降り注いでいることだろう。
暗かった表情がパアアァッと明るくなり。
キスをしてくれた娘を抱き締めて頬ずりする。
「ありがとうルェフ~。ママ嬉しいよ~。ルェフ~。ルェフ~」
ありがとうルェフ!これでママはあと666年頑張れます!
「まぁー!」
そんなデレデレな私にとてとてと必死に駆け寄ってくる小さな影。ソファーに座る私の脚にしがみつき私を呼ぶ赤ん坊。
「アルーシャ。別にアルーシャをほったらかしにしてるつもりはないのよ?ほら、いらっしゃい」
空いている右手で抱き上げるのは私が産んだ末の娘。
名前はアルーシャ。ルェフと同じセブンスチャイルドでちょこっと飛び出した二本の角が可愛らしい竜人の女の子だ。
どうやら私がルェフに構いっぱなしなのがお気に召さないようで抱き上げだそばから私にキスをしてくる。もちろん唇に。
それに対抗してなのかルェフも先程までなかったやる気をだして私にキスしてくる。
「あぁ、しあわせ」
とろんとふやけた私は娘達の成すがままに受け入れる。
ご近所さんがいるならこの子達を自慢したい。
私の娘達を自慢したい。
いつの間にか娘同士でチュッチュッしている二人を見て更に和む私。
あら、そういえばアルーシャを相手してたもみじはどうしたのかしら?
娘二人がキャハハ、ウフフ、している隙に首を動かしてもみじを探す。ちなみに彼女は直ぐに見つかった。
「・・・・・・」
彼女は部屋に置かれているもう一つのソファーに腰掛けながら固まっていた。
自分の尻尾の先を右手にもったままでだ。
彼女、インフェルノナーガはガラガラ蛇を素体としており、尻尾のガラガラを使ってアルーシャの相手をしていたのだろう。
しかし、アルーシャは私の所に来てしまった。
突然妹に見放されたショックで固まってしまったようだ。
「あー、もみじ?」
「アルーシャ。姉は悲しいです。頑張って遊んであげてたのに姉を見放すなんて」
ぬるぬると床を這って、文字通り蛇の如く近づいてくる我が長女。だーっと滝の涙を漫画のように流している娘に私は内心苦笑しながらいまだに百合百合している二人に呼び掛けることにした。
「アルーシャ。ルェフ。姉様が寂しがってるわよ?ほら、慰めてあげなさいな」
「ねぇ・・・」
「ネェー!」
私の手の中から姉の腕の中に渡った二人はこれでもかってぐらいに姉の顔にキスの雨を降らせる。
先程の私と同様しょんぼりしていたもみじは途端にパアアァッと表情を明るくさせ、尻尾を大きく振りまくる。
うん。もみじは蛇じゃなくて犬だ。
「あ、アルーシャ。ど、どこ触って!ルェフも脱がそうとしないでください!あぁ、そんな顔しないで、姉様は二人を怒ってませんから!」
おおぅ、姉が赤ん坊二人におもちゃにされてるよ。
けど、もみじは嬉しそうなのでそのままにしておきましょう。
末娘二人はもみじのご立派なモノが気に入ったようです。
「それじゃ、私も混ぜてもらいましょうか」
私も混ざりたくなったのでもみじごと二人を抱き締める。
すかさずアルーシャがキスしてきて再びデレデレになった私だった。
「あー、お楽しみのところ申し訳ありません」
幸せな一時はある家令によって破られた。
私達四人の目が侵略者を睨み付ける。
侵略者ことセバスは私達から距離を開けて尚且つ背を向けた状態で私達に話し掛けていた。
「セバス様。私達家族の団欒を侵そうとはなかなか見上げた度胸ですね」
もみじは大きく振っていた尻尾を細かく震わせて威嚇を始めた。
セバスは冷や汗だらたらだ。どうやら先の一件により私に苦手意識をもっているようだ。
まぁいい。アルーシャとルェフにおもちゃにされていたもみじを見ていないだけでも救いはある。
私は睨み付けるもみじを制して彼に話し掛けた。
「どうしたセバス。なにか用があって話し掛けたのだろう?」
「ハイ。ベル様をなんとかしていただきたく」
そういえばベルがいない。
私は万魔殿からもみじ、アルーシャ、ルェフ、ベルの四人を連れてきたのだ。
姿が見えない娘に対して途端に不安になってきた私は首を動かして必死に娘を探す。
「ベルはどこだ?」
「あちらでございます」
セバスが指差す方を向けば此方に背を向けて、椅子に座っている義兄さんがいた。
側には義兄さんの配下である一般メイドがいて、さらにその傍らにはフルーツの盛り合わせ、大盛りを乗せた台車。
メイドは一定の感覚でブドウと思わしき果物を一粒、また一粒と義兄のお腹の辺りに差し出していた。その表情はとろんとふやけており、頬に片手を添えてうっとりとしていた。
「兄様。ベルはそちらに?」
「あぁ、私の膝の上でかれこれ30分程食事中だ」
もみじ達から離れて義兄さんに歩み寄る。
背中から覗き込めばそこには膝の上でもぐもぐと美味しそうにブドウを頬張っている赤ん坊。
セブンスチャイルドの一人、オーオバーさんの末娘。背中に生えた小さい団扇みたいな羽が特徴の悪魔族の女の子。
「作業中に申し訳ありません」
「気にする事はない。ベルは大人しくていい子だ」
義兄さんが頭を撫でれば気持ち良さそうな声をあげて身を委ねる。それを見てメイドも私もだらしなく顔を歪める。
「それにベルは私の作業に興味があるようだぞ?」
「そうなの?」
よくよく観察してみればベルは義兄さんと同じ動きをしていた。
義兄さんは今《遠隔視の鏡》にてナザリック周辺の探索を行っていた。
右手をベルの頭に乗せながら左手で空中に円を描いたり、細かく振ってみたりしながらいろいろ試行錯誤をしており、それを真似して左手で空中に円を描き、細かく振ったりしている。
所々真似できてないのが更に可愛さを増していた。
「あの、申し訳ありません伯父様。アルーシャとルェフが伯父様の膝に乗りたがってまして」
おずおずと寄ってきたもみじ。顔はどこか困ったような表情で、苦笑いを浮かべている。
腕の中にいる二人を見てみるとアルーシャはベルの方に両手を伸ばしじたばたしており、ルェフものんびりとしているものの同じくベルに向けて片手を伸ばしていた。
「構わないぞ。ほら、いらっしゃい」
私も流石に邪魔になるかな?と思っていたが義兄さんは快く二人を向かえ入れてくれた。
ついにナザリックの支配者の上に三人の姉妹が揃った。
義兄さんが左手を左に動かせば三人は左手を左に動かす。
義兄さんが右に動かせば三人も右に動かす。
そして円を描けば三人も円を描いた。
「「「はぅ!!」」」
メイド、もみじ、私の三人は顔を赤くして頬に手を当てた。
なんだ、この可愛らしい生き物は。
シンクロしているようでできてない。原因は主にルェフだが、ワンテンポ遅れて動くその動作がまた可愛い。
さっきから沈静化のスキルが発動しぱなっしだが全く意味がなく。常に私はメロメロ状態なのだった。
「ふむ、慣れぬモノだと上手くいかぬモノだな」
少し経って義兄さんは小さく唸り声を上げた。
見た感じ、知的生物や人間を見つけられていないのと思った通りの視点の動きが出来てないからだろう。
義兄さんの作業が難航しているのを感じてか膝の上の三人は大人しく成り行きを見守っている。まぁ、ベルは未だに果物を食べているのだけど。
大した時間ではないものの結果が伴わないのは義兄さんとしては無駄に経過したように感じられるのだろう。
骸骨が虚ろなまま適当に手を動かしていると
「お?」
急に鏡に写る光景が大きく切り替わった。
「「やー!」」
「やー・・・」
「おめでとうございます伯父様」
目的の動作を義兄さんが掴んだのを悟って娘達は賛辞を送る。
膝の上の三人に至っては拍手のオマケ付き。
それに対して義兄は照れ臭そうに膝の上の姪達の頭を撫でてやると。本腰を入れての探索に着手した。
やがて、鏡に写るどこかの村らしき光景。
ナザリック地下大墳墓から南西に10キロ、万魔殿からおよそ17キロの村。近くには森があり、村の周囲には麦畑。牧歌的という言葉が似合うその村は・・・。
「祭りか?」
「いえ、これは違います」
騎士達が蹂躙する殺戮の舞台となっていた。
今回まともに登場しましたセブンスチャイルドについてちょこっとだけ。
アルーシャ
竜人の赤ん坊。
母と同じ黒髪からちょこっとだけ覗く竜の角が可愛らしい女の子。七姉妹七女、ムササビが最後に創造した娘。
ルェフ
悪魔種の赤ん坊。
若草色の髪とロバの耳が特徴の女の子。
七姉妹四女、昼の幼女が最後に創造した娘。
基本的に無気力で大好きな人相手じゃないと滅多に動かない。
ベル
悪魔種の赤ん坊。
金髪と背中に生えた小さい団扇みたいな羽が特徴の女の子。
七姉妹長女、オーオバーが最後に創造した娘。
信じられないぐらいの大食間。底無しの食欲の持ち主。
セブンスチャイルド
ギルド、地獄の七姉妹が最後に創造したギルド最強の切り札。
ユグドラシル時代では日の目を見ることなくサービス終了を向かえた存在。
設定では次期七姉妹とされており、姉達から大事にされている。