今回は私の作品で一番原作から離れた話になると思います。
ささやかなツッコミはできるだけ抑えてくれると嬉しいです。
もみじさんに振る舞われた御菓子に舌鼓をうちつつムササビ様達の帰りを待つ私達。
振る舞われた御菓子は私達が見たこともない御菓子でまるで宝石のように輝いていた。
「おいしい!お姉ちゃん。これおいしいよ!」
「こ、こらネム!す、すみません。はしたない真似を」
「気にしなくてもいいですよ。ネムはこの御菓子が気に入りましたか?」
「はい!とってもおいしいです!」
ネムが笑顔で返事をするともみじさんも笑顔で満足そうに頷いてくれた。
そして私にも御菓子を薦めてくれる。
おそるおそる手に取るのは宝石のように輝く色彩豊かな御菓子。 そのうちの一つ紅い御菓子を一粒口に入れる。
「・・・おいしい!」
それは甘く優しい味だった。
柔らかく、噛めば中から甘酸っぱい爽やかな味が口一杯に広がる。こんな御菓子食べたことがない。
やみつきになりそうなその味に頬が緩む。
「気に入ってくれたようでなによりです。一応念を押しておきますけど他の方には内緒ですよ。この御菓子は私のお気に入りなんです。私が隠し持っている事を知っているのは母様以外では誰もいません」
「そ、そんなものをいただいてもよろしかったのでしょうか?」
戸惑う私にもみじさんは笑顔を浮かべながら頭を撫でてくる。
「私が薦めたのですから貴女は遠慮なんてしなくていいんです」
それに・・・と続ける。
「二人には話しておかなければならない事があります」
私とネムの頭を撫でながらもみじさんは語り始めた。
「二人は気付いているかもしれませんが母様は人間ではありません。正確には死してなお意思を持つ屍、アンデット。それも死を統べる女王にして、妖艶の魔窟の主です。本来なら人間の里など見向きもしませんし、ましてや一個人を助けるなどありえません。」
ならば何故助けたか。
「私達はここに来る前に村が襲われる様子をある道具で見ていました。その時に母様は何かを見て貴女達のもとへ駆け出したのです。母様は何故貴女達のもとへと現れたのか?」
私はムササビ様に助けられた時の事を思い出す。
あの時のムササビ様の背中は小さいながらも力強く。
その微笑みは優しく。
触れてくる手をどこか暖かかく感じた。
そう、まるでお母さんのように。
「・・・おかあ、さん?」
「・・・そう、でしたか。エンリ、ネム。よく聞きなさい」
何かを、悟ったもみじさんはさっきまで笑顔だった表情を僅かに歪めた。その表情は今にも泣きそうな子供のようだった。
「おそらく二人のご両親はもうお亡くなりになってます」
そして告げられた現実。
「母様は貴女達のご両親。おそらく御母様に頼まれたのでしょう。娘達を、私の宝を御願いしますと」
「おかあさん。もういないの?」
ネムが目に涙を浮かべる。
もみじさんは彼女を優しく抱き締めた。
「ネム、貴女の御母様は貴女の為に戦ったのです。ですから泣かないでください。笑って御母様を安心させてあげてください」
腕の中でネムは下唇を噛み締めて必死に涙を堪えていた。
私も拳を握り締めて必死に耐える。
ここで泣いてはいけない。
泣いたらお母さんを泣かせてしまう。
強くて、いつもお父さんを尻に敷いていて、泣き虫だけど明るかったお母さん。
私達が泣いたらお母さんはいつも釣られて泣いていた。
それを知っている私達は必死に耐える。私達を守ってくれたお母さんを泣かせない為に。
「・・・待たせたな」
そこへ戻ってきたムササビ様。その表情はどこか不安そうな表情で私達になんと言葉を掛ければいいか迷っているようだった。
「・・・二人に話しておくことがーーー」
「おかあさん。泣いてた?」
ムササビの言葉をネムが遮った。
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ネムの言葉を聞いて私は目を見開いた。
「おかあさん、泣き虫だから。ネムが泣いたらおかあさんも泣いちゃうの」
下唇を噛み締めて必死に堪える少女を見て私の表情に自然と笑みが溢れた。
「だから我慢してるの?」
「おかあさんが泣いちゃうのいやだもん」
「私達を助けてくれた母を心配させたく、ないです」
あぁ、この子達は本当に強い。
娘の為に身を投げ出し戦った母。
妹の為に守り、立ち向かった姉。
姉を信じて頑張った妹。
本当にこの家族はそっくりだ。
「二人のお母さんは泣き虫だったの。なら私と一緒ね。私もけっこう泣き虫なのよ?」
だから分かる。
「きっと二人の顔を見たらきっと安心してくれる。だから一緒にお礼を言いにいきましょ?」
義兄さんが張った障壁を消して二人を連れて歩く。
もみじは流石に見られる訳にはいかないので別れた。
右手にエンリ。左手にネムを連れて二人を両親に会わせるべく向かう途中私は娘の一人に連絡を入れた。
『ピオーネ聞こえる?』
『これはこれは親愛なる御母様。いかがなされましたか?』
『一時間後によもぎと天宮を連れて私のいる場所まで来なさい。その時に私のドレスとストックしてある子供用のドレス。御菓子と料理もできるだけ持ってきて。あとこっちに来てるもみじとアルーシャも拾ってくるように。ルェフとベルもいるけど二人はピューレとエリザに連れて帰ってもらうから。私の場所は感知できるわね?』
『問題ございません。母様の居場所でしたら二十四時間、三六五日いつでもどこでも感知しております。ピューレ御姉様とエリザ御姉様方にもわたくしから連絡しておきますので親愛なる御母様はご安心を』
『安易なストーカー発言はやめなさい。全く、それじゃ頼んだわよ
『畏まりました。ところで親愛なる御母様』
『なに?』
『此度七姉妹末女、ムササビの一族が召集されるということはそう云うことでよろしかったでしょうか?』
『えぇ・・・』
新しい家族ができるわ。
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両親との別れを済ませた私達はムササビ様に手を引かれながら私の案内の下家へと歩く。
優しく手をつないでくれる彼女は死を統べる女王として亡くなった両親に祈り、賛辞と祝福をくださって、その手で埋葬を手伝ってくださった。
だから私達も両親の、母の前では泣くことなく、笑顔でありがとう。心配しないでゆっくり休んでねと言うことができた。
ムササビ様は人間ではなくアンデット。
娘であるもみじさんはそう言ってた。
魔法が使える事から魔法詠唱者としてもすごく偉大な方なのだろう。
モンスターとしてのアンデットは怖いけど、ムササビ様は怖くない。
兄様と言われてたモモンガ様は畏れ多く感じるけど、ムササビ様は親しく感じる。
まるでもう一人のお母さんのように。
同じ事を感じたのかネムもムササビ様の右手を両手で取って仔猫のようになついている。
今は、ムササビ様に甘えさせてもらおう。
明日からは二人で生きていくために。
「ここが私達の家です。ムササビ様をお迎えするには大分古ぼけた家ですが」
そして私達は家にたどり着いた。
私達の家は裏手に野菜を育てる畑と麦を育てる大きな畑を持つ二階建ての家だ
「いい家じゃない。これはお父様が?」
「いえ、母が建てたと聞いてます。父は一作業員だったそうです」
「・・・スゴいわね」
「けんかも村でいちばんだったの!」
「本当にスゴいわね」
私が騎士に叩き込んだ一撃も母がケンカをする際に使ってたのをせがんで教えてもらったのは私だけの秘密です。
本当に我が母親ながらアレで生まれも育ちもこの村だそうですから人は見掛けによらないとはこのことです。
「ささ、どうぞお上がりください。少々狭いですが」
「お邪魔するわね」
私はムササビ様を自宅にお迎えするのを楽しみにしていた。
そしてテーブルを囲みいろんなお話しをするのだ。
先行して玄関を開けた私は
「親愛なるもみじ御姉様!ちょっと尻尾を振るのを止めていただけませんか!?さっきからベシベシ背中に当たってるのですが!?」
「というか、もみじネェの長い身体が作業の邪魔」
「もぅ、よもぎったらもみじ姉さんに邪魔なんて言っては駄目よ。事実だけど余計に悦んじゃうから。ピオーネもあんまり罵倒はしないでね?悦んじゃうから」
「アルーシャ・・・妹達の姉に対する扱いをどう思いますか?え?通常運転?そうですか」
「ネェ、ジャマ~。キャハハ」
開けた扉を静かに閉めた。
アレ?ここ、私達の家だよね?なんか家のなかにアットホームな集団がいたんだけど?
というかなんかキラキラした飾り付けが部屋に散らばってたんですけど?
玄関先から家を見上げて自分の家かを確認する。うん、私達の家だ。産まれてからずっと住んでる我が家だ。
振り替えればムササビ様とネムが首を傾げていた。
私はなんでもないですよと愛想笑いを浮かべる。
さっきのは気のせいだ。きっと疲れていて変な幻覚を見たのだ。
仮にさっきの集団がいたとしてももみじさんとアルーシャちゃんもいたからきっとムササビ様の御息女様達だ。エモット家の家長としてムササビ様の御息女様達なら喜んで迎えなければ。お母さんだってきっとそうするはずだ。
何故自分の家に入るのに気合いを入れなければならないのか。
変な緊張感を持った私は意を決して玄関の扉を開いた。
「あ、お帰りなさいエンリ」
何事もなかったようにとぐろを巻いて尻尾を子犬のように振っているもみじさんがいた。
さっきまでいたと思っていたアルーシャちゃんも見知らぬ人達もおらず。キラキラした飾り付けらしきモノもなくなっており、見慣れた空間がそこにあった。
え?ナニコレ怖い?
「あ、あはは。もみじさんいらしてたんですね?ようこそいらっしゃいました。よくここが分かりましたね」
「エンリとネムの匂いが集中してましたのでおそらくここがご自宅なのかと。勝手に上がらせていただいた事については謝罪します」
「いえいえ、全然気になさらないでください。ささ、どうぞムササビ様」
「お邪魔するわねって、もみじも来てたのね?」
招き入れたムササビ様はもみじさんの姿を見てキョトンとした表情の後に首を傾げた。
「・・・貴女だけ?」
「ハイ、申し訳ありません。妹達ははもう少しだけ時間が掛かります」
尻尾を振りながら頭を下げるもみじさん。
私的にはさっきまで居たと思うのだけど気のせいだと結論付けてムササビ様に椅子を勧める。ネムにお相手を御願いしてその間にお茶の準備に取りかかる事にした。
商人からお母さんが値切りに値切って破格の値段で手に入れた苗を育てて収穫した茶葉から作る紅茶が私とお母さんの趣味だ。
いつもなら畑作業の後に収穫した茶葉でのお茶を楽しむのだが。今回は大事なお客さまだ良いものを振る舞おう。幸いお母さんが私に内緒で購入した質のいい茶葉があったはず。見つからないように隠していたが私ははっきりとその現場を目撃しているのだ。
場所は台所の床下にある人が入れる位の収納スペース。
床にある床板を剥がす金具を両手に取り、母秘蔵の茶葉を回収するために四角い床板を取り外した。
「「・・・・・・・」」
「・・・・・・・」
私は床板をソッと戻した。
これは不味い。今日は本当に疲れているようだ。
疲れてなければアルーシャちゃんと見慣れない服を着た女性がこんな場所にいるはずがない。
再び床板を外してみるがそこには誰もおらず、目的の茶葉も直ぐに見つかった。
ホラ、誰もいない。
茶葉を回収した私は床板を戻して振り返り。
「突然上がってごめなさいね。アルーシャのオムツを交換したいからお湯を分けてくれないかしら?」
ものすんごい悲鳴を上げた。
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「全く、サプライズならまだしもホラーをやってエンリを怖がらせてどうするの?」
「「「「申し訳ありません」」」」
現在私の前には四人の娘が土下座をしている。
彼女達は皆、私が産んだ娘達でそれぞれ
第二階層守護者。インフェルノナーガ、長女のもみじ。
七女忠。和服姿が特徴のショゴス、次女の天宮。
第三、第四階層を徘徊するグレーター・ドッペルゲンガー。私の昔の容姿(ただ胸だけは私より2カップデカい)をした三女のピオーネ。
第二階層のオアシスと第一階層で活動しているアルラウネ。荊を思わせる緑がかった露出面積の多いドレスを身に纏い、黒く、僅かにウルフのかかった髪ときつめの目付きが特徴のツンデレ。四女のよもぎ。
そして土下座している姉達を他所にネムとイチャイチャしているのが末の娘。セブンスチャイルドの竜人、アルーシャだ。
悲鳴を上げたエンリは私の膝に顔を埋めてふるふると震えている。どうやら、よっぽどのホラーに遭遇したようだ。
台所と思わしき場所からエンリが逃げてきたあとに天宮が気まずそうにアルーシャと出てきたのでエンリの様子がおかしかった理由を悟った私はドスを効かせた声で全員を呼び出して正座させた。
まぁ、もみじは相変わらず尻尾をブンブン振っているが。
「怖がらせてごめんなさいね。この子達は私の娘よ。貴女達に紹介したかったの。だから顔をあげて?」
優しく頭を撫でながら云うとエンリはゆっくりと顔をあげてくれた。その目には僅かに涙が浮かんでおり。よっぽど怖かったのだろうと思った。
「エンリ。怖がらせてしまったことは姉妹を代表して謝罪します」
「い、いえ。私こそ、ムササビ様の御息女様である皆様に対して悲鳴なんて上げてしまい申し訳ありません」
涙を拭って娘達に頭を下げる。
それに対して娘達も各々に彼女に対して謝る。
一通り自己紹介を終えた後、エンリと天宮によってお茶が振る舞われた。私は食事を摂れないので謝った後に冷ましてからスープスプーンでアルーシャに飲ませてあげる。
そして今は、テーブルの対面にエンリとネムに座ってもらっている。後ろと膝の上に娘達を控えさせて私はずっと考えてた提案を彼女達に述べた。
「今回、私が二人にこの子達を紹介したのは二人に提案したい事があったからなの。よかったら私の家族にならない?」
正直不安でいっぱいだった。
私は異形種の娘達以外を娘として迎え入れようとしている。それも人間をだ。
ただの昆虫程度にしか今では感じない人間。しかし、この二人には人間だった頃のような感情が湧いてくるのだ。
それは何故なのかは分からない。
エンリが辛そうなら助けてあげたいし。
ネムが泣いているなら慰めてあげたい。
二人に危機が迫るなら娘達と同じように守りたい。
託されたのもあるが、私自身そうしたいと思うのだ。
だけど、私達は異形種。人間から恐れられる存在。
ユグドラシルでも最凶のギルドとして名を馳せた私は二人にとって恐怖の対象かもしれない。
「私は二人を娘として迎え入れたい。私はアンデットだけど二人のお母さんに及ばないながらも精一杯二人を愛して、育ててあげたい。この子達も二人を妹として、姉として愛して接してくれるわ」
もちろん住み慣れたこの村を離れろなんて言わない。
私達が娘である二人に会いに行き。お土産やお話をしてあげる。
望むなら、都市で勉学に励む為に学費を出してあげてもいい。
私は二人に正直に話した。
沈黙が私達の間に流れる。
時間が経つにつれて私の不安が大きくなっていく。こういうときこそ精神異常無効スキルが発動してくれてもいいのにと思うがこういう時に限って発動しない。発動するギリギリ手前の不安が気持ち悪い。
そして、緊張感に負けて私が返事は後日でもいいと私が口を開いた時。
「ネムはムササビさまのこと好きだよ?」
ネムがそう言った。
目を点にして見る私に彼女ははにかみながらはっきりと口にした。
「ネムはムササビさまがおかあさんになってくれたらうれしい」
「私もムササビ様がお母さんになってくれたらうれしいです」
ネムの頭を撫でてエンリもはっきりと口にした。
「ほ、ほんとにいいの?言っちゃなんだけど私はアンデットで年は取ってるけど見た目的にはエンリの二、三歳年上なのよ?」
「ムササビ様はどこか母と似てるんです。優しさとか強さとか。それに見た目なら私と母はよく姉妹と思われてましたから」
「ま、まぁ確かにあの人、二児の母にしてはえらく若いなぁと思ってたけど」
「今年で37です」
「うそぉ!?」
恐るべしカルネ村最強。
二人の返事と驚愕の事実を聞いた後に私は軽く脱力する。
後ろでは娘達が互いにガッツポーズをして、膝ではアルーシャが嬉しそうに拍手をする。
「それではそれでは親愛なる皆様。新たなる家族のお祝いにささやかな催しを開かせていただきたいのですが宜しいでしょうか?」
ピオーネが手をあげて後ろから身を乗り出す。
私はエンリに確認を取った後に許可を出す。それを受けた我が娘はツインテールを揺らしながら胸を張ってパチンッと指を鳴らした。
「「わぁ!!」」
新しい娘達である二人が驚きの声をあげる。
室内の至るところからキラキラと輝く飾り付けが現れ始めたのだ。まるでクリスマスイルミネーションというかクリスマスイルミネーションに彩られた室内。テーブルにはホールケーキと七面鳥を始めとするご馳走が現れた。
いや、確かにクリスマス云々の説明でお祝いという単語は使ったけど・・・。
それに母親を亡くしたばかりでこのお祝いは・・・
「まぁ、この子達なりに気を使ってるのでしょうね」
新しい家族の誕生なのだ。ツッコムだけ野暮と云うものなのだろう。
ささやか(?)なお祝いは。義兄さんからの呼び出しの《伝言・メッセージ》が来るまで続いた。
後に二人は地獄の万魔殿に招かれてるのだがそれはまた後日。
感想お待ちしてます!