ピューレ達からの報告後、すぐにビーフストロガノフさんの部下が敵襲を知らせにきた。
彼は応援の要請やジョン君の借用を求めてきたが義兄さんはそれを断った。
それはそうだ。私達の世界の情報はまだ一般常識のさわり程度で各国の戦力、使用する魔法も知らない。そんな中、自分達の情報を流すのはバカのすることだ。
例えば私はパラディン。魔導騎士という職業だがユグドラシルにおいては万能の職業とされた。
しかし、単体では同じ100レベルの完全魔法職やその道を極めた戦士職を相手するには分が悪い。
魔法戦を挑めばレパートリーやMPの総量で押され、白兵戦を挑めば一撃の威力が届かない。
そう、パラディンとは万能の職業ではなく。器用貧乏な職業なのだ。
そのパラディンという職業を種族や装備、スキルとイベントで手に入る特殊スキル。そしてプレイヤーとしての地力で補ったのが私、ムササビというアバターだ。
対チーム戦というのは情報が重要で情報が相手に渡れば渡った分だけ、対策が練られ不利になってしまう。この世界にどのような存在がいるか分からない今はできるだけ情報は外には出さないでいた方がいいのだ。
その事を分かっていた私は職業を偽り、義兄は戦力の一部であるデスナイトを貸し出すのを拒んだ。デスナイトの有用性を国に持ち帰られ、私達の情報が他国に渡っては面倒だからだ。
まぁ義兄さんがジョン君を貸し出そうとしたら私が止めたのだが。
ビーフストロガノフさんを送り出した私達は村人が避難している倉庫の前で遠見のマジックアイテムの水晶を用いて戦況を確認していた。
義兄さんは既にシモベ達に伏兵の調査と捕獲を伝令し、私ももみじとピューレの他、何人かの娘に新しく指令を出しておいた。
「ムササビ。あの炎の上位天使についてどう思う?」
水晶を見つめるながら聞いてきた。
敵戦力の分析に並行して義兄さんは敵が連れているモンスターについて思考をめぐらせていた。
私も同じく分析と同時にその事について思考を回転させているのだが結果は。
「分かりません兄様。姿はユグドラシルのそれなのですが」
義兄さんと一緒で行き詰まっていた。
あの炎の上位天使はユグドラシルにもいた個体なのだが何故かこの世界にもいる。
それは召喚魔法が一緒なのか。さまざまな仮説が頭の中を駆け巡っていてとても結論づけることができない。
私より頭の回転が速い義兄さんも同様らしく首を振っている。
どうやらこの件については保留にしたようだ。
私もそれに合わせて思考から炎の上位天使を外し、再び戦力の分析。正確にいうならこの世界特有のスキルや魔法、技といったものの調査だ。
「普通の人間にあの動きは可能か?」
そして今、ビーフストロガノフさんが私達の見たことのない技を使った。
一振りにして六撃を放つ光のような神速連撃。
まるでコマ送りのような急激な反射速度。
その直後の流れるような無駄のない身のこなし。
おおよそ普通の人間ではできない動きを見せたのだ。
「無理です。普通の人間の剣速は音速を越えることはあるかもしれませんがそれを一振りのうちに六連も放つのはありえません。次の爆発的な加速も普通は筋肉が断裂してしまいます。最後のあの身のこなしですがあれはそういった流派を極めた者が使える技というより突然動きが良くなったといった感じでした。そんなもの戦闘中になにもなしではありえません」
ならば今見せたあれがこの世界特有のスキルなのだろう。それも一部の強者、お伽噺の英雄に近しい存在が使える技。
「お前に使えそうか?」
「・・・再現は可能かもしれません。しかし、それは100レベルというステータスでの数値です。けれどもアレは明らかに限界値を越えています。もし習得できたとなれば瞬間とはいえ私達の100レベルという限界値を大きく突破できることとなると思われます」
これは研究するメリットがある。
それほどの価値があると。
義兄さんに伝えた。
「分かった。ではこれについては私の方で調査しよう」
「此方でもなにか分かればご報告いたします」
気付けば先程まで活躍を見せていた彼が地に伏せていた。
傷以上に消耗も激しいそうに思える。
どうやらあの数々の技は消耗が激しいようだ。
あとは確証は持てないが一部脳内リミッターの解除が必要な技もあると見える。
しかし、私の持っているデメリットの大きすぎる限界突破スキルよりも威力は落ちるが有用と思えた。
「これは貴重な情報をくれたガゼフ殿に感謝だな。対価にここは助けてやるとしよう」
「兄様はどうやら幾分かあの男が気に入ったようですね」
「どうも会話をしていたら小動物程度の愛着が湧いてな。まぁ、これもガゼフ殿の人徳なのだろう」
義兄さんはクスクスと小さく笑う私とアルベトを連れて倉庫に入っていった。
さて、そろそろ交代ね。
「・・・ここは」
決死の覚悟を込めて駆け出そうとしたとき俺の視界が変わった。先程まで戦っていた平原ではなく素朴な住居の一角のような光景。
周りを見渡せば寝転がる部下と自分を見詰める村人達の姿。
「ここは兄様が魔法で防御を張られた村の倉庫です」
「・・・ナナシスど、の」
声の主に視線を向けれるとそこには一人の女性。
この村で出会ったナナシス・ヘル・ゴウンという女性。
若くも大人びた強き意思を感じさせる美しい女性。
初めてその姿を見た時はあまりの美しさに何も考えずに見惚れてしまった。
これほどまでに美しい女性が存在するのか。
ゴウン殿の黒き騎士と戯れる際見た傾国の美女を思わせる妖艶な笑み。
もし、彼女が妻だったらどれ程の幸せだろうか。
「ご、ゴウン殿の姿は見えないようだが」
「兄様は貴方と入れ替わりにあちらへ」
そうか。どうやら俺達は彼に助けられたらしい。
必死に込めていた力が抜けてその場に崩れ落ちる。
村人に支えられながらも俺はナナシス殿に頭を下げた。
「かたじけない。部下だけではなく、情けなく敗れた私まで」
王国最強の肩書きを持つ俺は己の不甲斐なさを噛み締める。
情けない。なにが王国戦士長だ。民を守れず、こうしておめおめと生き延びてなにが王国最強だ。
「・・・王国戦士長、王国最強の戦士である貴方がいるのに何故周辺の村が襲われたり、貴方自身の暗殺がおこるのか分かりますか?」
ナナシス殿の言葉に耳を傾ける。
「それは貴方がまだ弱いからです。見たところその装備は貴方、本来のそれではありませんね?」
その言葉の通り、俺の全力は王国に伝わる五宝物を装備してのそれだ。
活力の小手。
不滅の護符。
守護の鎧。
剃刀の刃などが俺を最強たらしめる理由の1つだ。
「その装備がなければ数の暴力には敵わず、奥の手を使えば消耗が激しい。貴方は最強の戦士ではなく装備の恩恵にあやかるただの戦士。強くなりなさい。装備に頼らず強くなりなさい。民に手を出した後の報復を他国が怖れる程に強くなりなさい。暗殺など馬鹿らしくなる程に強くなりなさい。貴方にはその可能性があります」
だから今は休みなさい。
ガゼフ・ストロノーフ。
沈み行く意思の間際俺は暖かさを感じた。まるで母の子守唄を聞いているような暖かさを。
「村長。ここはお願いします」
ガゼフさんが意識を失ったのを確認した私は。全員の手当てを村人達に頼む。
「ナナシス様はどちらへ?」
「兄様のもとへ。ご安心をここは兄様の魔法の他にデスナイトで守られています。私もシモベを一人召喚して守らせておきますので」
「おぉ!!ありがとうございます!どうかナナシス様もお気をつけて」
村長に見送られて倉庫を出た私はキャサリンに《伝言・メッセージ》を送る。
『御呼びですか?』
『此より兄様の援護に入る。それに伴い、守護者及び各員に指示を回せ。ピューレ、もみじは敵部隊の監視、よもぎも同様だ。リィリィはエス、カナを連れて出撃。此方で情報系魔法に対するカウンターの準備。エリザは逃亡しようとする者を捕獲するために近くで身を潜めていろ。残りは万魔殿の警備。キャサリン、万魔殿を頼んだぞ?』
『我らが母なる女王の御用命のままに・・・あ、ピューレお姉ちゃんが今ベルちゃんと一緒だけど大丈夫?だって。なんかぐずったみたいで他のお姉ちゃんがピューレお姉ちゃんにあやしてもらいに出てたみたい』
『まぁいいでしょ。姿は見えないけどこの世界の空にはまだ何がいるかわからないし。ピューレに間違っても妹を落っことさないように言っといてね。あとまたベルがぐずったら私のところへいらっしゃいって伝えといて』
『はーい。それじゃ~ね。ママ』
最後にしまらない愛娘の声を聴き苦笑した私は村長との約束通り護衛を一人追加することにした。しかし、ここに死体はないのでそれなりの強さを持つデスヴァルキリアは作れない。
仕方ない。ちょっと弱いがゴーレムを作るか。
《中位ゴーレム作成/ゴーレムアマゾネス》
地面が音を立てて隆起し、形を織り成す。
造り上げるは土塊の女戦士。
胸の谷間に核である赤い宝石を光らせ顕現するはユグドラシル内でも雑魚と呼ばれた能面のモンスター。ゴーレムアマゾネス、レベル25。
本来は槍やら斧やら弓をそれぞれ持っているが今回はどうやら弓のようだ。ジョン君の援護に丁度いい。
「デスナイトが敵と判断するものを殺せ」
ゴーレムアマゾネスが承諾したと云うように礼をする。
それを横目に《転移門》を開く。
さて、できるだけの対策はした。あとはあちらさんに御挨拶するだけだ。
ちょっとばかり上空にいる上の娘と末の娘が心配だが。まぁ、普通に戦えば負けることのないペアなので大丈夫だろう。
そう思いつつ転移門をくぐる。
そして最初に目にしたのは
「・・・・え?」
炎の上位天使の剣によって貫かれている義兄さんだった。
これから続きを書いて明日更新できたらいいなぁ。