オーバーロード ー 死の女王 ー   作:溶き卵

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 更新遅くなってしまいました

 本当に申し訳ありません。

 ちょっとずつですが進めていきます。

 近衛の部分は時系列的にムササビ様がエ・ランテルに向かう前になります


宿/近衛

「うっ・・・汚い」

 

 最初の目的地である宿屋に入った私の口から小さく溢れた第一声。

 

 覚悟はしていた。

 ユグドラシルの酒場みたいに人で賑わっているような場所ではないのは分かっていた。

 インターネットで見た昔の居酒屋みたいな雰囲気でもないというのも分かっていた。

 けど、これはいくらなんでも汚い。

 床にこぼれている何かの食いカス、何かの液体に、カビの生えた何か。

 とてもじゃないが宿屋とは思えないし、食べ物を扱っている店だとは思いたくない。

 

『・・・大丈夫ですか?親愛なる御母様』

 

 私の性格を知っているヴィーこと、ピオーネが心配そうに《メッセージ》を私に繋げながら様子を伺ってきた。

 

『やはり、親愛なる御母様が自ら出なくても私達姉妹から選出した方が・・』

 

『貴女達ばかり働かせてたら母親失格になっちゃうじゃない。私は大丈夫、ありがとう』

 

 大丈夫、これがこの文明レベルの最低レベルの宿屋。

 一応従業員もいるみたいだし、定期的に掃除もしているはずだ。

 部屋も満足いかなかったら掃除道具を借りればいい。

 そう、自分に言い聞かせて義兄さんの後に続く。

 

 

「宿だな。何泊だ?」

 

 宿の店主は一見用心棒といった感じの男性だった。

 太い二の腕に剃り上げた頭と幾つもの生々しい傷痕。

 おそらく永く前線で活躍してて、怪我で引退した冒険者だろう。

 モップ片手に義兄さん相手に堂々としていた。

 

「一泊でお願いしたい」

 

「・・・後ろの嬢ちゃん達は連れか?」

 

「あぁ・・・」

 

「なら悪いことは言わねぇ嬢ちゃん達だけでも別の宿にしな」

 

 そう云われて私とヴィーは顔を見合わせた。

 義兄さんが理由を訪ねてみると三軒ある冒険者御用達の宿の中でも一番安くて一番下、尚且つ入りたての冒険者が集まるのがこの宿らしいが荒くれものも一番集まるのもこの宿だそうだ。

 そんな宿へ私達みたいなのが来たら格好の的になるし、問題も起きやすいとか。

 だから安い故に食事を取りにくる女性冒険者もいるそうだが宿はもう一ランク上の宿に泊まっているらしい。

 その宿の名前を聞いてみれば確かに組み合いから薦められた宿だった。

 

「だ、そうだ。どうする?」

 

「私達は兄さんと同じ宿の方がいいかな?兄さんが近くにいた方が安心できるし」

 

「分かった。店主、四人部屋。無ければ二人部屋を二部屋頼みたい」

 

「ちっ。一応聞いといてやる。今後パーティーを組むために他の連中と相部屋にしとくつもりはねぇか?さっきはああ言ったが肝が座った女が泊まっていることには泊まっている」

 

「ごめんおじさん。私達は四人で旅してたからちゃんと役割もできてるの。気を使ってくれてありがとね」

 

「ふん。二人部屋2つ、一泊十四銅貨の前払いだ」

 

 顔を反らしながら言う店主のおじさんに従ってワタシは懐から硬貨の入った袋を取り出して支払いを済ませ鍵を受け取る。

 後で此方の分は返すと云われながら教えてもらった部屋に向かおうとしたとき。

 

「へへへっ・・・」

 

 先行していた義兄さんの前に足が差し出された。

 義兄さんが立ち止まると同時に私は視線を周囲に向ける。

 店主のおじさんもその他の客も止めようと動こうとしない。此方に向く視線は気持ち悪い下心満載の視線か面白そうといた視線ばかりだ。

 しょうもない。新人いびりのつもりか。

 思考が即座に結論付けた私は立ち止まった義兄さんを追い抜いて、男が差し出している足を

 

「ごめんあそばせ」

 

 踏み抜いた。

 

「いってええぇ!?」

 

 男の悲鳴が響き、周囲の客も目を丸くする。

 

「何しやがるこのアマ!」

 

「あ、ごめんなさい。仮面の視界が狭くてその短い足が見えなかったわ」

 

「まぁ、そんな理由だ。妹が済まなかったな許してやってくれ」

 

 義兄さんが小さく肩で笑いながら私の頭を撫でてきた。

 その手からよくやったと誉められている意思が伝わったので自然と頬が緩む。

 

「へっ、なら嬢ちゃんが一晩相手にしてくーー」

 

「ウチのメンバーになんですって?」

 

 男が下品な要求をする前にヴィーが男の背後に音もなく回り込んだ。

 首筋に男が使っていたフォークを突き付けて。

 

「サザビーさん。この男、このままぐさりと殺ってしまっていいですよね・・・」

 

 我が娘がにこやかになかなかえげつない事をいい始めた。

 男の仲間達が立ち上がるがそれよりも先に私がバッチいから此方にいらっしゃいと言って開放させる。

 まぁ、こいつがピオーネに手を出そうとしたら容赦なく潰してたけど。

 

「く、クククッ」

 

 私達と男達が一触即発な雰囲気の中、義兄が小さく笑い声を上げた。

 あら、珍しい。

 この笑い方は義兄さんがちょっとしたツボに入った時に出す笑い方だ。

 

「兄さんそんなにツボだった?」

 

「あぁ、見事なまでの雑魚に相応しい台詞を聞けたからな」

 

 あと手を出そうとした相手がどういった女かわかっていないという滑稽さがツボに入ったんだろうなぁ。

 そう思うと私もすこしばかり笑いが込み上げてきたり。

 

「てめえ・・・!!」

 

 ここで男の顔が真っ赤に染まる。

 人間だった頃の私だったら少なからず怯んだかもしれない。

 けど今の私は怒りの形相を浮かべるこの男を虫けらが威嚇している程度にしか感じない。

 まぁ、そんなことはいいとして、さて乱闘かな?

 と思った時に義兄さんが男に問い掛けた。

 

「あぁ、殴りあう前に1つ聞いてもいいかな?お前はガゼフ・ストロノーフよりも強いか?」

 

「はぁ?なに言って」

 

「兄さん。この人がビーフ・ストロガノフよりも強いわけないでしょ?」

 

「の、ようだな。ふむ、お前達は先に部屋に行ってるといい」

 

「はーい。あ、おじさ~ん。代金請求はアッチにお願いねー」

 

 店主のおじさんが此方に背を向けながら片手を上げる。

 ふむ、無愛想だがちゃんと見ているね。

 さてさて、義兄さんから許可も出たし私達は一足先に部屋に行くとしよう。

 男の相手を義兄さんに任せた私はヴィーとナーベを連れて二階へと向かう。部屋までの道中、変な奇声が聴こえたが気にしない事にした。

 

 

 あとは部屋に入った直後、再び一階に掃除道具を借りに降りた事だけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、私は義兄さんを追いかけるから二人でお留守番しててね?」

 

「はい、お気を付けていってらっしゃいませ」

 

 ムササビ様が地理の確認の為に出られたモモンガ様の後を追われた。

 

 部屋に残されたのはたった今お出かけになられたムササビに向けて頭を下げている私とムササビ様の御息女であるピオーネ様。

 別に別々の部屋で待っていてもいいと思うのだがモモンガ様の妹君でいらっしゃるあの方は私が寂しくないようにと御息女をこの部屋に連れてこられた。

 正直言って気まずい。いや、落ち着かないと言った方がいいのだろうか。

 相手は万魔殿の女王の三女である姫殿下。

 緊張するなというのが無理な話だ。

 

「「・・・・・」」

 

 気まずい空気が私達の間に流れる。

 姫殿下は先程から自分の荷物を何やら漁っていて、私には目もくれない。

 それはそれで悲しい気もするが相手は天上人。メイドである私に気を使う必要はない・・・のだけど

 そうだ!メイドだ!

 何故忘れていたのだろうか。

 私はメイドではないか。

 ナザリックを守り、至高の御方々に仕える戦闘メイドプレアデスではないか。

 至高の御方に仕えるメイドの私が至高の御方であるモモンガ様の妹君の御息女をお世話してなんの不都合があるだろう。いや、ない。

 そうと決まれば早速実行だ。

 こんな時の為にアルベド様から持たされた茶葉と茶器などもある。

 さっきはああ言ったがきっと姫殿下も慣れない私と二人きりなせいできっと気まずいはず。

 ここはメイドとしてお茶をお出しして少しでもお気を休ませて差し上げねば!

 

 意を決した私は小さく頷いて姫殿下、ピオーネ様にお茶はいかがですかと御伺いをたてようとしたとき。

 

「親愛なる伯父様のメイドさん。私、最近妹に習いましてお茶を嗜んでいまして、よろしかったらお付き合いいただけますか?」

 

 

 

 逆に気を使われて崩れ落ちそうになりました。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 星の光が空に煌めく時間に万魔殿を出た。

 これから正式にお仕えすることとなったエンリ様のもとへと向かうためだ。

 実はエンリ様とネム様は私達シモベの中でもかなり人気が高い。

 女王の養女となられてまだ僅かな時間しかたっていないのにシモベ達の間で人気なのには理由がある。

 それは僅かな時間の間に私達に接して、私達を知ろうとしてくださったからだ。

 近衛として付いていた私と夜叉達、更には鬼娘達にも話しかけて私達の事を聞き。

 万魔殿でもあのサディストフェアリーや時間の合間を見て他のシモベ達に積極的に関わりを持つようにしていたらしい。

 

 故にエンリ様から直々に近衛のご指名を受けた私はルンルン気分で森の中を歩いている。

 

「・・・何故、貴女が同行しているのですか」

 

 隣にコイツがいなければだが。

 

「何故って、我が主の命で貴様を手伝ってやっているのだ。感謝したまえ」

 

 隣を歩くのは七人の女王の三女、ギブ・ミー陛下の長女であるクロア様の親衛隊長。

 一角馬の因子を持つ、ケンタウロスの上位種だ。

 一応、一角馬ことユニコーンの因子を持っていることもあって容姿は親衛隊長に相応しい程に色白で美しいし、スタイルもいい。

 また私に近い80レベルなので背中に山積みにされた荷物も苦にならないといった感じに楽々と運んでいる。

 だが馬鹿だ。

 他の親衛隊はクロア様に叱られたいが為にわざといろいろしていると聞くがコイツは素でやらかす。

 女王の書状を忘れたり、頼まれてもないのに玉座の間から第一階層までエンリ様達を迎えに降りようとした馬鹿だ。

 ではなぜそんな馬鹿が私と一緒にいるのか。

 簡単に言えば荷物持ちのためである。

 

 此度、近衛に就任が決まったおり、エンリ様に渡してくれと様々な品を任された。

 私だけでも運べるのだが、第一階層へ降りた際にクロア様が御厚意としてコイツを荷物持ちとして同行させたのだが。

 正直言って心配だ。

 

「しかし、姫様方の御家族を想う愛情にはいつも胸を打たれるな。姉は妹を愛し、妹は姉に全幅の信頼を寄せる。そしてそんな姫様達を愛してやまない女王陛下。あぁ、我々はなんて幸福なのだろう。美しく、尊いあの方々をシモベの中でも一番近くで御守りすることができるのだから・・・ハッ!こうしてはいられない。エンリ様に一刻も早く皆様の想いを御届けしなければ!!」

 

「落ち着きなさい」

 

 一人猪突猛進に突っ走ろうとした馬鹿の尻尾を引っ張って引き留めた。

 その際、妙に色めかしい声が上がったが無視して彼女に言い聞かせる。

 

「貴女の気持ちも分かりますが、今貴女の背中に積まれているのは大事なお預かりの品だということを忘れないでください。万が一無くしでもしたら・・・」

 

 どうなるかは容易に想像がつく。

 たとえ守護者の親衛隊長でも庇護される事もなく生まれた事を後悔させられる事になるだろう。

 死ぬことも許されず永遠に。

 

「・・・・・」

 

 彼女も直ぐに理解したようで顔を真っ青にしながら頷いた。

 寛大な女王や姫様方ではあるが妹が、姉が、娘が、母親が悲しみ、傷付いてその美しい顔を歪めるならば、妹として、姉として、娘として、母親としてその起因を全力で排除しようとするだろう。

 先の書状を忘れた一件はまだしもお預かりした品を無くしてしまったら。エンリ様はそれとなくフォローしてくださるだろうがネム様はものすごく残念がるかもしれない。

 そしてそれを知った姫様方は・・・。

 

「理解したのなら結構。しかし、時間的に急がなければならないのは確かです。可及的速やかに、かつお預かりした品に不備がないよう行きましょう。どこかの誰かは朝早くから押し掛けるといった愚行を犯したそうですので」

 

「心得た。しかし、何処のどいつだ姫様にそのような事をしたのは」

 

 お前だお前。

 

 

 エンリ様とネム様は日頃何をされているのだろうか。

 これからお二人と過ごす時間に胸を踊らせながら残念な同僚と共に先を急ぐ私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 






 久しぶりの駄馬参上!
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