次回は夜叉姫ちゃんサイドをやって
ンフィ君はその次です!
「銀貨数枚といった簡単な仕事をしたくて冒険者になったのではないのだ。もっと高いレベルの仕事を受注させていただきたい。必要とあらば私達の実力もお見せするが」
「・・・申し訳ありませんが規則ですので」
受付嬢と交渉中の義兄さんを離れた位置にあるテーブルに腰掛けて眺める。
端から見たらただのクレーマー。
受けられない依頼を強引に受けようとする迷惑な冒険者だ。
何故、義兄さんがそんな事をしているのか。
理由は簡単。
私達がこの世界の文字を読めないからだ。
依頼を受けたいが文字が読めないからどれが私達の現ランクである銅のプレートの依頼なのかが全く分からない。
そして今私が読んでいるのはこの世界の文字を理解するためにエンリの伝でカルネ村の村長から借りた本の一冊。
時間があれば目を通して向こうの世界の言葉との共通点を探しているのだが。
「・・・はぁ。私の知ってる言葉に掠りもしない」
残念なことに私が向こうの世界で興味で覚えたドイツ語も、学校で習った英語も文法どころか単語も掠りもしない。
というか文字が違う。
英字のようで違う、かじり程度でやめたロシア語のようで違う、ローマ数字にも見えなくもない上にまったく意味が解んない。
言葉は日本語なのに文章が全く読めないってなんなのよ。これってあれ?世界の修正力かなんかが働いてるわけ?
仕方ない、時間がある時にキャサリンと一緒に解読してみよう。エンリも簡単な文章しか読めないって言ってたし。なんならどっかの誰かを取っ捕まえて勉強会を開いてもいいかな?
『親愛なる御母様でも知らない言語があるなんて』
『私も全能じゃないのよ?知識で言えば昼姉様と夜姉様、オバー姉様の方が秀でてるもの。私はなんでもはしらない。知っていることだけ・・ってね』
「待たせたな」
本に向けていた視線を上げると義兄さんが目の前にいた。
その隣には緊張したような雰囲気の青年。
ん?なに、その人。
現状を理解しようと思考が回転を始める。
先程の義兄さんの状態、青年の様子、離れた位置で此方を伺っている仲間と思わしき人達。
それらから導き出されるのは。
「あれ?もしかして御誘い?」
「あぁ・・・」
「は、はじめまして!」
どうやら義兄さんは上手いこと仕事を手に入れてきたらしい。
「改めまして。私が漆黒の剣のリーダー、ペテル・モークです。あちらがチームの目と耳、レンジャーのルクルット・ボルブ。チームの頭脳、《術士/スペルキャスター》ことニニャ。そして森司祭のダイン・ウッドワンダーです」
組合の会議室で俺達は依頼人である冒険者チーム。漆黒の剣のメンバーと打ち合わせ前の自己紹介をしている。
銀のプレートの彼等はかなり若い年代層のチーム。誘われた時はどうしようかと考えたが今後の事を考えて受けることにしたのだ。
「ペテル。その恥ずかしい二つ名やめません?」
リーダーの紹介に少し恥ずかしそうなニニャ。
「あら、二つ名持ちなんですか?」
そこへ義妹がすかさず情報を引き出す為に一芝居打って出た。
本当にこういった時の頭の回転が速い。
そこらへんはやはり産まれながらの資質か。
「そうなんすよ。《生まれながらの異能/タレント》を持ってて、天才と言われる有名な魔法詠唱者なんすよこいつ」
「へぇ」
頬杖を付きつつ仮面の奥で目を細めている妹を横目に謙遜しているニニャの話に耳を傾ける。
「まぁ、わたしよりもっと有名な方がいますよ」
話によればこの街にいる人物で薬師、リィジー・バレアレの孫。ンフィーレア・バレアレが有名らしい。
彼の持つ《生まれながらの異能/タレント》はありとあらゆるマジックアイテムが使えるというもの。
使えない筈の系統がちがうスクロールでも、使用制限により人間が使えないモノでも使えるとか。
『義兄さん』
『あぁ、これは有益な情報だな』
そいつの《生まれながらの異能/タレント》が何処まで通用するのか。ワールドアイテムどころかギルド長しか使うことのできないアイテムまで使うことができるのか。
警戒すべき存在だが、利用価値も高い。
義妹は漆黒の剣のメンバーに気付かれないように小さく頷き、俺と同じ考えだと告げた。
「では次は私達の番ですね。こちらがナーベとヴィー、そして私の妹、サザビーです」
「「「「妹!?」」」」
「はい、兄共々よろしくお願いしますね」
漆黒の剣の皆が驚きの声を上げる中、義妹は丁寧に礼をする。
そういや、コイツは昔からこうだったな。
俺に恥をかかせない為にいろいろしてくれてたっけか。
不意に思い出して頭を撫でてやると義妹は擽ったそうに首を竦める。
それを見た彼等は小さく笑みを浮かべた。
「あはは。仲がよろしいんですね。まさかご兄妹とは。モモンさん方が私達を呼ぶ際は名前のほうで呼んでいただいて構いません。さて、さっそくですが仕事の話に移りましょう」
内容ははっきり云うなら仕事と呼べる物ではないそうだ。
エ・ランテル周辺に出没するモンスターを狩り、そのモンスターの強さに応じた報奨金を街から組合を通して受けとるというもの。
いうなればPOPするモンスターを狩ってドロップアイテムを手に入れる。または義妹がユグドラシルのメンテ中、暇潰しに好んでやってる無双ゲーや狩りゲーみたいなモノか。
まぁ、それも五年前はなかったそうでこの国の王女が打ち立てた法案らしい。
王国。王城はまだ義妹の方でも潜入の指示は出してないが今の話で近々差し向けることだろう。
「あんな美人さん嫁さんにしてぇー」
「なら貴族になるように努力したらどうであるか?」
「や、そこは無理。んな堅苦しそうな生活はできねぇよ」
「でも、貴族はいい身分だと思いますよ。民を絞り上げて、欲望のまま行動していいと国で定められてるんですから。」
天才魔法詠唱者のニニャからドロドロと滲み出てきた言葉。
人間だった頃の俺達ならいざ知らず。今はへぇ、といった感じしかしない。
まぁ、向こうの世界の最上位の富裕層も似たようなものだしな。
そんな彼にルクルットはわざとおどけてフォローするも彼は過去に姉を連れていかれたようで貴族に対してかなり印象が悪いらしい。
「ニニャさん。私達の方でお姉さんの情報が入ったら回してあげましょうか?」
「え、いいんですか!?」
驚きの声を上げる彼に対して頷くと義妹は俺をみる。
「構わないでしょ兄さん」
「断る理由はないな」
ナーベとヴィーが驚きの表情で義妹を見る中、彼女のその目はウチで調べるから文句はないよね?と言っていた。
まぁ、文句はないさ。
兄弟への執着があるのも知っているし、再び姉達と会える可能性が低い自分と違ってもしかしたら会えるかも知れない彼を手助けしてやりたいと思ったのだろう。
仕事の片手間ついでによとヴィーに言い聞かせている義妹にニニャは立ち上がり頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「気にしなくてもいいですよ。さ、ちょっと話が逸れたから元に戻しましょ?」
それからは目的地と出没するモンスターについて彼等から情報を提供してもらう。
特に出没するモンスターについては俺も義妹も細部まで確認してしっかりと記憶に留める。
途中、ジャンピングリーチやバンキング・スパイダー、フォレストワームが森の中に出没したり。草原で一番危険性がたかいのがオーガと知ってヴィーが小さく“弱っ”と呟いたのは聞かなかった事にしよう。
報酬はチームで俺達と漆黒の剣。6対4の割合を提示してきたが義妹が今後の良好な関係と彼等の顔を立てる為に5対5の分割を提案し、それで纏まった。
「それでは共に仕事を行うのですし、顔をお見せしておきましょう」
俺は今後の為にヘルムを外して彼等に顔を見せておくことにした。普通なら悲鳴が上がる骸骨なのだが今この瞬間だけは幻術でカバーしておく。
作り出したのは二十代中頃の俺。
この世界に来る時の顔でもよかったのだが義妹と姪の手前、流石におっさん顔じゃ格好が付かないからだ。
「兄さんが顔を見せるんだったら私も・・」
そして俺に続くように義妹も顔の上半分を隠している白い右目だけが開いた仮面を外した。
そこから見せた顔は18歳の頃の義妹。
義兄の贔屓目を抜いても美人。ナーベと同じくクールビューティ(笑)の部類である妹に彼等は見惚れた。
対するヴィーとナーベは俺をガン見したまま動かないが今は無視しておこう。
「モモンさんって結構男前ですね」
「黒髪黒目ということはナーベさんと同じく、この辺りの方ではないんですね」
「はい。かなり遠方から来まして」
ニニャがほぇ、と感心したように誉め、ペテルが納得したように頷き、義妹が嬉しそうに頷く。
俺一人ならファッションや髪形に気をつけたりしなかったが義妹のお陰で見てくれはよくなった。義妹様様だ。
あの若さで第三位階の使い手と互角とは。ナーベ女史達が優秀過ぎるのである。いや、優秀ってレベルじゃないぞ。それを言うならヴィーさんだって。とダインとルクルットがほそぼそと呟いてるが、まぁいいだろう。
「私達が三人も異邦人だと厄介事に巻き込まれるかもしれないんで顔を隠してるんです」
「妹も見てくれがいいので対策として顔に傷があってそれを隠している事にしているのですよ」
そう言って俺達は再び顔を隠した。
「最後に私達に何か質問はありますか?協力して狩りを行うので疑問をこの場で解決したほうがいいと思うのですが」
「はい!」
義妹の問いで勢い良く手が上がった。
手を上げた人物、ルクルットはやけに大きな声で女性陣に質問を投げかけた。
「皆さんのご関係はなんでしょうか!」
関係?そんなのは見れば分かるだろう。
会議室を沈黙が包んだが俺は普通に返答した。
「皆、仲間です」
「惚れました!一目惚れです!付き合ってください!」
ルクルットはヴィーに向け、頭を下げて手を突きだす。
俺は彼を見て、冗談を言って友好関係を深める狙いではないと分かると目に手を当て、やらかしたと云う風に天井を見上げた。
「顔を作り直してから出直してきなさいな」
「黙れ、ナメクジ。身の程をわきまえてから声を掛けなさい。舌を引き抜きますよ」
ヴィーが断り、ナーベが追撃を掛ける。
暗に整形してこいと言っているドッペルゲンガーと姫に気安く声を掛けるなといっているドッペルゲンガー。
カルマ値がマイナスの二人がルクルットを血祭りに上げないのは俺達が問題を起こすなと言っているからなのだが。そんなことは知らない彼はめげもせずに再び手を差し出した。
「厳しいお断りの言葉ありがとうございました!ではともだ「ルクルットさん」」
が、二度目のアタックその手を掴んだ義妹によって阻まれた。
「ヴィーは私の大事な親友なんです。私の大事なお友だちなんです。私の大事な子なんです」
仮面から覗く、ハイライトの失った瞳がルクルットを捉える。
「確かに可愛いですよね。私もそう思います。ところで今まで何人もこの子に言い寄ってましたけどその人達がどうなったか知りたいですか?知りたいですよね?」
彼の顔が青ざめ、滝のように冷や汗が流れ落ち、ガタガタと震えだす。
まぁ、絶望のオーラなんぞ使わなくてもレベル100に脅されたらそうなるわな。
「それじゃ、参考程度にーー」
「止めんか」
流石にかわいそうなので義妹の頭に手刀を打ち込む。
へにゃっ!と小さいうめき声を上げたが彼女は頭を押さえながら涙目で俺を睨み付けてきた。
「なにするのよ~」
「やり過ぎだバカもん」
親バカから解放されたルクルットはペテル達の後ろで震えている。
まるで小鹿のようだ。
まぁ、義妹の気持ちも分かる。大事な娘。それも自分が産んだ愛娘の一人に言い寄るチャラ男(見た目)は見ていて気分はよくないからな。
俺も向こうの世界で義妹をくれなんて言ってくる男がいても簡単には認めるつもりはないし。
「・・・仲間がご迷惑を」
「いえ、こちらこそ。ヴィーは妹の親友でして。度々手を出そうとした輩から守っているんですよ」
互いにリーダー同士頭を下げあう。
理由はどうあれ、両成敗という事になり、打ち合わせはお開きとなった。
感想お待ちしてます!
んー、ニニャとクレマンどうしよう。