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無双ごっこが終わったその日の晩。
私達は火を起こしてキャンプする事になった。
火を取り囲んでワイワイガヤガヤと今日の功績を讃えあう。
今日一番は義兄さんらしく。まるで英雄だと誉めちぎられていて、義兄さん自身、満更でもない様子。
ナーベとヴィーもその見た目にそぐわない力を奮った事によりヒーロー状態だ。
モココは義兄さんの肩の上に陣取っていて、義兄さんが誉められる度にニコニコしながら頷いている。
うん、かわいい。かわいいけど口のまわりのケチャップ(?)はちゃんと拭こうね。
あと、キュキュット(ルクルット)さんが口説いた時の顔はあんまり好きになれないかな?というかさっきからキュキュット(ルクルット)さん危ない橋渡るね。
まぁ、そんな事はいいとして現在の私だが。
「どうしよどうしよどうしよどうしよ・・・」
一人離れた場所で頭を抱えていた。
私が頭を悩ませてるのは私の五女、エンリについてだ。
まさか、今護衛してる対象がエンリの幼なじみだとは思わなかった。しかも幼い頃に結婚しようと約束するぐらい仲がいいなんて。
ンフィーレア君はエンリが覚えていないかもと言っていたがもし覚えていて、今もその想いが変わらなかったら、二人は相思相愛だということだ。
けど娘達はそれを良しとしないだろう。
大事な大事な妹だ。付き合いが長くともどこぞの馬の骨とも分からない男と一緒になるぐらいなら男を殺して、エンリを万魔殿に閉じ込めてもおかしくない娘達ばかり。
特にキャサリンともみじにリィリィはその筆頭だろう。
私自身、二人の恋路は応援してあげたい。
ンフィーレア君自体はいい子だ。
エンリやその家族の事を考えているというのはとても評価が高い。
けど私、ムササビというアバターが娘に触って欲しくないと言っている。
娘は渡したくない。けど、ここでンフィーレア君を殺してしまえば彼女は悲しみ、私や娘達に憎しみの念を抱いてしまう。
「どうしたの?」
気付けばモココが前で顔を覗き込んできていた。
私は優しく頭を撫でてあげて大丈夫、なんでもないよとあやす。
私が憎まれるならいくらでも耐えられるし、それが娘達の為になるなら喜んで憎まれ役になるつもりだ。
けど、このムササビは娘達に嫌われる事を拒んでいる。
私が認めれば二人は晴れて恋仲。
けどそれは娘達の気持ちを無視する行為。
娘達が憎しみあう光景なんて見たくない。
けど、娘達に嫌われたくない。
ムササビと鈴木沙織。
二つの思考がごちゃごちゃになり、矛盾し、私を蝕む。
「・・・母親って、難しいわね」
「ーーー??」
小さく苦笑しながら私はモココを抱き締めると目を閉じて思考の海へと身を投じる。
考えて、結論を見つけて、義兄さんと議論する。
どうすれば皆納得するのか。
どうすれば私が納得できるのか。
その答えを見つける為に。
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「ね、姐さん。姫さんの指示通り、村を守る柵を作り終えやした」
「ご苦労。次は村の四方と中心に物見櫓を健造せよとのことだ。だが、これの作業は翌日からでよいとのお達し、今日は鋭気を養うがよい」
「へい!ありがとうございやす!!ついでといやなんですが森で果物を見つけやしたのでよろしかったら姫さんとお嬢でお召し上がりくだせぇ」
「ほう、それはお二人もお喜びになられるだろう。分かった、貴様の功、伝えておこう」
《小鬼将軍の角笛》の一件から数日。
村は更なる発展を遂げていた。
あの時壊れた角笛の件については姉さんが伯父様に事情を説明すると同時に聞いたところ一回吹けば壊れる消耗品だそうです。また、ちゃんと吹けていたらしく。遅れながらゴブリンさん達は私の前に出てきてくれました。
姉達はさっさと出てこないから私が泣いてしまったと怒ったがたぶん姉さん達が強すぎたのが原因かと。
姉達を宥めて彼等を迎えた私は村長に話を通して伯父様、アインズ様からいただいたマジックアイテムで村の防衛の為に呼んだと伝えた。
そして姉さんとクロア御姉様の指導の下、指揮官のイロハと防衛の基本を学び、その一環としてゴブリンさん達に先ずはカルネ村の周りをかこむように木で防御壁を作って貰ったのだ。
「それでここを攻められてる時は囮の可能性が高いのよ。守りにくいここが攻められるか、暗殺者が浸入してエンリを狙ってくるパターンがあるから注意する必要があるわ」
「えっと、逆にここを攻められて正面を狙われる場合もありますよね?」
「今の配置でそれをやる指揮官はただのバカね。だけどジョン君がいるのに自信を持って攻めてきたら警戒しなさい。最悪私達を呼ぶことも考慮しないと」
ちなみに現在私は自分の家の裏で御姉様とお勉強。
実はと言いますか御姉様はけっこうスパルタ。
教え方は優しいのですが次々いろんな事を教えてくるのでお勉強を終えた頃には机に突っ伏してダウンしてしまいます。
え?もみじ御姉様?
今はピース御姉様とオルタ御姉様に治療されてるそうです。
なにやらルーキちゃんとアルーシャちゃんがハッスルし過ぎたそうで。
「おねぇちゃ~ん!」
畑の方から私を呼ぶ声が聴こえた。
視線を向けてみれば手を振りながら此方に走ってくるネム。
背後にジョン君を引き連れている光景はまぁ、アレだが二人の仲は良好なようでなによりだ。
「ネムも来たし、今日はここまでね?」
「はい、ありがとうございました」
ネムが来たことによってお勉強はおしまい。
御姉様は自分の近衛であるケンタウロスの方々にテーブルの片付けとお茶の用意を頼んでネムの到着を待つ。
そういえば隊長さんがいない。
階層守護で残っているのかな?と考えていると
「あっ・・・」
ネムが躓いて転びそうになった。
私もケンタウロスさん達もあっと声を上げる。
「あらあら、元気なのはいいけど、気を付けてないとケガするわよ?」
「えへへ、ごめんなさ~い」
気付けば離れた場所で御姉様がネムを抱き止めていた。
御姉様は転びそうになった瞬間に反応してたった一歩で音もなくネムのところに翔んだのだ。
「ほんとに反省してるのかしらって、あら?ケガしてるわね」
「あや?」
仲良く首を傾げてる二人に駆け寄ってみればネムの肘に小さなケガができていた。
「あらあら仕方ないわねぇ。貴女、万魔殿からピースを呼んできて」
「お、御姉様!大したケガじゃないから大丈夫ですよ!!ピース御姉様を呼ぶほどじゃないですから!!」
「そお?」
「おねえちゃんネムだいじょうぶだよ?」
「本当に大丈夫?痛くない?バイ菌入っちゃうのよ?」
お、おぉ。まさかクロア御姉様がここまで過保護とは。
多分私達のような弱い妹がいなかった分、どうすればいいのか分からないのだろう。
そこがどこか可愛らしくて小さく笑ってしまった。
「大丈夫ですよクロア御姉様。畑仕事は小さな生傷が絶えないのでこの程度なら日常茶飯事です。むしろ勉強になってどうすればケガをしないか考えるようになりますから」
「そういうものなのねぇ」
「はい。ネム、何時ものお薬塗ってあげるから傷をちゃんと洗ってきてね?」
「はーい」
クロア御姉様の腕から抜け出してネムは家の中からある水差しを持ってきた。
透明な器でできたそれは水が絶えず出てくるというディーネ御姉様からの贈り物。
初めて見たときはビックリしました。
今では忙しい時やお風呂に入りたい時に重宝してます。
その水差しでバシャバシャと傷口を洗っているネムを見てクロア御姉様が少しだけ顔をひきつらせるがネム本人は大して痛そうな素振りも見せていない。
「痛くないのかしら?」
「滲みますけど我慢できない程じゃないですよ?私も慣れましたし」
お父さんもパックリ切れた時ですら洗ってましたしね・・・お母さんが。
「おねえちゃ~ん」
「はいはい。ここに座って」
ネムを椅子に座らせた私はポケットから木でできた小さな容器を取り出す。
蓋を捻って開けると中から出てきたのは濃い緑色の塗り薬。
だいぶ量が減っているそれを少しだけ指で掬ってネムの傷口に優しく塗ってあげる。
「それは?」
「これは傷薬です。こういった軽い傷口に効くんです」
「ポーションや治癒魔法の方が早いと思うのだけど」
「御姉様達にとってポーションや治癒魔法は当たり前でしょうけど、世間ではポーションって私達なんかではとても手が出ないくらい高価なんです。これは幼なじみの薬師が作ってるお薬でとっても効くんですよ?」
安いポーションでも金貨一枚。
質のいい、腕利きの薬師が作ったポーションなら金貨三枚はするそうだ。
「なくなったら買いにいってるのかしら?」
「これは私達の為に定期的に届けてくれるんです」
この傷薬の他に一、二本ではあるがポーションも彼は作ってきてくれる。
いつも他の村の人達には内緒だよ、と小さく笑みを浮かべながら私に渡してくれるのだ。
お薬は効能が劣化するので定期的に新しいのを届けてくれる。
材料費だけでも安くはなく、お仕事以外で作るという手間も掛かるのにだ。
それもこれも幼なじみである私と私の家族の為。
幼い頃に交わしたある約束。
彼はきっと覚えていないだろう。
「その幼なじみは男の子?」
「え、えっと・・・」
クロア御姉様の質問に私は思わず言葉に詰まってしまった。
御姉様というか姉妹全員が互いに溺愛していると言っていい。
クロア御姉様もたまに私を弄ってくるが基本的にネム共々可愛がってくれる姉なのだ。
そんな姉達の一人であるクロア御姉様がどんな反応をするのか。
彼の事をそのまま説明して大丈夫だろうか。
彼に迷惑が掛からないだろうか。
姉達や義母様に迷惑が掛からないだろうか。
どう、切り出せばいいかと悩んでいると。
「あ、そういうこと。貴女達ちょっと万魔殿にいって馬の様子を見てきなさい。ネムはヨミのところにいって一緒に防御壁の出来栄えを見てきてくれるかしら?」
「うん!いこっジョン君!」
クロア御姉様に云われ、ネムはジョン君と一緒にヨミさんのところに、ケンタウロスさん達も万魔殿へと向かった。
そして今この場には私とクロア御姉様の二人だけ。
突然指示を出し、お茶の用意されたテーブルに着いた姉に続き、私もテーブルについたのを確認して彼女はゆっくりと口を開く。
きっと御姉様の表情は多少なりとも怒りを孕んでいるに違いない。そう思った。
だけど
「それでその男の子はどんな子なのかしら?」
クロア御姉様の声に怒気はなく。
表情も優しい姉のそれだった。
頑張れ私!
頑張れンフィー君!