take1
どこ?
おにいちゃん。
じゃましないで。
おにいちゃんさがしてるの。
おねえちゃんが泣いちゃうの。
おにいちゃんがかえってこないと泣いちゃうの。
じゃま。
じゃま。
じゃま。
じゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃま!
マロンのじゃまするなら死んじゃえ!
エ・ランテルの墓地に響く骨が砕ける音。
凪ぎ払う轟音。
幾多の歩みを進める足音。
その者達は真っ直ぐ主の姉の想い人が囚われている場所へと向かう。
「マロン様。ンフィーレア坊っちゃんの匂いはこの先でございます」
「ん・・・・・」
エ・ランテルの墓地は幾多の屍の大群で埋め尽くされていた。
その中を一つの御輿を護る一団が意にも介さず進む。
御輿の中にいる一団の主。
地獄の七姉妹の五女。夜の幼女が最後に産んだ次期女王の一人マロンは親衛隊である狗の獣人の報告を聞き頷く。
事の発端は地獄の七姉妹が納める《地獄の万魔殿/ヘル・オブ・パンデモニウム》を守護する守護者を統括するキャサリンの話をたまたま聞いたからであった。
ンフィーレア。
彼はマロンの姉。エンリの想い人にして非公式ではあるが姉の婚約者最有力の人物である。
またウエンディやケリュケイナも少なからず好感を抱いており、マロンもまた幼いながらも好感をもっている。
そんな彼が拐われた。
もし死んでしまったら姉は泣いてしまうだろう。
母なら生き返らせることもできるかもしれないがあまりにか弱い命だったならば蘇生の負荷に耐えられない。
仮に生き返らせることができたとしても一度死んだという事実は姉の心に深い傷を付けることになる。
そんなことは許される筈がない。
姉は一度本当の親を亡くした悲しみを負っている。
自分達だってそうだ。けどまだ義母が私達を慰めてくれているだけマシだ。
そんな悲しみを二度も姉に味あわせたくない。
そう思って次期女王は己のシモベ達に命令し、全責任を持って出陣したのだ。
「ん?なにやら様子がおかしい」
「とうしたの~?カジッちゃんなんかあった?」
死の宝珠による儀式の最中カジットは異変に気付いた。
死の宝珠が激しく点滅している。
力が溜まりきった様子はなく。これはまるで何かに怯えているのような。
「気を付けろクレマンティーヌ。何かが近付いておる。死の宝珠が何かに反応しておる」
「死の宝珠が?」
「これは、まるで何かに怯えているかののような」
「いや、死の宝珠って道具でしょ?感情なんてあるわけないでしょ~」
クレマンティーヌがそう云うがこの反応は異常だ。
そう考えたカジットは儀式を仕切り直すことも視野に入れるべきかと思考する。
だがクレマンティーヌは首を縦には振らないだろう。
己の目的の為に自分の作戦に乗ったのだ。
その為に自分が所属する組織も裏切ったのだから。
「・・・・だれだ!」
クレマンティーヌがスティレットを抜き、構える。
視線をそちらに向ければ亜人の一団がそこにいた。
「問います」
亜人一団は見知らぬ衣服を着ており。一人一人がとても美しい女性の集団であった。
彼女達の中心にあるのは赤と金色に彩られた御輿。
法国の王族でも持たぬ程の絢爛さのそれにクレマンティーヌは一瞬呆けたが一団から出てきた一人。猫耳の亜人が口を開くと同時に気を引き締める。
「ンフィーレア坊っちゃんを拐ったのは貴女方ですか?」
「ぷっ」
クレマンティーヌは小さく息を吹き出した。
「あのひょろっとした子が坊っちゃん~?アッハッハッハ!ぜんっぜんに似合わないんですけど~?」
盛大に腹を抱えながら笑い声を上げるクレマンティーヌ。
問い掛けた女性は少し顔を歪めるが構わず笑い続ける。
「薬屋の跡取りだから確かに坊っちゃんといえば坊っちゃんだけどさぁ~。普通坊っちゃんっていえばお貴族様に使うんじゃないかなぁ?」
「ご心配なく。ンフィーレア坊っちゃんはいずれ姫様の婿となる方。坊っちゃんで間違いございません。その様子から察するに坊っちゃんを拐ったのは貴女方で間違いないようですね」
「ーーーーーー」
「かしこまりました。我が主からの御言葉です。“ここまでの道中。あなた方の解き放った雑兵にわたくしは気分を害されたが素直にわたくしの義兄となられるあの方を差し出せばその無礼については水に流す”と仰っておいでです」
「あら~。そこにいらしたのはおにいちゃまの為に出張って来た妹ちゃまでしたか~」
これはこれは失礼いたしましたとカーテシーをする。
「貴女。我が主を愚弄して、そんなに死にたいようね?」
「まさか、まさか滅相もございませ~ん。・・・とりあえず」
「待たせたなクレマンティーヌ!」
直後一団のいた場所に何かが飛来した。
響く轟音と立ち上がる土煙。
カジットとクレマンティーヌは身構える。
「能力向上!能力超向上!」
「それほどまでにマズイ相手か!?」
「マズイってモンじゃない!あの連中全員オリハルコンクラスだ!」
クレマンティーヌは経験の勘から一団の危険性を感じ取っていた。
墓地に展開したアンデス・アーミーによるアンデットの大群。
それをたかだが七人、あの動きにくそうな服装で主がいるあの御輿を守りながら息一つ乱さず、汚れ一つ付けずにここまでたどり着いた。
その時点で異常だ。
故に高笑いをあげながら彼女はカジットに合図した。
今すぐスケリトルドラゴンを呼び起こせ。
亜人族の国のことは知っているがこんな場所まで簡単に来れるはずがないがンフィーレアのバックにあんな連中が主と崇める奴等が付いているとなるとかなりマズイ。
ここは乱戦に巻き込んで騒ぎを大きくして姿を眩ませるしかない。
「カジッちゃん。アンタの野望も分かるけど今は逃げるよ!スケリトルドラゴンとアタシで無茶苦茶やるから先に逃げな!」
「くっ!えぇぃ!致し方あるまーーー」
そう結論付けた彼女達の横をスケリトルドラゴンがぶっ飛んでいった。
「・・・・・は?」
「凡骨が・・・・誰に向けてその旨そうな骨をつきつけてんだ。ぁあ!?」
視線を向ければ狗耳の女が足を振り抜いた体勢で立っていた。
「ふふっあの程度で奇襲を掛けたつもりなのかしら」
「まぁまぁ、あの表情から察するにそのようですよ?」
「いやですわ。これだから下等種族は」
「いけませんわ。ンフィーレア坊っちゃんと一緒にしては不敬ですわ」
「というか貴女。アレが美味しそうに見えますの?」
「え?旨そうだよな!?」
「私としては骨だけよりも身も欲しいですわ」
クスクス笑う七人の亜人。
口元に手を当て優雅に笑う彼女達にクレマンティーヌ達は目を見開く。
「ではまず、躾のなってないトカゲから」
「まだだ。スケリトルドラゴンには魔法に対する絶対耐性がある!死の宝珠よ!」
猫耳の亜人が両手に雷電を纏わせたのを見てカジットが再びスケリトルドラゴンをけしかける。
「第八位階・雷雷虎」
が、彼女が産み出した虎を模した雷によって噛み砕かれてしまった。
「な、にぃっ・・・!?」
「良いことを教えてあげましょう」
「何を・・・ヒッ!?」
クレマンティーヌは小さく悲鳴をあげながら視線を横に向ける。
そこには先ほどまで目の前の離れた場所に立っていた猫耳の亜人がいた。
武技により自身の能力を飛躍的向上させていたクレマンティーヌが反応できなかった。
その一瞬で間合いを詰められた。
こんなのオリハルコンクラスでもできない。
圧倒的未知の化け物。
「スケリトルドラゴンは魔法に対する絶対耐性ではなくて第六位階までの魔法を無効にするの」
だから基本的に第八位階以上を使う私達には無意味。
「た、たすけ・・・」
「はい。ですから坊っちゃんを返してくださいな」
ガタガタと脚が震えるクレマンティーヌににこやかに笑う猫耳の亜人。
カジット達もその場に崩れ落ちた。
「まぁ、今となっては殺そうが殺すまいが変わらないのですが!」
「い、いゃあぁぁあ!?」
恐怖に負けて走り出すクレマンティーヌ。
逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ!?
思考を埋め尽くすのは恐怖のみ。
早くここから離れないといけない。
そうじゃないと殺される。
しかし。
「あ、っか、?」
突然襲ってきたプレッシャーによってクレマンティーヌの身体は金縛りにあったかのように硬直した。
「お喜びなさい。我が主がお姿を見せてくださるそうよ?」
そしてそんな彼女を愉快に嘲笑いながら主のもとへと引きずっていく猫耳の亜人。
いやだ!行きたくない!死にたくない!
引きずられてく先にある彼女達の主がいる御輿に近付くにつれて息ができなくなっていく。
いつのまにか行きたくないがこのまま死にたいに変わっていた。
そんな感情も虚しく。
クレマンティーヌとカジットは御輿の前に連れてこられた。
「平伏なさい。我が主。マロン様の御前です。ってマロン様。そろそろ圧を解いてはいかがですか?」
今にも気絶しそうな二人に気付いたのか狗耳の亜人のが主に進言した。
直後解かれたプレッシャー。
二人は息絶え絶えにゆっくりと平伏する。
逆らってはいけない。
逆らったら殺される。
こうなってはカジットの野望もクレマンティーヌの夢も叶わない。
今は少しでも生きていける可能性にすがり付くしかないのだ。
たとえ、どんな相手であっても。
「・・・だぅ」
「マロン様の許可が降りました。面を上げなさい」
が、耳に入ったのは予想もしなかった声。
あ、赤ん坊?
クレマンティーヌとカジットはそう思っただろう。
まさかこんな気違いの化け物達の主がこんな赤ん坊だとは思わなかっただろう。
「どうされますか?御自ら手をくだされますか?」
「にーちゃ」
「さようでございますか。お前達。ンフィーレア坊っちゃんのもとまで案内なさい。マロン様はお前達に興味はないそうだ」
「あ、あの・・・その方がある、じ、?」
「?・・・我らが主。次期女王のお一人であらせられるマロン様ですが?あぁ・・・。ご心配なくとも御身はまだ幼子ですが我々親衛隊の誰一人。たとえ束になろうと敵わぬ絶対の存在でございますよ」
御輿に安直されたフカフカのクッションに座る赤ん坊は綺麗な金髪を横で結い、七本の狐を想わせる尻尾を持った亜人であった。
服装も王族でも着ている者はいない美しい素材で出来ており、育ちの良さが伺える。
「お、御身は死と並ぶ存在でございますか!?でしたら不死の秘技の存在をお教え願いたい!」
じっとンフィーレアがいるであろう神殿を見つめるマロンを見てカジットが恐る恐る口を開いた。
クレマンティーヌはこんなときになに云ってんだと彼を睨む。大方死の宝珠の反応からしての言葉だろう。
「?・・・・はぁ。死を統べる方はいます。が絶対なる不死など存在しません。長寿になりたいなら人間という種族を捨てなさい」
「なんだと・・・」
しかし、カジットの問いをバッサリと切った後二人はンフィーレアのもとへと案内の為に引きずられていった。
「・・・・・」
マロンの目の前には目を抉られて見知らぬアイテムを装着させられたンフィーレアがいた。
カジットとクレマンティーヌによればここに来るまでいたアンデット達を呼び出す為に使用したアンデス・アーミーは彼とそのアイテムを媒介を発動させてるらしい。
「にーちゃ・・・」
辛い想いさせてごめんね。
わたしたちのシモベがふがいなくてごめんね。
わたしたちがちゃんとしてなくてごめんね。
大丈夫。今、助けてあげるから。
ケリュケイナお姉ちゃんのところに連れてって治してあげるから。
大好きなエンリお姉ちゃんのところに連れてってあげるから。
世界の滅ぼせる力を持つ少女の頬を一筋の涙が伝い。災厄は未来の義兄の、為に力を奮う。
『だぁ・んあ』
“おにいちゃんたすけるからママのところに連れてって”
ゆっくりと御輿から浮き上がったマロンから禍々しい漆黒の魔力が迸る。
「かしこまりました・・・・。貴女達の処遇は我らが女王に委ねます」
尾が煌めき、ゆっくりと揺れ始める。
「あ、あの。叡者の額冠を無理に外そうとすると坊っちゃんの精神が」
いつしか七本しかなかった尾が九本に増えていた。
そんなのは見ただけで解ってる。
装着者の自我を封じ高位魔法を吐き出すだけの存在とするアイテム。
無理に外そうとすれば義兄の精神は粉々に砕け散るだろう。
おじさまなら簡単にできただろう。
ルェフちゃんなら効果自体を封じればいい。
ならわたしなら?
ユニークスキル『強欲の簒奪』
発動ーーーー。
そんなガラクタも。
効果も。
装着したという“事実自体”を
丸々もぎ取ればいい。
ご免なさい。
息抜きで書いてたらなんかもったいなくなったので上げてみました。
take1ですよ?