今、モモンガ様はなんとおっしゃった?
妹?妹とおっしゃったのか!?
主の発した驚愕の事実に私達守護者はもちろん。この玉座の間にいる全ての配下は動揺を隠せないでいた。
それは私達がモモンガ様に妹君がいたという事を知らなかったからだ。
思わず私は先程までモモンガ様と共に行動していたアルベドに視線を向ける。彼女は事前に妹君の事を知っていたのでその顔に驚愕の色はないが代わりに戦慄したかのように緊張を隠しきれないでいた。
「彼女は地獄の万魔殿を拠点とするギルド、地獄の七姉妹のギルドマスターである。ユグドラシルにおいて度々協力していた私と彼女は此度の緊急時において綿密な協力関係を結ぶ事になった」
そして、同盟締結を表明する。
どことも知れぬ組織ならばモモンガ様はこの玉座の間にまで招いたりなどしなかっただろう。
だが、招いたということは彼女は信用に足るお方であり、妹君だというのは事実であるということだ。
だが、私には妹君の実力、支配者としての力を計りかねていた。
モモンガ様の隣に控えるアンデットの少女。露出の多い左胸辺りが衣服の上からでも白骨化しているのが分かる。それ以外は綺麗な死体のままであり、とてもモモンガ様とは似つかない。
配下と思われる女性達もアルベドや、シャルティアに並ぶ美人だが。雰囲気から相応の実力者だということがわかる。
至高の存在から寵愛を賜る箱入り娘。
不敬ながらも最初に浮かんだ印象だ。
だがそれは間違いだった。
「では、ムササビ挨拶を」
「わかりました兄様」
モモンガ様に促され一歩前に出た妹君は徐に眼帯を外した。
同時にざわめく配下達。
そこにあったのは兄君と同じくして深淵に輝く深紅の光。私達がもう一人の“死”を垣間見た瞬間だった。
「兄様より紹介を賜った《地獄の万魔殿:ヘル・オブ・パンデモニウム》ギルド《地獄の七姉妹》がギルドマスター、ムササビ。以後見知りおけ」
その小さな体が纏う死に。力なき配下は恐怖し、戦慄する。
私達守護者ですら身体が震え出す程だ
間違いなくあのお方はモモンガ様の妹君であると知った。
私はその姿に
美しい・・・
見惚れてしまっていた。
相手はモモンガ様の妹君、不敬なのは重々承知。
その恐ろしくも優しい死に私は見惚れてしまったのだ。
そして思った。このお方もモモンガ様同様忠義を捧げるべくお方だと。
「先ずは最初に言うべき事がある。そなた達の忠義を妾に向ける必要はない」
だが、ムササビ様はそれを断った。
モモンガ様も驚いたご様子でムササビ様をみていた。
「いや、言い方が悪かったな。兄様に向けている忠義を妾に割くなと云った方がよいのか?まぁよい。妾は同盟こそ結んでなおかつ兄様の妹ではあるがそなた達の主ではない。そなた達が妾に忠義を向けてくれるならば嬉しく思うが妾に向ける分一層兄様に忠義を尽くしてほしい」
ムササビ様は続ける。
「ユグドラシルでは伝説とまで謳われたアインズ・ウール・ゴウン。妾が尊敬する至高の方々の創られた伝説は今、重責となって兄様の双肩にのし掛かっている。そなた達は忠義を持って、支えてほしい。共に背負ってほしい」
なんと
「兄様の意図をしっかりと汲んでほしい。悩んでいるなら共に考えてほしい。喜んでいるなら共に分かち合ってほしい。至高の方々は兄様のもう一つの家族であった。共に考えて、苦しみ、喜びあった家族であった。その家族の子供達であるそなた達も兄様の家族なのだ。どうか、家族である兄様のそのお心を一人にしないでやってほしい」
なんとお優しいのだ!
「妾には姉妹である姉たちと共に創造せし娘達がいる。娘達に何かあれば妾は母として娘を守るだろう。それは兄様も同じ、そなた達、子供達が傷つけられれば兄様は子を守る親として修羅となろう。ならば子は何をするか。親を守れ、兄弟を守れ、姉妹を守れ」
死を司るにも関わらず。語られる言葉は子に囁く母の言葉のように優しい。
「死を妥協するな。死して親を泣かせるな。兄弟を、姉妹を見捨てずに家で待つ親の下に帰るのだ」
「そして家族を信じよ。父を、兄を、姉を、弟を、妹を信じよ。それが万難を打ち砕く鍵となるだろう」
「どうか兄様を頼む。これは命令ではなく、一人の妹の頼みだ」
直後、玉座の間を大喝采が包んだ。
中には感動し涙を流している者もいる。
これがモモンガ様の妹君、ムササビ様。
忠義を尽くすなとは云われた。
その御用命通り、皆はモモンガ様に一層の忠義を尽くすことだろう。代わりに彼女には最上の敬意を持って接する。我々はそう決めた。
「ありがとうムササビ。ではこれにて解散とする。アルベド、デミウルゴスの両名はムササビの娘である守護者達と警戒網、連絡体制の打ち合わせを。私は円卓にてムササビと今後の方針を決める会議にはいる」
「「畏まりました」」
モモンガ様はムササビ様の肩に手を添えた後に転移にて姿を消した。
ーーーーーーーーーーーー
「沙織・・・」
「なに?義兄さん」
演説の後、円卓にて俺は義妹に話し掛ける。
「なんであんな演説したんだ?」
それは純粋な疑問。
当初の予定では自己紹介の後に絶望のオーラを発動。死の女王としての威を示す予定だった。
その打ち合わせもしたし、俺もフォローとしてオーラを発動するつもりでいた。
だが自己紹介の後に彼女は勝手に演説を始めたのだ。
「だって皆、義兄さんを見る目が上司を見る目だったんだもん。そんなんじゃ辛いだけだし、楽しくもないでしょ?」
「・・・は?」
思わず呆けてしまった。
「私達のギルドじゃね。NPCを作るなら絶対に娘っていう設定を付けるの。もちろん我が子って意味でね。プレイヤー側じゃただのデータという趣味の塊。だけど産まれてくる子達にとって私達は親なんだよ。だから私を含めてギブ・ミーさんもがんばるヤンデレさんも皆真剣にレベルポイントを振って、外見を考えて、設定を作って、名前をあげたんだ」
「NPC達が反逆を起こすとは思わなかったのか?七姉妹も残ったのは沙織一人だろ?娘達は恨んでないのか?自分たちを置いていった母親達を」
「・・・義兄さん。私は娘であるあの子達に嘘をついたんだ」
沙織はポツリ、ポツリと口にした。
ユグドラシルのサービス終了間際に娘達の前で泣き、弱音を吐いたこと。
消え行く運命だった彼女達にすこしでもさみしい思いをしてほしくないが為に母達はユグドラシルを消滅から守る為にアインズ・ウール・ゴウンのメンバー達と戦いに戦っている。娘達を守る為に、娘達を置いていったのだと。嘘をついた。
「本当はリアルで家庭を築いて幸せになったから引退したのにね」
そしてゲームは現実となる。
「この世界に来て先ず最初に見たのはもみじの泣きそうな顔。次に娘達の心配そうな顔。それを見て私が先ず考えたのは皆を安心させることだった」
「後で気付いたんだけど娘達の設定は創造主を対象にしてたはずなのに皆は私のこともお母さんって慕ってくれる。それが嬉しくてワケわからない状況だけど頑張って皆を守ろうって決めた」
「アインズ・ウール・ゴウンの皆もきっと同じ、創造主の事が親のように大好き。もちろん最後まで一緒にいてくれた義兄さんのことも大好きなはずだよ。だから義兄さんは弱さを見せない支配者よりも私みたいにお父さんやった方が楽しいし楽だと思うな。きっとみんなついてきてくれるよ」
「ほんとに・・・」
本当にこの義妹は俺にはもったいないくらいできた妹だ。
俺が恐怖している事をこうも簡単に拭い払ってくれた。
お父さんか・・・。
普段は優しいお父さん。だが仕事になればナザリックを治める支配者。
そうなれば娘役にはアウラ、マーレ、シャルティアか。
息子には俺が創ったパンドラ。そしてデミウルゴスとセバス。
コキュートスは爺や?
アルベドはどうするか・・・・
だが、そういうのもいいな
「ありがとな沙織。大分気が楽になった」
「兄妹は助け合うものだよ義兄さん」
「どっちかと言えば俺が助けてばかりだったと思うけど」
「あー、あー、聞こえない」
両手で耳を塞ぎつつ懐かしい表情で笑う彼女に釣られて骨を鳴らしながら俺も笑う。
「それでは私達は親としてこの世界の検証にはいるか」
「ゲームが現実となったこの世界では魔法は使える事はわかっておりますし。次は武器などはいかがでしょうか兄様」
「うむ、では別の部屋にナーベラル・ガンマを呼ぶとしよう」
再びモモンガ、ムササビとなった俺達は互いの考察を話しながら円卓の間を後にした。
大分短くてすみません。
一話に続いて修正しました