決着は、呆気ないものだった。
白井は、麦野の指示通りに鉄杭を、目の前の人物、御坂の胸に、空間移動《テレポート》させて突き立てた。
ただそれだけで、学園都市第3位の超電磁砲《レールガン》は、倒れてしまった。
普段の御坂であれば、不審な動きに対応して致命傷は免れたかもしれない。だが、今の御坂は、そのような精神状態ではなかった。後悔に揺さぶられ、責任に押しつぶされていた。
その結果、呆気なく決着がついた。麦野の予定通りに。
「容赦ないってわけよ…」
麦野の恐ろしさを再認識して、フレンダは呟いた。
麦野はそんなフレンダを見て、印象付けもうまくいったことを確信した。所謂、裏切り防止にもなる、一石二鳥であった。
「ま、こんなもんでしょ。私の手で殺したかったけど、仲間から殺されるっていう絶望のまま死んだと思えば、悪い気はしないわ」
麦野の恐ろしさは、フレンダや絹旗、そして普段ぼんやりとしている滝壺というメンバーに確実に伝わっていた。
「白井っちは…、どうするの?」
フレンダは麦野に問う。用済みであるはずの白井は、処理されると想像できたからだ。
だが、麦野の答えは違っていた。
「さっきも言ったけど、面倒見るわよ。白井は嫌いじゃないし。ま、しばらくは今の調子でしょうから、みんなでフォローしてあげましょう。私たちのメンバーとしてね」
その言葉にフレンダは、心の中で両手を上げて喜んだ。フレンダも白井は嫌いではないからだ。さらに言えば、絹旗も、滝壺も、同じ気持ちであった。
こんな形でなければ、彼女たちと白井は普通の友達になれた可能性もあり得たのかもしれない。
「じゃあ行くよ、白井」
麦野がそう白井に声をかけて、ようやく麦野はは白井がそばにいないことに気がついた。
辺りを見渡すと、白井は倒れた御坂の横に座り込んでいた。
それを見て、麦野は顔をしかめる。まさか正気に戻ったのかと思い、その甘い考えに首を振った。
『そんなわけがない』
想いで人は変わらないと。人間はそんなに甘くできていないと。醜い欲望のかたまり、それが人間であると。
「ありゃ、白井っちの悪い癖が出たってわけよ」
フレンダのその言葉を聞いて、麦野は、白井が血液に対して異常な執着があったと思い至った。
御坂の横に行ったのではなく、血液に惹かれたのだと、納得できた。
麦野はかわいい悪戯を見つけた大人のように、少し笑ってため息をつくと、白井に声をかけた。
「白井、帰るよ!」
その声に反応してか、座り込んでいた白井はゆらりと立ち上がり、ゆったりとした動作で麦野の方へ振り返る。
制服は元の色が分からないほど血に塗れて、だらりと下げた両手は朱く染まっている。
そして、無表情であったその顔は、酷く歪んでいた。
「あれ? 白井っち、超笑ってませんか?」
絹旗のその言葉に、麦野は反応しなかった。
『まさか、正気に戻った…?』
麦野は自分の眼を疑った。あそこまで落ちて、壊れた白井が、自ら正気に戻るなど考えられなかったからだ。
「感謝…、しますわ…」
白井が力無く、そう呟いた声を聞いて、麦野は眼を見開いた。
『マジで正気に戻ったのか?! そんな馬鹿なことがあるか?!』
麦野は心の中でそう吐き捨てると、顔を歪めて、歯ぎしりをした。
絹旗、フレンダ、滝壺の三人は何が起きているのか分からず、ただ唖然としていた。
「皆さんのお陰で、こんなに美しいお姉様を見ることができましたわ」
白井はそう言って、甘いため息をつきながら、手についた血液を頬に当てて、頬擦りをする。
麦野たちは、その様子を見て言葉を失っていた。だが、白井は気にも止めない。
「ああ、お姉様の内側がこんなにも滑らかで、艷やかで、力強いものが流れていたなんて、少しも知りませんでしたわ」
白井の顔は、御坂の血液で朱く染まっている。
「こんなに美しいもの、誰にも渡しませんわ。お姉様の外側も内側も、私のものですわ…」
それは、人間の奥底にどす黒く溜まっている、独占欲という名の欲望。
本来、抑制されているはずの醜い欲望は、理性という戒めが解かれ、白井の心から離れてしまった。
「私が殺したのですから、全部、私のものですわ…」
そう言いながら、白井は、御坂の血液が染み込んだ制服を抱きしめ、身を捩りながら恍惚の表情を浮かべた。
白井は正気に戻ってなどいなかった。
ただ、より酷く、より歪に壊れただけだった。
遅くなってすみませんでした。
あともう少しです。もしよろしければ最後までお付き合いください。