とある魅惑の抑制解離《バーサーカー》【完結】   作:ちひろん

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最終回と書きつつ、終わりませんでした。
さくっと書くつもりが長くなってしまって…。


麦野との別れ

 「痛っ!」

 

 滝壺のその声に、麦野たちは我に返り、滝壺の方へ振り向く。そして、その腕に埋め込まれたように食いこんだ、空間移動《テレポート》されたコンクリートの欠片に気がついた。

 絶え間なく空間移動《テレポート》されながら宙を舞うコンクリート片のひとつである。

 

 「これ、腕だからまだいいけど…」

 

 フレンダは全てを語らなかったが、その意味は誰もが理解していた。

 それが腕でなく、脳や内臓であれば、それだけで致命傷である。

 

 そして、鈍い地響きのような音に、再度白井へ振り向くと、そこには今にも腕を振り下ろしそうな巨人が居た。

 

 「麦野、これ、当たったらどうなると思います…?」

 「…よくて無差別テレポート、悪けりゃ触られた箇所だけ切り取られるみたいにテレポートだな」

 「じゃあ、この状況って…?」

 「悠長に話ししてる場合じゃないってわけよ!」

 

 絹旗、麦野、滝壺の話をフレンダが叩き切ると、四人は弾けたように出口へ走り出した。

 直後、その場所に巨人の手が振り下ろされ、その箇所が大きくえぐられた。

 

 「ひゃあ! 後者ってわけよ!」

 

 フレンダが走りながら叫ぶ。巨人の手はそのまま伸び、麦野たちを追う。

 

 「いいから走れ! あれは私でもどうにもならな…、い?!」

 

 麦野の言葉は最後まで続かず、その体は宙に浮かんでいた。

 

 それに気がついた三人は、ほぼ同時に「麦野!」と叫んだ。

 

 「ちくしょう! なんだこれは!」

 「麦野! 頭の上の空気がテレポートされてるんです!」

 

 もがく麦野に絹旗は答えを簡潔に告げる。

 そう、麦野の上部の空気が何度も空間移動《テレポート》され、真空になった箇所に空気が戻る力が、麦野の体を重力に逆らわせているのだ。

 

 「無茶苦茶じゃねえか!」

 

 麦野が悪態をつく。

 その間にも、麦野から他の三人の方へ、その擬似重力操作が向かい、瓦礫が次々と宙に浮かぶ。

 その様子を見て、麦野は舌打ちをして叫んだ。

 

 「お前らは先に逃げろ! 私はこれをどうにかしてから行く!」

 

 その言葉に三人は一瞬目を見開いたが、直ぐに顔を引き締めて、出口へ走り出した。

 彼女たちは仲間意識がそれほど強いわけではないが、関係は良好であるため、その麦野を犠牲にするような行為に抵抗があったのだ。

 

 しかし、彼女らの判断は早かった。

 それは麦野に力に対しての絶対的な信頼があったからだ。

 彼女らにこの状況をどうにかできる力はない。

 そして、麦野であればどうにかできるかもしれないという期待があった。

 

 「いつもの場所で!」

 

 絹旗が一言だけそう言うと、三人は出口から外へ走り抜けた。

 

 一人残った麦野はそれを見届けたあと、大きなため息をついて、首だけ白井の方へ向ける。

 

 「とは言ったものの…」

 

 そう言いながら、麦野は原子崩し《メルトダウナー》を十数発、自分の頭上に放った。だが、本来の全てを溶かす威力の欠片も見せず、それらは線香花火のように華やかに散らばる。

 

 「どうにもならねえな、これは」

 

 と、麦野の体は宙に浮いたまま、ゆったりと移動し、白井から数メートル離れた場所に留まり、麦野の体の向きが、白井の方に向けられた。

 

 巨人に守られた白井は、肩を落としてうなだれていた。

 鈍い地響きが響き続けるなかで、その空間の支配者は口を開いた。

 

 「皆さんは、行ってしまわれたのですね」

 

 仲間はずれにされた子供のように、そう言った。そして、首を振ると、麦野をしっかりと見て、笑った。

 

 「でも、麦野さんが居てくれるのですから、大丈夫ですわ」

 

 麦野は唇の端を釣り上げて言いながら、原子崩し《メルトダウナー》を白井に向けて放ち続ける。

 

 「白井、強くなったな」

 

 白井はその言葉に目を丸くしたが、直ぐに笑顔を見せる。

 周りには、淡い光が舞う。

 

 「麦野さんのおかげですわ」

 「いや、私はお前次第だって言ったぞ。私はきっかけを作っただけだ。お前を抑制していた殻を破ったのは、お前が自分や他人の命の軽さを知って、お前が頑張って絶望したからさ」

 「麦野さんにそう言って頂けると嬉しいですわ」

 

 白井は、紅くなった頬に手をあてる。

 大量の淡い光が舞う様は、まるで、花火のようだ。

 

 「もうお前を縛っていたものは解かれてるし、正しい道からも離れちまってる。もう、元には戻れねえさ。でもまあ、だからどうした、って感じだろ?」

 「そうですわね。なんにも変わりませんわ」

 

 お前は激変だっつうの! と麦野は心の中で吐き捨てながら、放ち続ける原子崩し《メルトダウナー》を止めずに、白井の巨人に弱点がないか探す。

 そして、ある意味助け舟のような、ある意味苛つくような、事実に気づいた。

 数瞬の思考の後、麦野は白井へ顔を向けると、ニヤリと笑った。

 

 「お前の通り名だけどな、抑制解離《バーサーカー》ってのはどうだ?」

 

 白井は華のような笑顔を見せる。

 

 「麦野さんが付けてくださるのですか? ああ、それはすごく素敵ですわ」

 「ああ、私が広めといてやるよ」

 「でも、麦野さんはもうすぐ喋れなくなるので、無理なのでは?」

 

 何の躊躇いのない言葉に、麦野は声を出して笑う。

 

 「白井、本当に強くなったな。ご褒美に最後にいい事を教えてやる」

 

 白井は姿勢を正す。

 

 「はい、お聞きしますわ」

 「人間は意外にしぶとい。殺るなら確実に、だ。あそこに転がっているお前のお姉様、まだ生きてるぞ」

 

 麦野のその言葉を理解できずに、放心した白井はゆっくりと顔を御坂の方へ向け、微かながらに体が動いていることを確認すると愕然とした。

 そして、その瞬間、白井の巨人の制御が緩み、麦野の重力が元に戻る。

 

 麦野はその瞬間を逃さない。

 同時に地面へ原子崩し《メルトダウナー》を放ち、地下への逃げ道を作った。

 

 「じゃ、またな、白井」

 

 麦野は、そのまま吸い込まれるように、その穴に落ちていった。

 

 残された白井は能力を解除して御坂の元へ歩み寄り、その体に手をあて、確かに生きていることを確認すると、苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。

 そして、直ぐに何かに気づき、最高の笑顔を見せた。




次回こそ最終回です。
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