「さ、佐天さん?」
白井は、居るはずのない、佐天の顔を見て驚愕を隠せなかった。
佐天涙子は無能力者《レベル0》である。恐らく御坂が行っているであろう危険な事柄に関わっていい人物ではなかった。
万が一の場合に、自分の身を自分で守ることができない。兎に角、早く安全を確保しなければと思った。
「佐天さん、何故、ここに居るかは存じませんが、恐らくここは危険です、早く…」
早く研究所の外へ、そう言おうとした時、佐天から待ったがかかった。
「ストップ!」
佐天が手のひらを白井へ向ける。
「白井さんは友達だから警告しますけど、それ以上こっちにきたら駄目ですよ?」
佐天が笑いながら言う。白井は佐天の言っている意味が分からない。友達を助けようとする行為の何が駄目なのか、と。
だから、今の佐天を知らない白井は、それを戯言と断じた。
「何を馬鹿なことを」
そういいながら、白井は佐天に近づこうとして、顔に衝撃を覚えた。
「痛っ!」
と、同時に回りに漂っている粉が見えた。
見たと同時にその粉が目に入り込む。途端に涙が溢れた。つづいて、呼吸をした途端に気管支に粉が入り込み噎せる。
「げほっ、げほっ!」
咳と涙が止まらない。何がどうなっているのか判断がつかない。
「ちゃんと警告したのに」
白井の耳に、佐天の声が聞こえる。
「げほっ、なにを、げほっ!」
「目が見えないから座標指定できないですよね。 まあ、当麻さんと御坂さんが戻ってくるまでそのままで…」
その声とほぼ同時に奥の扉が開く音がした。
「涙子、引き上げよう! ってうわあ! し、白井、なのか?」
「く、黒子?! あんたなんでここに」
白井の耳に届いたのは、御坂と怪しい関係でないかと疑っていた上条当麻と、御坂の声だった。しかも佐天を下の名前で呼んでいる。
「警告はしたんですけど…」
「ああ…」
御坂は諦めたようにため息をついて、言う。
「黒子は私が引き取るから、佐天さんとあんたは先に行っちゃって」
「悪いな」
「了解でーす」
そして、上条と佐天はその場を後にして、涙ながらに咳き込む白井と御坂がその場に残った。
「黒子、なんでここが分かったの?」
御坂は、感情が乗らない平坦な声で、そういった。白井の真意を見抜こうとしているように見えた。
白井はその態度が悲しかった。ただ、御坂が心配だっただけなのだ。それが、敵か味方か見定めるような声だったからだ。
涙と咳が止まらない白井は、シーツの下から見つけた紙を御坂へ渡す。
「あー、置きっぱなしだったか。ごめん、ジャッジメントの関係かと思ってさ」
御坂は頭を掻きながら言う。
「佐天さんを悪く思わないでね。誰も通さないっていう話になってたから」
御坂は佐天をかばう。
「じゃあ帰ろうか、って言いたいところだけど、その粉さ、結構長く続くんだよね」
しかも御坂は、この粉のことを知っている。つまり御坂と佐天は協力して何かを行ったことがあるということになる。
「落ち着くまでに監視カメラのデータ消してくるから、じっとしてるのよ」
白井はその言葉を聞いて、粉が原因の涙の中に、本当の涙が混じった。
自分は駄目で、佐天ならよいのかと、白井は悲しくなった。