「お姉さま、なぜ佐天さんがあそこにいたんですの?」
ようやく涙と咳が治まり、まともに会話ができるようになった白井は、空間移動《テレポート》で自室へ戻り、御坂に聞いた。無能力者《レベル0》の佐天がいるのであれば、大能力者《レベル4》の自分が居てよいはずだと。けれど、その嫉妬は正論で塗り固められて吐き出される。
「正直、安全な場所だったとは思えません。佐天さんが居ていい場所ではありませんわ」
御坂は苦笑いをして、あらぬ方向を見た。そして、眉間に皺を寄せる。
「そうね。でも、止められないのよ、私じゃあ」
白井は驚いていた。御坂が、諦めるようなことを口走ったからだ。
「そんな簡単に…」
「簡単じゃないわ」
白井の言葉に、御坂は割り込む。決して本位ではないと、そう告げるように。
そして白井を見つめる。それは、御坂が時折見せる刺すような目線だった。
「いい、今の佐天さんに関わっちゃ駄目よ」
「そんな…」
「薄情でもいいわ。知らないなら、知らないままの方がいい」
御坂はそういうと、シャワーを浴びに浴室へ向かってしまった。
一人残された白井は、御坂の言葉を反復しながら、その言葉を否定した。
『でも、私は心配ですわ』
その思いには、やはりほんの少しの嫉妬が混じっていた。
次の日、白井は佐天に会うことにした。
白井が柵川中学の校門で待ち伏せしていると、佐天は何事もなかったように、現れた。
「あれ、白井さんじゃないですか」
佐天は白井に手を振ると、小走りに駆け寄る。
「どうかしたんですか?」
白井は昨日の涙や咳を思い出して、その何事もなかったような態度に、多少の苛立ちを覚えたが、それを隠して冷静に話しかける。
「佐天さん、昨日は何故あの場所にいたんですの?」
「当麻さんのお手伝いですけど」
「ああ、あのるいじ…、いえ、上条さんのですか」
失礼な言葉を口走ろうとして、白井は、言い直す。
「はい」
佐天は笑顔のまま肯定する。そこには悪意はないように見える。
「そうですか。では友達として言わせていただきますが、佐天さんの行為はとても危険ですわ」
「はあ」
「関わりを持たないほうがいいと、助言いたしますわ」
その言葉に佐天は眉間に拳を当てて、考え込む。
「うーん、御坂さんと一緒のことを言うんですね」
御坂が自分の思っているとおりの人間であったと再確認できて、白井はその言葉に少し安心した。
本来であれば御坂は佐天を止めたかった、しかし、なんらかの理由でそれが叶わない。
それであれば、自分がそれを実行するまでだと、白井は思った。
「お姉さまも、佐天さんの身を慮ってのことです」
白井はここぞとばかりに追い打ちする。
白井は、佐天が御坂の隣にいることの嫉妬もあったが、その思いの過半数は佐天の身を案じていた。
危険な時に、佐天のそばに御坂や白井が必ずいるとは限らない。必ず守れるとは限らない。
無能力者《レベル0》の佐天であれば、それは理解していると思っていた。
「じゃあ、御坂さんの時と同じで」
だから次の佐天の言葉があまりにも予想外で、
「私と白井さんが勝負して、私が負けたら止める、ってのはどうですか?」
白井は、自分の耳を疑った。